Webディレクター養成ギブス[08]選択肢を用意する
── 蓮井慎也 ──

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WEB制作は、言ってみればBTO(受注生産)なわけで、規格品をつくるのと訳が違い、制作過程で様々な問題に直面し、その都度意思決定を求めることもしばしば。イチイチ意思決定を待っていては進みませんし、利害関係者が多いとまとまるものもまとまりません。だからといって、エイヤ! とはなかなか進められません。

そんなWEB制作過程でスケジュールを組むとき、特に短納期の案件で頭を悩ませるのが、クライアント確認期間です。短納期な案件だったり、予算がない案件では、キャッシュフローを考えると時間を満足にかけられず、そんな中でクライアントから最高品質を求められ、WEB制作スタッフには時間よこせ! と、まさに板挟み状態です。

こういった場合のディレクションの基本は、クライアント確認期間を可能な限り短縮し、WEB制作期間はなるべく多めに確保することです。

とにかく現在のWEB制作現場には、満足な時間を与えられないわけですから、なるべく時間をかけないように効率化を図ったり、いい意味で手を抜くわけですが、時間がないときに限って解釈を間違ったり、指示の誤りだったりと、いくつかのミスを露呈することになります。



私自身、WEBディレクションをやっていて(私のミスを棚上げしますが)WEB制作スタッフから、明らかな私の指示ミスを「○○と指示いただいていますが、それは問題でしょうか?」と指摘されると、さすがに腰を抜かしそうになります。明らかに問題ではあるので「問題です...。」としか答えられず、WEB制作知識は中途半端にでもありますので、そのあと「△△にしてください。」と指示を変更するわけですが、「だったら問題ですか?」って聞くなよ? って思うわけです。

これがWEBディレクターとクライアントの関係だった場合、面倒くさいなぁ...とか、取引コストが高くつく人たちだ...と思われる危険性がありますし、こういう単に「問題ですか?」と聞いてしまうような風土を制作スタッフに植え付けてしまうと、将来、クライアントから面倒くさいと思われるWEBディレクターが生まれる温床になるため、厳しく注意し癖付けをしていく必要があります。

言い換えれば、指示ミスに限らず問題に気づいた人間が、そのミスを正すべきで、そのミスを正せないなら、意思決定の判断を仰ぐ(ホウレンソウということになります)必要です。

その際、正解か、間違いかを問いかけるのではなく、間違っているので直しておきました、としたほうが親切ですし、判断がつかない場合は、間違いのまま制作進行しましたが直す必要があれば言ってください、など、まさに自分がクライアントであればどうされたいか? を先回りして考えることが、ありがたがられ、重宝がられ、クライアントとの長く太い関係構築の礎になっていくものです。

さらに発展論として、複数選択肢を用意することを考えたいと思います。ひとつの方法での意思決定を求めたところで、クライアント担当者は、比較検討材料がないため、その良し悪しでの判断ができません。それしか方法がない場合は別ですが、別の方法もあったことを後になってクライアント担当者に知られてしまった場合、クライアントからの不信感は高まります。

であれば、今回は時間がないのでAという方法を採りますが...と仕切ってしまったほうが、クライアントの抱く不信感は、いくらかマシになることは明白です。ひとつの方法しか示唆しない場合、WEB制作側の判断で制作を進めたことになりますが、

1.Aという方法を採り、品質は後回しにして納期を優先するか
2.Bという方法を採り、納期を後回しにして品質を優先するか

のように、複数選択肢を用意できた場合は、クライアントが判断(=選択)したことになり、判断の結果でトラブルが発生したとしても別途予算を組みやすくなります。またクレームに繋がった場合は、判断したのはクライアントだという十分な抗弁材料になりますし、これが足かせとなることが目に見えているため、クライアントのクレーム抑制の効果を果たします。

なお、納期優先の場合は「1で」、品質重視の場合は「2で」、といったように、端的な回答を期待でき、かつクライアントにとっては答えやすく、判断しやすい選択肢を用意できると、かえって好印象を持たれます。

複数の選択肢を用意し、判断はクライアントにしてもらう。かつ、判断しやすいフォーマットで、意思決定スピードを早めることは、結果、クライアントとの関係構築にプラスαになるだけでなく、こうした提案のできない競合他社の参入障壁にもなってきます。

こうして、複数選択肢の中から意思決定されたWEBサイトは、クライアントのイメージに近いものに仕上がり、後々になってイメージと違うとひっくり返されることもありません。

選択肢を用意するということは、メリットがあってもデメリットはありません。間違った指示が届き「問題ですか?」と質問するのではなく、選択肢を用意して判断を仰いでください。面倒くさいディレクターから、親切なディレクターへと、クライアントからの評価は必ずプラスに変わります。

【蓮井慎也 / Shinya Hasui】WEBディレクター
地元WEB制作プロダクションに所属。大手通販企業に常駐し、WEB制作をしてい
ます。オンライン名刺 < http://card.ly/hasui/
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