わが逃走[78]居酒屋トークの巻
── 齋藤 浩 ──

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1──仕事

こんにちは。最近ホントに暇で、危機感をおぼえる齋藤です。あまりに恐くなったので、知り合いの超一流デザイナーA氏に会いに行っておこぼれでももらおうかとご機嫌伺いに赴くと「ウチも暇なんだよー」と言う。B氏にいたっては事務所を閉めたとのこと。

なにやらほんとにどこも暇らしい。暇と言えば聞こえはいいが、実力も名前もあるデザイナーに仕事がないという状況はかなり異常だ。

いままでバンバン外注に出してた大きいところが、一斉に内部で制作する方針にチェンジしたというのも原因のひとつかもしれないが、オレ的に最も気になる点は、良いデザインと粗悪なものとの違いを理解できる発注者が激減したことなのだ。

見た目が似ているというだけで、素人が作った"伝わらない"デザインを採用し「デザインなんてどれも同じだから安い方がいい」とか言って、あんたは自分で自分の首を絞めていることがわからないのか??

質の高いクリエイティブこそ最も効果的な営業だ! と言い続け、今もそう思っているが、確かにメシが食えなきゃどうしようもない。



バブル崩壊直後のことだ。ダサくて伝わらない自己満足的な新聞広告の原稿を作っていた先輩デザイナーに、新人だった私は「あんた、恥はないのか?」と言ったことがある。

その先輩はアムロを諭すララァのように「齋藤よ、お前には守るべきものがないからそういうことが言えるのだ。俺の後ろでは子供がミルクを飲みたいと泣いている。俺はその子を守るために、クライアントの要望どおりダサいデザインをして金を稼ぐしかないのだ」。「でも...だからって...」「ふっ、お前にもわかる時が来るさ。いつか...きっと...」

おおおお、それが今なんですね、先輩! やっとわかりましたー!!って、わかりたくもねーや。まあこんな状況下ではあるが、妥協したら終わりだな。今の時代、いくら稼げないとはいえ死ぬことはそうないと思うので、なんとかこのまま行こうと考えている。

たとえ死んだとしても、宇宙戦艦ヤマトのキャラクターのように都合良く復活できるのではないか? という自信もあるし。そう、この『根拠のない自信!』これこそ生き抜くために最も必要な要素なのではないか。

2──ヤマト

ヤマトといえば、見てきましたよー、キムタクヤマト。少なくともあのムーブメントをリアルタイムで知っている方なら、見ておいて損はないと断言できます。美しい宇宙空間の映像と、宮川泰センセイの音楽。あのスキャットを聞くだけで1,800円モトがとれるはず。

内容は「悪く言えば金をかけた学芸会な感じ?」「それって予算をふんだんに使った芸能人新春隠し芸大会みたいな? ほら、2日にわけて前編後編で放映するような...」「おお、うまいこと言うなあ!」とか、居酒屋における議論のテーマとして最適な内容。まあ、ツッコミどころ満載な訳ですよ。

「ガミラス人が思念体であるなら、そもそも地球に遊星爆弾を落とす意味がないのではないか?」「スターシアが憑依している森雪をスタンガンで撃ったら、中の人が出てきちゃうのでは?」などネット上でもさまざまな意見が飛び交っているようですが、オレ的にはコスモゼロとブラックタイガーのキャノピーが、平面ガラスだったことがいちばん不満でした。

と、久々にヤマト熱が蘇ってきたところで(最近暇なので)テレビシリーズ第1作(1974)のDVD全26話を改めて見直してみたところ、やはりツッコミどころ満載だということがわかる。

しかし、である。まだSFアニメをテレビマンガと呼称していたこの時代に、よくぞここまで野心的な作品を世に出したもんだなあと感心する。SFなのかどうかは置いといて、純粋にドラマとして面白いのだ。

トンデモオヤジな面ばかり一人歩きしている西崎プロデューサーだが、確かにこの人はスゴいことをやっている。この作品がなければ、後のガンダムもエヴァンゲリオンも当然存在し得ないし、現在のコンテンツビジネスとされるもの自体が全く違うものになっていたはずだ。

最終話、沖田艦長が航海の果てに地球を見つめるシーンでは、今年6月に帰還を果たした『はやぶさ』が最後に送り届けた地球の写真と、オレの中で重なる。そして全く古さを感じさせない宮川泰の音楽にのせて、まるで1974年から2010年を経て2200年へと、脳内で自分自身がワープするような奇妙な陶酔感を覚えるのであった。

とまあ、ここまでは良かった。続編である映画『さらば宇宙戦艦ヤマト』までは良かったうちに入るか。ここで主要キャラクターがほぼ全員死んで、ヤマトも敵に特攻して地球の危機を救う。しかし、幸か不幸かこの映画が大ヒットしてしまった。そうすると、さらに続編作りたくなっちゃうんだろうね。

死んだはずのキャラクターが次々と死ななかったこととなって復活したと思えば、毎年のように地球に現れる侵略者に対して、簡単に自爆や特攻するようになる。

おまけに、セリフの中にやたらと愛だの正義だのって言葉が目立ってくる。見てる方としては裏切られた気分で、だんだんシラケてくる訳だ。オレなんかの世代が"シラケ世代"なんて言われたのは、この大人による裏切り行為を体験してるからなんじゃないか?

この時の気持ちを思い出そうと『さらば宇宙戦艦ヤマト』『新たなる旅立ち』『ヤマトよ永久に』を(最近暇なので)立て続けにDVDで見たのだが、もう笑っちゃいますよ、本気でちゃぶ台ひっくり返そうかと思いました。あれから30年以上経っているのに、少年の頃の怨みは根深かった。

これっていわゆるマーケティングって奴なのかね? 登場人物が死ぬと映画がヒットするなら、その都度生き返らせてその都度殺せば大ヒット間違いなし。まるで『オネアミスの翼』における「巨大な蟲が出て来るアニメ映画がヒットしたので、この作品にも巨大な虫を出しなさい」的。(参考文献:遺言/岡田斗司夫著)やっぱ大人ってすげえや。

でも、宇宙戦艦のデザインは回を重ねるごとに良くなってきている。ストーリーはいらないので、宇宙戦艦だけずーっと映してるDVDを出してくれればオレは買うと思う。

3──痴女

などと、世田谷の超ハイクオリティ居酒屋Tで同世代のデザイナー(漫研出身)と小声で語っていたところ、常連のY氏がやってきて「昨日ね、すごいことがあったんだ」と言う。

「都内某所の美容院に行った帰りに商店街を歩いていたら、じっと僕のこと見てるきれいな女の人がいるのね」
「うんうん」
「道でも聞かれるのかなーって思いながらその人の前を通りすぎたら、案の定声かけられて」
「ほうほう」
「清楚な感じの30歳くらいの美人で」
「それで?」
「あの、私、すごい便秘で苦しんでいるんです。浣腸してもらっていいですか?って言われて」
「うげー!」
「手にイチヂク浣腸持ってるんだよ! で、僕もう頭の中真っ白になっちゃって、無理っす! って言ってダッシュで逃げた」
「すげー!!!」
「もう、恐くて恐くて...」
「そういうときは"ポマード!"って言えばいいんですよー、ぎゃはは、ぎゃはは」

落ち着いた雰囲気の大人の隠れ家的居酒屋なのに、こんな話...。でもまあ常連客しかいないからいいか。店主も面白がって聞いてるし。しかし、なんなんだろうね、この女。単純に痴女なのか、趣味に偏りのある美人局か、隠し撮りAVとか?

痴女といえば、オレはよく電車の中で男に尻を触られたが、いちばん最初に出くわした奴は女だった。あれはムサビに通う20歳のときだ。大宮駅から通勤ラッシュの埼京線に乗った直後、臀部に違和感を感じた。偶然接したのではない、明らかに不自然な手の感触。

男の尻が触られるはずなどないと思い込んでいたオレは、ポケットに財布を入れていたこともあり「スリか?」と感じ、体をずらした。すると意外にもその手は尻から股間に移動し、オレのキンタマをもみはじめたのだ!

なんだコイツ?? と思ったオレは振り向きざまにその手の主をにらみつけたーっ!!! すると、ああ、なんということでしょう。もう、ものすごい美人というか、かわいいおねえさんというか、25歳くらいの清楚な美女がにっこりと微笑んだのでした。

もう、絶句ですよ、何も言えなくなっちゃいました(こういうときは何ていえばいいんだ..."キャー、このひとチカンですぅ"か? 言えねえよ、ああ、キンタマが気持ちわりぃ...)通勤快速に乗っちまったので、次の駅で降りようにも降りられず、そのまま武蔵浦和駅までずーっとオレは尻とキンタマを触られ続けたのでした。

という訳でだらだらとくだらない話でしたー。
ほんと、起承転結なくてごめんなさいねー。
ではまた次回ー。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。