ネタを訪ねて三万歩[73]デジタル書籍(電子書籍)論争にはウンザリですね
── 海津ヨシノリ ──

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「マイコミジャーナル」側の事情(?)などで、公開が半年〜一年もずれていた「海津式レンジファインダー術」の第5回で、人物写真を撮影しました。実は、本来の5回目〜8回目を飛ばして9回目となる原稿を5回目としました。これは撮影に協力してくれた学生の半数が卒業を控えていたからです。

さて、ちょっとした仕事でバストアップ撮影をしていたこともあり、いつか人物のバストアップ撮影についてテキストにしたいと考えていたのですが、肖像権やら色々と問題が多くて先送りにしていました。

そんな矢先、たまたまいつものように造形学科の顔見知りの学生のアトリエで雑談をしている最中に、大きなキャンバスの撮影方法の話になり、そこからバストアップ撮影をしてもいいということになりました。あとはトントン拍子に許可をしてくれる学生が現れ、なんなく8名の顔写真を撮影することが出来ました。実はおおよそめぼしい学生を絞っていたのですが、やはり顔見知りで気さくに話せる仲でも、メディアに実名で顔のアップが掲載されることには抵抗があるのは当然です。

とにかく絞り込んだ学生全員の一番いい表情は、事前に分かっていたので撮影は本当に楽でした。レンジファインダーカメラでバストアップのポートレートはちょっと筋違いかもしれませんが、写真に「〜でなければいけない」なんてものはないですからね。

デザインもそうですが、厳しい顔で難しく抽象的な言葉を並べる作者(ここではあえてクリエイターとは言いたくない)に説得力はなく、逆にうさんくさくなってしまうのではないでしょうか。でも、世の中は厳しい顔で難しく抽象的な言葉を並べる作者が好きですね。素直が一番だと思います。



どちらにしても第二弾を計画中です。もしかすると、第二弾は方向性を変えるかも知れません。誰にも知らせずにこっそり個展というのも面白いかもしれませんね。

< http://journal.mycom.co.jp/column/rd1/010/index.html
>
海津式レンジファインダ術-5 「R-D1で学生のポートレート撮影に挑戦!」

こんな具合に面白いことに対しては、いつものめり込んでしまいます。

ところで、タブレットディバイスの登場でIT世界の流れが大きく変わり始めた2010年(だったらしい)で、もっとも注目された言葉は「書籍の自炊」ではないでしょうか。のめり込んでいる人は相当多いようですね。

私は食事ならどちらかと言えば自炊派ですが、書籍類に関しては自炊派ではありません。もっとも書籍のアナログ派とデジタル派なんていう愚問は、論じることすら馬鹿らしいと思っています。ただ現在の私の立ち位置を整理すると紙の本が好きですが、仕事はデジタル書籍(?)に関わっています。しかし、この「デジタル書籍(電子書籍)」みたいな表現しかないのが何ともキモチワルイです。

昨年、そんな現状を複数のクリエイター達と酒の肴に盛り上がった、デジタルデータ考を思い出しました。少なくともその場に居合わせたクリエイター10余名全員の総意のような形でお開きとなったのですが、その総意とは「音楽はCDである必要はまったくなくデジタル配信でいいんじゃないの」「映画はやっぱり所有したいから最低でもDVD、出来ればブルーレイかな」「本はケースバイケースかもね」というものでした。つまり、物理的に所有したいか否かという二択です。もちろんこれはおじさんクリエイター達の戯れ言であって、若い世代の感覚はもっと違ってくるでしょう。

とにかく今は混沌とし過ぎているわけです。自炊で本をデジタル化することに嫌悪感を示す人、そしてデジタル化を絶賛する人、私にとってはどちらも興味はないです。大切なのはメンタルな部分。特にモノをつくることを生業としている者にとって、アイデアのスイッチは人それぞれであるはず。であるならば、世間の流れは流れとして認識しつつ、自分の世界観は頑固に守り続けてもいいと思いますよ。

だから私は、この手の究極の二択論争には全く興味が湧きません。過去にDTPデザイン、デジタルカメラ、iPhoneやiPadと、それらデジタル処理を最初は逆上否定していたはずなのに、どさくさに紛れて手のひら返し、いつの間にかオピニオンリーダーみたいな顔をしている人を沢山知っています。まっ、そのくらいずる賢くないとこの世界じゃ生きていけないのかもしれないですね。

もちろん、火付け役となったiPhoneやiPadだって万能じゃないわけです。何でもそうですけど、青筋立てて絶賛すればするほど滑稽に感じてしまったりします。要するにうさんくさくなるというわけです。

そんな私も、実は年末にiPhoneを新規契約しました。ナンバーポータビリティーを利用しなかったのは、20年近く利用していたDoCoMoをそのまま継続利用したかったからです。通話はDoCoMoでメールはiPhoneという訳です。iPhoneの通話機能とキャリアも中途半端。都心に居なければ使い物になりません(ちょっと誇張しすぎ?)。

もちろん、各社からリーズナブルに出始めたポータブル系WiFiも検討しましたが、思わぬところに購入に走らせる要因(プライベートな理由)が潜んでいました。これでiPhone、iPodTouch、iPad、iPod Classicがそれぞれ1台ずつとなりました。恐らく様子を見てAndroid系にも手を出してしまうかもしれません。私はApple一辺倒ではありませんので。実はiPhoneとほぼ同時に、DELLのNoteマシンを購入しました。

さて、話を本に戻すと、印刷された本は完全にはなくならないかもしれないけれど、数年後には「印刷って何?」かもしれないと本気で感じています。「美術書、あるいはチラシやカタログ類はやっぱり紙でしょ」という声が聞こえてきそうですが、例えば店頭にiPadのようなビューワーを設置し、データが欲しければ自宅のPCまたは手持ちのスマートフォンに転送してしまうような仕組みが確立されたら、チラシやカタログ類は一気にデジタル化されるのは必至。

要は、今あるいは過去の感覚で未来を語ることに問題が在るわけです。それでも紙の印刷物が欲しかったら、Amazonのマーケットプレイスかもしれないですね。これ近未来SFのネタに使えそうですね。

しかし、百歩譲ってもデジタルデータにはコピーや著作権の問題が今まで以上に怖いのではないでしょうか。困った問題ですが、国を挙げてパクリまくっている某国が好き勝手(もう無茶苦茶の域すら通り越していますね)に振る舞っていることを止めさせることが出来ない世界の現状が、暗黒の未来を予感させますね。正直気分悪いですね。

出来るだけ「メードイン某国」は買わないようにしていますが、それを完全に実行したら生きていけない現実は最高のホラーですね。とにかく「話せば分かる」と説く方がいますが、同じ国民であっても、それはほとんど絶望的かもしれないですね。話せば分かる人だったら、もめることなんてないですから。ですから「話せば分かる」という考え方を私はまるっきり信じていません。

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■今月のお気に入りミュージックと映画

[Tron: Legacy(soundtrack)]by Daft Punk in 2008〜2010(France)

半端なインパクトではない、Daft Punkのサウンドトラックは大正解ですね。"Daft"の意味が気に入って付けたというセンスが好きです。なお、ロボコップのような仮面(フルフェイスマスク)を被って素顔を公開していないのは、1999年9月9日にコンピュータのバグで起こった機材爆発の事故により、サイボーグになってしまったからだとか。ちなみに彼らはフランス人ですが、フランス語でもスペルは変わりません。

[トロン:レガシー]by ジョセフ・コシンスキー in 2010(USA)

28年前の1982年に、同じディズニー映画として公開されたアメリカ・台湾合作映画「トロン」の続編。当然、ジェフ・ブリッジスやアラン・ブラッドリーも登場しています。しかも、同じ時間が経過しているわけで、当時の「トロン」に興奮した私にとっては絶対に見なくてはいけない映画。

ということで、年末に劇場に出かけました。劇場は実に数年ぶりです。見たのは字幕スーパーの3D版。とにかく凄いのは30代のケヴィン・フリンとクルー2.0は、「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」で開発されたコンツアーシステムにより作られたCGの顔を、現在のブリッジスに合成している点。圧巻です。

とにかく映像は怖いくらいの美しさです。また、エンド・オブ・ライン・クラブのDJとして、ダフト・パンクがカメオ出演しているのもナイスです。ところで、昨年あたりに公開されていた予告編でライト・サイクルの一騎打ちのようなシーンがあったのですが完全にカットされていました。理由は不明。どちらにしてもDVDが出れば何か分かるかも......。

しかし、鑑賞条件の凄く良い劇場でしたが、いいシーンで「くしゃみ」をしてくれたおじさんや「五月蠅いカップル」がいて雰囲気はぶち壊し。せめて飲食禁止にして欲しいですね。飲食OKなんて喫煙OKと同じぐらいの暴挙ですね。こんな状態では次に映画館に行くのは何年後になることやら......。

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■アップルストア銀座でのセッション
2011年2月21日(月)19:00〜20:00
Made on a Macとしての画像処理セッション
『海津ヨシノリの画像処理テクニック講座Vol.54』
Adobe Photoshop CS5によるフォトレタッチ技法後編【合成編】として、画像合成用に元画像を料理する時のマスキングのコツと背景画像との調整テクニックについて、短時間処理を想定して整理いたします。偶数月のセッションは予約不要・参加無料・退席自由ですので、お気軽に参加して下さい。

【海津ヨシノリ】グラフィックデザイナー/イラストレーター/写真家/怪しいお菓子研究家
yoshinori@kaizu.com
< http://www.kaizu.com
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< http://kaizu-blog.blogspot.com
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< http://web.me.com/kaizu
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昨年の秋口あたりから要望が出ていた海津ゼミが、多摩美術大学造形表現学部にて昨年末に本格スタートしました。海津ゼミの始まりは駿河台大学文化情報学部でしたので、今回は第二期ということになります。どちらも公式な授業ではありませんが、志は熱いです。また勢いで突っ走ってしまった駿河台大学の時はどちらかというとサークル的な色が強かったのですが、今回は本気モード全開です。実はその駿河台大学の一期生たちからの要望で、多摩美術大学の二期生との合コンが開催されることになりました。こんな不思議な巡り合わせがとても好きです。そして、もしかすると私自身がそれを一番楽しんでいるのかもしれません。

なお、本年度より従来名刺などに記載しておりました肩書きに加え、新たに写真家(こっそり仕事はしています)と怪しいお菓子研究家の肩書きを加えることになりました。多くの方からの後押し(もちろん洒落も含まれています)故です。