[3035] 土地探しは婚活に似ています

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《アーティストならではの苦悩だったんだな》

■買物王子の家づくり[06]
 土地探しは婚活に似ています
 石原 強

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■買物王子の家づくり[06]
土地探しは婚活に似ています

石原 強
< https://bn.dgcr.com/archives/20110421140300.html
>
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家づくりを思い立ってから早半年、二度目の振り出しに戻ってしまいました。土地探しは婚活に似ているかもしれません。決めたらその土地に一生縛られるから慎重になる。たくさんの土地を見ても100%条件を満たすのは難しい。どの土地にも個性があって、同じものはふたつとない。これでいいやと思っても、明日もっといい土地が現れるかもしれないと思うと迷いが出ます。ほかの人に取られたら、悔しいと思えるかどうかが決め手だとアドバイスする人もいます。

●条件はいいけど、形が気に入らない。

実は、気になる物件がありました。住所は渋谷区笹塚3丁目、渋谷区の西端で杉並区との境界に近い場所です。笹塚駅からも近く、周りも住宅街で環境も比較的良好です。北側の前面道路は3mと狭いけど、南側にも通路があって南北が抜けて日当りがいい。将来にわたって日当りも保証されています。価格もぎりぎり予算内です。

問題なのは土地の形状です。2階建てのアパートが建っていた横長の大きな土地を、カステラを切るように、細長く7分割しています。間口が4mと狭く奥行きが深い典型的な「うなぎの寝床」です。最初に見学したときには、両端の2区画の土地は既に売約済み。めったに売地が出ないエリアでなので、問い合わせも多い。という不動産屋さんの言葉。でもイマイチ魅力を感じませんでした。

間口が4mと言ってもピンとこないかもしれません。敷地に対して家を目一杯に建てるのは不可能だから、建てられる家の幅は3.4m程度になります。トヨタのコンパクトカー「ヴィッツ」が車幅1.7mなので、2台並べてぴったりの幅です。壁の厚さを考えると部屋は3mくらい。6畳間の短い方が約3mでぎりぎりです。どれだけ細長い家になるのか想像がつきません。せっかく家を建てられるのに、制限がきつくて自由にならない感じがします。あまり特殊な形だと、システムキッチンなど既製品が使えなくて高くつくとも聞いていました。

●ほかの候補もうまくハマらない

その後、2週間くらいで価格の安いほうから、さらに2区画が売約済みになったと連絡がありました。その時点では見送ることにしていました。同じ頃に検討していた候補はいくつかありました。

渋谷区富ヶ谷2丁目。駅から少し歩くけど、プレミアのつくエリアの閑静な住宅街。目の前は小さな公園もあって環境がいい。ただし、第一種住居専用地域の斜線制限で3階建ては難しい。敷地は18坪なので家のボリュームは限られます。それでも予算オーバーで高値の花。

中野区南台1丁目、以前購入しようとした検討した物件が再度登場。どうやら業者が買い上げたらしい。耐火建築を避けて2階建てというプランで検討したが、中野区には耐火建築の新築に補助金を出す制度があることを知りました。それを適用できれば、予算内で3階建ても手が届くかもしれません。振った相手なのに未練が残るような感じ。

さらに、新宿区西新宿4丁目に物件が出るという情報もあった。場所は自宅から目と鼻の先なので、期待して何度も問い合わせしたが、まだ契約前で詳細が決まっていないという返事。土地の大きさや価格がわからないから、一方的に憧れて盛り上がって気をもんでいるだけのお預け状態。

どれも条件に合うところ、合わないところがあり決め手に欠けます。もう少し待つべきなのか、待ってもより良い土地が出てくるとは限らないから、どれかに決めたほうがいいのか、いろいろ見てきて理想が高くなって条件に無理があるのか、それならエリアもさらに広げるべきか......このまま土地が決められないといつになったら家作りができるのか? と悩む毎日でした。

●もう一度会ってみたら、なんだか良く見える

そんなとき、別の不動産屋さんで、笹塚の土地が紹介されました。すでに見たと答えると、残っている区画の価格が少し下がるということ。再度訪れてみるとアパートは取り壊されて更地になっていて抜けが良い感じはしました。それでも決めきれずにいたら、一週間後にはさらに2区画の契約が進んで、もう最後の一区画を残すのみと連絡を受けました。ちょっと惜しかったかなと思ったけど、仕方ありません。

ほかに良い候補もないし、これから笹塚駅から徒歩圏内の杉並区方南町近辺を探そうと考えました。このあたりは、住みやすいとは聞いていたけれど、あまり土地勘がないので、実感がわきません。この物件を見つつ周辺の雰囲気を見てみたいと、家族で散歩してみることにしました。

11月23日勤労感謝の日、散歩には絶好の秋晴れでした。笹塚駅の北口を出て、甲州街道沿いを通って信号を渡る、それからちょっと小さな商店街を歩いて出たところでもう一度横断歩道を渡ります。2つの信号が青になるタイミングが合うと、子供連れでも徒歩10分程度とで大丈夫。駅からのルートもわかりやすいし、駅前はスーパーも大きくて、いろんなお店があって生活しやすそうです。

私は5回目でしたが、家族は初めて目にする土地です。妻は一目見て「ここいいね」と言う。家で図面を見ていた時はイマイチと言ってたのに、ほかの土地にはなかった反応にビックリ。土地なんていつもつまらなそうにしている長男カケルもニコニコして楽しそうだ。抱っこされた次男ワタルもなんだか機嫌がいい。楽しそうな家族と一緒に見ていたら、すごく良い土地に見えてきた。

そこに、たまたま居合わせた不動産屋さんの営業マンYさん。もう最後の一区画なので、どうしますか? 即決してくれるなら、価格も多少ならして考慮できます。ご予算は? と初対面なのにズケズケ聞いてくる。価格交渉してみるからすぐに案内してもいい。と言われたが、そもそも決める気がなかったので、その場は一度帰って考えると伝えました。きっと、もうすぐなくなってしまうので、気持ちがあれば今日中に連絡して欲しいと連絡先をもらいました。

家に帰って、あらためて話し合ったけど印象はかわらず妻は大賛成。私も問題視していたことが気にならなくなっていました。出会いは一目惚れではなかったけど、じわじわと魅力に気づいて、付き合い始めるっていうのもアリだろう。ちょっとスリムすぎる、この土地の個性をいかせる家作りをすればいい、きっと明るい家になる。ここにしようと決心しました。

●急転直下、契約へ

善は急げとばかり、Yさんの携帯に連絡をいれました。購入する意思があることを伝えると同時に「予算に収まるように交渉してくれるなら」という条件は強調しました。逆に売主さんも急いでいるので、即決になるかもしれない。今日、契約してローンの申し込みができるように、必要な書類一式と、印鑑しかも「実印」を持ってきてほしい、とのこと。この時点では、まだ半分くらいは無理だろうと思っていました。

必要な書類は揃っていました。2回も振り出しに戻ったので、その間に準備した住民票や2人分の源泉徴収票の写し、身分証明書など、既にコピーがありました。それを持って、30分後に迎えにきたYさんの車に乗り込みました。売主さんの会社に向かう間に、交渉金額の確認と段取りを打ち合わせます。

会社に到着したら早速、土地の説明、参考プランのプレゼンを受けました。段取りどおりに、購入の申し込み書類を記入。価格交渉はYさんにおまかせです。責任者の部長の部屋に入ったあと、15分くらい待ったでしょうか。「契約OKです」と興奮した表情で戻ってきました。

部屋に入ったあと、Yさんが希望の金額を伝えた途端に「話にならん」と部長は却下。ダメかと思ったけど、そこで、一言「この印鑑はちゃんとしているでしょ、こんなの準備してくる買い主は本気で欲しいと思っているんすよ。」と説得してくれたんだそう。「それもそうだな」と、出張中の社長に電話してくれて、その場で即決になったということ。この印鑑こそ、なにを隠そう、7年前のデジクリ連載一回目で紹介した自慢の印鑑でした。

契約には手付金が必要と聞いていましたから、すぐに近所のコンビニに駆け込んで、休日にATMで下ろせる最大の50万円を用意しました。残りは翌日に振り込むことを約束して、売買契約の書類を取り交わしました。昼すぎに家を出て、すべて終わって家に戻ったのは20時頃。購入まで進むとは夢にも思ってもいなかったので、あっという間の一日になりました。

●契約完了まで、めまぐるしい一か月

翌日に銀行から手付けの残金を支払って安心したのも束の間、契約の条件が年内に決済まで済ませることです。ローンが通らなければ、この契約は白紙に戻ってしまいます。これまでも、ローンキャンセルで再度売り出しという物件がいくつもありました。

12月も間近で時間がありません。2日目にはローンの書類が積まれました。一晩で、すべて書いて翌日の午前中に受け渡して欲しいということです。みずほ銀行、みずほ銀行扱いのフラット35、東京三菱UFJ、三井住友銀行、横浜銀行の事前審査の書類たち。いちいち書式が異なるし、記入例も中途半端だし、説明している言葉の意味よくわからない。何を書き込めばいいのか迷いながら、なんとか4時間かかって夜中に書き上げまし。

木曜日に書類を渡すと、一週間後に仮審査の結果が出はじめました。すべての結果が出たのは一週間後。審査は通ったのですが、都市銀3行では私一人の年収だと金額が足りない。唯一、夫婦合算でローンを組むことができたのが横浜銀行。金利の条件も他の銀行より有利でした。私の実家が横浜で以前に口座を持っていたので、親しみもあって決めました。

翌週には、ローンの本審査申し込み、場所は横浜銀行綱島支店の住宅ローンセンターです。次男を母に預けて夫婦で出向きます。通過後はいよいよローン契約「金銭消費貸借契約」も同様に夫婦で出向く。妻の実印がなかったので、あわててハンコヤドットコム < http://www.hankoya.com/
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最後は決済日。司法書士、不動産屋さんのYさんも立ち会って、またまた書類を書きました。ローンのお金が振り込まれて瞬間的にはお金持ち。それをすぐに売主の口座に振込ます。土地登記費用、手数料と分配したら、口座の残金はすっかりなくなって元に戻ってしまいました。

それでも、笹塚の土地は晴れて自分のものとなり、2010年12月24日は、忘れられない人生最大のクリスマスになりました。土地を決めてからの一か月は、めまぐるしく過ぎていった。土地探しという大仕事が終わってほっとしたけど、やっと家づくりのスタートラインに立ったのです。

【いしはら・つよし】tsuyoshi@muddler.jp

家づくりは既に進行していますが、3月11日はちょうど建築家との設計契約の日でした。契約を済ませて家に帰ろうと思っても電車が止まったまま。約1時間歩いて帰宅することになりました。やっと家についてみると、棚が倒れ、食器が割れて家中が散乱......片付は夜中までかかりました。
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■ショート・ストーリーのKUNI[94]


ヤマシタクニコ
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ぽかぽか陽気の続く3月に桜の木たちがおしゃべりしていた。
リチャードが言った。
「ああ、なんだか体がむずむずしてくるなあ」
「そうだなあ」
デビッドも言った。
「もう咲く準備をしたほうがいいかなあ」
フランシスも
「また一年たったんだなあ」
ブライアンも
「あっという間だなあ」

するとベルナルドが言った。
「おれ、今年は咲くのやめようかと思うんだ」
「え、なんで」
「やめるって、咲かないってこと?」
「咲かなくてどうすんの?」
「あ、わかった」
デビッドが言った。

「宴会がきらいなんだね。わかるよ。ぼくも、毎年毎年自分の足元で人間たちが酒盛りやって、わめいたり暴れたりするのにはうんざりしてるんだ」
「わかるわかる。ゲロ吐いたり」
「根元におしっこかけられたこともあるよ!」
「そうだな。それを思うと咲くのやめようかって気にもなるよな」

「名案があるよ! わざと根っこを持ち上げて、でこぼこにするんだ。こんなふうに。そしたら人間たちはござを敷きにくいし、敷いてもお尻が痛いからやってこないよ!」
「毛虫をいっぱい上から落としてやれば?!」
「毛虫はまだいないよ。葉っぱが出ないと」

「いや。ベルナルドが言ってるのはそんなことではないのかもしれない」ジョナサンが言った。
「じゃあなんだよ」
「おれにはわかるよ。おれも時々思うことだ」
「なんだよ。もったいぶって」
「早く言えよ」

「いっせいに咲いていっせいに散るっていうのがいやなんだよ。おれたち桜ってそこがいいとかいわれてるだろ。一種のきめつけ。そのへんに対する異議申し立て」
「そうなのか!」
「確かに、そりゃあわからないでもないけど」
「じゃあばらばらに咲けばいいのかい?!」

「ベルナルド、そうなのかい? ジョナサンが言うような? もしそうなら...ぼくたちも考えないでもないけど」
「でも、いっせいに咲いたほうがきれいじゃないか?」
「人間にとって都合がいいだけさ」

「好きなときに咲いて好きなときに散る。ベルナルドはきっとそうしたいんだ。いまは個の時代だからな」
「おいらもその気持ちはわかるけど、そうじゃないかもしれないぜ!」
オリバーが言った。

「なあ、空という字をじっと見てるとそれがほんとに昔からある空という字なのか、それともいま自分が適当に線を並べただけのものかわからなくなるだろ! それと同じで、毎年毎年咲いてるといったいどうやって咲いたらいいか、時にわからなくなるじゃないか? おれなんか毎年、『はて、花を咲かすにはどうしたらいいんだっけ? 先に葉っぱを出してあとからつぼみをふくらますんだっけ? 先につぼみがふくらんだところで葉っぱが出るのを待って、咲くんだっけ? それとも葉っぱと花が同時だっけ?』と悩むんだ。ベルナルドもきっとそうやって、だんだんわからなくなってきたんだよ!」

「そんなのはおまえだけさ、オリバー」
「今度わからなくなったらみんなに聞くことだな」
オリバーがしゅんとなったとき、ベルナルドが言った。太陽の光に目を細めながら。
「悪いが、おれが考えてることはごくごく個人的なことなんだ。なんだか最近、満足いく咲き方ができなくなってるっていう」

「満足いく咲き方だ?」
「そんなこと考えてたんだ!」
「もちろんだよ」
「おまえ、変わってる...じゃない、アーティストだもんな!」
こほんとせきばらいをしてベルナルドが言った。

「そりゃあ今年だって...咲こうと思えば咲ける。並以上の咲き方はできる自信がある。人間たちはそれを見て『ああ、きれいだ』と言うだろう。写真だって撮るだろう。だけど、自分自身で満足できない咲き方じゃ意味ないんじゃないかって思うんだ。去年も、なんだか咲いてて心のどこかが寒かった。これじゃない、これじゃないんだ、って。いくら賞賛されようと関係ない。自分の目がいちばん厳しいんだ」

「そうなんだ」
「おれはそんなこと考えたこともなかった」
「おれたち、ただ何となく咲いてたよ!」
「ベルナルドはえらい!」
「じゃあ...無理しなくていいよ。な、みんな」
「うん、ちょっとさびしいけど、なんとかなるし」
「もし、咲く気になったら咲けばいいし、な」

それが3月上旬のことだった。そのあと、この街からそう遠くないところで大きな災害があった。たくさんの命が失われ、たくさんの家やものが押し流され、書いても書いても書ききれないほどの悲しみが生まれては降り積もっていった。

4月。

「おおい、みんな元気か」
「ああ、元気だよ」
「そろそろいこうか」

「うん。世間ではたいへんだったけど、いよいよおれたち咲くときがきたみたいだ」
「そうだな。なんか人間たちを見てると元気がなくてつらいけど」
「ここはおれたちの出番!」
「そうとも。今年はいつもより派手に咲いて」
「宴会でもなんでもやってもらおう!」

と言いながらみんなはふとベルナルドのほうを見た。みんなはすでにピンクのつぼみをもりもりふくらませて、いつでも咲けるようスタンバっていたが、ベルナルドはまるで冬どきと変わらなかった。やっぱり咲かないのか。

それからみんなぽつぽつと咲き始め、三分咲き、五分咲きになり、町内会の人たちが夜桜のために総出でぼんぼりをつけてまわったときもベルナルドにだけは春が来てないみたいだった。人間たちがぼそぼそと話すのが聞こえた。
「この木、調子悪いようだな」
「もうだめなのかな」
「病気なら市役所に連絡して伐採してもらおうか」
みんなはどきりとした。ベ、ベルナルドオ!

いよいよ明日から町内の桜まつりという晩。
リチャード、デビッド、フランシス、ブライアン、オリバーたちは花のないベルナルドを横目に、必死で策を練っていた。

「いいか。おれが右のこの大枝、ベルナルドと重なるあたりにに重点的に花を咲かせる、フランシス、おまえは左の枝を思いっきりひろげろ。ブライアンは斜め後ろから下の方の枝を広げてカバーする」
「そ、そんなことでベルナルドを隠せるかい」
「ベルナルドはけっこうでかいし...」
「い、いっそのこと、みんな早めに散ってしまわないか。そのほうが目立たなくていいのでは!」
「でも、満開にもなってないし、おかしいよ、そんなの...」

そのとき、めきめき、と音がした。驚いてみんながそちらを向くと、ベルナルドの枝という枝のつぼみがおそろしい勢いでふくらみ、それがぷつ、ぷつ、という音とともにポップコーンみたいにはじけたと思うと、ばらららららららららららららららららららら! と花弁を広げているのだ。その数、何万、いや何十万。あっというまに七分咲きにまでなった。

「ベルナルド!」
「おまえ!」
「咲いたのか!」

ベルナルドは照れくさそうに笑った。それから解説を始めた。今年の自分の咲き方について。

「おれはこれまで、つぼみ時にボルトリン組織の上部2A体をまず起動させ、その後スキナーマントル法によってレイヤーを重ね、アダムス統合したうえでアルザックエフェクトを25%かけていた。そうすると常にゴムランの霧といわれるノイズと微細なちらつきが発生する。花弁の彩度も低くなり、補正しようとするとゆがみが生じる。おれはこれがいやでいやでたまらなかった。何か、何かこれを解決する方法はないものか。去年のシーズンが終わったころからおれはひたすらこの難問と闘ってきた。答えはないかにみえた。しかし、ゆうべふと思いつき、ゴムランの霧が発生しない方法を考えた! くわしくは言えないが、ニルヴァニヨンの伝説といえばわかるやつにはわかるかも知れぬ。この手法で、おれはこれまでにないほど鮮やかな色調で、しかも短時間で花を咲かせる技法を確立したのだ!」

ベルナルドの口調は熱を帯び、いまにも樹皮から湯気が立ちそうだった。
「そ、そうだったのか!」
「アーティストならではの苦悩だったんだな」
「なんだかわからないがおめでとう!」
「おまえはおれたちの誇りだ!」
「伝説の桜、しかも」
「早咲きナンバーワン・ベルナルドの誕生だ!」
桜まつり前夜はかくしてベルナルド復活を祝う夜になったのであった。

翌日、町内会の桜まつりはいつものように行われた。住民たちはリチャード、デビッド、フランシス、ブライアン、ジョナサン、オリバー、そしてベルナルドにつけられたぼんぼりの下で「やっぱり桜はええなあ」「よう咲いてくれた」と言いながら機嫌良く花を観賞し、飲んだくれ、下手なカラオケを歌い、暴れ、ゲロを吐いた。今年のベルナルドが特に美しいと言う人はまったく、ひとりも、全然いなかったが、ベルナルドによると「もともと大衆による評価なんか気にしちゃいない」のだそうだ。

【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
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このたびの震災に遭われたみなさまに、お見舞い申し上げます。みなさまが心
から笑える日が早く訪れますよう、大阪の地で祈っています。

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■セミナー案内
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現在注目されているFacebookをどうビジネスにつなぐか? GoogleAppsを中心として、いかにFacebook、スマートフォンと連携してビジネスに活用するのかをレクチャー。初心者の方からある程度知識のある方までカバーします。

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< http://www.osakademanabu.com/umeda/
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参加費:セミナー3,000円(学生1,500円)
定員:50名
講師:宮本太司(LINE-UP.inc)< http://www.lineup-inc.com/
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主催:ウェブ会
詳細:サイト参照

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■編集後記(4/21)

・図書館でコンピュータ関係の棚を眺めていたら、くすんだ色の書籍群の中に真っ白でぴかぴかの「レンダリングタワー」なる書籍が挿してあった。宮沢章夫である。劇作家、演出家、作家で、「わからなくなってきました」の人である。ものごとをひねくり回して考え、どんどん不条理な方に堕ちて行く芸が秀逸で、わたしは大好きだ。この本は、MACPOWERで2003年から2005年にかけて連載した「ノートコンピュータとMacにまつわる思考の遍歴」24話をまとめたもので、2006年1月刊である。「そうだ、私はそんなことを書こうと思っていたのではない」がお約束の、読んでも役に立たない思考の垂れ流しだが、じつにおもしろい。何度読んでもおもしろい。でも、売れたのかなこの本。図書館でもあまり読まれた形跡がなく、いまだに新本のようなきれいさだ。コンピュータ関係の棚では場違いではないか。まったくユーザーの役に立たないもの。あとがきにあったエピソード。編集者とのやりとりにメールを使っていたが、ある日それが面倒になり直接電話した。メールでは何度かやりとりが必要だが、電話で話すと問題はすぐに解決した。相手の編集者と二人同時に、同じことを口にした。「電話って、便利だな」。わはは、たしかにそうだろう。わたしは10年以上前からメール一辺倒でリアル電話はほとんどしない。最近、デジクリまわりではない未知の普通の人たちに、原稿依頼や質問でメールを多発しているが、返答が遅い。3日かかることもある。反応ないこともある。こんなこと普通ありえないよね〜とデスクに訴えると、よくあることですよ〜、いろいろ要因があるのでは〜、と寛容。でも、もはやリアル電話はいやだ。(柴田)
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・電話は証拠が残らない。仕事だと、言った言わないになる前に、メールで予防。時間かかっちゃうけど安全第一。あと、アイデア盗られるのって結構多いから(えっ、それ私のアイデアでしたよね? なぜそっち企画になってますのん? という心の声をなだめる。言い出せないもん)、メールに残した方がいいのかなぁと思ったりもする。それから、テンパっている時に、イライラした声を聞かせてしまうのも申し訳ない。最近やっちゃうのが携帯メール。真夜中に思いついてメールしたいけど、受信側のことを考えて、翌朝に送信しようとして忘れるパターン。iPhoneアプリを使えば送信予約できるけど、使いたいのはMMS。Clock Mailだと送信メールがMMS画面に表示されない。/徒歩圏内にある図書館は小さめ。なので掘り出し物を探すには物足りないので、利用はもっぱらネット予約しての受け取り。予約待ちで大抵三ヶ月ぐらいはかかる。古いCMSツールについての本が読みたくて、検索かけたら予約者なし。数日で届いてラッキーと思いきや、その本を受け取ってからなんだか体がかゆい。気のせいかと思ったが、我慢できなくなる。家に殺虫剤がないので、タンス用の防虫剤をとってきて、その本とともにビニールにくるむ。と、かゆみがおさまった。やっぱりこの本か! 防虫剤って殺虫効果はある? 晴れたら虫干ししようと思っているけど、ビニールを開くのをためらうわ。読まずに返却するかもしれない......。予約者の並ぶ本は虫はつかないけど、そうでない本は気をつけなければならないと思ったよ。(hammer.mule)
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