買物王子の家づくり[06]土地探しは婚活に似ています/石原 強

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家づくりを思い立ってから早半年、二度目の振り出しに戻ってしまいました。土地探しは婚活に似ているかもしれません。決めたらその土地に一生縛られるから慎重になる。たくさんの土地を見ても100%条件を満たすのは難しい。どの土地にも個性があって、同じものはふたつとない。これでいいやと思っても、明日もっといい土地が現れるかもしれないと思うと迷いが出ます。ほかの人に取られたら、悔しいと思えるかどうかが決め手だとアドバイスする人もいます。

●条件はいいけど、形が気に入らない。

実は、気になる物件がありました。住所は渋谷区笹塚3丁目、渋谷区の西端で杉並区との境界に近い場所です。笹塚駅からも近く、周りも住宅街で環境も比較的良好です。北側の前面道路は3mと狭いけど、南側にも通路があって南北が抜けて日当りがいい。将来にわたって日当りも保証されています。価格もぎりぎり予算内です。

問題なのは土地の形状です。2階建てのアパートが建っていた横長の大きな土地を、カステラを切るように、細長く7分割しています。間口が4mと狭く奥行きが深い典型的な「うなぎの寝床」です。最初に見学したときには、両端の2区画の土地は既に売約済み。めったに売地が出ないエリアでなので、問い合わせも多い。という不動産屋さんの言葉。でもイマイチ魅力を感じませんでした。



間口が4mと言ってもピンとこないかもしれません。敷地に対して家を目一杯に建てるのは不可能だから、建てられる家の幅は3.4m程度になります。トヨタのコンパクトカー「ヴィッツ」が車幅1.7mなので、2台並べてぴったりの幅です。壁の厚さを考えると部屋は3mくらい。6畳間の短い方が約3mでぎりぎりです。どれだけ細長い家になるのか想像がつきません。せっかく家を建てられるのに、制限がきつくて自由にならない感じがします。あまり特殊な形だと、システムキッチンなど既製品が使えなくて高くつくとも聞いていました。

●ほかの候補もうまくハマらない

その後、2週間くらいで価格の安いほうから、さらに2区画が売約済みになったと連絡がありました。その時点では見送ることにしていました。同じ頃に検討していた候補はいくつかありました。

渋谷区富ヶ谷2丁目。駅から少し歩くけど、プレミアのつくエリアの閑静な住宅街。目の前は小さな公園もあって環境がいい。ただし、第一種住居専用地域の斜線制限で3階建ては難しい。敷地は18坪なので家のボリュームは限られます。それでも予算オーバーで高値の花。

中野区南台1丁目、以前購入しようとした検討した物件が再度登場。どうやら業者が買い上げたらしい。耐火建築を避けて2階建てというプランで検討したが、中野区には耐火建築の新築に補助金を出す制度があることを知りました。それを適用できれば、予算内で3階建ても手が届くかもしれません。振った相手なのに未練が残るような感じ。

さらに、新宿区西新宿4丁目に物件が出るという情報もあった。場所は自宅から目と鼻の先なので、期待して何度も問い合わせしたが、まだ契約前で詳細が決まっていないという返事。土地の大きさや価格がわからないから、一方的に憧れて盛り上がって気をもんでいるだけのお預け状態。

どれも条件に合うところ、合わないところがあり決め手に欠けます。もう少し待つべきなのか、待ってもより良い土地が出てくるとは限らないから、どれかに決めたほうがいいのか、いろいろ見てきて理想が高くなって条件に無理があるのか、それならエリアもさらに広げるべきか......このまま土地が決められないといつになったら家作りができるのか? と悩む毎日でした。

●もう一度会ってみたら、なんだか良く見える

そんなとき、別の不動産屋さんで、笹塚の土地が紹介されました。すでに見たと答えると、残っている区画の価格が少し下がるということ。再度訪れてみるとアパートは取り壊されて更地になっていて抜けが良い感じはしました。それでも決めきれずにいたら、一週間後にはさらに2区画の契約が進んで、もう最後の一区画を残すのみと連絡を受けました。ちょっと惜しかったかなと思ったけど、仕方ありません。

ほかに良い候補もないし、これから笹塚駅から徒歩圏内の杉並区方南町近辺を探そうと考えました。このあたりは、住みやすいとは聞いていたけれど、あまり土地勘がないので、実感がわきません。この物件を見つつ周辺の雰囲気を見てみたいと、家族で散歩してみることにしました。

11月23日勤労感謝の日、散歩には絶好の秋晴れでした。笹塚駅の北口を出て、甲州街道沿いを通って信号を渡る、それからちょっと小さな商店街を歩いて出たところでもう一度横断歩道を渡ります。2つの信号が青になるタイミングが合うと、子供連れでも徒歩10分程度とで大丈夫。駅からのルートもわかりやすいし、駅前はスーパーも大きくて、いろんなお店があって生活しやすそうです。

私は5回目でしたが、家族は初めて目にする土地です。妻は一目見て「ここいいね」と言う。家で図面を見ていた時はイマイチと言ってたのに、ほかの土地にはなかった反応にビックリ。土地なんていつもつまらなそうにしている長男カケルもニコニコして楽しそうだ。抱っこされた次男ワタルもなんだか機嫌がいい。楽しそうな家族と一緒に見ていたら、すごく良い土地に見えてきた。

そこに、たまたま居合わせた不動産屋さんの営業マンYさん。もう最後の一区画なので、どうしますか? 即決してくれるなら、価格も多少ならして考慮できます。ご予算は? と初対面なのにズケズケ聞いてくる。価格交渉してみるからすぐに案内してもいい。と言われたが、そもそも決める気がなかったので、その場は一度帰って考えると伝えました。きっと、もうすぐなくなってしまうので、気持ちがあれば今日中に連絡して欲しいと連絡先をもらいました。

家に帰って、あらためて話し合ったけど印象はかわらず妻は大賛成。私も問題視していたことが気にならなくなっていました。出会いは一目惚れではなかったけど、じわじわと魅力に気づいて、付き合い始めるっていうのもアリだろう。ちょっとスリムすぎる、この土地の個性をいかせる家作りをすればいい、きっと明るい家になる。ここにしようと決心しました。

●急転直下、契約へ

善は急げとばかり、Yさんの携帯に連絡をいれました。購入する意思があることを伝えると同時に「予算に収まるように交渉してくれるなら」という条件は強調しました。逆に売主さんも急いでいるので、即決になるかもしれない。今日、契約してローンの申し込みができるように、必要な書類一式と、印鑑しかも「実印」を持ってきてほしい、とのこと。この時点では、まだ半分くらいは無理だろうと思っていました。

必要な書類は揃っていました。2回も振り出しに戻ったので、その間に準備した住民票や2人分の源泉徴収票の写し、身分証明書など、既にコピーがありました。それを持って、30分後に迎えにきたYさんの車に乗り込みました。売主さんの会社に向かう間に、交渉金額の確認と段取りを打ち合わせます。

会社に到着したら早速、土地の説明、参考プランのプレゼンを受けました。段取りどおりに、購入の申し込み書類を記入。価格交渉はYさんにおまかせです。責任者の部長の部屋に入ったあと、15分くらい待ったでしょうか。「契約OKです」と興奮した表情で戻ってきました。

部屋に入ったあと、Yさんが希望の金額を伝えた途端に「話にならん」と部長は却下。ダメかと思ったけど、そこで、一言「この印鑑はちゃんとしているでしょ、こんなの準備してくる買い主は本気で欲しいと思っているんすよ。」と説得してくれたんだそう。「それもそうだな」と、出張中の社長に電話してくれて、その場で即決になったということ。この印鑑こそ、なにを隠そう、7年前のデジクリ連載一回目で紹介した自慢の印鑑でした。

契約には手付金が必要と聞いていましたから、すぐに近所のコンビニに駆け込んで、休日にATMで下ろせる最大の50万円を用意しました。残りは翌日に振り込むことを約束して、売買契約の書類を取り交わしました。昼すぎに家を出て、すべて終わって家に戻ったのは20時頃。購入まで進むとは夢にも思ってもいなかったので、あっという間の一日になりました。

●契約完了まで、めまぐるしい一か月

翌日に銀行から手付けの残金を支払って安心したのも束の間、契約の条件が年内に決済まで済ませることです。ローンが通らなければ、この契約は白紙に戻ってしまいます。これまでも、ローンキャンセルで再度売り出しという物件がいくつもありました。

12月も間近で時間がありません。2日目にはローンの書類が積まれました。一晩で、すべて書いて翌日の午前中に受け渡して欲しいということです。みずほ銀行、みずほ銀行扱いのフラット35、東京三菱UFJ、三井住友銀行、横浜銀行の事前審査の書類たち。いちいち書式が異なるし、記入例も中途半端だし、説明している言葉の意味よくわからない。何を書き込めばいいのか迷いながら、なんとか4時間かかって夜中に書き上げまし。

木曜日に書類を渡すと、一週間後に仮審査の結果が出はじめました。すべての結果が出たのは一週間後。審査は通ったのですが、都市銀3行では私一人の年収だと金額が足りない。唯一、夫婦合算でローンを組むことができたのが横浜銀行。金利の条件も他の銀行より有利でした。私の実家が横浜で以前に口座を持っていたので、親しみもあって決めました。

翌週には、ローンの本審査申し込み、場所は横浜銀行綱島支店の住宅ローンセンターです。次男を母に預けて夫婦で出向きます。通過後はいよいよローン契約「金銭消費貸借契約」も同様に夫婦で出向く。妻の実印がなかったので、あわててハンコヤドットコム < http://www.hankoya.com/ > で購入し、数日前に届いて、すぐに役所に出向いて印鑑登録を済ませたもの。実印なんて、こんな時にしか使わないから、まさに一生分を押し切った気分です。

最後は決済日。司法書士、不動産屋さんのYさんも立ち会って、またまた書類を書きました。ローンのお金が振り込まれて瞬間的にはお金持ち。それをすぐに売主の口座に振込ます。土地登記費用、手数料と分配したら、口座の残金はすっかりなくなって元に戻ってしまいました。

それでも、笹塚の土地は晴れて自分のものとなり、2010年12月24日は、忘れられない人生最大のクリスマスになりました。土地を決めてからの一か月は、めまぐるしく過ぎていった。土地探しという大仕事が終わってほっとしたけど、やっと家づくりのスタートラインに立ったのです。

【いしはら・つよし】tsuyoshi@muddler.jp

家づくりは既に進行していますが、3月11日はちょうど建築家との設計契約の日でした。契約を済ませて家に帰ろうと思っても電車が止まったまま。約1時間歩いて帰宅することになりました。やっと家についてみると、棚が倒れ、食器が割れて家中が散乱......片付は夜中までかかりました。
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