わが逃走[84]信州ぶらり旅 の巻/齋藤 浩

投稿:  著者:  読了時間:5分(本文:約2,000文字)


ところで『ぶらり旅』の定義ってなんなんでしょうね。
あまり深く考えず、先日思いつきで出かけた信州は佐久〜松本において、たまたま見つけた物件などを紹介します。

1■小屋
001.jpg

小屋です。佐久市の畑の脇に立っていたのですが、なんともいい感じです。建てた人は単に実用に適したものをという考えであり、アートとして鑑賞することなんて意識していないと思うのですが、周辺の景観との見事な調和に感動を覚えました。

この調和ってのが、信州を語る上でのキーワードとなるのではなかろうか。ここに暮らす人達はある種の美意識を持っていて、たとえば家を建てるにしても周辺の景観とその家とを主観的に、客観的に、行ったり来たりしながら対比しつつ形状や色彩を決めているように思えるのだ。しかも無意識に。

そりゃあ中にはパステルカラーの似非メルヘンな家もあるにはあるけど、たとえばサイタマ等と比較すると圧倒的に少ない。うーむ、教育文化圏信州。すばらしい。本筋とは関係ないけど、長野県は日本で最もソープランドの少ない県なのだそうだ。先ほどたまたま会った某編集者が言ってました。



2■光学迷彩自販機

調和というキーワードを脳内で反芻しつつ、松本市内をさまよっていると映画『攻殻機動隊』でおなじみの光学迷彩! のごとく周辺に馴染んだ自販機を複数発見したのでご報告します。まずは味噌の蔵元で発見したこちら。
002.jpg

なまこ壁を見事にトレース! 実物も意外に馴染んでいるんだよねー。まあ景観に調和させることの意義とか、実際表現としてアリなのかとか、果たして自販機の目的や機能との両立ができているのかとか、意見はいろいろあると思う。しかし、現実にそういったテーマを考え実行している姿に、信州人の意識の高さを見たように思う。素晴らしい。

さらに彷徨うこと10数分、草間弥生で有名な松本市美術館の自販機がこれだ!
003.jpg

ウィンドウ内の草間作品との見事な調和! というか、すでにこれも含めてアートなのでは? で、近寄ってみるとやはり草間氏のサインが。すごいなあ。芸術とはこうあるべきだ。市民のものでもあり、作家のものであり、お互いに行き交うこと自体がアートとなる。実に知的。

3■松本市内飲み屋街

昭和の正しい飲み屋の佇まいを大切に守りつつ、美しく安全な街並をめざしている。
004.jpg

足下を照らす照明のデザインもイイ。
005.jpg

中には酔っぱらって水路に転落する人もいるとは思うが、あえて柵など設けないところがまたイイ。流れる水がとてもきれいなので、落ちた方もそんなにイヤじゃない。あ、オレはまだ落ちてないよ。完璧なディレクションの下、街並を徹底していくのもいいけど、この町のような、美意識を緩く共有できるコミュニティってよいですね。教育のなせる業。

4■デ・レーケ

ここ数年、行く先々でこの名前を耳にするのだが、なんと松本にも彼の手がけた物件があったとは! という訳で、早速行ってみた。

デ・レーケは明治時代、日本に治水工事を指導したオランダ人の技師で、四日市港の防波堤や常願寺川の砂防工事などをはじめ、日本中の治水工事を手がけている。松本のちょこっと東、市内から車で20分程度走ったところに『牛伏川階段工』があった。
006.jpg

その名の通り、石を19の連続する階段状に積み上げ、激しい水流による浸食を抑えている。これによって下流に暮らす人々を土石流などから守った訳だ。機能もさることながら景観としても実に美しい。まさに機能美。バウハウスのエライ人の言葉を思い出す。

ものの本によれば、ここは日本で最も美しい砂防ダムとのこと。なるほどねえ。このときはようやく木々の芽が出始めの頃で、周辺の桜は満開。これから新緑の季節はさらに美しい景観となるであろう。

ここで、最近できたばかりのパン屋(あがたの森の目の近く)で買った焼きたてのパンを一斤食べたが実に旨かった。あ、こちらは現地に貼ってあった大正7年に撮影された写真。
007.jpg

今の景色と見比べると、川の周辺を石できっちり組んだ後、谷の両側を植林したことがわかります。

5■顔に見えるコレクション

今回の旅でもいくつか顔を見つけたのでご報告。
まずは松本市内で見つけたこちら。
008.jpg

シャア少佐の真似をした青ヒゲのおっさんのようです。悪い人ではなさそうですが酒飲みっぽい印象。
同じく市内にて発見した少年。口の中の歯がイイ感じです。
009.jpg

そして最後にご紹介するのはこちら。
010.jpg

佐久市内の居酒屋で飲んでいたところ、股間近くに微笑む人を発見! 即座にシャッターを切った。

てな感じで、今回はこれにて。世の中はまだまだ心配だけど、久しぶりに平和な気持ちで旅ができました。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/ >

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。