気になるデザイン[59]ジャケ買い、復活の日々。
── 津田淳子 ──

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前回は校了まっただ中で、お休みをいただいてしまいました。すみません。そして震災以降、しばらくジャケ買いする気にならないでいたのですが、書店に足を運ぶと、そんな中でもステキな本がたくさん出ていて、ここ一ヶ月くらいはまた普通通りにジャケ買いする毎日です。

毎回2冊ずつ気になる装丁の本をご紹介していくつもりだったのですが、震災以降触れていなかったので、ジャケ買いした本がかなり溜まっています。そこで今回はそれらをダーッとご紹介したいと思います。ちなみにご紹介する順番は、買った時期順でも気に入ってる装丁順でもなく、単に私の手元に近いところにある順です。

『遺伝子医療革命』(フランシス・S・コリンズ著/矢野真千子訳/NHK出版/2100円+税)ブックデザインは松田行正さん+山田知子さん。
< https://www.nhk-book.co.jp/shop/main.jsp?trxID=C5010101&webCode=00814552011
>

薄いグリーンがかったグレーの紙に、赤い箔押しでタイポグラフィがドーンと配されている。この薄いグリーングレーの紙、銘柄が特定できていないのだが、これがカバー、帯、表紙、見返し、扉とすべてに使われ、角背の製本相俟って、端正な佇まい。

そこに力のある明朝体の文字でカバー表1部分すべてに押された赤い箔押しのが、「最新の遺伝子治療について解説」した内容にふさわしく、鮮烈で革命的な印象を出している。いやぁ、この装丁じゃなければ私はぜったい買わないジャンルの本。こういう本こそ、装丁の力を感じる。内容は難しかったけれど、興味深かったです。



『国道沿いのファミレス』(畑野智美著/集英社/1400円+税)装丁は有山達也さん。
< http://books.shueisha.co.jp/CGI/search/syousai_put.cgi?isbn_cd=978-4-08-771392-3
>

カバーに入ったタイトル、著者名、帯の惹句、背文字、すべてが若干左に傾いていて、加えて一瞬、写真なのか絵なのかわからなかった青いトマト、これが気になって買ってしまった。青春小説である本書に、その斜め文字も青いトマトも、なんだかストンとはまっている気がする。

『やわらかなレタス』(江國香織著/文藝春秋/1238円+税)装丁は名久井直子さん。
< http://www.bunshun.co.jp/cgi-bin/book_db/book_detail.cgi?isbn=9784163736808
>

装画の雰囲気、特徴的なゴシック体のタイトル、その雰囲気に惹かれて手にとると、本全体がやわらかい。表紙が仮フランス装になっているからだ。そしてどうしても欲しくなってしまった一番のポイントは、見返しのかわいさ。片艶晒クラフトの裏面(ザラ面)に4色で美しい絵(装画と同じ福田利之さんの絵)が刷られている。もちろん後見返しも。こうしたあらゆるところに手をかけられた本は愛おしい。

『イヴ・サンローランへの手紙』(ピエール・ベルジェ著/川島ルミ子訳/中央公論新社/1700円+税)装丁は木村裕二さん。
< http://www.chuko.co.jp/tanko/2011/03/004212.html
>

ピンク一色で写真が刷られたカバーが何とも鮮烈。そしてこの本は絶対帯ありが美しい。帯はカバーの写真が同じように刷られているのだが、赤と黄色と、色を違えていることで、奇抜でスタイリッシュさが増しているように思う。(帯付写真がこちらにあるが、実物の濃度の高い印刷とは全然別もの。ぜひ現物を書店でご覧下さい)
< http://fashionjp.net/highfashiononline/feature/interview/yvessaintlairent02.html
>

『昔日の客』(関口良雄著/夏葉社/2200円+税)装丁は櫻井久さん。
< http://natsuhasha.com/
>

この本は昨年発売されたものですが、私は先月出会いました。書店の本棚に、ピカピカなグロスPP貼りされたカバーの本に挟まれて、グリーンのクロス装の背が異質で、つい手に取りました。クロス装に墨箔で押されたタイトル。表4には題箋のような体裁で絵が貼られている。

古書店を営んでいた著者の随筆集が死後一年経って刊行され、それが30年以上を経て復刊された本書。この丁寧なブックデザインが、心に響く内容とあっていて、読んでいて心が豊かになる気がした。唯一、惜しむらくは、口絵の印刷。元本ではすべて版画そのものが挟まれていたようだが、それをオフセット印刷している。その精度が今イチで本当に惜しい。

『西山美なコ/〜いろいき〜壁の向こう側』(西山美なコ著/新宿書房/2000円+税)ブックデザインは赤崎正一さん。
< http://www.shinjuku-shobo.co.jp/new5-15/html/mybooks/ISBN4-88008-414-Iroiki.html
>

これはカバーのみで買いました。トレーシングペーパーの表面に白で、その裏から鮮やかなピンクで、絵柄が表裏から重なって刷られている。そのお陰で、本を見ると一見白ピンクの模様が刷られているようだが、カバーが少しでも浮くと、その模様が蛍光ピンクに発光しているような、なんだか不思議な感じに。著者のアート作品のイメージをカバーで再現しているようだ。


本当はもう何冊かあるのだが、あまりにも長くなるので今日はここまで。こうして丁寧に、すばらしくつくられている本を見ると、何とも幸せな気分になります。書店はやっぱりおもしろいな。

※でも最近、ちょっとマイナスの面で気になっていることもある。ある時期から同じようなテイストのイラストが多用されすぎているのだ。『神様のカルテ』とか何冊かで、こうしたイラストを使った装丁の本がヒットしたことに由来しているんだろうけど......どうして同じようなことばっかりしようとするんだろうねぇ......。とほほ。

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp  twitter: @tsudajunko
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