わが逃走[85]三つ子の魂百までの巻/齋藤 浩

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実家に帰ると、オレのヴェロ・ソレックス(おフランス製のモペッド)が知らぬ間に処分されており、「だってぜんぜん乗らないんだからいいじゃないの、邪魔だし」と母に言われた、という夢を見た。

ちなみに私はそんなお洒落な乗り物は所有していませんが、子供の頃学校から帰って来たらお宝(超合金等)がごっそり捨てられていたという哀しい思い出があり、そのへんの経験がそんな夢を見せてくれたのでしょうか。

そういえば、サイタマ辺りの田んぼに囲まれた物置小屋に、妻に内緒で買ったロータスエランを隠しており、何日かに一度エンジンをかけに行きます。もちろん夢の中でですが。

不思議なもので、定期的にこの夢を見ます。その度に「あ、やっぱりエラン持ってたんだ! 夢のような話だから、つい夢だと思っちゃったなー」なんて言う訳です。もちろん夢の中で。そうこうしているうちに、現実世界でエランを所有しているような気になってしまい、起き抜けに納税証明が見つからずアセった、なんてことがありました。ここまでくるとやはり脳の病気でしょう。

みなさんこんにちは。齋藤です。グラフィックデザイナーの齋藤浩がデザインとは(ほぼ)無関係なことを、つれづれなるままにその日暮らしな感じで思ったことをダラダラと書きつくれば、てな感じで始まったこのコラムも来月あたりで4周年ということになる。

4年といえば27歳女子も31歳女子になるという計算だ。こう考えると人生悔やまれることばかり、のように思えるが実際はそんなこともなく、例えば以前は見向きもしなかった熟女系もアリなのかも、などと思うようになり人はみな成長するものなのだということを身をもって感じる今日この頃です。

そういえば先日、実家の母に「あんたのガラクタをなんとかしなさい」と呼ばれまして、物置部屋の掃除に行ってきました。



実家を出るときに私の部屋だったところは父の版画工房になってしまったため、私の荷物は3畳の物置部屋に押し込まれています。ところが、この度の震災でうずたかく積まれたダンボールが今にも崩れ落ちそうな状態となったため、この度の出動と相成りました。

到着早々、10代の頃に描いた油絵や立体作品を廃棄するとその奥から懐かしの『日本グラフィック展』やら『日本イラストレーション展』等の入選作品が大量に出てきた。さすがに手描き作品は捨てたくないが、CG作品は思い切って廃棄。データも残ってないので残念ではあるが、まあ仕方あるまい。

当時は大判出力なんてものはまだ存在しなかったので、A3のプルーフを16枚貼り合わせたり、ポジ出力したものをインターネガに起こしてB倍プリントしてパネル貼り! なんてことをしていた。

思い起こせばメモリが1メガ1万円の時代である。制作も発表も今の何倍もタイヘンだったのに、我ながらよくやってたと思う。今ももちろん制作意欲は湧き続けているのだが、当時の実物を改めて眺めるといわゆる若さってやつを感じるのだ。こまったね。

そう若さ! 若さといえばエロである。この度大量のエロ本とエロビデオ(ベータ方式)を発見。さすがにベータのデッキを中古で探して、懐かしいエロビデオをデジタル変換する気力もないので廃棄。

その際、うっかり拾われると恥ずかしいので、ラベルを丁寧にはがした上テープをカットする。ちなみにラベルには正式タイトルなど記すはずもなく、オレにしかわからない記号が書かれている。とはいえアヤシイ記号が書かれたビデオテープってだけでエロですと言ってるようなものだが、まあそのへんはご愛嬌ですね。

さて問題はエロ本である。さすがにこれをむき身で捨てる訳にはいかないし、シュレッダーにかけたとしてもエロ本の場合、屑が見事に肌色になるので扱いが難しい。しかもビデオと違って何故か思い入れがあり、捨てたくても捨てられないのだ。とくに初めて買ったエロ本。

あれはたしか中1の冬休みのことだった。それまでエロ本とは借りるものか橋の下で拾うものだったのだが、それだけでは飽き足らずついに購入の決心をしたのだ。

近所では面が割れてるので、ある程度離れた場所の本屋が良い。悩んだ挙げ句、6キロほど離れた古本屋に行くことにした。ここは店舗の半分が新刊を扱っており、もう半分が古書店というつくりで、店主はじいさんだ。事前にリサーチした結果、若い娘がバイトに入ることもなさそうなので決定した。

購入にあたって友人Tからアドバイスをもらう。「とにかく自然に。買って当然というような顔で、さりげなく」とのことだった。自転車のペダルをこぐ足に力が入る。「さりげなく...さりげなく...」呪文のように繰り返しながらエロ本屋を目指す中学生のオレ。

さりげなく自転車を停め、さりげなく入店。さりげなく漫画雑誌を立ち読みした後、さりげなくエロ本コーナーに移動。さりげなく全体を眺めた後、表紙から内容を推察して"良さげ"な品を3点ほど候補に挙げ、これらを興味なさそうなふりをしつつ、ぱらぱらっと全体の構成を把握する。

モデルの質を第一に、カラーとモノクロの比率、連載エロ小説およびエロ漫画のジャンル、そして値段をチェックする。(これだ!)心を決めた1冊のタイトルは『○○○○○』(※はずかしくて書けません)。

さてここからが正念場だ。意を決して『○○○○○』をさりげなくレジに持って行く。「600円ね。」じいさんに千円札を渡し、おつりと『○○○○○』を受け取る。さりげなく店を出たところで『○○○○○』を背中のリュックに入れた。やった! ひとりでできた!

このときの感動をオレは一生忘れないだろう。1月だというのに額に汗をにじませつつ、ある種の達成感を覚え空を見上げる中学生のオレ。しかし、このとき脳裏にある言葉がよぎった。「家に着くまでが遠足です」。

そうだ! 気をつけて帰らねば。もし帰宅途中に事故にでもあったら、身元確認のため所持品を調べられるだろう。背中のリュックを開けられて、中から買ったばかりのエロ本が出てきたら!

こ、これはいかん...。とにかく安全第一だ。国道を避けて人通りの少ない道を...待てよ。あまり寂しい道を辿るとうっかりツッパリ(今で言うところのヤンキー)にカツアゲされるかもしれん。そうしたら買ったばかりのエロ本だけでなくおつりの400円まで失うことになる...。どうしたらいいんだ...。

とにかく周囲に気をつけて交通ルールを守り、あまり裏道すぎない道をゆくことにした。行きは15分でたどり着いた道のりを30分近くかけて帰宅した。しかし、こういう日に限って親戚のおばちゃんが遊びに来てたりすると数時間はおあづけ状態が続くことになるが、それはなかったのでほっとしたのを覚えている。ああ、あれがもう30年近く昔の事とはね。まるで昨日のことのようにリアルに映像が蘇ってくる。

てな感じにノスタルジーに浸ってしまい、片付けは一向に進まず。でもね、このエロ本てやつこそ、クリエイティビティの源と思うのだ。今は簡単にネットで未修整動画をダウンロードできちゃうけど、昔は欲しい写真を探すのにもこれだけの苦労があった。

しかも修正済みの印刷物ゆえ、見えない部分は想像するしかない。ポーズとポーズの間の動きも想像するしかない。とにかく10代の私は、この日を境に想像力を鍛える日々を送ることになったのである。

今思えばこの想像にかける情熱こそ、アイデアを導き出すための鍵となったと言えましょう。脳内であらゆるシーンをイメージし、もしおねえちゃんを撮影することになった場合、どのようなポーズをどのような構図で撮影するか等、グラフィックデザインの基本ともいうべき勉強を知らず知らずにしていたこととなる。

そのおかげで、今はこうして学習参考書のデザインを手がける一人前のデザイナーになれた訳です。人生に無駄なものなし。

エロ本の思い出を熱く語ってしまったが、実家の片付け話をしてたのだった。その後、ダンボールの中からいろんなモノが出てきました。そんなものを紹介してどうするとお思いでしょうが、今回はとくに編集長から長文をとのリクエストがあったのでおつきあいいただこう。

●スターウォーズのフィギュア

もちろん最初の3部作公開時のものである。当時こんな"やすっぽい人形"をありがたがるヤツなどほとんどいなかったので、コレクターは人目を気にしてこそこそ集めていたのだった。

なんだかんだで40体以上あったようだが、ブリスターパック開封済みなので金銭的価値はなし。他に森永スターウォーズキャラメルのオマケも多数出土。

●王冠スターウォーズ第1作日本公開当時(1978年)、コカコーラの王冠のウラに映画のシーンが印刷されていた。どうってことない企画だけど、情報に飢えていた小学3年生オレとしては、こんな小さな印刷物でもありがたかった。

親に頼んで買ってもらうこともあったが、虫歯になるとの理由で数に限りがあった。そんな時、近所のプールのコーラ販売機(もちろん瓶の)の脇に大量に王冠が捨ててあるのを発見、半狂乱になって拾い集めたのであった。30個ほど現存。これに混じってスーパーカーイラスト入りの王冠も10個ほど発掘。いずれも話のネタにはなるが金銭的価値はなし。

●スターログ

元祖SF専門誌。ツルモトルームというところから出ていました。うすっぺらいくせに当時680円もした。早熟な中学生は少ない小遣いでこんなものを買ってたのだなあ。シド・ミードやメビウスもこの本で知った。きっとお宝になるに違いないと思って保存しておいたが、先日同じものがブックオフで100円で売られていてショック。

●スーパーカー消しゴム

ご存知70年代コドモの必需品だが、小学校低学年の教材『さんすうセット』の箱に保存しておいたため、中のプラスチック製のコインと溶けて融合していた。フェラーリ512BBとプラスチック製の10円玉が、どろどろになってくっついている様子はある意味シュールであるが、これでは絶対金銭的価値なし。

●グッとくるキリヌキ

なんかこう、思わずグッとくる写真や雑誌の切り抜きを箱に入れて保存していたが、開けてみると造船所や工場やダム、ガスタンクに鉄骨、歯車ばかり。一本スジが通っているといえば聞こえはいいけど、こんな昔から趣味が変わってないのかと改めて驚く。

20年以上前のそういった資料は自分にとっては価値があるけど、ヒトサマにとっては無価値。自分で言うのもナンですが、あんたも好きねえ。

●古い巻物

というタイトルで、小学3年生のときに夢中で描いたクダラナイ絵巻物。父にもらったレシート用ロール紙にひたすら鉄道車両を描きまくる。巻物の雰囲気を重視し、筆ペンを使用。これのみ持ち帰ったので写真で紹介します。

モノとしてはこんな佇まいです。
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こんな感じで描いてます。
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たまに飽きてこんなことにもなりましたが
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再度鉄道車両に戻り、ひたすら続いていきます。

うーん、我ながらヒマだなあ。勉強しているのかと思えば、日々巻物の制作に没頭する息子を見たら、親も勉強しろと言いたくなるであろう。まあ親の気持ちは分からなくもないけど、ヒトには向き不向きってのがあるからね。

という訳で、ダンボールから出てきたくだらないものの話でした。こんな調子でそろそろ4年目突入です。

誰かたまにはほめてください。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/ >

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。