買物王子の家づくり[9]建築家と一緒に家づくりする醍醐味
── 石原 強 ──

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家のイメージも徐々に固まって、具体的に基本設計を進めていきます。プレゼン時の模型を眺めながら、家で生活する様子を想像してみる。玄関を入ったら、何が見えるだろう、ダイニングはどんな風に使われるのか、リビングはどうしたら居心地よくなるのだろうか。この小さな家の中で、家族がどんな生活をするのか? 頭の中でシミュレーションしてみました。

●帰ったらまず手洗いうがい

まず最初に気になったのは洗面所です。妻は息子に「家に帰ったらすぐに手を洗って、うがいをしなさい」と指示しています。今のマンションは玄関脇に洗面所があるので、すぐに実践させることができます。しかし、新しい家のプランでは一階のバスルームに洗面所があります。二階の玄関を入ってダイニングを通り、階段を下りなければ洗面所に行けません。

妻は「今だってなかなか言うことを聞かないのに、これじゃ毎日喧嘩になるよ」と言う。それは、まずいだろうと、二階の玄関近くに洗面所が置けないか相談しました。

フルヤさんから提示されたのは、玄関脇にある納戸をトイレに変更して手洗いも設置する案です。トイレがふたつになります。もともとトイレは掃除が面倒だから、ひとつにしたいというのが妻の考えでした。それで一階のトイレをなくすほうがよいかと議論しました。

でも、夫婦の寝室の近くにはトイレがあったほうがいい。家族四人が朝出かける時には使用が重なるだろう。来客の際にプライベートな一階に行ってもらうのも気が引ける。いろいろ迷ったあげく「複数あったほうが絶対に便利」という知人のアドバイスもあって妻も考えを変えました。



トイレふたつはいいとして、僕は持ち物が多いので「玄関脇の収納も欲しい、なんとかならないだろうか」と話をしました。次の打ち合わせでは、玄関脇の納戸はそのままにして、玄関のスペースを削ってトイレを設ける案に修正されました。広くていいなと思っていた玄関が狭くなって残念だけど、ここは譲れるところと割り切りました

トイレに設置する手洗用のスペースは奥行き30cmでした。手洗用ボールの大きさは通常30cm程度のようです。サイズを確認するために、新宿にあるTOTOとINAXのショールームに足を運びました。

実物を前にして、手や顔を洗う動作をしてみます。軽く手を洗う程度なら問題ないけど、屈んで顔を洗うには狭い。子供がバシャバシャ使うと周りに水がはねてしまいそうです。洗面としても使うためには、もう少し大きめの洗面用ボールを設置したい。ショールームで大きさを測ってみると、できれば40cmくらいの大きさが欲しい。

狭いトイレスペースで洗面スペースととるために、トイレの便座はできるだけ小さいほうがいい。比較するとINAXのタンクレスのものが奥行きが一番小さい。一般的なのものより10cm奥行きが短いのです。たかが10cmされど10cm。デザインも好きなので、これを入れたい。タンクレスはカッコいいけど値段も高い。一階のトイレは旧来のタンクありのものにして価格も抑えるつもりです。

●ダイニングキッチンは勉強スペース?

玄関を入ってすぐの所がダイニングキッチン。家の中央に位置していて奥にリビング、脇に一階と三階への階段があるので、家中どこに行くにも必ず一度は通ります。ここは家族の生活の中心になるイメージです。家族が食事をしたり話をしたり、くつろげるのは大事。それに息子の勉強も小学生のうちは、個室ではなく目が届くダイニングでやらせることになる。

ダイニングは、できるだけ明るくしたいという妻の要望。隣家が接近しているので、窓からの光ではちょっと暗くなりそうでした。かわりに天窓を設けてトップライトを入れる提案をいただいた。フルヤさん曰く「天窓は、普通の窓の3倍の明るさと計算されるので、昼間はとても明るくなります」とのこと。

「ダイニングを食事にも勉強にも使うと、モノが散らかるのが心配」と妻。片付けが苦手で、今も家のリビングはいつも散らかってしまいます。フルヤさんからは、「そのくらいなら意外と小さな収納スペースでも大丈夫。例えば幅20cmあれば教科書やノートが立てかけられます」。

そこで息子の勉強道具、僕の本や雑誌、確認する前の郵便やチラシ、出かけるときに必要な身の回りのものなど、ちょっとしたものを収納できるような棚を階段脇に設けることにしました。

キッチンのスペースは、今のマンションとあまり変わらず狭い感じがします。そこで、キッチンとダイニングの構成も複数案を検討。キッチンカウンターを対面と壁付けで比較したり、ダイニングとキッチンの場所をそっくり入れ替えたり。小さくても食料庫が欲しいと収納を壁際に大きくとってみたり。

複数の案を並べて議論しました。これは結局元のプランに落ち着きました。妻は「今のスペースでも不満な訳ではないし、男ばっかりで料理を手伝ってもらうことも少ないだろうから、コンパクトなほうが使いやすいかな」と納得した様子。食料庫は玄関脇の収納スペースの中に設けることにして一段落。

キッチンは最初、妻のプライベートスペース的な考え方で、閉じた空間にしようと考えていました。料理しているのもあんまり見られたくないと。収納力アップのために吊り棚をつけたり、入り口にも扉をつけて、ダイニングからは、あまり中が見えない個室としてプランしていました。

キッチンのカウンターや収納を知りたいので、システムキッチンのショールームにも足を運びました。ショールームのレイアウトは対面型でも棚などなくて、ダイニングにオープンなものが多い。キッチンシンクの前にカウンターがついているものが妻のお気に入り。

勉強させるのもダイニングテーブルではなく、カウンターならば食事を作りながらでも目が届きそうです。「やっぱり、こんな感じのほうがいい」と方向転換。収納は犠牲にしても、オープンにして、キッチンとダイニングが一体感を持って広く感じるようにデザインをお願いしました。

●ワークスペースで籠りたい

次は待望のワークスペースです。持ち帰りの仕事をしたり原稿を書いたり、写真の整理やらDVDの映画鑑賞など。ほとんどがノートPCでの作業です。しかし家族がいると、気が散ってなかなか作業できません。

周囲の雑音を遮断して作業に集中できるように、小さくても籠れる個室となるスペースが欲しい。できれば収集しているポップアップ絵本や写真集、デザイン雑貨、カメラなど、好きなものに囲まれていたい。

ワークスペースは、三階の階段を上がった場所に設けられてました。しかし、子供部屋の間で、階段スペースというのはちょっと落ち着かない。夜中や早朝に作業をすることがあるから、明かりや音が漏れるのも息子の安眠を妨げてしまいます。

そこで一階の寝室を少し削って、ワークスペースを設置にすることを検討しました。問題は、やはりここでも収納がなくなってしまうことです。夫婦の衣類の収納をどうするのか。ワークスペースと収納を両立させなければなりません。

個室にするのか、寝室の中にスペースを設けるのか。個室なら入り口を寝室側に設けるか、廊下に設けるか。そこに収納スペースも兼用するかなど、様々な要素が組合わさった複数の案から絞り込みました。なんとか寝室から独立した個室として二畳のスペースを確保しました。

収納かわりに寝室の壁にポールを渡して、お互いの服を吊るしておくことにしました。さらに寝室が狭くなってしまうけど、手持ちの服を一覧できるから使い勝手は良いと思う。面倒な衣替えも必要なくなります。ここは完全なプライベートスペースだから、他人から見られることもない。

●子供部屋の扉はつけない

三階は息子ふたりのための部屋。それぞれ5畳と4畳の部屋で、収納もないので正直狭い。ワークスペースとして考えていた部屋の間が空いたので、工作などの作業台と、本やおもちゃなどの収納を設けて、ふたりの共有スペースとしました。

まだふたりとも個室はいらないという判断から、当初は扉もつけません。収納も後から考えることにします。何もかもキレイに揃えなくても「必要になってから取り付ければいい」というフルヤさんからのアドバイス。

将来的に必要でも今いらないものは、省いてしまったり後で手を入れる余地を残しておいたほうが良い。「作り込みすぎないのも、家づくりのコツ」だそうです。

打ち合わせはいつもテンポ良く進みます。フルヤさんは、物腰が柔らかい人で、意見を押し付けるようなことがありません。こんなこと聞いたらおかしいかな、というようなことも遠慮なく聞けます。

こちらの要望を聞いて、まったく思いもよらなかった複数の提案が出てくるのは、さすがプロ! といつも感心。横にいるオカザキさんも「こうしたら、もっとこの家の魅力が引き出せる」と、デザイン面からのアドバイスをしてくれます。

打ち合わせで議論を重ねていくたびに、新しいアイデアが、どんどんプランに落とし込まれていくのです。その結果が図面に反映されると、前の図面が色あせるほど新鮮な驚きがあります。「どんな家になっていくのだろう」と打ち合わせではいつもワクワクしていました。これが建築家と家づくりをする醍醐味かな。

【いしはら・つよし】tsuyoshi@muddler.jp

家にトイレが二か所あると掃除が面倒だな。そんな風に話していたのを長男カケルが覚えていたらしい。ある日、妻に叱られて悔し紛れに言い放った一言。「そんなこと言うならトイレをふたつにしてやる!」つい笑ってしまった。
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