Webディレクター養成ギブス[12]誰のためのWEBサイトなのか
── 蓮井慎也 ──

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クライアントのWEBサイト担当者は比較的に臆病です。もちろんクライアントにもよりますが、それは官僚主義的な企業体質であればあるほど顕著で、上長の決裁を得られるかどうかなど、ユーザ目線に立っているかというよりも、担当者の目線は社長を含めた上長に向けられています。

売上アップを目指してWEBサイトを作るわけですから、ユーザ目線に立てていない時点で論外ですが、WEB制作側として、結局お金を出してもらうわけですから、最先端のトレンドを反映した自信を持って提案した方ではなく、捨て案の方を採用されたとしても文句は言えません。

そこに「トレンドを分かっていない!」「古い!」などを言うのは、クライアント目線に立てていない証拠であり、自分たちを対応力のなさを棚上げしているに過ぎません。

ユーザ目線に立てないクライアントが、クライアント目線に立てないWEB制作プロダクションと組んだとき、WEB制作進行はうまくいかなかったり、成果の上がらないWEBサイトに仕上がってしまい数か月でクローズするか、再リニューアルになったりと、悲しい結果になることが目に見えています。

しっかりとクライアント目線に立ち、クライアントを通してユーザの存在を意識することが、成果のあるWEBサイトを作り上げる基本スタンスです。

WEBディレクションは相手があってこその業務ですので、互いの思惑や価値観の違いがあることを前提に、営業職と同じような絶妙な駆け引きを必要とされる、人間味溢れた業務と言えます。

だからこそ多くのWEBディレクターは、この基本スタンスを分かっていながら、現実にはなかなか理想通りにはならず、WEBディレクションが難しいと言われることも、優秀なWEBディレクターがいない...と嘆かれる所以ではないかと思います。



それでも、クライアントに限らず、WEB制作メンバーとの絶妙な駆け引きを行う上で大事なことは、繰り返しますが、クライアント目線に立ち、クライアントを通してユーザの存在を意識することです。

例えば、まっすぐな水平線(ボーダー)が引かれていると仮定して、数値の上では水平な線でも、その水平線(ボーダー)の近くになんらかのオブジェクトがあるために、水平には見えず、目の錯覚で斜めにしか見えないとします。WEBデザイナーに修正の依頼をしても、返ってくる答えは「数値上、まっすぐです」が多いと思います。

考えても見てください。この水平線(ボーダー)を見るのはコンピュータでしょうか? 人間でしょうか? 見るのは人間です。数値上で水平だったとしても、人間が見て錯覚を起こしてしまうのであれば、思い切って角度をつけ、水平に見えるようにしたほうがよっぽどいいのです。

このとき、「数値上、まっすぐです」と答えるWEBデザイナーは、少なくともユーザの目線を意識していません。同様に自分の趣味を押し付けて、ユーザ不在の修正を要求するクライアント担当者も悲しいことに存在するため、WEBデザイナー相手にしても、クライアント担当者相手にしても、WEBディレクター自身がどう見えるか? で意見を戦わせたところで押し問答になるだけで、まったく良い結果を生みません。

「ユーザはどう見えるか?」の言葉を投げかけ、数値や趣味の世界ではない別の次元で、あたかも自分の視点をユーザの視点に置き換えて考えてもらうことが、不毛な押し問答を避ける特効薬になります。

WEBディレクターは、クライアントとWEB制作メンバーだけではなく、ユーザとの間にも板挟み状態であるからこそ、より中立な立ち位置を求められます。ユーザが求めるのであれば、最新のトレンドを取り入れることも必要でしょうが、そこまで過剰に、最新トレンドを追い求める必要があるのだろうか? と思います。

ユーザにとってのWEBとは、ユーザの目的を達成してもらうことであり、装飾としてのWEBデザインや、回りくどいWEBプログラミング処理は、必要ではあっても十分ではありません。

誤解しないでいただきたいのは、それらを軽視しているわけではありません。それでも過剰スペック分の制作費をクライアントに背負わせるのではなく、またクライアントが求めたとしても、それがユーザのためにならないのであれば、それを制止することもWEBディレクターの(大げさですが)存在意義と言えるでしょう。

クライアントの競合他社がすごいデザインを作り、ユーザに感動を与えているとすれば、それを超えるデザインを作ることが最適解とは言い切れず、あえてシンプルで分かりやすい構成で、ユーザの飽きないデザイン提案もまた最適解なのかもしれません。

どんなにダサいページでも、CSSでレイアウトされていないレガシーなTABLEレイアウトであっても、現実に高い効果を上げているWEBサイトはたくさんあるはずです。

だからと言って、ユーザに偏り過ぎてもいけません。結局、制作費を出すクライアントや、実際にWEBサイトを制作しているWEBデザイナーやWEBプログラマーの意向も重要です。

そのサイトで効果があった/なかったかの結果がすべてを証明するでしょうが、そのような結果を待つのではなく、一呼吸を置いてユーザを少し意識するだけで、悪い結果は未然に防ぐとともに、よい結果を導くことはできます。

WEBサイト制作に限った話ではないと思いますが、我を通してもダメで、クライアントの言いなりでもダメ、ユーザに偏りすぎてもダメ。この三者の絶妙なバランスを保つことが効果の高いWEBサイト制作の秘訣であり、このハンドルを握っているのは、他ならぬWEBディレクターです。だから、WEBディレクションは難しく、難しいからこそ楽しく面白いんですね。

【蓮井慎也 / Shinya Hasui】WEBディレクター兼更新オペレーター
地元のWEB制作プロダクションに所属。大手通販企業に常駐しWEB制作をしています。
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