[3078] 褒め下手から普通に褒められる人へ

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《本書の良さは実物を見てもらわないと......》

■気になるデザイン[62]
 朝日出版社の二冊の本にノックアウト
 津田淳子

■装飾山イバラ道[79]
 褒め下手から普通に褒められる人へ
 武田瑛夢

■おかだの光画部トーク[58]
 Flickrを使ってみよう その1
 おかだよういち



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■気になるデザイン[62]
朝日出版社の二冊の本にノックアウト

津田淳子
< https://bn.dgcr.com/archives/20110705140300.html
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昨日は、とある紙の加工会社に行ってきました。その会社は、折りと製本を得意としています。機械自体はさほど他社と変わったものがあるわけではないけど、その使い方、組み合わせ方を多種多様に工夫することで、「これ、機械で折ってるの?」「どうやってつくってるの?」と、驚かされるものをたくさんつくっていました。その機械を熟知し、使い方がよければ、すごいポテンシャルを発揮するものなんですね。勉強になりました。

さて、こうして紙や印刷に関する工場にお邪魔する毎日ですが、そんな中で気になるデザインの本を二冊ご紹介します。

まず一冊目は、『社会は絶えず夢を見ている』(大澤真幸著/朝日出版社/1800円+税)。ブックデザインは鈴木成一デザイン室。
< http://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255005836/
>
< http://asahi2nd.blogspot.com/2011/04/ohsawa01-311-311-311-311-311-311.html
>

これは残念ながらWebサイトで画像を見ても、その良さは全然伝わらないと思います。ぜひ書店店頭で実物を見ていただきたい本です。

というのも、カバーに表された美しい模様は、印刷ではなく、半透明になっていてなおかつ部分部分、ピカッと光沢のある表現。そこから表紙の渋いオレンジが少し透け出ているのです。書店店頭で見たときに、これは紙で作られた本なのだろうかと、少し躊躇してしまうような美しく不思議な質感を醸し出しています。

実はこれ、カバーにOKフロートという、熱と圧をかけると半透明化するという特殊な紙を使っていて、そこにこの模様が加熱型押しされているわけなのですが、でもそれだけだと、型押しした部分はこんなにピカッとしないはず......。

と、疑問に思っていたところ、この加工を手掛けたコスモテックという箔押し会社の青木さんに、答えを教えてもらいました。OKフロートにマットPP貼りをして、そのあとで加熱型押しをしているそう(マットPP貼りとは、マットな質感のポリプロピレンフィルムを紙に貼り合わせる、本のカバーなどによく行なわれる加工)そのPPフィルムが加熱型押しの熱で溶けて、ピカッとしたグロス感を出しているんですね。いやぁ、おもしろい。

カバーはもちろんですが、本をめくると、薄めの黄色い本扉が現れ、居住まいを正す感じがして、これまたいいアクセントになっています。内容は私にはちょっと難しめでしたが、それでもちゃんと最後まで読むことができました。

ちなみにAmazon上から入れる文芸サイト「マトグロッソ」で、ブックデザイナーの鈴木成一さんが、「鈴木成一 装丁を語る。」という連載をされていて、先々週の連載でこの本の装丁について書かれていました(もう消えてしまっていて読めないのですが......)。その連載によると、カバーの絵柄は童話で有名なアンデルセンが1864年に自身で作った切り絵とのこと。こんな切り絵をつくっていたのかと、それにも驚きました。

そして、OKフロートとの挌闘(というか、印刷会社との挌闘?)について書かれていました(最初、頼んでいた印刷会社ではうまくいかず、さんざん探しまわってコスモテックと出会った、という話です)。このコラム、新しいものがアップされるとバックナンバーが消えてしまうので(私の探し方が悪いだけ?)、みなさんに読んでいただけないのが残念......。

今回の二冊目は『新編 チョウはなぜ飛ぶか』(日高敏隆著/海野和男写真/朝日出版社/1900円+税)ブックデザインは祖父江慎さん、吉岡秀典さん(コズフィッシュ)。
< http://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255005843/
>

これも、本書の良さは実物を見てもらわないと......(まあ、このコラムで紹介する本は、すべてそうなんですが)。

なんといってもカバーの写真がいい!(同じ写真だけど、表紙の写真はもっといい!) このチョウの飛ぶ姿と息を合わせるように配された、帯の惹句のレイアウトがまたすばらしい。なんとも躍動感あるカバーで、つい手に取ってしまいました。

そして手に取って気になったのが、あれ? 帯が部分的にピカッとしてる......。よくみてみると、帯には斜めの太いストライプでニスが塗られています。そして本を開くと、見返しも扉も、本文の写真が入らない一部分にも、同じようにニスでピカッとストライプが。

印刷加工好きの私としては、こうした細かいギミックに心惹かれるんですが、でもこの本の一番の素晴らしさは、やっぱり写真の美しさではないでしょうか。ガッツリ、インキが乗って、迫力満点の写真が刷られています。89ページの写真なんか、なんたる立体感。うーん、すばらしいなぁ。

この本は、著者も写真家ももともと好きな上に、こんなすばらしいブックデザインと印刷。もう買わない訳にはいかない! という、完璧な一冊なのでした。

と、ここまで書いてはたと気づいたのですが、今回はどちらも朝日出版社の本でした。こうしたうっとりさせられる本づくり、私もしたいものです。ふぅ。

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp  twitter: @tsudajunko
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デザインのひきだし・制作日記 < http://dhikidashi.exblog.jp/
>

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■装飾山イバラ道[79]
褒め下手から普通に褒められる人へ

武田瑛夢
< https://bn.dgcr.com/archives/20110705140200.html
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今年の「アメリカン・アイドル」のジャッジの印象は「褒めてのばす」やり方だと思ったと以前書いたけれど、私もここのところ学生をよく褒めるようになった。今までの2倍は褒めている。優しくなったわけではなく、私の何かが変わったのかもしれない。

「褒める」ってなんとなくエラそうで適当な言葉かどうかはわからない。でも、とにかく「ポジティブな発見を伝える」ということがとても大切だと気がついたのだ。

髪型や持ち物などで素敵だったら褒めるのは以前からしていたと思う。でも、一番難しいのは作品を褒めるということ。その人が大事にしているとわかっているものについての意見は難しい。すごくデリケートだからこそ、言葉選びに迷っているうちにタイミングが悪くなって、言えなくなることが今までは多かった。

●褒めベタの学生時代

高校も美術学部だし、予備校も大学も美術系でずっと過ごしてきていると、他人の作品にどうコメントするかが、コミニュケーションの大きな部分を占めていたと言える。

あの人の作品に対する意見は素晴らしいとか、偏っているとかで、その人の信用度の大半が決まってしまうように感じていた。下手なことを言って、誰かを傷つけてしまうことは、学生生活でも致命的になりかねなかったのだ。

もちろん、最もだめなのは「自分の考えがない」ことだから、常に「自分の考え」という何だか知れない相棒を寄り添わせて、いつでもコメントが出せるようにしているような感覚。「美大病」とも言えるかもしれない。きっと、素晴らしくなめらかな批評コメントが出て来る人を崇高な目で見ていたから、錯覚していたんだ。

でも最近わかったのは、いいと思ったことに言葉なんて大して関係ないということだ。ぴったりの言葉がタイミング良く出て来るかどうかよりも、「いいなー」という想いをすぐにでも伝えるのが大事なんだと思った。批判的な意見はやっぱり難しいけれど、良い部分はどんな作品にもあるので、良いところから先にどんどん言っていけば伝えられる。

言葉は相手に渡してしまう。相手が私の言葉をどう思うかは、相手の自由なのでそのまま渡してしまう。良いものは感じた時にすぐにても渡す。褒める言葉の蛇口はもう開放状態でもいいのかもしれない。ダダ漏れでは価値がなくなりそうだけれど、物を見る基準を落とすわけではなく、しっかりと良い何かを発見することを続けて、伝えていけばいいだけだ。

●まず発見が先にあること

何も思うところがないのに、言葉だけで褒めると上滑りしてしまう。読んでもいない相手の著書を褒める勇気はきっと誰にもない。心に感じた動きがまずあるのが大事だと思う。嘘は小さくてもだめだと思うからだ。

デザインや絵画をやっている私たちの良いところは、作品を知るのに比較的時間のかからないものが多いということ。映画や書籍だと、コメントを出すにはそれなりに時間がかかるから大変だ。

自分の感じたことは、自分のリアルな言葉として相手に渡す価値はあるのだと思う。その自信は持っていいのだ。受け取り方は相手の自由であることを忘れなければ、自分の心をのせた言葉は何らかの変化のもとになると思う。

●嬉しい褒め言葉

褒めてもらった言葉をノートに書いておいて、自分を励ますのに使うという人もいるらしい。その気持ちはよくわかる。褒められたことって、書くまではしなくても心のどこかに残っていて忘れないものだ。

私も何年か前に本を執筆していた時に、「武田さんに褒められると嬉しい」と編集者に言ってもらったことがある。メールの言葉だったと思うけれど、すごくシンプルな言葉なのに、実はこの言葉こそが私がものすごく嬉しかった褒め言葉。褒め上手なこういう人に出会うと、自分もそうなりたいと思う。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
< http://www.eimu.com/
>

スーパーでやっていた東北フェアでみつけた「ソフトりんご」というお菓子に感動した。林檎を厚切りのスライスにして、そのままフリーズドライにしたお菓子なのだけれど、以前からあるりんごチップスなどとは違って、さっくりとしたソフトな噛み心地がなんともいえない。油で揚げていないので、りんごの皮や形はそのままで水分だけ完全に飛んでいる状態。まるでりんごの形のきめ細かい発砲スチロールのよう。王林という青リンゴタイプを食べたけれど、香りや酸味が残っていてとてもおいしかった。下記リンクから購入可能。

・はとや ソフトりんご
< http://www.a-hatoya.com/shopping.html
>

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■おかだの光画部トーク[58]
Flickrを使ってみよう その1

おかだよういち
< https://bn.dgcr.com/archives/20110705140100.html
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写真のバックアップ先として一番おすすめのFlickr。
< http://www.flickr.com/
>

容量も転送量も無制限のProアカウントが年間$24.95なので、1ドル=80円だと2000円くらい。ひと月約165円でいくらでもアップロードできます。
ただし、サイト全体にわたり日本語化されていないので、使いたくても敷居が高く感じる人も多いかもしれません。
ちなみに、ローカライズされている言語は、中国語、ドイツ語、スペイン語、フランス語、ハングル、イタリア語、ポルトガル語、ベトナム語、インドネシア語です。

普通に考えると、やはり英語が一番馴染みがあると思いますので、英語版のトップページから何が書いてあるのか説明していきます。
< http://flic.kr/p/9ZvQvf
>
写真の下の赤で囲んだ部分、左側から順に...

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......というような感じです。

次回は、The Tourの中をもうちょっと深く探ってみます。待ちきれない人は、まずは無料のアカウントを作ることができますので「Sign Up」をクリックして、出てくる画面の一番したの「Create New Account」からYahoo! IDを作って試してみてください。

ちなみに、ヤフージャパンのIDとは違うので、普段ヤフオクとかで使っているヤフーIDは使えません。アメリカのYAHOO!で使用するIDを新規で作る必要があります。

【おかだよういち/WEB&DTP デザイナー+フォトグラファー】

なんだかあっという間に一年半分終わっちゃいました。後半も更に猛スピードで過ぎ去るはずなので、そろそろ本気出さないと何もしないまま終わってしまいそうです。

< http://s-style-arts.com/
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< twitter:http://twitter.com/okada41
>

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■編集後記(7/5)

・先週土曜日に、グランドプリンスホテル新高輪で、大学のサイクリングクラブ創部50周年記念式典を挙行した。わたしも行事実行委員のひとりで、記念冊子(その名も不吉な「ぱんく」)の編集を担当した。日本各地から集まったOB・OGは160人以上(名簿上には500人以上いる)。わたしは5代目になるが、わたしより年齢が上(といっても最大で3歳)の参加者は来賓以外では11人。同期が2人。もう完全に長老に属する。ところが、大盛況の会場を見渡すとわたしよりずっと歳上に見える人、貫禄がある人がぞろぞろいる。知らない顔はすべて歳下のはずであるが、ずいぶんエラそうな人が何人もいる。しかし、さすがは体育会系のクラブである。知らない人でも、胸の名札の年度を確認して、先輩には敬意を払うふるまいは自然に出る。気持ちがいいものである。ところで、あの松本龍復興担当大臣という男いったい何様? テレビカメラの前で重ねたあの暴言を、新聞報道読んで、YouTube見て、これは「人間としてどうかと思う」ランクでは菅首相と並ぶと思った。朝日社説でも「阪神大震災では33日後に担当相が任命されたのに比べ、今回は100日以上を要した。被災者らはようやく専任の大臣が決まったと安堵しただろうが、就任早々、こうした暴言が飛び出すようでは先が思いやられる」と批判していたが、あっさり辞任に追い込まれた。首相の任命責任追及で国会は荒れる。これでまた首相の退陣時期が延びるってか? それが狙いなのか。今日の「サンデー毎日」では「妖怪」菅首相になっていた。わたしは、先輩の奥さんから「堀江謙一かと思った」と言われた。以前、大阪の居酒屋でも言われたな。(柴田)

・編集長後記のサイクリングクラブ創部50周年記念冊子のお手伝いをした。B5で総ページ数152。2段組みやら4段組みやらで構成。身内を褒めるのも何なんだが、さすがは編集長と思った。大量の寄稿文に手を入れ、本として成立するようにまとめてしまう。完成したものには無駄なところがなくて、文字数ばらばら、雰囲気ばらばら、写真大量なのに、なぜまとまっているのかが不思議なぐらい。Webだといつまでも修整が終わらなくて、つらい時がある。が、紙の場合、いったん入稿してしまうと、まな板の鯉。実は入稿時のプレッシャーで、数時間、断続的な手の震えがあった。入稿後には、ああやった方が、あそこのカーニングが、写真はちゃんと出るだろうか、などとぐるぐる考えてしまう。写真なんかは理屈通りにやったつもりでも、以前どうであったとしても、印刷会社によってインクの質や盛るインクの量が違う訳で。いろいろと後悔はしているものの、届いた冊子を見ると誇らしい気持ちに。たぶんそこの印刷会社で作る冊子の中では、上位ランクの質になるはずだ。ほんと勉強になった。印刷会社に勤める家族に見せたら「プロみたい」と言われた......。/仕事で作ったWebサイトを見せても、Flashやら、イベント用プロモーション映像でも、同じようなことを言われる。作れそうに見えないんだってさ。(hammer.mule)