Webディレクター養成ギブス[13]最終回 クライアントとグルになる クライアントをグルにさせる/蓮井慎也

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優秀と言われるビジネスパーソンは、優秀なブレーンを持つと言われています。分業化が進むWEB制作でも同じで、WEBディレクターにとってのブレーンとは、自身の脳みそではなく、素晴らしいWEBデザインをするデザイナーだったり、小気味よいプログラムを書くプログラマーなど、自分以外の"人"のことを指します。

WEB制作現場よりひとつ高いところから見てみると、クライアントにも同じことが言え、斬新な発想やデザイン・機能性溢れた、誰もが驚くWEBサイトを自社サイトに持つような企業は、自社でWEBに精通した人材を抱えることなく(抱える場合もあるでしょうが)、WEB制作を外部リソースに頼る場合がほとんどでしょう。

すなわち、優れたWEBサイトを自社に持つクライアントのWEB担当者には、必ず優れたWEBディレクターがついていて、そのWEBディレクターにも優秀なデザイナーやプログラマーがついています。

クライアントには、これまで自社サイトを何本も担当してきた百戦錬磨なWEB担当者がいれば、新卒で入社したてのちょっとパソコンに詳しいだけのWEB担当者もいます。百戦錬磨のWEB担当者にはすでに優秀なブレーンはついていたとしても、より優秀なブレーンを探そうとWEB関連のセミナーなどには頻繁に顔を出していたり、未熟なWEB担当者も人づてで優秀と言われるブレーンを紹介してもらったり、実際の案件で見極めていたり...。彼らは常に優秀なブレーンを探していることは共通しています。

クライアントのWEB担当者に、すでに優秀なWEBディレクターがついてるから...と、あまり悲観することもありません。自身のWEBディレクションが優秀とされるWEBディレクターの上をいけばいいわけで、クライアント担当者にとっての優秀なブレーンになる努力を怠らず、来るチャンスに向けて日々努力をすればよいのです。



では、一体なにをもって優秀とするのか? 知識なのか? 経験なのか? スキルなのか? テクニックなのか? WEBディレクターの職務内容は広範すぎて、これらをすべて押さえようとすると考えただけでも気が遠くなってきます。

また、企業が必要とするものは様々で、タイミングによっては求められるものが自分が持ち合わせていなければ、自分が用なしになるかもしれません。求められるものに自分が合わせるのもしんどい話ですし、合せることがしんどいなら、合わせてもらえるような動きをしていきましょう。

合わせてもらうといっても、ひとつだけクライアントの担当者に合わせなければならないことがあります。それはクライアントの利益です。同じ目的を共有し、同じ目的に向かう姿勢がなによりも重要で、クライアントの担当者は、自分の会社のことを一番に考えてくれる外部ブレーンの存在が一番嬉しく、さらにクライアント社内での担当者の立場や人間関係までを熟知し、他の担当者や上長とも上手くやりながら、円滑にモノゴトを進めていける能力が、実はWEBの知識や経験、スキルやテクニックよりも必要です。

ここで危険なことは、担当者の話を鵜呑みにし、目的と手段をはき違えてしまうことです。担当者と一緒になって手段を目的にし、間違った方向に進んでしまうと、担当者とともに上長に大目玉を食らうことになりますから、常にクライアント企業が目的にすることの本質を捉え、ときには担当者を制止することも必要になってきます。

クライアント企業の人間になったつもりではなく、同じ会社の人間になってしまったと、クライアント企業の担当者や上司に驚かれるくらいがちょうどいいです。すると、WEB制作では見えなかったもの(例えばエンドユーザなど)が見えるようになり、教えてもらえたり、裏事情にまで精通するようになり、1言われれば10わかる、ツーカーの関係になれます。

クライアント企業の担当者からは、可能なことに関しては次第に遠慮のないオーダーがくるようになり、逆に不可能なことには遠慮が入り、不思議と無理難題も言われなくなります。

困難には共に考え、ひとつひとつクリアしたり失敗したりを繰り返しながら、苦楽を共にしていくうちに、クライアントとWEB制作メンバーとの板挟みに遭っていないことに気づく瞬間があると思います。

もっといえば、開かれるミーティングにときどきWEB制作メンバーを連れて行き(本業はWEB制作なので、常ではなく感情移入するまでがポイント)クライアント担当者を含めた、WEBディレクターである自分と、WEB制作メンバーがひとつのチームになれば成功です。

もっと言えば、WEB制作を通じてそのWEBサイトを成功に導き、クライアント企業の担当者を出世させる(昇進してもらう)ことも考え、その担当者の上長にも打合せや飲み会などの場で自分のことはさておき担当者のことをアピールし、クライアント企業内での評価を上げる動きもします。

やり過ぎはよくありませんが、やらないよりやったほうがよく、担当者にせよ上長にせよ、自分や自分の部下が、ここまでやってもらっていることは誰も悪い気はしません。

自分(WEBディレクター)が、クライアント企業の担当者と同じ目線でで立ち回っていると、いつのまにか担当者が(その上長までもが?)WEB制作プロダクションの従業員の営業マンのようになってくれているときがあります。

少し懐疑的に聞こえるかもしれませんが、この一体感の醸成が、WEB制作の成功の一番の要因となります。クライアントが本気になってくれなければ、大抵のWEB制作は失敗に終わりますが、本気にさせるのもWEBディレクターです。

こうした動き方を、クライアントとグルになる/クライアントをグルにさせる、と言います。まずは自分がグルになると、相手もグルになってくれ、WEB制作メンバーをもグルにすると、会社の枠を超えたひとつのチームになって、真面目な業務から悪だくみまでできるようになり面白い展開になります。

傍から見ると悪ふざけをしているような行為も、同じ目的に向かって共に喜び、泣き、笑い、楽しむ制作現場の雰囲気は、WEBサイトを通じてお客さん(ユーザ)に不思議とに伝わります。

なぜ制作現場の雰囲気がユーザに伝わってしまうのか未だに謎ですが、一手間二手間が加わったり、常にユーザのことを意識した先回りができるからでしょう。効果の高いWEBサイトはこうして生まれます。

ここで注意したいことは、すべてクライアントのためにするわけではないということです。予算がないこともしばしばで「安くしてくれ」と言われることもありますが、いくらグルになったからとはいえ、それでも会社対会社の取引です。その1点は弁えつつ、人間関係はできていますし、言いにくいことは言いやすくなっているはずですので、なにができてなにができないか、どこまでできてどこからできないのか、を、しっかりと仕切っておく必要はあります。(第9回参照)

では、クライアント企業の担当者とグルになって面白かったエピソードをご紹介します。

◎トップページハイジャック

とあるクリスマス前の打ち合わせの席で、「トップページに華がないよね?」という話になりました。一日に数万件のアクセスのあるWEBサイトで、お堅い企業のため、トップページをクリスマスバージョンにすることは、暗黙の了解でご法度とされてきました。それでも担当者と私、WEB制作メンバーで、トップページのハイジャックを企てました。

雪をFLASHで降らせ、マウスカーソルに合わせて雪が降る方向が変わり...今の技術で考えれば大したレベルではありませんし、そもそもトップページに雪を降らせるなど、考えただけでバカバカしい話ですが、当時としては制作に係わった人間全員は本気でバカをやっていました。

お互い上長からは大目玉を食らうか...と決死の覚悟で臨んだトップページハイジャックでしたが、上長からは「なかなかいいじゃないか?」の意外な反応。ユーザの声も好評で、後日別件で実施したユーザビリティテストにドサクサ紛れに質問を加えたところ、「親しみがあってよい」の回答が多数を占めました。それが本当の効果に繋がったかどうかは微妙ですが...。


WEB制作技術は日進月歩で進んでいきます。WEBサイトにとってなにが理想で...なんてものは、なにかをきっかけに代わってしまうかもしれません。技術的に実現できる/できないで終わってしまうような関係ではなく、一緒にクライアントのライバル企業と戦う姿勢で実現可否を共に考えればそう簡単に取引を解消されませんし、むしろ太くて長い関係を構築できるようになると思います。

本メルマガ読者の皆様が、クライアント企業の担当者と目的や思いを共有し、1を言えば10が分かるくらいのツーカーの仲を構築し、グルになって、クライアント担当者を出世(昇進)させる優秀なブレーンとして活躍される日を心から願っております。

最後に。約一年間、13回に渡って連載してまいりました『WEBディレクター養成ギブス』を諸事情により今号で終了いたします。WEBディレクションについての本や記事が増えてきたこともあり、なるべくそういった類の本に書かれていないような気構え・心構え的な部分で書いてきたつもりでしたが、いかがでしたでしょうか?

一度、WEBの業界から離れ、違った角度からWEB業界を眺めようと思った次第です。またいつの日かパワーアップして、デジクリに再寄稿できる日がくればいいなぁと思っています。しばらくは疲れた身体を癒すために、全国の温泉旅館を巡る、湯治の旅に出たいと計画中です。

約一年間、ありがとうございました。

【蓮井慎也 / Shinya Hasui】湯治の旅(準備中)
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