Otaku ワールドへようこそ![137]野生の猛獣のランチになる覚悟はできていなかった
── GrowHair ──

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山をナメていたわけでは決してないが、多少の楽観はあったかもしれない。そもそも遭遇する確率はそうとう低いはずだし、音さえ出して歩いていれば、向こうから避けてくれるので、鉢合わせするようなことはまずなかろう、と。

なので、大きめな動物が突然出てきて、お互いに真正面を向き合ってにらみ合いになったときは、内心、かなりビビった。釈迦は前世において、飢えた虎にわが身をどうぞと差し出して人生を終えたそうだが、私にはその覚悟はまだできていなかった。次に生まれ変わっても、ろくなもんじゃないと思う。

●生息しているのは知っていた

山歩きに関しては、ずぶの素人ってわけではない。中学時代3年間ずっと担任だった和中先生(仮名)は体育の先生で、猿と河馬を足して2で割ったような顔からサルカバと呼ばれていたのだが、大変教育熱心で、遠足がかなりハードな山歩きだったのみならず、週末には生徒から有志を募ってもっとハードな山歩きを引率してくれた。

おかげで、卒業してからも山から離れられなくなっている。中学時代に習ったことで、今も覚えていることと言ったら、山歩きぐらいだ。意外と硬派な私なんである。あ、ちなみに中高一貫の私立男子校だった。

東京都内に野生のクマが生息している、と聞けば違和感を覚えるかもしれないが、これは事実で、奥多摩に行くとツキノワグマの目撃情報が掲げられ、注意するよう書いてある。東京も西のほうはけっこう本格的な山岳地帯で、クマも出れば、遭難事故もある。

クマとの遭遇のしかたで最悪なのは、お互いに相手の存在に気づかずに接近してしまい、至近距離で出会ってぎゃっとなることである。クマは、自分が忍び寄られ、追い詰められたと思えば、相手を襲うことで防御に出る可能性が高い。音をたてながら歩くのは有効な対策とのことで、たいてい向こうから避けてくれることになっている。で、熊鈴などのグッズが売られている。

クマに出会ったとき、死んだふりはほぼ無効で、これは雷サンに対してへそを隠すのと同レベルらしい。かといって、逃げるのもあんまりいい策ではなく、逃げるものは追いかけて食っちまおうとする習性があるらしい。出会っちゃったら覚悟を決め、威嚇して追っ払う。駄目なら戦う。



8月15日(月)、山へロケハンに。人が来なくて、自然が美しいロケ地を見つけておきたい。この目的に東京都の山はあんまり向いてない気がしている。人口密度の高さは渋谷も奥多摩も大して変わらないし(←ちょっと誇張)、小さな沢沿いに道なき道を登っても、眼前にいきなり砂防ダムの巨大なコンクリート塊が現れて幻滅することがよくある。

で、いつもよく行く方面よりも、いっそう辺鄙な方面へ。単独で。道のあるところは人が通る道理なわけで、道なき道を求めて行く。硬派の血が騒ぐ。沢沿いに登っていくと、見捨てられたわさび田があり、その辺までは作業道がついているのだが、それが終わると、もう道がない。ついでに、水も流れてない。流れた形跡しかない。下の沢は、途中から湧いてきた水が集まって流れとなっているようだ。その枯れた沢の中を登る。

少し行ってみたところで、ここはロケ地に向いてないと判断し、引き返す。いや、向いてないという結論はとっくに出ていたのだが、先がどうなってるのか気になって、ついつい要らんとこまで登ってしまった。あ、クワガタだ。

岩や木にびっしりとついた苔は瑞々しく深い蒼で、厚ぼったくふかふかしている。天気は快晴で下界は猛暑でも、ここは北斜面の深いV字谷の中なのであたりは薄暗くて涼しい。倒木はいい感じに朽ちていてスカスカだ。とても幻想的な景色。まるで妖精かなんか棲んでいそうな......。これで水辺だったら完璧なロケ地になったのに。

熊鈴やラジオを携行していないので、みずから歌って存在をアピール。曲目は"Amazing Grace"。キリスト教徒でもないのに、賛美歌を歌うことで神サマのご加護にあずかれないか、と頼りにしちゃうのはずうずうしいか。いや、それ以前に、神サマを引っ張り出してクマ除けに使おうって魂胆が不謹慎か。この者には相応の試練を与えてやるべし、と思われたかどうかは知らない。

来た道と同じ、水なき沢を下りはじめてしばらくしたころ、右後ろからシャーのようなシーのような音が聞こえる。枯れていた滝から急に水が落ち始めたのかと思った。振り向くと、視界の右端に何やら動くものが。なんか、大きな動物が走ってくる。

ぼてっと丸っこい。チャウチャウかパンダかと思った。体重は自分より重そうだし、立ち上がれば自分と同じくらいの背丈はありそうだ。重そうな割には、動きは身軽だ。全体的にクリーム色というか肌色というか薄茶色というか、そんな色だ。耳は丸っこく、そこだけこげ茶っぽい濃い色だったような......。

かなり距離があるが、けっこう急な、やらわかい土の傾斜を、右後ろから私を追い越して、右前のほうへ、等高線に沿うように走っていく。さっきからのシューシュー音はこいつが発している。鼻息? これはひょっとしてもしかして、あまり会いたくない例の動物に出会ってしまったという事態だろうか。ぞぞぞ。

死んだふりや逃走は有効な作戦ではなく、ここは覚悟を決めて向き合うしかない。相手はピタッと止まり、振り返ってこっちを見てる。どうしようかと思案しているふう。わぁ、来るな。俺はランチではないぞぉ!

思わず発した声が「ワンッ!」。声が裏返ってチワワみたくなった。弱そう。だめじゃん。威嚇になっちょらん。思い直して、ドスのきいた低い声で「おいっ! どっか行け! こっち来るな!」......沈黙。「山へ帰れ!」あ、ここが山だ。闖入者は俺だ。すまん。

真正面と真正面で向き合って、にらみ合い。あんまりこいつと相撲とりたくはないぞ。はっけよぉいっ! 長い長い膠着状態の後、まるで仕切り直しみたく、向こうが身体の向きを変えた。元々向かって行こうとしていた右手奥のほうへゆっくり去って行こうとしている。ふぅ。

追い打ちをかけておこう。「マリアさまがみてる」の主題歌、Ali Projectの"Pastel Pure" を歌ってみる。いかがでしょ? 去りかけてたのに、全身でビクッとして立ち止まり、顔で振り返る。あ、ごめん、気にしないで。

ゆったりと歩き去っていく。貫禄のある後姿。ここでやっと思いついて、写真を撮った。もう遠すぎてよく判別できない。手前の草木にピントが合って、ピンぼけだし。暗いからブレてるし。なんだったのか、よくわからん。にらみ合いのときだったらもっとちゃんと撮れたかもしれないけど、そのときはそんなこと考えつく余裕なかった。

これが、その写真。
< https://picasaweb.google.com/107971446412217280378/EncounterWithAnAnimal
>
クオリティの低い写真ではあるが、ここからでもひとつ分かることがある。
うん、ニホンカモシカだ。

......と、オチがついたところで、話はガラッと変わりますが。

●地デジ波に乗って飛んでけセーラー服写真(被写体は私)

テレビ朝日の深夜番組「さきっちょ☆」のディレクタ氏からメールを頂戴したのは8月13日(土)のこと。番組で「ラーメンショップ高梨」を紹介することになり、特に、「30歳以上の人がセーラー服で来店するとラーメンが無料になる」というところをメインに取り上げたいそうで。

条件を満たして来店した一番手とのことで、ついては店に貼ってある写真を使わせてくれませんか、という相談。はいはいどうぞどうぞ♪ 写真と言わず、本人が出演するでもいいですよ〜、と言ってみたけど、そこまでは必要ないそうで。

放送時間が決まると、その情報も送ってくれた。そして、予告通り、8月30日(火)25:51〜26:21に放送された。写真とは言え、アップで映されると、ヒゲの三つ編みとかリボンとか、はっきり分かりますな。ゲストの人がすげー驚いてるし。コメンテーターさんよ「60代と思しき男性」って、実際は48歳なんですけど。まあ、ツイッターでもよく60代とか70代とか落ち武者とか仙人とかダンブルドア校長とかつぶやかれてるんで、そうみえること自体は無理な脚色ってわけでもないか。

ツイッター内検索をかけてみると「前、デザフェスで一緒に写真撮った」というのが1件、「妖怪横町で参加してた人だ」というのが1件。わ! 有名人でも何でもない私を、デザフェスとテレビと両方で見ちゃったっていう偶然もなかなかだけど、2度目に見たとき1度目と即座にマッチングできちゃうほどのテンプレート焼きつきっぷりも相当か。番組自体、すげー好評じゃん。「見苦しかった」のような感想はひとつもなく。もし次に出してもらえるなら、ゴールデンタイムでひとつよろしく♪

8月28日(日)には寺嶋真里さんと行ってきた。寺嶋さんは映像作家で、最新作『アリスが落ちた穴の中 Dark Marchen Show!! 』の豪華版DVDボックスは売れ行き好調のよう。小さな手品師ことマメ山田さんと、人形作家清水真理さん制作の人形が二人一役で主役のアリスを演じる。DVDボックスの装丁はミルキィ・イソベ氏が手がけており、自由に遊べるようにいろんな大きさや形のカード類がいっぱい詰まっていて、ロマンチックな仕上がりになっている。

新宿駅南口で待合せたとき、すでにセーラー服を着ていた。待合せ場所が広すぎたせいか、お互いに離れて立ったまま相手に気づかず10分ぐらい待ってしまったという間抜けな事態。あの人混みでみずからを晒していた。孔子は四十にして迷わずの境地に達したようだが、この五十近いおじさんとおばさんは迷いに迷ってセーラー服のペアルックだ。新宿から山手線、品川で京急に乗り換え、鶴見市場へ。

店は京急鶴見市場駅から徒歩5分ほどの国道沿いにある。掘っ立て小屋のような店構え、店名すら掲げてなく、そもそも店名はない。おっちゃんが高梨さんというので、通称「ラーメンショップ高梨」と呼ばれているだけだ。駅名になってる市場なんてどこにも見当たらないが、店のおっちゃんによると、その昔、申し訳程度の小さな市場があったそうだ。

カウンターに6席。水のコップは酒のワンカップの空き瓶。そこらへんで拾ってきたものだという。メニューは紙にマジックで手書き。歩道ではバケツで稲を育てていて、穂がついている。段ボール箱の中に木彫りの大黒様がいらっしゃる。以前は寸胴鍋の中にいらっしゃった。どっかでタダ同然で買ってきたもので、「いないよりはマシでしょ」っていうけど、このぞんざいな扱いはかえってバチ当たりなんでは?

ラーメン一杯450円。安い! 他に「卵入500」と「コーン650」などがあるが、普通のラーメンでもそうとうボリュームあって、誰も他のを頼むのを見たことがない。迷っているとおっちゃんから「ラーメンでいいね」と機先を制されてしまうし。で、これが意外と言っては失礼だが、実に美味いのだ。満席のときも多い、人気店なのだ。

店のおっちゃんは69歳。店は丸々36年プラス数日になるという。年中無休。たまに不定期で休む。ラーメン屋の前はたこ焼き屋だったそうで。味はいろいろ変遷があって、今の形に落ち着いたという。寸胴鍋をすくって、ダシの元を見せてくれた。あ、それって普通は企業秘密でも極秘の部類なんでは? ふふーん、なるほど。

歩道に面したガラス戸には「30歳以上セーラ服で来店ラーメ(大)只」(原文ママ)と書いた紙が貼ってあり、横に一番手の人の写真がガムテープで貼り付けてある。この企画は4月ごろから掲げていたが、最初の2ヶ月近くは乗ってくる人が誰もいなかったそうである。

その頃を振り返ると、6月3日(金)にRocketNews24でこの店が紹介された。
< http://bit.ly/mT52q3
>
それを人形作家の美少女さんという男性が見つけてくれて、ツイッターで私に「行ってくれば?」と。こういう挑戦は、男らしく受けて立ちたい。店に電話すると、おっちゃん、めちゃめちゃ感じいい。セーラー服で行きたい旨を告げると「非常にいいことです」と歓迎の意を表してくれた。チャレンジした者はまだいないという。

6月11日(土)に行ってきた。一番乗り成功。雨だったが、11:00amごろ行ったら満席で、外で待つ。お客さんたちからも大いに面白がられ、写真撮影を求めてくる人もいた。その後も入れ替わり立ち替わり、満席状態が続いた。

私にとって、家からセーラー服を着て出かけるのは初めてだし、それで電車に乗るのも初めてだったので、そうとうドキドキした。けど、何も起きないことが分かり、その後はどんどん大胆に。今では、たいていのところには行ける。駅前の交番の前を歩いたときは、外に警官が2人立っていて、目でずーっと追っているが、職務質問してくるでなし、通り過ぎてから後ろでゲタゲタ笑ってるし。以前のアパートの精算に不動産屋へ行くと、「そういう人がいるのは聞いてたけど、あなたでしたか!」と大笑いされるし。う、ご近所でうわさになってる?

翌週、18日(土)にも、また行く。最初のときに撮った写真を店に置きに。店の30mぐらい手前で、通行人のおじさんに話しかけられる。「何その格好」。「すぐそこのラーメン屋で、タダになるってもんで」。「あー、書いてあった、そう言えば。あんたも変わってるけど、あの店のオヤジも変わってるよねー」。え? ふつうかと思ってましたが? 同じ波長をもった人たちを自然に集めちゃう店なのかも。

店に着くと、一番右の席で、セーラー服着た人がうつむき加減でラーメン食べてる。隣が空席なので、私はそこへ。30代前半くらいの男性だ。おかっぱっぽい髪形で、やや長髪。白の夏服、えんじ色のスカーフ、紺の短いスカート、紺のハイソックス、黒のローファ。完璧だ。顔がけっこうかわいいのがうらやましい。イケてる男の娘。

私の左隣りのご婦人は「え? ホントの女子高生なのかと思ってた」って。この方が二番手。千葉から車を運転してきたのだそう。この店のことはネットで知ったそうで、私の写真も見たという。女装歴は長く、コスプレイベントとかには行かないけど、街に出没したり、通学の女子高生の集団に紛れ込んで一緒に歩いたりして遊んでるそうだ。

食べ終わって席を立ったとき、左隣りのご婦人が、「スカート短くて見えそうじゃない」と。そしたら、本人がみずから、ピラッと大サービス。純白、レース入り。すごいかわいい。いや、まぶしすぎます。

同じ日に三番手も現れていたことを翌日知った。てしこさん。放送作家なのだそうで。ツイッターでコンタクトをとってきてくれた。私は写真しか店に残してこなかったのに、よくぞ見つけて下さいました。その写真をブログで使わせてくれませんか、と。どうぞどうぞ♪ 30歳以上でセーラー服着るのって、男性よりも女性のほうが敷居が高いと思う。男性だと変態でも悪ふざけでも分かりやすく、自分に対する言い訳が容易に成り立つ。女性だと意味不明。かえって不審度が高いというか。

てしこさんのブログ、その辺の葛藤が非常によく描写されてて、めっちゃ笑える。店の近くのコンビニのトイレで着替えてはみたものの、清純な女子高生というよりは、なんだかエロっぽい感じになって、出ていく勇気がないと友人に泣き言メールとか。
< http://ameblo.jp/jyoshi-kosuplay/entry-10927793041.html
>

テレ朝のディレクタ氏はこのブログをまず発見したようで、てしこさんを通じて私にコンタクトがあった。店に電話してみると、セーラー服来店者は10人になっているという。けど、女性はまだてしこさんだけ。ぜひまた来てくださいというので、それじゃあ、と。寺嶋さん、女性二番手になるのはいかがですか?どういうわけかセーラー服持ってるし。

という経緯で8月28日(日)である。寺嶋さんは、ここのラーメンの美味さに大感激していた。しょうゆ系のスープは濃すぎず薄すぎず、ダシは豚骨と魚介の絶妙なバランス、太麺がスープによく絡み合い、おいしい、おいしい、を連発していた。

このとき寺嶋さんの頭の中で、電球がぱっと点った。そうだ、アリスとラーメンのコラボだっ! いやはやなんともアサッテシアサッテなコンビネーション。30歳以上でセーラー服着て来店すると、ラーメンがタダで食べられちゃう上に、寺嶋さんの企画のことを告げれば、なんと! 豪華版DVDをプレゼント! ただし先着一名様に限ります。詳しくはこちら。
< http://rose-alice-milky.net/
>
今すぐセーラー服に着替えて鶴見へゴー! 電車を降りてライバルの姿が見えたら全力疾走すべし。

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
セーラー服仙人カメコ(←アイデンティティ拡散)。

YouTubeに上げられている "Bear Climbs Tree Stand" と題された動画、これは本物の恐怖。撮影者はやぐらのような高みから森を見下ろしているのだが、真っ黒い熊がのそのそやってきて、自分に向かってハシゴをゆっくりゆっくり登ってくるのである。自分のつま先まであと3段まで迫る。ドスの効いた低い声で "Hey! What are you doing there? What are you doing there?" と言うと、熊は思いなおして、一段一段降りていき、去っていく。このときの恐怖には一生つきまとわれるんじゃないかな?
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今年もコミケに時期を合わせて、友、イタリアより来たるあり。また楽しからずや。でも、今回はBiancaさん一人だけ。他の人たちは、放射能にビビったとか、円高で無理だとか。Biancaさんはイタリア東岸の漁業の町Porto San Giorgio 在住だが、4月に人形作家の清水真理さん、寺嶋真里さん、私でBresciaの展示に行ったとき、夜行列車で駆けつけてくれた。8月10日(水)、寺嶋さんと私とで中野にて迎える。共にセーラー服で。こうして日本の間違った文化がイタリアに伝わっていく。Biancaさんは、次回来るときは学ラン着てくるぞって。