気になるデザイン[65]無謀なチャレンジ「いいかげん折り」
── 津田淳子 ──

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恐ろしいことにもう9月も6日。どうしてこうもどんどん時間が経ってしまうのでしょうか。信じられません。まあ、私が信じられなくても、時間はいつも同じに流れているわけで、こんな風に感じるのも、私が校了間際で切羽詰まっているからでしょうね......。

さて、そんな締め切り間際、それも定期刊行物である『デザインのひきだし』と、もう一冊別の本の締め切りも同時なため、今年一番の繁忙期を迎えております。さすがに書店で悠長にジャケ買いなどしている時間もなく、従って、気になるブックデザインの本をご紹介することができません。すみません。

そこで、今日は、今締め切りまっただ中の『デザインのひきだし』で、初めて挑戦していることについて、チラッと書いてみたいと思います。

『デザインのひきだし』には、「祖父江慎の実験だもの。」という、ブックデザイナーの祖父江慎さんが試してみたい印刷加工を、いろいろな会社の方にトライしていただくという連載記事があります。今までは、「まるで本物のお札のような透かしを印刷で再現する」とか、「新しい金銀紙『コズピカ』をつくる」とか、他さまざまなことを実験しています。



あ、ちなみに「コズピカ」は、その後、市販されることになり、製造元の「ヨシモリ株式会社」から購入できます。詳しくはブログにも書いてありますので、ぜひご覧下さいな。
< http://dhikidashi.exblog.jp/15896488/
>

今回の「実験だもの。」では、祖父江さんが「紙を手でグシャグシャっとしたみたいに、めちゃくちゃに折ることって、機械でできないの?」ということを実験してもらっています。

紙を折る機械というのは、水平と垂直方向の折りができ、それをさまざまに組み合わせて、例えばなみなみに折る「蛇腹折り」とか、左右両方のが開ける「観音開き」を折ったりができる。「こんな複雑な折り方できるの?」というものでも、水平と垂直の組み合わせなら、その機械を扱う人の経験や知恵次第で、かなりのものが機械で折れ、短時間で量産できる。

でも、常に「できない!」と言われてしまうのが、「斜めに折る」ということ。私の印象に強いのは、グラフィックデザイナーの松田行正さんが、自身で主宰する出版社「牛若丸」から出された『funktion』という本。
< http://www.matzda.co.jp/top.html
>

カバーが斜めに折られ、それが本体に巻かれているのですが、上記Webサイトにも「この角度になると機械では不可能なので、打開策を探るべく試行錯誤を重ねたものの、最終的には手折り以外の道はなかったという逸話が。いまだに、この「機械による斜め折り」への挑戦は続いている。」と書かれている。

でも、先程の祖父江さんからの「グシャグシャ」という折りには、斜めが入らないことには成立しない。もちろん手で折ればなんでも折れますが、それでは量産しようとするときに、時間もお金もかかって、結局は実現できない......。

今回、そんな無謀なお願いに挑戦してくれた会社が、篠原紙工という、折りと綴じのスペシャリストの会社。機械を使って(その機械も、基本的にはそんなに特殊なものではない)、複雑で変わった折りや綴じる印刷物をいろいろと手掛けている。

そんな篠原さんでも、当初頭を抱えてしまった、「グシャグシャな折り」「斜めの折り」。私も今回ばかりは無理だろうなぁ......、別の実験も考えなくちゃなぁ......と思っていたんですが、むむむ、「できない」という固定概念を取っ払って、柔軟にトライしてもらうと「できる」ことがあるんですね。いやぁ、本当に驚きました。記事が世に出る前にここでだけちょっとお話してしまいますが、斜めに折れてしまいました、機械で。もちろん量産はガンガン可能です。

このすごさは、折りのことを知っている人でないと「?」ということだと思うのですが、本当に画期的なことなんです。「できない、できない」と言ってるだけではなく、「こうしたらできないかな?」とチャレンジすることで道が開けるんだってことを、本当に学ばせてもらいました。

そして、そのグチャグチャな、いいかげんな感じに折る、名付けて「いいかげん折り」を使って、これまた面白いものを祖父江さんがデザインしてくださって、それを昨日入稿したところです。

現物の「いいかげん折り」の冊子が、次号の『デザインのひきだし』につきますので、気になった方は、10月初旬に書店に並ぶ(予定の)本誌を、立ち読みでもいいので、覗いてみてくださいね。

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp  twitter: @tsudajunko

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デザインのひきだし・制作日記 < http://dhikidashi.exblog.jp/
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