装飾山イバラ道[84]「木を植えた男。フレデリック・バック展」を見た/武田瑛夢

投稿:  著者:  読了時間:5分(本文:約2,300文字)


「木を植えた男。フレデリック・バック展」を終了間際の9月の最終週に見た。展覧会は夏休み中にやっていたというのに、結局会期を終えた後のレビューになってしまったのが申し訳ない。

「木を植えた男」に代表される、フレデリック・バックの密度ある独特な手描きアニメーションの世界が、どのようにできあがったかを見せるのがこの展覧会だ。

・木を植えた男。フレデリック・バック展
< http://www.ntv.co.jp/fredericback/index.html >



●膨大な量の風景作品

展覧会は前半に若い頃のスケッチやグァッシュ(不透明水彩)で描かれた、祖国フランスの風景画をかなりの枚数で紹介している。だんなさんの感想だと、この初期の頃ののどかな風景画が一番良かったと言っていた。

これらの風景画を見ていても、バック氏の目が何を追っていたのかがわかりやすい。そこには動物たちの動きや、工場の機械の作り、作業する人間の動きなどが周囲より一段と明確に描かれていた。風景画を風景画として完成させようとする人は、通常はそういった部分は全体の一部として描くことが多いと思う。バック氏の場合は、見たものに対する好奇心を抑えずに素直に描いている魅力がある。

バック氏の見てきた風景、興味を持った人間たちの動き、生活の彩りなどのすべての場面の蓄積が、その後のアニメーション作品に埋め込まれているようなものなのだと思う。自分の脳裏に様々な自然の現象を録画するための時間だったのかもしれない。途中に起こった戦争の悲惨な状況も克明にスケッチしていて、その時代に見たものを描ける自分の能力を懸命に活かそうとする姿勢に感動した。

そして女性とのエピソードも心温まる。文通で想いを深めたバック氏が、船で彼女のいるカナダまで長旅をする。ほとんど漁船みたいな祖末な船で、ひどい旅だったらしい。バック氏は会って数日で彼女にプロポーズし、わずかなお金とスケッチの束を持った彼との結婚を彼女は受け入れた。その後もバック氏は、世界中を旅しながら絵を描き続ける。

●アニメーション作品の原画たち

バック氏はカナダで初期のテレビのタイトル周りを制作する中で、実力を見込まれて子供向けのアニメーション制作へと移行していった。生放送のアニメーションや、仕掛け細工を動かす作品。言わば複雑な紙芝居をテレビで撮影したようなものだ。

ここでは、バック氏の魔法のようなアイデアで次々と「絵が動く」のを見せつけられたスタッフたちが、協力せずにはいられなかった当時の様子がよくわかった。

「木を植えた男」などのアニメーションの作風が円熟してからの作品群では、構想スケッチ、透明なアセテートフィルムに描かれた膨大な量の絵が展示されていた。大きさはハガキ大程度のものも多く、前後の重なりをめくりながら確認する作業のために、これが手の中では最適なサイズだったのだと思う。

こういったアニメの原画が見られるのはとても興味深かった。しかし、やはり私の心を一番惹き付けたのは「アニメーション」として動く作品だ。原画の一枚一枚が、バック氏の思う速さやタイミングで音楽と共に動き出した時に、はじめてその魅力が溢れ出すのだと思う。

アニメーション作品は、原画の横に大小のモニタで強弱をつけて展示されている。動画を飽きさせずに見せる工夫も随所にされていて、複数のスクリーンを配置して同じ作品で異なる場面が見られるようにしていたり、セットにモニタ画面を組み込んだものもあった。

ただ広大な美術館なので、ゆっくり座ってアニメーションを見せる場所があっても良かったのではないだろうか。歩き疲れた後半の展示なのに、ずっと立って見るしかないのだ。きっとアニメーションは映画館で作品をフルで見るのが一番ということだろう。神保町での上映のお知らせチラシも置いてあった。

・木を植えた男。フレデリック・バックの映画
< http://www.ntv.co.jp/fredericback/dvd.html >

・木を植えた男/フレデリック・バック作品集 | ディズニー映画(サンプル動画あり)
< http://www.disney-studio.jp/product/index.jsp?cid=1120 >

●せっかちで根気がある男

バック氏の作品を見ていると、自分が見た景色や現象に残すべき価値がないものなどないという想いが伝わって来る。だからなおさら、それらが失われることに危機意識が高く、環境保護メッセージを伝える作品も多い。良く見てきたからこそ、どれだけ多くのものがなくなったのかがわかるのだろう。我々が今気になっている環境破壊を、ずーっと前から警告していた大先輩なのだ。

移り変わるものを描くには膨大な手数が必要だけれど、バック氏はきっと、ものすごくせっかちでものすごく根気があるのだと思った。普通のせっかちさんは根気がもたない。イメージをすぐにでも形にせずにはいられないのに、完成するまで時間がかかってもがんばれるなんて素晴らしい。「せっかちで根気がある」。これ以上に良いクリエイターの資質は他にはないのかもしれない。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
< http://www.eimu.com/ >

前回紹介した「Zombie Highway(ゾンビハイウェイ)」のゲーム、現在の記録はだんなさんに負けている。コラムに書いたから悔しかったみたいで火をつけたかな。どのゲームでも慣れてくると同時に体力と気力が落ちて来るので、そのバランスの絶頂で記録を出しとかないとその日の勝ち目はないから大変だ。