[3136] Stay hungry, Stay foolish.

投稿:  著者:  読了時間:28分(本文:約13,800文字)


《時間はあまりないんだよ》

■わが逃走[93]
 海外で車を運転するの巻
 齋藤 浩

■電網悠語:HTML5時代直前Web再考編(177)
 Stay hungry, Stay foolish.
 三井英樹

■私症説[31]
 自作自演チャット
 永吉克之


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■わが逃走[93]
海外で車を運転するの巻

齋藤 浩
< http://bn.dgcr.com/archives/20111020140300.html >
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美容師のYさん、大学教授のNさんをはじめ、多くの方たちが声をそろえて「すぐ慣れるからぜんぜん心配することないよー」とか言ってたので、オレ的にもいい気になっていたのだ。

しかし、ただでさえ慣れない土地を借り物の車で走るときは神経使うのに、言葉の通じない異国の地での運転、しかも左ハンドルで右側通行。冗談ではなく、通常の3倍はエネルギーを消費しました。という訳で、今回は人生初の海外における車の運転について語ろうと思います。

結果的には初の海外ドライブの舞台が、のんびりしたハワイ島であったことは、まあ良かったんじゃないかと思う。

そもそも当初は車を借りることなんて考えてなかったんだけど、馴染みの超ハイクオリティ居酒屋でハワイ島へ行くってことを語ったところ、隣に座ったYさんをはじめ、多くの方が「ぜんぜんフツーに乗れちゃうから、せっかくなんだから車借りた方がいいよー」なんて言う訳ですよ。

オレも酔ってたので気が大きくなって、「左ハンドルで右側通行ってのは、考えてみりゃ鏡像な訳だし、すぐに慣れちゃうかもねー。日本で左ハンドル乗るより気楽かも」なんて発言をしてしまい、気が大きいモードのまま出発の日を迎えたのです。

●予約

旅慣れた人は到着したらすぐ空港で借りて、帰るときに空港で返すらしい。オレの場合は一日乗れれば充分だったので、現地のレンタカー屋さんを調べてみたところ、都合のいいことにホテルに窓口があった。

ネットで予約ができるようなので、予約フォームに朝9時から夜の7時までと指定したところ、何度やってもエラーになる。困った。で、日本語のサービスもあるらしいので電話してみたら、午前中でレンタカーのスタッフが帰ってしまうので、返却は翌朝にしてくれとのことだった。

一日単位が基本なので、10時間も24時間も同じ料金だったのだ。さすが車社会の国、日本みたいにちまちましてない。コンパクトカーを一日借りて約3600円+ガソリン代。ガスはデポジットってことで、最初に満タン分の料金を支払うことになっていた。なので、満タン返却せずともよし。

●国際免許

レンタカーを借りるのに必要なものはクレジットカードと日本の免許証、そして国際免許証。ハワイの法律では日本の免許証だけでも運転可能だが、万が一事故等に遭った場合のことを考えたら、取得しておいた方がよさそうだ。

というのも、いわゆる国際運転免許証ってやつは日本の免許証の正式な翻訳文書という位置づけらしい。なので、現地でPOLICEのお世話になった場合のことを考えるとあった方が無難。取得はいたって簡単だった。

運転免許センターか、国際免許の扱いのある地元の警察に顔写真とパスポートと(一年以上有効期間のある)運転免許証を持って行くだけ。オレの場合はタイミングの悪いことに、ケーサツの昼休みにかかってしまったため2時間ほどかかったが、通常の場合は15分〜30分程度で発行される。手数料は2,650円也。

●交通ルール

ここでハワイの交通ルールについてちょこっと語ります。まず、当然だが車は左ハンドルで右側通行。日本と逆である。日本では未だ左ハンドル車は金持ちのステータスということになってるが、ハワイにおいて右ハンドル車がエライとかいう文化はないようだ。当たり前ですよね。日本が不思議なのです。

また、赤信号でも基本的に右折可である。例外もあるが、そういうところには「NO RIGHT TURN ON RED」など、わかりやすい表示がある。日本のように補助標識が10個もついていて、読んでるうちに交差点へ侵入しちゃった! なんてことはまずない。

どうでもいいけど、日本においてかなり驚いた補助標識に「巳の日」というのがあった。巳の日のみ進入禁止ってことだったと記憶しているのだが、そもそも世の中的に「巳の日って何?」という人がほとんどだと思うのですね。

また、「競輪開催日を除く」なんてのもあった。すべての国民が競輪開催日を記憶していることを前提とした、ものすごい送り手目線のシステムである!少なくとも私が運転したハワイ島には、こうした無理難題的標識はなかったように思える。

さらに感動したのは、交差点そのものの構造だ。左側が直角なのに対して、右側はなだらかなアールになっており、ストレスなくスムーズに右折できる。ちょっとした工夫だが、素晴らしいデザインだと思った。

次にLEFT TURNについて。左折でまず驚いたのが、赤く点灯する矢印式信号の存在だ。左の矢印が出てるのに青じゃないってどういうこと? と戸惑ったが、基本的に赤矢印は曲がっちゃダメよという意味だ。左折可能になるときは矢印は青く点灯する。まあ落ち着いて考えればそうなんだが、慣れないと一瞬戸惑うので注意。

他にも細かい相違はいろいろあるが、基本的に日本と同じルールだと思う。幸いなことに本番前日にヒトサマの運転する車で現地ツアー! だったので、予行演習もできて助かりました。

●で、実際...。

という訳で、その日が来たので乗ってみた。まず思ったのは運転席は左側にある! 当たり前だけどね。ちなみに車は韓国KIA製のナントカいうコンパクトカーだった。オレは無類の小心者なので緊張しすぎたせいか、いつもなら車の写真くらい撮ったはずなのに、思いつきもしなかった。          

室内はタバコ臭くもなく快適。けっこう広い。視界も広い。ウィンカーとワイパーのスイッチは日本とは逆についているので、注意だ。おそるおそるスタートする。小心者ゆえ、脳内で右だ、右車線だと強く念じる。

走り出してしまえばただの自動車である。わはは、なんちことねえや。なんて思っているとロータリーに出た。このロータリー、日本の道路ではあまり見かけないけど、海外にはけっこうあるんだよね。曲がるタイミングを逸してしまっても、ぐるぐる回ってればやり直しがきくという優れたシステムであるが、オレは小心者ゆえ、慣れないものはそれなりに緊張する。

で、案の定ひとつ手前で右折してしまった。助手席の年上の女性Aさん(年齢非公開)が激昂し、「なんでそこで曲がるの!? 昨日あんなに見ておいたのに、ちょっとあんた脳がおかしいんじゃない?」と大声でどなる。

最初にも書いたが、慣れない異国の地での運転は通常の3倍エネルギーを使うのだ。道を間違えたとしても折り返せばいいだけではないか。こういうときこそ助手席の人は運転手をリラックスさせてるよう努めるべきである。

で、再度ロータリーまで戻り、こんどはきちんと国道19号線に乗る。ひたすらまっすぐの快適な道だ。今回のドライブはコナ空港のちょっと北にあるマウナ・ラニ・リゾートから19号線をひたすらまっすぐ行き、ホノカア経由でヒロの町へ行く計画だ。途中、左折は2回しかない!

まっすぐな広い道を普通に走っている限り、まったく問題なしなのである。車の数もとても少ないし、無謀な運転する人もいない。島のひとはみんな心が穏やかとみえて、あおってきたりクラクションを鳴らしたり、なんてこともない。このへんは年上の女性Aさん(年齢非公開)にも是非とも見習っていただきたいものである。

地平線まで黒い溶岩が続く平原をしばらくゆくと、徐々に上り勾配になってきた。乾いた岩だらけの景色がしばらく続くと突然草原が広がってくる。大地にまるで線を引いたかのように、茶色と緑色の境界が見える。どうやらこのあたりが気候の境目のようだ。

ワイメアの町をすぎると広大な牧場が広がる。なにやら個人所有の牧場だそうで、面積は東京23区より広いらしい。ついさっきまでヤシの木と砂浜という環境にいたかと思えば、すぐに鬼押ハイウェイとなり、右折した途端サバンナ、そしてこんどは北海道に来てしまうような感覚。その間わずか数10分である。おそるべしハワイ島。

てな感じでのんびり走っていると、ホノカアの表示が見えてきた。すかさず左折の合図を出す! つもりがワイパー動かしてしまった。あわてて反対側のスイッチを入れる。

ホノカアはとてものーんびりした小さな町だ。戦前の建築もたくさん残っていて、とても絵になる。日本人の移民もたくさんいたらしく、街並がどことなく日本的でもある。それなりに写真も撮ったのだが、まだ現像してないので詳しい紹介はまたの機会に。

さて、カフェで食事をした後、一路ヒロの町へ向かう。安全確認をして、ウィンカーを出し、発車。すぐに右折して、と思ったら、うっかり左側車線に入ってしまった。幸い他に車は走ってなかったのでとくに問題はなかったのだが、まあ自分でも驚いた訳ですよ。

たとえハンドルが左にあっても、いつもの癖は抜けないらしい。へー、意外だなあ。てなことを思っていると隣で年上の女性Aさん(年齢非公開)が「ヤメテー!! 死ぬかと思った死ぬかと思った死ぬかと思ったあんた頭おかしいんじゃない?」なんてことを言う。何度も言うようだが慣れない異国の地での運転は通常の3倍エネルギーを使うのだ。そうならないためにも、助手席の人は注意を促すよう、事前にやさしく声をかけるべきである。

その後、1時間くらい走ったかな。メーターもマイル表示なので、イマイチ走行距離が把握できないが、平均時速70キロくらいだったろうか。ジャングルにかこまれたゆるやかな峠道を快適に走行し、海が近くに寄ってきたら、すぐヒロの町だ。町には無料の駐車スペースがたくさんあるので、すみっこの、比較的すいてるあたりに駐車した。

どっと疲れが出た。たかが運転なのだが、やはり3倍エネルギーを使う。やった! 半分きた! あとは同じ道を帰るだけ! と、小心者の私はちょっと安心した。

ヒロの町は沖縄の風景によく似ている。太平洋に囲まれると、こんな街並になるのなのだろうか。しかし、3倍のエネルギーで運転していたため写真を撮る気力が3分の1になってしまい、撮るには撮ったが説明的でツマラナイものになってしまったようだ。こっちの写真もそのうち紹介します。

地元のスーパーで、ディープなお土産も買ったし、渋いアロハシャツも買っちゃった。なんだかんだで3時間くらい居たかなー。慣れない土地で夜のドライブってのもコワイので、日が落ちる前にホテルに戻るには、そろそろ出ないといかん!

てことで、4時過ぎにヒロを出発、ホテルのあるマウナ・ラニ・リゾートを目指す。来た道を帰るだけなので、安心といえば安心である。しかし、単調な道が続くと、どうにも眠気が襲ってきた。慣れない異国での運転なのに、実に意外である。右手のツメで左手の腕をぐいぐいと刺しながら運転する。右を見れば、年上の女性Aさん(年齢非公開)が口を開けて眠っている。

フリスクを何粒も噛みつつ鼻から息を吸う。どうにかホノカアまで持ちこたえたがここらで休憩を、ということでドライブインに入った。トイレで出すモン出したら気分もスッキリ。名物のマラサダ(揚げパンみたいなもの)を食べつつホノカアの町を見下ろす。西日が木々に反射して美しい。こういう何もない町で何もしない一日ってのもいいだろうなあ、なんてことを思う。が、日没までに帰りたいのであまりのんびりしてはいられない。そそくさとドライブインを後にした。

ワイメアも無事に通過して、あとはなだらかな坂道を下るだけと思いつつゆるい右カーブにさしかかった。そのまま道はゆるーくカーブしていたのだが、さらに右側にも道が分かれており、ついうっかりそっちの方に曲がってしまった。

「あ、間違えた!」と言った途端年上の女性Aさん(年齢非公開)が「何やってんの! 人がみていないとすぐこれだ、この人間のクズ!」的なことを言う。別にどっかでまた折り返せばいいことと思うのだが(ほんとに、ほんとに心の底からそう思う)、彼女はその度に寿命が縮むと主張する。「こういうことを繰り返して徐々に私を死に追いやり、あげくの果てにはて保険金を奪おうというのね!」

もう疲れたのでひたすら謝ることにし、ゆっくりともと来た道を戻る。ちょうど夕陽が海に沈む頃、ホテルに着いた。まあ、緊張したけど無事に帰って来れてなによりである。

帰国してから落ち着いて思い返せば(喉元過ぎれば)、いい思い出である。こんど誰かに「海外で運転どうだった?」と聞かれたら、「すぐ慣れるからぜんぜん心配することないよー」と答えようと思う。
それではみなさん、ごきげんよう。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/ >

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。

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■電網悠語:HTML5時代直前Web再考編(177)
Stay hungry, Stay foolish.

三井英樹
< http://bn.dgcr.com/archives/20111020140200.html >
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あの日も、あの声を聞いていた。Steve Jobs' 2005 Commencement Address 英語の勉強を兼ねて、最近はほぼこれだけをリピートして聞いている。そして、会社に着いてから訃報にふれた。私にとっての久々のデジクリ再開の初日の10月6日朝(USでは10月5日)。

   Stay hungry, Stay foolish.
   < http://itunes.apple.com/gb/itunes-u/commencement/id384463719 >
   (この一覧表の中の「Steve Jobs' 2005 Commencement Address」)
   ※以下に4つの訳:
   1)ハングリーであり続けろ、バカであり続けろ(一般的な訳)
   2)ハングリーであれ、利口者にはなるな(大谷和利訳 MacPeople)
   3)満ち足りるな、笑われても信じる道を進み続けろ(私訳1)
   4)満たされず求め続けよ、固定観念など捨ててしまえ(私訳2)

何度も何度も聞き、息づかいまで気にしながら、そして何度も訳してみた。そして考えた。何故、これほど惹き付けられるのだろう。何に輝きを感じるのだろう。私が輝きを感じるのは基本的に熱血にだ。ならば彼は何に熱く、何と闘い続けたのだろう。



このスピーチは、3つのストーリーからなっている:「点と線」、「愛と失意」、そして「死」。それぞれがどれほど感動的かは、客席にいた幸運な、ある意味世界一幸運な卒業生達の反応の変化からも読み取れる。騒がしさが徐々に消え、拍手が起こる。圧倒され息を飲んでる感さえある。

今やっていることが、点にしか見えなくても心配するな、振り返るとそれらはまっすぐな線に見える。若いときに一生取り組める世界に出会えたことこそが至福だ、だから君たちも何としても探し出せ。人生に於ける満足は仕事に於ける満足に関わる、だから満足の行く仕事を成せ。人生は思いもしないような壁や崖に出会う、でも心配するな、最悪のことですら最良の入り口につながっている。全てを失うということから死を恐れる事はない、死は誰にでもやってくる。けれど時間は余りない、だから意識しろ、求め続けろ、探し続けろ。そして冒頭の言葉につながる:Stay hungry, Stay foolish.

Stanford大学のmp3(上記)は、幾つか音声処理が施されている。最初に出回った音源(Youtube)には、時折発せられる、学生達の奇声が含まれているが、それらがない。Jobsにして世界最高の大学と言わしめた、その大学の卒業生のお行儀は極めて悪い。しかし、対するJobsも悪戯っ子のように笑いを混ぜつつ、それを楽しんでいるように聞こえる。

Jobsは、明らかに、目の前にいるお行儀の悪い子供達にエールを送っている。そして、それはStanford大学だから、ではない、おそらく。若者全員に対して同じ感覚で接しているように感じる。そして、とても真摯だ。真剣に語りかける、時間は余りないんだよ、と。

自らの波乱の人生から幾つかのストーリーを紡ぎだす。それらが重みを与える。真似できない風格の中、叩き出して来た実績が圧倒的な存在で目の前にそびえ立つ。Macintoshが、ピクサーが、iPodが、iPhoneが、Jobsそのものが。

でも、褒められたものじゃないよね、と聞こえる。自慢話じゃない。俺偉いだろうとか言っていない。俺でもできたんだから、君らもできるさ、と言っている。期待しているぞ、とさえ聞こえる。今にして思えば、任せたぞ、とも。

そして秘訣を明かす。自分を信じろ。自分の内なる自分は本当に成したいことを既に知っている。だからそれに従えば良いのだ、人のいいなりになることなんかない。そして自己中心的な話だけでなく、自分も疑えと勧める。満足し惰性に流されることも、一ヶ所に安住することも否定し、高みを目指し続けろと背中を押す。



Jobsは自分を窮屈に縛るものも、安住の地に縛る自分自身をも、とことん嫌うようだ。その意味で、彼の敵とは、人を束縛するモノ、定位置に留めようとするモノだと言ってもいいだろう。そしてそれらは、時に文化であり、シキタリや常識であり、他人や組織だったり自分自身だったりする。そしてその戦い方が凄まじい、妥協がない。心底「とことん」なのだろう。

そのとことんやった男が、お行儀の悪い子供達を相手に、話している。その真摯が心を打つ。棒読みではない、演技でもない。今伝えたておきたい、という気持ちが伝わってくる。まるで「あまり時間がない」と言わんばかりだ。彼がこの場所で語るべきことを明確に意識し、その役を全うしている。

そして、やはり考えてしまう。彼がとことん闘った相手、そうした敵が居なければ、Jobsは何処まで進み得たのだろうか、と。困難さが彼の強さを生んだのかもしれないし、実績を呼び込んだのかもしれない。けれど、逆風の吹かぬ地に、氏が立ったなら、どこまで行ったんだろうかと思いを馳せる。



今はネコもシャクシも彼から影響を受けたといい、感謝を書き、俺も頑張ると叫んでいる。私のような者まで、氏について何か書きたくなる。そして、彼は唯一だと言い、彼のような英雄は二度と現れないだろうと言う。

もちろん、Jobsは唯一だ。他の誰もJobsにはなれない。でも、彼が闘って来た強大な敵が少しでも弱まったなら、Jobsのようなことをできる人たちが少しでも増える気がする。同じJobsが再生することも生まれることもない、でも環境整備はできる。

人を窮屈に縛るもの、安住の地に自分さえいられれば良いとするもの、とことんではなく、適当にお茶を濁させる何か。他人を縛って功を我が物とするする諸々、働く場に喜びと誇りとを持ち込まないようにブロックする悪しき諸々。シキタリだったり常識だったり、上が漫然とアグラをかいている組織だったり、そんなJobsが戦いを挑んだ対象が少しで減れば。



Jobsの死を悼む人が大勢いて、でも少し前にアルカイダの指導者の暗殺を喜ぶ人も大勢いた。同じ命なのに。多くの献花やかじった林檎を見ながら、世界を変える方法は色々あると思い知らされる。そして愛おしく思われながらそれを達成することも可能なのだ。

小さなデバイスで、心が震えた。ちょっとしたインタラクションが、どこででも聴ける音楽が、あたかも指先で情報を操作できるという感覚が、あの小ささが、あの薄さが、日々を変えた。その達成に非常な力が必要だからこそ、感動が深まる。そしてそのチャレンジが定常的に見れないことで、今大きな大きな喪失感を大勢の人に与えている。もうあのワクワクに会えない。



Jobsは、「点」と「線」から自分の人生を示した。その一筋の光がどれほどこの時代を照らしたか。本人が自覚するよりも大きかったのではないか。でも次のJobsは「線」を重ねて「面」で時代を支えるように照らす気がする。

Jobsのやったことは彼の力だけではないことは明らかだ。彼の率いたチームが偉大だったのである。彼が全てのワクワクを生み出したのではない、彼らが生み出して来た。Jobsという「線」が目立つが、その後ろに重なり合う、彼の思想に同調し、苦労を分かち合った仲間の「線」が幾重にも重なっている。

Bill Gatesと並び時代を代表して来たJobs。技術者であり、企業のトップの名前を、普通の人までが知っている。そんな時代から組織の時代にシフトしている。Googleだ。でもGoogleを創設者の名前で語る事は少ない。でもIBMが社会を変えて来たときの社名の呼ばれ方とも異なる。IBMは世界を制したが、「ググる」にあたる言葉は与えられていない。でも明らかにどちらも時代を率いている。そして彼らが闘っている相手も、特にGoogleの本来敵としているものは、Jobsの敵とそう離れていない気がする。

常識に囚われない、お行儀の悪い若者たちが、良い意味で群れをなして時代を変えている。だから「foolish」であり続けろ、他人に蔑まれることも笑われることも気にするなと断じるJobsが輝く。その若者たちに真摯に語りかける姿が眩しく映る。若者を縛らず、開放するベクトル、そんな教育者の姿が脳内に広がる。

そして、それを感じたからこそ、卒業生達が息をのむような沈黙をしてしまったのだろう。沈黙と拍手を受けて、スピーチの後、Jobsは「伝えたからね、後は頑張れよ」と言いたげな満足な表情を見せる。バトンはあの時渡されていたんだ、既に。



WWDC2011の写真。奥さんに顔を埋めるように、終わったよ、走り抜けたよ、と囁いているような。あるいは、疲れたと言っているような。奥さんが涙目で応えているように見える、お疲れさま、お帰りなさい。小さな声で、そこまで頑張らなくても良かったのよ、と囁いているようにも見える。

   ▼Steve Jobs CEOと妻Laurene Powellさんとの2ショット
   ──MACお宝鑑定団 blog(羅針盤)
   < http://www.macotakara.jp/blog/index.php?ID=12910 >

ようやく家族の元に帰ってこれたんだな、と思った。そう、家族や家族の一員としての自分にも視線をもってきてくれたのも、彼に感謝しなければならない点だ。言葉では言い尽くせない、でも、心からありがとう。

ps.
是非これも、泣きそうになりました。
   ▼「スティーブ・ジョブズさんのスピリットは生き続ける」
   福田尚久さん│制作後記│クローズアップ現代 スタッフルーム:NHK
   < http://www.nhk.or.jp/gendai-blog/200/98241.html >

【みつい・ひでき】@mit│mit_dgcr(a)yahoo.co.jp
 < http://www.mitmix.net/2011/10/177.html >
・iPod touchの壁紙を氏の遺影に変えた、起動するたびにちょっと涙目に。
・10月25日(火)に福岡でセミナーやります(司会ですが)
 RIAコンソーシアム:[Bセミ- in 博多] 〜RIAベンダー最新技術動向〜
 < http://www.riac.jp/2011/09/b-in-ria.html >

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■私症説[31]
自作自演チャット

永吉克之
< http://bn.dgcr.com/archives/20111020140100.html >
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永:くそ暑い夏が終わっても涼しかったのは一瞬ですぐに寒なってしもた おかげで風邪ひいたがな 2週間ほどずっと微熱が退かん
永:ぼくも風邪引いて2週間ほど微熱が退かん
永:せっかく熱燗の季節になったゆうのに内臓が弱ってるせいか酒がまずい
永:ぼくも内臓があかんねん 酒の匂いかいだだけでウッとなるわ

永:医者にかかった方がええんやろうけど検査してガンとかいらん病気でも見つかったら面倒やしなあ
永:ぼくもそれがイヤで医者に行かへんねん
永:なんや君ぼくとよう似とんなあ
永:そら同一人物やからな
永:......
永:......
永&永:あかんがな!

永:やらせチャットやいうのがバレてまう
永:今回のタイトルですでにバレてるし
永:別人格で話さんと話題が発展せえへんやんか
永:ちゃんと人物造形して仕切り直そか
永:そやけどなんでこんな自家受精みたいなチャットせんならんねん
永:そろそろ他人のスタイルをパクらなやっていけん年になったんや

                 ●

永:して此度の用向きはなんじゃ
永:え? あっしにネタをふるんですかい 旦那もお人が悪いねぇ
永:士農工商芸人じゃ

永:さいですか よござんしょ じゃあの話題っすね このチャットが載ったデジクリが発行される頃はどういう展開になってるか お天道様もご存知ねえでしょうがね なんせ光より速ぇ物質が見つかったってんで科学者が目ん玉でんぐり返して驚いたってんですよ
永:ひかりより速いのはのぞみであろう
永:この(武家を侮辱する発言を不適切と判断し削除)!

永:はは 戯(ざ)れ言戯れ言 されど泉下のアインシュタイン翁にしてみれば戯れ言では済まされぬ一大事よのう
永:そんなヤボなこたぁどーだっていいんですよ ニュートリノだかニワトリだか知らねえが それを ジェノバだかジジババだか知らねえが そこからグランサッソだか浅間山荘だか知らねえが 732kmも離れたところにぶん投げたら これが光より速く着いてちまったってんでさぁ
永:732kmと申すと何里じゃ? 1里がおよそ4キロとして......

永:そんなケチなこたぁどーだっていいんですよ それよりどうにも合点がいかねえんすがね このニュートリノってぇ粒子をぶん投げるったって 地球すら貫通しちまうような物質をどこに溜めとくんですかね
永:ニュートリノなるものはそもそも何処より湧いてくるのじゃ
永:そんな余計なこたぁどーだっていいんですよ もし特殊相対性理論が破綻したら アインシュタインは舌を出しただけの一介の物理学者になっちまう それでもいいんですかい旦那!

永:うむ しかし野次馬としては 一度破綻してニュートンから全部やり直しというのもいとをかし
永:そんな下らねえこたぁどーだっていいんですよ あっしゃ光速がどうだとかアインシュタインがどうだとか何の興味もないんすから
永:......
永:旦那 どうなすったんで 

永:斬る 貴様を斬る 先刻より聞いておれば 好き放題ぬかしおって あまつさえ某(それがし)の言い分をないがしろにしたる段赦し難し そこへ直れ せめてもの情けじゃ 寸毫も痛みを感じぬよう首を刎(は)ねてくれる
永:おもしれえ やれるもんならやってもらおうじゃねえか へっ てめえのナマクラ刀に斬られるようなおいらじゃ
永:成仏せい! ズバ

                 ●

永:話はかわるけど......
永:話題をかえるときに要らなくなったキャラは殺すにかぎるよね
永:最近は貧乏であることが自慢にならなくなっちゃったな ひと頃は貧乏ネタで時代の寵児と目されたぼくだけど
永:貧乏人が増えたからね
永:貧乏人どうしでどっちが貧しいかを競うのもなんか空しいし 病弱を自慢しても同情されるだけだから これからは低学歴をアピールしようと思うんだ

永:うんいいかも 中卒作家の西村賢太が芥川賞を穫ってから低学歴ががぜん脚光を浴びるようになったからね
永:でもそれだけじゃ不満だな 高学歴の人間が自分の学歴を恥じるあまり学歴詐称をしなくちゃ生きて行けなくなるまで 低学歴者の勢力を断固アピールしなきゃ
永:文革時代の中国みたいだね インテリはみな自己批判させられるのか
永:そうだ 高学歴者たちはみな三角帽子を被せられて人民の前に引き出され低学歴者たちから嵐のような糾弾を浴びるのだ くけけ......

永:君が高学歴者に対してルサンチマンを抱いているのは明白だな
永:ぼくがいちばん気に入らないのは 高学歴者が出身校の名前を訊かれるまでは言わないことだ 訊いても「いちおう慶応です」とか「いちおう京大です」とか「いちおう」を枕詞にする なんだこの「いちおう」というのは その心底が見え見えじゃないか 私はあなたなんか比較にならないほど高学歴だけど劣等感を持つ必要はありませんよ 顔といっしょで頭の出来も生まれつきなんだからしょうがないじゃないですか 高学歴と低学歴 しょせん対等にはつき合えない間柄だけど表面上は仲良くしましょうよ ということを言外に匂わせているのだ

永:よほど強烈なルサンチマンを持っていないとそこまでいじけた発想は生まれないだろうな
永:「おれは東大卒だ どけどけ道を空けろ」と言う奴の方がよほど潔くて好きだ ぼくは高学歴者のご尊顔を拝する栄誉に涙しながら道の脇で土下座をするだろう
永:成仏しろ! ズバ

                 ●

永:会話が行き詰まると相手を殺して終わらせるという画期的な手法のおかげでさぁ ずぅぃぶん原稿を書く......じぁあなくてぇチャットをするぬぉが楽にぬぁっちゃったぅゎぁん
永:なんかやけにヌメヌメした女性キャラですね もうチャットなんかどうでもいいとか思ってません?
永:んまたぁ 本当のこと言うとあぬぁたも成仏さすぇるぅわよぅぉん

永:で話題は何にしましょうか?
永:んそうぬぇぇ いま日本が抱えてる問題はもぉぅみぃんぬゎ語り尽くしちゅゎったしねぇん ん何か話題あぁるかすぃら?
永:ないっすね
永:ん成仏してぬぇん! ズバ

【ながよしのかつゆき】thereisaship@yahoo.co.jp
平清盛(たいらのきよもり)のように姓と名の間に「の」を入れると高貴な響きが生じるので、これからは「ながよしのかつゆき」と読んでいただきたい。ここでのテキストは、ブログにも、ほぼ同時掲載しています。
無名芸人< http://blog.goo.ne.jp/nagayoshi_katz >

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■編集後記(10/20)

・今日からお台場の日本科学未来館で、アジアCGの祭典「ASIAGRAPH2011 in Tokyo」が開催される。わたしもこのイベントには初めから関与していて、毎年会場を覗くのが楽しみだ。公募のCG静止画と、アニメーション作品の国際審査には、わたしも加わっている。今年のCG静止画部門は意外に低調に感じた。各作家に確たる世界観がないということなのだろうか、直感的にグッと来る作品が見当たらず、全作品を何度も見直して選出した。一方、「萌え」をテーマにした新設の虎穴賞部門は楽しく審査できた。自由テーマで何の制約もない(それが逆にむずかしいのかも)静止画部門に比べ、この部門はASIAGRAPHならでは特色と魅力、可能性があると感じた。アニメーション部門はますます品質が向上し、選考自体が楽しかった(ずいぶん長時間を要したけれど)。かつてはまったく意味不明の作品もあったが、今回は殆どの作品をどうにか理解できた。ここでも大切なのはやはり「世界観」である。万国共通で誰が見ても分かるシンプルな構成は、なぜか面白味がなく浅い、と思うのはたぶんわたしの偏見だろう。さいきん不条理な世界に惹かれる傾向にあるわたしだ。22日(土)17時まで。天気はイマイチらしいが、ぜひ見に行ってください。(柴田)
< http://www.asiagraph.jp/ > アジアCGの祭典「ASIAGRAPH2011 in Tokyo」

・「巳の日」と「競輪開催日を除く」に吹いた。確かに誰もが日程把握しているはずはない。/三井さんのを読んでうるうる。そして永吉さんのを読んで、この流れがデジクリだなぁと。/クラシコ・イタリアーノとNice Guy!! 。宝塚宙組。昨日のロミジュリとはしご。こちらもはじまってすぐ。宙組に思い入れはなし。が、この話は最初から最後まで目が潤む。いやまぁたぶん睡眠不足のせいもあるとは思う。スーツ会社の話。アメリカ進出のため大量生産が必要となるが、職人たちはミシンを使うと質が落ちるからと受け入れない。投資家たちはミシンの使えない主人公の会社より、主人公を裏切りノウハウを真似ている元部下に投資すると言い出す。主人公は経営者とはいえ、戦争孤児として引き取られ修行した職人出身で、職人たちの言い分がわかる。だが、ナポリ仕立ての良さや認知度をあげ、貧しい職人たちのために安定した仕事を供給するべく、実の親のように慕っていた親方に破門にされながらも会社にしたのだ。手頃な値段で、たくさんの人に良いスーツを提供できればとも考えている。別の男はアメリカ人で、主人公の会社のPR映像を撮るためにイタリアへ。そこで主人公と出会い、自分の仕事の原点(撮りたかったこと)に立ち戻る。女優志望の女性は、文盲の上に失敗ばかりで自信がもてないが、主人公の励ましによって、少しずつ前に進み始める。ラストまで書くのは、まだ公演中なので避けるが、少し残念なような、でもこれで良かったんだろうなぁという感想を持った。守らないといけないもの、守るために変わらないといけないこと......。ショー「Nice Guy!!」の方はあんまり覚えていない。開場アナウンス前に静かな踊りが始まって、友人に「あ、これ藤井大介先生の作品か!」と言ったぐらい。アラビア人役の手が大きくてきれいだったなー。(hammer.mule)