わが逃走[93]海外で車を運転するの巻/齋藤 浩

投稿:  著者:  読了時間:11分(本文:約5,100文字)


美容師のYさん、大学教授のNさんをはじめ、多くの方たちが声をそろえて「すぐ慣れるからぜんぜん心配することないよー」とか言ってたので、オレ的にもいい気になっていたのだ。

しかし、ただでさえ慣れない土地を借り物の車で走るときは神経使うのに、言葉の通じない異国の地での運転、しかも左ハンドルで右側通行。冗談ではなく、通常の3倍はエネルギーを消費しました。という訳で、今回は人生初の海外における車の運転について語ろうと思います。

結果的には初の海外ドライブの舞台が、のんびりしたハワイ島であったことは、まあ良かったんじゃないかと思う。

そもそも当初は車を借りることなんて考えてなかったんだけど、馴染みの超ハイクオリティ居酒屋でハワイ島へ行くってことを語ったところ、隣に座ったYさんをはじめ、多くの方が「ぜんぜんフツーに乗れちゃうから、せっかくなんだから車借りた方がいいよー」なんて言う訳ですよ。

オレも酔ってたので気が大きくなって、「左ハンドルで右側通行ってのは、考えてみりゃ鏡像な訳だし、すぐに慣れちゃうかもねー。日本で左ハンドル乗るより気楽かも」なんて発言をしてしまい、気が大きいモードのまま出発の日を迎えたのです。

●予約

旅慣れた人は到着したらすぐ空港で借りて、帰るときに空港で返すらしい。オレの場合は一日乗れれば充分だったので、現地のレンタカー屋さんを調べてみたところ、都合のいいことにホテルに窓口があった。

ネットで予約ができるようなので、予約フォームに朝9時から夜の7時までと指定したところ、何度やってもエラーになる。困った。で、日本語のサービスもあるらしいので電話してみたら、午前中でレンタカーのスタッフが帰ってしまうので、返却は翌朝にしてくれとのことだった。

一日単位が基本なので、10時間も24時間も同じ料金だったのだ。さすが車社会の国、日本みたいにちまちましてない。コンパクトカーを一日借りて約3600円+ガソリン代。ガスはデポジットってことで、最初に満タン分の料金を支払うことになっていた。なので、満タン返却せずともよし。



●国際免許

レンタカーを借りるのに必要なものはクレジットカードと日本の免許証、そして国際免許証。ハワイの法律では日本の免許証だけでも運転可能だが、万が一事故等に遭った場合のことを考えたら、取得しておいた方がよさそうだ。

というのも、いわゆる国際運転免許証ってやつは日本の免許証の正式な翻訳文書という位置づけらしい。なので、現地でPOLICEのお世話になった場合のことを考えるとあった方が無難。取得はいたって簡単だった。

運転免許センターか、国際免許の扱いのある地元の警察に顔写真とパスポートと(一年以上有効期間のある)運転免許証を持って行くだけ。オレの場合はタイミングの悪いことに、ケーサツの昼休みにかかってしまったため2時間ほどかかったが、通常の場合は15分〜30分程度で発行される。手数料は2,650円也。

●交通ルール

ここでハワイの交通ルールについてちょこっと語ります。まず、当然だが車は左ハンドルで右側通行。日本と逆である。日本では未だ左ハンドル車は金持ちのステータスということになってるが、ハワイにおいて右ハンドル車がエライとかいう文化はないようだ。当たり前ですよね。日本が不思議なのです。

また、赤信号でも基本的に右折可である。例外もあるが、そういうところには「NO RIGHT TURN ON RED」など、わかりやすい表示がある。日本のように補助標識が10個もついていて、読んでるうちに交差点へ侵入しちゃった! なんてことはまずない。

どうでもいいけど、日本においてかなり驚いた補助標識に「巳の日」というのがあった。巳の日のみ進入禁止ってことだったと記憶しているのだが、そもそも世の中的に「巳の日って何?」という人がほとんどだと思うのですね。

また、「競輪開催日を除く」なんてのもあった。すべての国民が競輪開催日を記憶していることを前提とした、ものすごい送り手目線のシステムである!少なくとも私が運転したハワイ島には、こうした無理難題的標識はなかったように思える。

さらに感動したのは、交差点そのものの構造だ。左側が直角なのに対して、右側はなだらかなアールになっており、ストレスなくスムーズに右折できる。ちょっとした工夫だが、素晴らしいデザインだと思った。

次にLEFT TURNについて。左折でまず驚いたのが、赤く点灯する矢印式信号の存在だ。左の矢印が出てるのに青じゃないってどういうこと? と戸惑ったが、基本的に赤矢印は曲がっちゃダメよという意味だ。左折可能になるときは矢印は青く点灯する。まあ落ち着いて考えればそうなんだが、慣れないと一瞬戸惑うので注意。

他にも細かい相違はいろいろあるが、基本的に日本と同じルールだと思う。幸いなことに本番前日にヒトサマの運転する車で現地ツアー! だったので、予行演習もできて助かりました。

●で、実際...。

という訳で、その日が来たので乗ってみた。まず思ったのは運転席は左側にある! 当たり前だけどね。ちなみに車は韓国KIA製のナントカいうコンパクトカーだった。オレは無類の小心者なので緊張しすぎたせいか、いつもなら車の写真くらい撮ったはずなのに、思いつきもしなかった。          

室内はタバコ臭くもなく快適。けっこう広い。視界も広い。ウィンカーとワイパーのスイッチは日本とは逆についているので、注意だ。おそるおそるスタートする。小心者ゆえ、脳内で右だ、右車線だと強く念じる。

走り出してしまえばただの自動車である。わはは、なんちことねえや。なんて思っているとロータリーに出た。このロータリー、日本の道路ではあまり見かけないけど、海外にはけっこうあるんだよね。曲がるタイミングを逸してしまっても、ぐるぐる回ってればやり直しがきくという優れたシステムであるが、オレは小心者ゆえ、慣れないものはそれなりに緊張する。

で、案の定ひとつ手前で右折してしまった。助手席の年上の女性Aさん(年齢非公開)が激昂し、「なんでそこで曲がるの!? 昨日あんなに見ておいたのに、ちょっとあんた脳がおかしいんじゃない?」と大声でどなる。

最初にも書いたが、慣れない異国の地での運転は通常の3倍エネルギーを使うのだ。道を間違えたとしても折り返せばいいだけではないか。こういうときこそ助手席の人は運転手をリラックスさせてるよう努めるべきである。

で、再度ロータリーまで戻り、こんどはきちんと国道19号線に乗る。ひたすらまっすぐの快適な道だ。今回のドライブはコナ空港のちょっと北にあるマウナ・ラニ・リゾートから19号線をひたすらまっすぐ行き、ホノカア経由でヒロの町へ行く計画だ。途中、左折は2回しかない!

まっすぐな広い道を普通に走っている限り、まったく問題なしなのである。車の数もとても少ないし、無謀な運転する人もいない。島のひとはみんな心が穏やかとみえて、あおってきたりクラクションを鳴らしたり、なんてこともない。このへんは年上の女性Aさん(年齢非公開)にも是非とも見習っていただきたいものである。

地平線まで黒い溶岩が続く平原をしばらくゆくと、徐々に上り勾配になってきた。乾いた岩だらけの景色がしばらく続くと突然草原が広がってくる。大地にまるで線を引いたかのように、茶色と緑色の境界が見える。どうやらこのあたりが気候の境目のようだ。

ワイメアの町をすぎると広大な牧場が広がる。なにやら個人所有の牧場だそうで、面積は東京23区より広いらしい。ついさっきまでヤシの木と砂浜という環境にいたかと思えば、すぐに鬼押ハイウェイとなり、右折した途端サバンナ、そしてこんどは北海道に来てしまうような感覚。その間わずか数10分である。おそるべしハワイ島。

てな感じでのんびり走っていると、ホノカアの表示が見えてきた。すかさず左折の合図を出す! つもりがワイパー動かしてしまった。あわてて反対側のスイッチを入れる。

ホノカアはとてものーんびりした小さな町だ。戦前の建築もたくさん残っていて、とても絵になる。日本人の移民もたくさんいたらしく、街並がどことなく日本的でもある。それなりに写真も撮ったのだが、まだ現像してないので詳しい紹介はまたの機会に。

さて、カフェで食事をした後、一路ヒロの町へ向かう。安全確認をして、ウィンカーを出し、発車。すぐに右折して、と思ったら、うっかり左側車線に入ってしまった。幸い他に車は走ってなかったのでとくに問題はなかったのだが、まあ自分でも驚いた訳ですよ。

たとえハンドルが左にあっても、いつもの癖は抜けないらしい。へー、意外だなあ。てなことを思っていると隣で年上の女性Aさん(年齢非公開)が「ヤメテー!! 死ぬかと思った死ぬかと思った死ぬかと思ったあんた頭おかしいんじゃない?」なんてことを言う。何度も言うようだが慣れない異国の地での運転は通常の3倍エネルギーを使うのだ。そうならないためにも、助手席の人は注意を促すよう、事前にやさしく声をかけるべきである。

その後、1時間くらい走ったかな。メーターもマイル表示なので、イマイチ走行距離が把握できないが、平均時速70キロくらいだったろうか。ジャングルにかこまれたゆるやかな峠道を快適に走行し、海が近くに寄ってきたら、すぐヒロの町だ。町には無料の駐車スペースがたくさんあるので、すみっこの、比較的すいてるあたりに駐車した。

どっと疲れが出た。たかが運転なのだが、やはり3倍エネルギーを使う。やった! 半分きた! あとは同じ道を帰るだけ! と、小心者の私はちょっと安心した。

ヒロの町は沖縄の風景によく似ている。太平洋に囲まれると、こんな街並になるのなのだろうか。しかし、3倍のエネルギーで運転していたため写真を撮る気力が3分の1になってしまい、撮るには撮ったが説明的でツマラナイものになってしまったようだ。こっちの写真もそのうち紹介します。

地元のスーパーで、ディープなお土産も買ったし、渋いアロハシャツも買っちゃった。なんだかんだで3時間くらい居たかなー。慣れない土地で夜のドライブってのもコワイので、日が落ちる前にホテルに戻るには、そろそろ出ないといかん!

てことで、4時過ぎにヒロを出発、ホテルのあるマウナ・ラニ・リゾートを目指す。来た道を帰るだけなので、安心といえば安心である。しかし、単調な道が続くと、どうにも眠気が襲ってきた。慣れない異国での運転なのに、実に意外である。右手のツメで左手の腕をぐいぐいと刺しながら運転する。右を見れば、年上の女性Aさん(年齢非公開)が口を開けて眠っている。

フリスクを何粒も噛みつつ鼻から息を吸う。どうにかホノカアまで持ちこたえたがここらで休憩を、ということでドライブインに入った。トイレで出すモン出したら気分もスッキリ。名物のマラサダ(揚げパンみたいなもの)を食べつつホノカアの町を見下ろす。西日が木々に反射して美しい。こういう何もない町で何もしない一日ってのもいいだろうなあ、なんてことを思う。が、日没までに帰りたいのであまりのんびりしてはいられない。そそくさとドライブインを後にした。

ワイメアも無事に通過して、あとはなだらかな坂道を下るだけと思いつつゆるい右カーブにさしかかった。そのまま道はゆるーくカーブしていたのだが、さらに右側にも道が分かれており、ついうっかりそっちの方に曲がってしまった。

「あ、間違えた!」と言った途端年上の女性Aさん(年齢非公開)が「何やってんの! 人がみていないとすぐこれだ、この人間のクズ!」的なことを言う。別にどっかでまた折り返せばいいことと思うのだが(ほんとに、ほんとに心の底からそう思う)、彼女はその度に寿命が縮むと主張する。「こういうことを繰り返して徐々に私を死に追いやり、あげくの果てにはて保険金を奪おうというのね!」

もう疲れたのでひたすら謝ることにし、ゆっくりともと来た道を戻る。ちょうど夕陽が海に沈む頃、ホテルに着いた。まあ、緊張したけど無事に帰って来れてなによりである。

帰国してから落ち着いて思い返せば(喉元過ぎれば)、いい思い出である。こんど誰かに「海外で運転どうだった?」と聞かれたら、「すぐ慣れるからぜんぜん心配することないよー」と答えようと思う。
それではみなさん、ごきげんよう。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/ >

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。