Otaku ワールドへようこそ![141]凱旋! アイドルの卵たちが輝いたライブイベント
── GrowHair ──

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会場から「かわいい!」と声援が飛んで、心の中で「よしっ!」とガッツポーズ。10月22日(土)に渋谷でアイドルのライブイベントが催された。ほとんどの出演者がリアル女子中学生・高校生。ワタシもありがたく混ぜてもらい、セーラー服を着てステージに立ち、歌を披露してきた。役割はほぼピエロなのだが、それはそれで気楽にこなせるものではなく、歌詞や振りを間違えないようにとかなり緊張したし、小さなハプニングを危なっかしく乗り切ってヒヤッとした場面もあったが、とにもかくにも役をこなすことができた。

●意気込みが空回りして焦る

練習期間は6週間と2日。意気込みは120%レベルを持続していた。何しろオリジナル曲である。歌詞にGrowHairが入っているのである。本人が一番上手く歌えなくてどうする。

音楽活動に生きることを真剣に志していたって、オリジナル曲がもらえてステージで披露できるようになるまでの道のりは、相当なはずである。こっちはただ、歌えるメイドバーやコスプレキャバクラやカラオケスナックで、みっともなくない程度に、できればちょっとカッコよく歌えればいいかな、ぐらいのスケベゴコロ丸出しの動機でヴォイストレーニングを習いに行っているだけである。まったくの初心者レベルから始めて、1年半。

まだまだちっとも上手くはない。練習で録音してもらった自分の歌を聞いて、まあ、聞けなくもないレベルだけど、やっぱりどっか素人くさいなぁ、と自分で思ったぐらいで。ところどころリズムやら音程やら、はずしてたりする。そんなワタシにオリジナル曲である。将来いつかは、とすら思ってもいなかったことで、びっくり。

「アイドルのイベントを催すので、セーラー服着て一緒にどうですか?」と、音楽教室のオーナーである奥井氏からのお誘い。ほいほい乗ってるワタシ。ラッキーすぎる。フザケている。真面目で地道な下積みというものをナメている。こんな分不相応の晴れがましい機会が向こうからやってきたというのに、もしいい加減に流したりしたら、天罰が下る。頭上に人工衛星のカケラぐらい落ちてきそうである。

できると信じていた。いや、信じてなかったけど、信じていた。事の大変さをあまり顧みることなく、「はい、やりますやります」。人生、YesかNoかの選択肢にさしかかったら、よほど無謀な選択でない限り、とりあえずYesと言ってみる。この軽薄さ。それがワタシ。おかげで人生よく曲がる。

奥井氏は人を見通す不思議な目をもった人で、本人でさえまったく気づいていない才能を超能力で見つけ出して開花させてしまう。以前、舞台で神父役を仰せつかったときも、仕掛け人は奥井氏である。役者なんて目指したことすらないし、一朝一夕にほいほいなれるものではないと認識していたので、一旦は「無理です」とお断りしたのだが、真顔で「いや、できます」と断言され、そう言われるとなんだかできるような気がしてきて、結局引き受けていた。



あのときは、大した分量でもない台詞がなっかなか覚えられなくてノイローゼになりそうだったが、最終的には台詞をトチることもなく、ご期待に沿える演技ができたようで、「どの回の練習よりも本番が一番よかった」と言っていただけた。今回も似たような流れなのだが、前回のことがあるので、ちょっと無理っぽいんじゃないかなぁ、という自分の直感よりも、奥井氏の確信に満ちた言葉のほうが当たってるような気がした。

意気込みという上へのベクトルがいくら強くても、現実には時間的制約とか、体力の限界とか、あると思ってたら実はなかった才能とか、下向きのベクトルが作用して、均衡したところに現実の姿がある。

歌の練習用CDをもらったのが9月7日(水)。通勤の空いた電車でずっとかけっぱなしにして繰り返し聞いたり、カラオケボックスで練習したり。「パセラ」は池袋のお店をよく利用するのだが、外部音源として、音のCDや映像のDVDが使えるようになっている。自分で持ち込んだカラオケCDをかけながら、マイクを使って歌の練習、ということができるのである。すばらしい! オリジナル曲の練習にカラオケボックスを利用したいって需要がけっこうあるのだろうか? 「ビッグエコー」にも、CD音源が利用できるマシンが備わった部屋があり、受付で希望すると、案内してもらえる。

10月2日(日)の練習では、ほぼ間違えることなく歌えるようになっていた。本番20日前。順調な仕上がりのようだが、実はここからが大変だった。この日に振りの模範演技の収録されたDVDを初めて渡される。これが予想のはるか上を行っていて。ちょっと手をひらひらさせるとかではなく、全身使って動く動く。48年生きてるけど、そんな動きしたことありましぇーん。しかも前奏・間奏・後奏に至るまで間断なく動きが続き、途中で一息入れて次を思い出すという間がほとんどない。えー、無理ですー、敷居高すぎますー。

しかも練習時間があまり取れず、10月9日(日)の時点では、ボロボロだった。DVDを見ながら1〜2回真似てみただけ、まったく頭に入っていなかった。はい、これからがんばって巻き返します。月から金までパセラパセラパセラパセラパセラ。ここまで常連化すると、ヒトカラでも10人部屋に通してもらえたりして、がらんとした広さは若干さびしくなくもないが、テーブルを寄せればけっこう広いスペースが確保できて、振りの練習には好都合。

おかげで、10月15日(土)の練習では、けっこういい線いくようになった。本番のちょうど一週間前なので、この時点である程度の完成度に来てなければかなり不安になる。ぎりぎり進行。女子高生に扮して歌う歌は全部裏声でいくわけだが、休憩のときに冗談で1オクターブ低く地声で歌ったらウケちゃって、本番のときも2番のサビだけそれで行きましょうか、という話に。この時点で変更って、覚えてられるかどうか不安だけど、やってみまっす。

まあ、得意技ではある。石野真子「狼なんか怖くない」の「あなたも狼に変わり〜まぁす〜かぁ〜」の「狼」のところだけ2オクターブ下げるとか。河合奈保子「17才」の「あーあー、17才のワタシ」の「17才の」を「しじゅうなな才の」に変えて1オクターブ下げるとか。「ワタシ」のところは元の裏声に戻って可愛くやるのがコツ。かなり恥ずかしいギャグだが、ウケることはカラオケスナックで実証済み。

10月19日(水)、最後の合わせ練習。本番3日前。ワタシの両脇を固めてバックダンサーを務めてくれるのは、アラレと愛菜(まな)。二人でCGMというユニットを組んでいる。リアル女子高生とリアル女子中学生。愛菜は、NHKの紅白歌合戦でバックダンサーとしてステージに立ったこともある。二人とも、アイドルとしてのデビューを目指してがんばっている。もちろんGrowHairのバックダンサーにはもったいなさすぎるのであるが、これも同じ音楽教室で歌を習う仲間のよしみ、超ラッキーである。

この時点では、まだ時折ミスが出るし、動きを端折ったりもしていて、完璧ではなかったが、奥井氏は、安心したようである。ワタシとしては、本番まで、最後の追い込みに賭けなくては。

●スカートが危険なことに

当日朝。11:00am開場の予定で、関係者が会場入りするのは9:00amの予定。出かける時間が迫っていたが、もう一回だけ通しで練習したら行こうと思い、セーラー服を着て、音をかけずに歌と振り。右足をエイヤッと振り上げた瞬間、ブチッという感触がして、スカートのウエストのホックが外れた。腹圧に耐えられなかったようで。や、やばいっ。

ファスナーを上げた上にホックで留まっているのだが、このホックはウエスト回りを調整できるよう、スライドする方式になっている。モノレールの車両がレールにまたがるような格好。小さな金属のレバーを倒すとガチッと留まり、スライドしなくなる。このレバーが起き上がらずに倒れた状態のまま、本来スライドしないはずのものが、ガガガガッと動いて完全に外れてしまったのだ。

セーラー服のスカートは2着持っている。最初に揃えたのは冬服で、スカート丈はひざ上だが、それなりに長い。今年になって夏服を揃えたとき、スカートを思い切って短くしようと思い、けっこう短めのにした。ウエストサイズのちょうどいいのがなく、一番ゆるくしたぎりぎりのところで留めてやっと穿ける。生地は冬服のほうが若干厚いが、見た目はほとんど差がない。この日は、10月なので、上は冬服にして、スカートは短いほうがかわいいだろうと思い、夏用のを合わせることにしていた。

急遽、長いほうに変更。こっちはウエストに余裕があるので、万が一スライドしてしまっても、すぐには完全に外れるところまで行かないであろう。着たセーラー服をいったん脱いでスクールバッグに押し込め、普段着になって出かける。出番の直前に着替えて驚かすという作戦だ。

イベントは、前半が一期生たちによるソロで、後半が二期生候補たちのオーディション。書類による一次審査と面接による二次審査を通過した応募者たちの三次審査。ステージに上がった経験などない者がほとんどで、ここ数週間を相当なプレッシャーの下で過ごし、当日はものすごーく緊張していた模様。その緊張をほぐすのが私の役目。オーディションのトップバッター、エントリーナンバー00番として出ることになっている。

まあつまりは道化役なんであるが、そうは言っても、前々からの在校生としては、示しをつけなきゃならんわけで、歌詞をトチったり振りを忘れたりしては駄目なのだ。こっちだって緊張する。前半、CGMの二人とヒカリがそれぞれソロでがんばってくれた。特に、アラレが、お客さんたちに立ってもらって振りの一部を一緒に踊ってもらったり、みずから客席に降りていったりと、大胆な演出で、いい感じに盛り上げてくれた。うん、いい度胸だ。

後半、出番が来て、CGMの二人とともにステージに登場する。「エントリーナンバー00番、GrowHairでぇ〜す♪」(裏声)。うん、ウケてるウケてる。間違えないようにとガチガチになって歌ったのでは、この盛り上がりが冷めてしまう。間違ってもいいから、思いっきりのびのびやったほうがいい。そういう役だ。この時点で覚悟が座った。

全身を動かす大きな振りに会場からウォーッと驚きの声があがったりして、気分がよくなってきた。そのとき、事件は起きた。ブチッ。え? ウエストのスライドがずれる感触。やばいっ。もし完全に外れてたら、りんごが木から落ちるごとく、万有引力にしたがって落下するわけで。それはまずい。といって、歌と振りは続いているわけで、うつむいて確認したり、なおしたりしてるわけにもいかない。幸い、まだ落下はしていない。けど、ちょっと下がったっぽい。

このとき、軽くパニックった。ファスナーは左側にあり、左手にはマイクを持っているのだが、その左手で、ウエストをつかんで引き上げる。当然、そのとき歌っていた声は、マイクには拾われない。まずい。会場、ウケまくってる。ウケたのはよかったけど、企図してなかっただけに、かなり恥ずかしい。2〜3段ずれただけで、完全には外れていない模様。ならいいやと続行。これ、なんとか乗り切ったと言えるのだろうか。まあ、いっか。後で聞くと、これも演出のうちだと思ってくれてたようで。まあ、いっか。

続く9人の応募者たち、みんなすごーくがんばってくれた。後で聞くと、前の晩、緊張しすぎてなかなか眠れなかったとか、出番の前、ひざがガクガクするぐらい足が震えたとか。けど、ひとたびステージに上がったら、みんなすばらしい度胸だった。一人ぐらい頭が真っ白白になって立ち往生してしまう人が出るのではないかと心配したが、ぜんぜんそんなことはなく、みんな堂々として、のびのびと持ち味を発揮してくれた。

相当な応募数の中から一次、二次と通過してきただけあって、みんなかわいいし、パフォーマンスのレベル、高い。オーディションじゃなかったとしても、それぞれの個性でお客さんに楽しんでいただくことのできる、いい仕事をしてくれたと言える。青春のパワーを丸ごとこの一回きりのステージにぶつけてきて輝いた感じで、高校野球の甲子園大会をみるような感動があった。がんばりは貴く、きらめきは神々しくさえある。お客さんたちからの評判もよく、イベントは大成功。

●この子たちのためにがんばろう

終了後、道へ出て記念撮影。若くてかわいいアイドルの卵たちが、一期生3人プラス二期生候補9人。なのに、通行人の目は撮ってる私のほうへ集中。うーん、そうなるか。なんだかアブナい光景みたく映ったようで、後でツィッターをチェックすると「変な奴に出くわした。セーラー服着てヒゲを三つ編みにしてピンクのリボンで結んでるのに見事に禿げ上がってるおっさん。もうキモいのなんのwwww カメラマンみたいだったけどモデルが小中高生の女の子で犯罪臭はんぱねえwwwww」とか。

渋谷のイタリアンな喫茶店「セガフレード・ザネッティ」で打ち上げ。ライブの間、撮っていただいたつとむさんに写真を見せてもらう。いや〜、すごい。けっこう必死でがんばってるつもりだったのに、写真をみると、このおっさん、自己陶酔に浸りきってる。こりゃ笑えるわー。

< https://picasaweb.google.com/107971446412217280378/Live111022
>
ライブでノリノリなGrowHairの写真

サーカスにおけるピエロとは、笑われるために存在する。しかもその笑いは、ほぼ嘲笑である。どんな演技でも、超絶上手い人は、一見、余裕をもって楽々こなせているように見えるもんだから、見ていたら自分にも簡単にできるんじゃないかとうっかり錯覚して、ちょっと僕にもやらせてみてよ、としゃしゃり出る。で、やってみると、当然のことながら簡単どころではなく、失態を演じる。おまえ、しゃしゃり出てきといてそれかよ、と笑われる。そういう役。

でも、下手っぽく演じるって、実は上手くないとできないね。ピエロはほんとは悲しい存在なんだ、ってよく言われる。しかし、私の場合はぜんぜんそんなことはなく。一人になったとたん、急激に恥ずかしさが襲ってきてわーっと絶叫したりとか、抑えていた悲しみがどっとあふれてきてめそめそ泣いたりとか、そういうことは一切なく。

セーラー服だって、見たいという需要がなくたって、着たくて着て歩いてるわけで。こういうステージにお呼びがかかるなんて、めちゃめちゃラッキー、ってなもんである。こういう場合、天然自然の生まれついてのピエロ適役というべきか、まだまだ道化の心の機微が分かってないというべきか。

うん、何が言いたいのか、自分でもよく分からなくなってきたけど。こういう機会がもしまたあれば、喜んでやります。というか、オリジナル曲なんで、またご披露できるチャンスを待ってます。それはそれとして。

前回も書いたけど、学生のころから、もしなれるもんならなれたらいいなぁ、と、自分がなりたい姿としてあこがれてきたアイドルではある。けど、実際、それっぽいことをしてみると、当然のことながらそんなに甘い道ではなく、ちゃんと演じきるには、自分の能力をはるかに超えていることに気づかされる。1曲覚えるだけでひーひー言ってたし、あれではまだまだ練習不足なんだけど、ピエロであるがゆえ、細かいアラは大目にみてもらっている。

一方、本当のアイドル候補生たちは、同じ期間で7曲ほど覚えたし、細かいところまでチェックされ、もっともっと厳しく指導されている。うん、ワタシにゃ、無理だ。前々から、テレビに出ているアイドルたちをリスペクトしてきてはいたけど、本当にすごいんだな、といまさらながらに思い知らされた感じ。

今の候補生たち、夢をつかめるよう、いっそう精進して、ゆくゆくはスターダムを駆け上がってほしいなぁ。というわけで、自分がアイドルになるよりも、こんなにがんばっているこの子たちのために、できる手助けを何でもしたい、と思えてきた。さしあたって、12月25日(日)には次のライブがあるとのことなので、そこで英語の歌を1〜2曲混ぜられるよう、英語の指導役を申し出た。

10月30日(日)は、初回の授業。一期生3人と、今回の合格者のうち4人が生徒として参加してくれた。なぜ先生がセーラー服を着てるか、もちろん着たかったからです、ってのは置いといて。まずは、英語学習に向きあうための心構えの話から。以前、このコラムに「決定版! ミもフタもない英語学習法」と題して書いたのと同内容の話もしたけど、その続きとして書こうと思いつつまだ書いてない話もした。みんなすご〜く熱心に聞いてくれた。その授業のことは次回にでも。
< https://bn.dgcr.com/archives/20090717140100.html
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決定版! ミもフタもない英語学習法

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jpセーラー服仙人カメコ & アイドル。どこまで拡散するアイデンティティー。

10月10日(月・祝)は新宿の「パセラ」で練習した。終電を逃してタクシー帰り。不夜城新宿と言えども、翌日が平日の深夜ともなると、さすがに人通りが少なくなる。区役所通りを職安通りに向かって歩いていると、外国人の客引きにつかまる。英語で話せるバーだとか。"Do you speak English?" とか。

酒とは不思議な液体で、これを飲むと英語力が3段階ぐらいレベルアップする。よーし、いっちょ俺の英語を見せつけてやって、ブイブイ言わしたるか、ってスケベゴコロが頭をもたげる。うん、上手いくすぐり方だ。

ところが、このとき酒は一滴も入っておらず、直感が、英語できないフリしろ、と自分に指図してくる。黙って手をひらひら。それでも "Nice to meet you!"とか言って、強引に握手を求めてくる。その手をグイとつかんで放さない。危険危険。振りほどいて、逃げるように立ち去ってきた。

酒が入っていたら、行ってたかもしれない。もし行ってたら、どんな光景が待っていたのだろうか、とちょいと気にはなっていた。10月28日(金) の十河さんのコラムに答えが書いてあって、納得。
< https://bn.dgcr.com/archives/20111028140300.html
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デザフェス、出ます。今回は「妖怪横丁」ではなく「関東アンダーグラウンド集会」というグループの一員として。
< http://bit.ly/uxjWEM
> デザフェスサイトの告知ページです