デジアナ逆十字固め...[120]印刷のカラーマネージメント/上原ゼンジ

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ようやく書き下ろしの本が刊行された。

以前からまとめたいと思っていた、レタッチとカラーマネージメントに関する、基礎的知識をまとめた教科書的な本だ。レタッチの本というのはたくさんあるけれど、製版や印刷の話にまで踏み込んだ本というのはあまりない。

しかし、私がデジタルで入稿を始めた時に知りたいと思ったのは、「印刷上で自分のイメージ通りに再現するにはどうしたらいいのだろうか?」ということだった。今でも同じようなことで悩んでいる人はたくさんいるはずだから、自分が学んできたことをまとめておきたいと思ったというわけだ。

私が当初知識を得たのは本からだった。最初の頃はPhotoshop本を買い集めていたが、やはり製版や印刷に関する情報は得られなかったので、製版技術やスキャニングに関する本に手を出し始める。そして、重要なのはカラーマネージメントの技術だということに気づき、日本パブリッシング協会のセミナーに顔を出し始めるようになる。

そこで知り合ったのは、製版、印刷の技術者達であり、スキャナやデジタルカメラを開発しているような人達だった。そして、そこにはカメラマンやデザイナーが知りえないような知識や技術があった。そして、セミナーが終わった後に飲み屋で根掘り葉掘り質問をすることにより、少しずつ後工程の知識を得ていった。

やがて、日本パブリッシング協会のカラーマネージメント委員会に加えていただいたり、MD研究会のメンバーとして、「DTP WORLD」の誌上実験室に参加することになる。

その最初の成果として、上梓したのが「すぐにわかる! 使える!! カラーマネージメントの本─仕事で役立つ色あわせの理論と実践マニュアル」(毎日コミュニケーションズ刊)。さらに、MD研究会編の「図解カラーマネージメント実践ルールブック」や「RGB & CMYK レタッチ大全」(ともにワークスコーポレーション刊)の制作にも加わった。

ただし、これらの本はちょっと専門的過ぎるきらいもあったので、もう少しコンパクトで初心者にも分かりやすく、しかし仕事でちゃんと使えるような知識が詰まった本、というのを企画したというわけだ。タイトルは「写真の色補正・加工に強くなる 〜レタッチ&カラーマネージメント知っておきたい97の知識と技」(技術評論社刊)となりました。



●微塗工紙に刷るのがネックに

前回のテキストでもちょっと書いたことだが、この本を制作するにあたっての懸念材料がひとつあった。それは本の用紙が微塗工紙であり、版元で見せてもらった同じ紙で刷った本の仕上がりがいまいちだったこと。上述の本はすべてコート紙だったから何の問題もなかったが、レタッチの本なのに仕上がりがいまいちというのは、ちょっと致命的だ。

私が関わっている本でも微塗工紙というのは、けっこう使われている。というか、カラー印刷をする書籍のトレンドといってもいいだろう。微塗工紙とコート紙の違いは、平滑性を増すための塗料の塗工量の違いだ。たくさん塗工すれば、ビカビカのアート紙になるし、量を減らしていけばインクを吸うようになり、色再現域も狭くなっていく。

では、なんでそんな微塗工紙が使われるのかと言えば、値段が安いことと、束(=ツカ。本の厚み)が出せるというのが大きい。それにコート紙だと風合いがないから、書籍の用紙としては人気がないのだ。風合いがあって印刷が良く出る紙というのもあるが、そういう紙は高い。そこで「印刷の悪いのはちょっと我慢して微塗工紙にするか」という決められ方をしているのだろう、と推測する。

今回の本は、シリーズの中の一冊にしたいとのことだったし、用紙に関して著者がガタガタ言うのは憚られる。しかし、今回監修をしていただいた庄司正幸さんに相談をしたら、その用紙のプロファイルを作ってくれるという。まあ最初からそう言ってくれると期待して、相談したという部分もあるんだけどねw

というわけで、今回の本ではカラーマネージメントのワークフローを組んでもらうことができた。本機でカラーチャートを刷ってプロファイルを作り、そのプロファイルを使ってCMYKに変換するという方法だ。

では、この方法を採るのと採らないのとではどんな違いがあるのか。もし、通常の方法でやるのであれば、コート紙用のプロファイルを使って色変換をし、微塗工紙に印刷をすることになる。すると、コート紙と微塗工紙の色再現域の違いの分だけ、ナリユキで彩度や明度は落ち、色相も変わってしまう。そして「まあ、こんなものかな」と言って我慢をしたり、校正が上がってから無理やり補正をすることになる。

一方、カラーマネージメントをするとどうなるのか? カラーマネージメントをしても、微塗工紙の色再現域が広がるというわけではない。しかし、色再現域の共有部分に関してはマッチするようになるため、制作に使ったディスプレイ表示の色とも近似するようになる。

実際に刷り上がった印刷物を見ての印象は「カラーマネージメントして良かった! 微塗工紙でもそんなに悪くないじゃん」である。カラーマネージメントしたおかげで、ちょっとランクが上の紙に刷ったような感じになった。

これは大変お得なことだと思う。ディスプレイで仕上がりのシミュレーションも可能なので、校正の回数も減る。実際に今回、後からデータを直したのは2点だけだ。よく、色校正を何度もやったと言って自慢する人がいるけど、最初から合うようなワークフローを組んだ方が絶対にいいはずだ。コストは安くできるし、製作時間も短くなる。

たぶん、こんなやり方で印刷をするケースは少ないので、紙質が良くなければ、ナリユキで色が沈んでしまっても仕方がない、というのはデザイナーや編集者にとっての共通認識だと思う。でも今は印刷機が良くなったり、CTPが普及したりで、印刷物のクオリティーは上がっているので、そこにカラーマネージメントのワークフローを組み込むことによって、紙質の良くない紙でもそれなりの印刷が可能になるということだ。

印刷のプロファイルを作るというのはけっこう難しく、変なプロファイルを作ってしまうと、そのデータで変換をかけただけで画質が劣化してしまうような場合もあるので、あまり甘く見てはいけない。ただし、シリーズ物などで用紙が決まっているような場合には、かなり有効な方法だと思います。

●福井若恵の「徒歩目線」

書き下ろしの仕事が終わったので、bitgalleryのコンテンツも増やすことができた。福井若恵さんの「徒歩目線」だ。このbitgalleryというのは、私が好きな写真家に声をかけて、写真集のようなスタイルでWEBに公開するギャラリーだ。本誌で連載中のセーラー服仙人GrowHairさんの「Dollfriends」も掲載させていただいている。

若恵さんはイラストレーターが本職なので、写真家というわけではない。でも、変なものを見つけ出してくる才能に溢れ、コメントもすごく面白いので、今回声をかけさせていただいた。自信を持ってオススメしますのでぜひご覧ください。そして、もし気に入った写真があれば、ツイートしたり、「いいね!」ボタンをクリックしていただけると嬉しいです。

・bitgallery
< http://bitgallery.info/ >

・「写真の色補正・加工に強くなる 〜レタッチ&カラーマネージメント知っておきたい97の知識と技」(技術評論社)
< http://gihyo.jp/book/2011/978-4-7741-4888-5 >

【うえはらぜんじ】zenji@maminka.com < http://twitter.com/Zenji_Uehara >
上原ゼンジのWEBサイト
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