アナログステージ[66]メーカの責任と自己責任の境界線──前編/べちおサマンサ

投稿:  著者:  読了時間:6分(本文:約2,500文字)


クソ忙しくてヒーヒーも言ってられない状況のなか、役員からすべての管理職宛てに、一通のメールが届いた。どうせ、くだらない「システム改善」の推奨連絡だと思い込んでいたので、「社内システムばかり、あーしろ、こーしろって、ほかにやることはたくさんあるはずなのに、お茶飲みに会社来ている連中は、『茶菓子』がないと、お茶も飲めないのか」と、読まずに放置していた。

それから数分もしないうちに、設計部の部長から「ちょ、ちょ、ちょっと、さっきのメール読んだ???(フガフガ)」と、生唾が鼻腔に溜まってしまい、鼻呼吸ができないでいるか、鼻クソで穴が塞がってしまっているような、鼻で呼吸をすることを忘れているくらい、慌てた様子なのが伺うことができた。

ちなみに、(フガフガ)とは、慌ててる様子ではなく、口呼吸だけで喋っていると、自然と喋っている言葉がフガフガとなる様子を、オノマトぺで表現してみた。(フガフガ)のほかに、(ンガンガ)や(ぅゴぅゴ)などもあるが、いずれも、詰まったような発音の出だしになるが、それはどうでもいい話しだ。

面倒だからまだ読んでいない旨を伝えると、「とにかく読んでみて。なんか、大変なことになるぞ(フガフガ)、本当にやるなら、いまの(フガフガ)発注システムが傾くぞ」と、ピーナッツではなく、落花生をそのまま鼻に詰めたような、声帯周波数が崩れた声は、急を要すると判断し、メールを開いて、添付されているPDFを読んでみる。

「な、なにこれ?! お茶吹いた! って問題じゃないぞ......」




PDFに書かれていた内容とは、「2012年4月より、装置安全強化のため、以下の機構を見直すこと。(中略)これにより発生するコストアップは認めない。協力会社には、該当部署担当責任者が適切な指示のもと、最善な方法にて対応。工数アップに於いては各協力会社一任とし、コスト削減の方向で設計基準を見直すように通達のこと」と書かれていた。

本当は、全文転記してしまいたいくらい頭にきたのだが、冬も本格化してきたこの時期に、家族で路頭に迷うわけにもいかない。製造業と縁遠い読者さまには、あまりピンとこないかもしれないので、べちお式に分かりやすく変換すると......

"いまのままだと安全上に問題があるかもしれないから、なにか問題が発生してからじゃ遅いじゃん? だから皆(管理職)で安全な部品に作り変えてね。でも、変更に掛かるお金はださないよ。製造工程を再考するのは、協力会社に一任するついでに、今までより安く作る方法を考えさせてね、よろしくねー"

という、鬼畜道をまっしぐらな内容なのだ。当然ながら、そんなことを、ニコニコ顔で「すいません、今日はお願いに来ましててですね、ええ」なんて言えるわけがない。会社によっては、「べつにおたくと取引きしなくても、ウチはやっていけるんで、ほかの会社探してやってくださいな、もし」と言われてもおかしくない。

現状品から製作工程がひとつ増えるということは、当然、作業時間が増える。作業時間が増えるということは、人が動く時間も増える。とても明確で単純な話し。市販のインスタントラーメンと、お店で食べるような生ラーメンを自宅で作ると、どちらが時間掛かるのかは、子どもでも判断できることだ。

日本で一番コストが掛かるのは、材料でも工場(会社)経費でもなく、人件費で、体力がギリギリの会社が頭を悩ませる、一番の要因。かといって、大手企業とは違い、人数ギリギリで上手に遣り繰りしている中小企業は、簡単に「はいお疲れさまでした、お給料払えなくなるから別なとこ探してね」とリストラするわけにもいかない。

勤めておきながら自社をバカにするのもアレだけど、そんな偉い会社でも、立派な会社でもなんでもない。ちょっと先端技術ではあるが、所詮はただの技術屋。それが年々増える売上高と同時に、どこか自意識まで過剰になってしまっている傾向がある。今回のこのメールからは、ある意味で、大企業病に近い、官僚的な上から目線で下請けさんを見ていることにも腹が立つのだ。

翌日、普段はお互いに毛嫌いしている管理職連中が一同に集まって、この役員に、内容の詳細説明と主旨を問い質したのだが、あまりにも技術屋としては稚拙な説明に、立腹指数が跳ね上がり、「こんなのが会社の役員をやっているなら先はないかな......」って真剣に辞めることを考えちゃったり。

安全機構を見直すことは、それはとても大切なことで、安全に越したことはない。ただし、過剰な安全基準は、ときには製品として、使いものにならなくなってしまうこともある。よく取り違いされることが多いが、メーカの安全責任とユーザの自己責任はまったく意味合いが違う。

ユーザの声を反映すればするほど、目的を見失ってしまった製品に辿りついてしまい、もう何が目的の製品だったのかすら分からなくなってしまったり。いまの日本の携帯電話産業がいい例です。

単発で書き纏めるつもりだったのですが、時間なくなってしまったので、続きは次回に。ごめんなさいー。

【べちおサマンサ】pipelinehot@yokohama.email.ne.jp
某ナノテク業界の技術開発屋。NDA拘束員。
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○ホントに正月がすぐですわ/別の役員さんから、都合が悪くなったから代わりに行かない? と、年末恒例の「第九」のペアチケット(しかもSS席!)をいただいた。ありがとうございます! 興奮しちゃう。12月13日は、ANTHRAXの振り替えLIVEに参戦しまーす!

○記憶に残っている2週間の出来事→10月30日の、BRUTAL TRUTHの単独LIVE(新宿LOFT)に行ってきました。もう、ラブラブ→あとは仕事ばかりしてましたが、本文のとおり、余計な気苦労で疲れが抜けないです......。