ローマでMANGA[46]ルッカのコミックスフェアでは谷口ジローさんの通訳兼お供/midori

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遠征続き。だから「ローマで」MANGAじゃない。先月、サルデーニャ遠征の話をしたばかりであるが、今回はルッカ遠征なのだった。
< http://lucca2011.luccacomicsandgames.com/index.php?id=1 >

フィレンツェから海の方へ向かって80キロのところにあるルッカのコミックスフェアは、イタリアの中では老舗で1965年からやっている。10月の末から11月初めにかけて、今回は祭日の11月1日が挟まるので例年の4日開催ではなく、5日間開催のコミックスフェアとなった。

経済振興にもなるので、街をあげてのフェアでかなりきちんと運営されている。自費出版ブースがあるのが気に入っている。イタリア出版社が新人の既成にはない作品を出版しない以上、自費出版組が唯一、イタリアの新しいマンガの息吹きを感じさせてくれる。

ルッカは、他のイタリアの都市同様に起源が古く、中世時代には街全体を外壁でぐるりと取り囲んだのも、他の街と同じ。ルッカが他と違うのは、この旧市街を取り巻く外壁が全部残っていること。戦禍を免れた結果ではなく、イタリア統一されたときに、全国の外壁を一分は残してもよいが破壊せよとの指令に、ルッカ市民はそれぞれ個人名義で外壁を買取リ、全部残すことを選んだのだそうだ。

●マエストロ谷口

今回、ただの見物ではなく、お仕事だった。ルッカコミックスで昨年、「マンガのマエストロ」賞を受けた谷口ジローさんが今年フェアから正式招待を受け、授賞式での挨拶、会見、サイン会、の通訳兼お供を仰せつかったのだった。
< http://lucca2011.luccacomicsandgames.com/index.php?id=681 >

フランス人原作、谷口さん作画の本が、昨年フランスで出版され、そのイタリア語版が今年出版された。
< http://lizard.rcslibri.corriere.it/libro/5118_un_anno-primavera_taniguchi_morvan.html >

谷口さんの本は殆どフランスとイタリアで出版されており、固定ファンがいる。ルッカでも道を歩いていると「Taniguchi sensei!」と呼び止められる。お住まいの東京ではまずないことだそうで、「今年、ここで展示会があるからかな」と不思議がっておられた。

展示会は谷口さんを含む6人の作家の、生あるいは複写原稿とインタビュービデオを中世の館で展示したもの。
< http://lucca2011.luccacomicsandgames.com/index.php?id=13 >
そのビデオを見たから自分がわかるんだ、とおっしゃっていたけれど、本を持ってる人は著者近影を見てますからね。



マエストロ谷口の訪伊については、谷口先生の本をたくさん出している小学館が間に入ってマネージングのような事をしたらしい。8時間の時差がある日本からヨーロッパへ来ると、仕事で日程が決まっていると辛くなってくることが多々ある。先生は周りに気を使って体調のことなども口に出さない方なので、その辺をくれぐれも注意するように散々ルッカ側に通達したと思われた。

なんとなれば、ルッカコミックスのゲスト担当の長とその下で働く女性が、とにかくなんでも言ってくれと念を押し、必要とあればすぐにホテルや、会場のどこかに飛んできてくれた。

ドライバーとしてルッカコミックスに参加している「リュク」という大学生が、谷口さんのボディーガードもしてくれた。サングラスをかけ、携帯電話をイヤホンにつなげ、黒っぽい背広を着てそれらしい格好。
< http://p.tl/VJ9S >

谷口一行は、先生、小学館の国際ライツの方、国際版権代理店の方、イタリアの出版社の方、通訳の私の5人。リュクは先頭を歩いて、人でごった返す道をかき分けて進む。両手を広げて谷口先生をかばいながら、何かを見るために立ち止まってる人を少し押しながら「すみません、通ります」と言いつつ道を確保してくれる。
< http://p.tl/jtcR >

その歩き方が日を追って板についていくのがおかしかった。そこまでする必要あるかな? とは思ったけど、旧市街のほぼ半分を使っての会場だから道案内はありがたかった。私は方向御音痴だから、地図を手にしても絶対に間違える。

●サイン会三様

日本からゲストを呼ぶのはお金がかかる。ルッカコミックスの他に先生の本を出しているイタリアの出版社二社がスポンサーになり、サイン会の権利を手に入れた。それともう一社、これはスポンサーにはならなかったけど、アートディレクターが谷口さんの友達なので、友情サイン会。

三社には、サイン会は50人分のみ、一時間と通達してあった。サイン会50人の抽選に参加するには谷口先生の本を購入することが条件で、もちろんサイン会時には、すでに抽選が終わっていた。

一番良かったのが「パニーニ社」
< http://www.paninicomics.it/web/guest/home >

抽選には番号が書いてある二枚綴りのチケットを使い、当たった人とパニーニ側がそれぞれ半券を持っている。番号順に並ぶので、サインを貰う側もおおよその時間がわかる。パニーニのブースの端にサイン会専用の、テーブル一個分のスペースを儲けて販売ブースときっちり分けてあった。その上、右手の上に液晶TVが設置してあり、ビデオカメラを通して、先生がサインする様子を人垣の向こうからでも見せるようにしてあった。
< http://p.tl/-76n >

テーブルの向こう、読者達が並ぶ側にパニーニの人が二人付いた。一人は、抽選番号と名前を呼び、半券を確認して一人づつテーブルの前に誘導する。もう一人は、人だかりが山となってテーブルを押さないように、また、通路を開けるように交通整理。

テーブルのこちら側に、案内役としてずっと付いててくれたパニーニ社の日本語をしゃべるアレサンドラ嬢が、購入済の積んである本を渡してくれる役目をし、私はその隣でパニーニが用意してくれていたリストを見ながら、先生に見えるように別紙に大きく名前をカタカナで書く。その隣に先生。その奥に小学館・国際ライツの方が、サインすべきページを開け、書きやすいように本を平らにするアシストをする。という体制を整えて出発。

サインが始まると、一人ずつ読者が前に現れて、嬉しそうに恥ずかしそうに笑顔を向ける。先生がいちいち絵を描いてくれるのを、本当に嬉しそうに眺め、そのエネルギーが先生にも伝わって、絵がどんどん生き生きしていった。

描き終わるごとに、握手をしながら本を渡し、時には一緒に写真に収まり、多くは「ARIGATO!」と日本語で挨拶していった。

次が、前日に行った「リッツォーリ・リザード社」。ここは、話題のフランス人作家と谷口先生のコラボで、昨年フランスから出た「一年」というタイトルの第一巻「春」を出したばかり。
< http://lizard.rcslibri.corriere.it/ >

ここもきちんと50人選抜を終え、本を積み上げ、本の中に読者の名前を書いた紙を挟んであった。ただ、その紙は手で引きちぎったもので、名前はそれぞれが書いてるので書体や大きさが違い、書いてある場所も違う。日本人が考えるイタリア人のアバウト像に、しっかり合ってしまうではないか!

テーブルの此方側の配置はパニーニの時と同じ。但し。日本語をしゃべるアレッサンドラ嬢は、会社が違うのだから当然いない。リストはなかったので、私は自分のノートを出して、「正」を書いて人数をチェック。国際ライツさんも、名前の紙に番号を振って人数をチェック。日本人。

テーブルの向こうは、サインを眺める人の山。時折、リッツォーリの人が、「ちょっと、そんなに押さないで」と注意を呼びかける。抽選が終わってから、他を見物に行ってしまった人が多く、先生がサインを終え、私が名前を呼びあげても直に受け取る人は少なかった。

先生の絵が、だんだん元気がなくなって、省略が多くなって行ったのは仕方がないね。機械的な作業になってしまって、せっかくの読者との交流がない。「顔を見て渡せると嬉しいんだけど」と先生談。

で、三番目が「ココニーノ社」。
< http://www.coconinopress.it/autori/jiro-taniguchi.html >

スポンサーではなく、オトモダチだからのサイン会だ。スポンサーではないので、最終日にサイン会を追いやられた模様。

ブースは角の場所で、大きなテーブルをL字型に組んである。L字型の一つを全部サイン会に使った。ここでも、サインの様子を見にたくさんの人垣ができた。「抽選を知らなかったので、参加してないんだけど、終わってからサインしてもらえませんか」とか「本じゃなくて、紙に絵を描いてもらえますか」とかのリクエストが頭の上から降ってくる。

前記の二社は、そうしたことをすでに読者に伝えてあったらしく、別紙にサインを欲しい人には本に別紙がすでに挟んであったし、抽選しなかった人は、直接ブースの人と話して大人しく引き下がって、リクエストが頭の上から降ってくることはなかった。

私と直接話をしてるのを見た係のおばさまは、怒った口調で「なにか言いたいことがあったら私に言いなさい」と学校の先生の様な言い方をする。リクエストをするのは、たいてい20代の若い読者で、おばさまはどう見ても40代末か50代始め。ご自分の娘、息子の年齢の読者ではあるけれど、大切な読者様であることにも変わりないはず。

本の束が私たちがいるところから、何故かずっと離れたところにあった。なにかワザワザすると思ったら、サインを見ていた人垣で本の束のそばにいた人たちから、「この人が、自分の本を束の上に置いた!」と告発があった。さっそくおばさまがその青年に近寄って、詰め寄ったところ、抽選を知らなかったので自分の本を置いたと自白したので、おばさまはその本をとりあげた。

サインほしさにズルするのは、もちろん褒められないけど、コントロールがなってないんじゃない? 学校の先生的な上から目線の指示、サインを終わった本を受け取る読者が少ない。で、なんだか空気がトゲトゲしてきて、先生の絵も機械的で覇気が減っていった。

空気って大事だな、と思った三様のサイン会であった。この違いはどこから出てくるんだろう? あ、三社とも、谷口先生始め、日本の漫画を真剣に探して出版してますので、これに関しては、まったく言うことなしです、

●Taniguchiは駄々をこねてはおりません

谷口先生は60歳を超えていて、一週間海外遠征で日本を留守にするために、前倒しで仕事を進めたので疲れての出発だった。性格的に優しすぎる所があって、自分の体調よりリクエストに応えようとしてしまう。そんなこともあって、小学館国際ライツの方がしっかりと女房役となって、守ろうとしていた。「先生、小学館が悪者になりますから、ダメそうだったら言ってください。断りますから」と何度も言っていた。

ゲスト全員を招待しての元貴族の館での晩餐会。一度、イタリアでラザーニャの脂っぽさからお腹の具合が悪くなったことがある先生は、イタリア食を怖がっておられた。晩餐会に出たら食べないわけに行かず、しかもイタリアの晩餐は遅い。就寝時間も遅くなり、翌日に響くかもしれない。

そんな訳で、ルッカコミックスのゲスト担当者に、挨拶だけして帰りたい旨を告げた。ここで大事なのは、決して自分の都合だけでわがままを言ってるのではないと強調すること。

「以前に、具合が悪くなったことがあり、現在も高血圧の薬を服用中。日本との時差でそれも辛い。ここで具合が悪くなったら、明日以降のスケジュールに穴を開けてしまうことになるので、それをぜひとも避けたいのが先生のご意向です」。先生を守るためだけではなく、招待を受けたくない、なんとも思ってないというのではない、と強調するのは、相手方に対しても、礼を逸しないためにすべきだとも思った。

晩餐会は、このパラッツォ・ドゥカーレ(公爵宮殿)というところで開かれた(と、思う。何しろ「リュク」を先頭に、ひたすら早足で着いて歩くばかりだったので)。
< http://it.wikipedia.org/wiki/Palazzo_Ducale_(Lucca) >

とりあえず、入ると、まず、食前酒。そこで、一旦、「うへぇ、もはや8時ですよ。それでこれから食前酒なら、食事が始まるまでどんなに時間がかかるか...」と心配し、一緒にいたゲスト係に、出来れば食前酒をスルーして、あるモノだけでも、食べさせていただいて失礼させていただけないか、と打診した。

ともかく、席について下さい、と言われ、出口に近い席に案内された。ここなら、スーっと消えることができる。ゲスト係は、谷口先生の意向を全部聞きます! と宣言していて、本当に一生懸命やってくれる。すぐに、館のオーナー(すごいね。貴族の館のオーナーですよ)とルッカ市長が挨拶に来て、食事を共にしていただけないのは残念と告げた。

その間、件のゲスト係は、とある出版社のゲストとして招かれていた坂本眞一さん(「孤高の人」集英社)を探してきて、一緒のテーブルに付いていいかと聞いてきた。坂本さんは谷口さんと話をする機会を持ちたいと思っていらしたそうだ。

二人の先輩、後輩の漫画家は日本語で、それぞれの制作の工夫や、制作姿勢、アシスタントの作業内容や条件などを話して、谷口先生の疲労の顔に紅が射してきた。で、結局、晩餐会を楽しんだのであった。

というわけで、多くのコスプレイヤーが集い、多くの新作が発表される大きなコミックスフェアにいながら、そうしたものはほとんど見ないで過ごすことになったけど、裏から見るフェアもまた一興でした。

ルッカコミックス運営のしっかりしてることも驚き。歴史がある、ということはノウハウがあるということ。どんな問題が起こりうるのか、それにはどう対処するのか、のノウハウがあるということ。市を上げてのイベントである、ということも商売だけで運営しなくて良い、というのもあるのだろうな。

●おまけ:キモノ

サルデーニャ遠征に続き、ルッカにも和服を持って行って日本文化のお披露目の一端を担ってきた
< http://p.tl/5kGQ >
(↑日本語ができるアレサンドラ嬢と。彼女の服と私のキモノとホテルの調度品の色があってるのがおかしい)

楽天の「きもの町」でネット購入したポリエステルの着物。
< http://item.rakuten.co.jp/kimonomachi/002284/ >

これは、ローマからネットで購入し、東京の実家に送ってもらい、里帰りした折に持って帰ってきた。折角安く買って、高い送料を費やしてローマまで送ってもらうのは悔しいから。着心地は絹には敵わないけど、小さな鞄に詰めても皺にならず、こうした機会には都合が良い。

自分でキモノを着始めたのは最近のこと。お太鼓も、ネットのビデオで見て習得。途中まで前で締めて、ぐるりと後ろに回してどうにか形にしている。もっとも、ルッカでは、約束の2時間前には起きて、さっさと朝食をとって、丁寧に着てみた。慌てて着るとと着崩れしてしまうので。おかげで、一日着てたけど、着崩れしないで済んだ。

コスプレイヤーに混じっての街歩きは、キモノでも全然目立たず。

【みどり】midorigo@mac.com

やっほー! ついにベルルスコーニ首相退陣! 経済的犯罪で起訴されても、まーーーったく動じず(どこかの国にもいたな)、逆に裁判官に対する法律を変えようとまでした御仁。コネ社会のイタリアを具現した人。一般サラリーマンの給料半年分を一晩で「エスコート(コールガール)」一人に使って、「国民に選ばれた」と威張ってた人。でも、国民が選んだのは本当だ。国定資産税を廃止! と叫んで票を集めた。目先だけで先を見なかった国民、というのもどこかの国にあったな。

新しい内閣では政治家を入れず、専門家のみ。40%の家庭が月末まで持たずに常に赤字で若者は学校を出ても定職がなく、将来設計ができないイタリア国民の期待を背負っての登場。早速固定資産税を復活させ、議員たちの収入にもメスを当てるという。今までの仕事を投げ打って、国会議員の仕事に専念し、収入はそれだけ、という人の収入を減らすのはお気の毒だけど、議員収入、名前だけの役員数件兼任、などで、一般サラリーマンの一年分の給料より多い額を毎月得ている...という例は、どう考えても変だ。

ベルルスコーニは、首相はやめたが政治家は辞めてないそうだ。企業家でもあり、様々なところに顔がきく。今まで通りのコネを求めて、群がる人はいなくならないだろう。イタリア人のコネ好きの具現だから、価値観などが変わらない限り、あまり変わらないのではないかと思う。

一振りで全てが解決する魔法の杖はないということ。日本でもそうだけど、生きることの価値ってなんなのか、しっかりと自分の頭で考える人が増えていくように、考え始めた人が次へと伝えていくしかないのでは、と思う。
気が遠くなりそうなことだけど、急がば回れ。

イタリア語の単語を覚えられます!というメルマガだしてます。
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