歌う田舎者[28]愛と死を見つめて/もみのこゆきと

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♪まこ〜 げんきになれずに ごめんネ〜♪
元気になれない病気なのである。なぜなら子宮内膜症は、閉経するまで、生理のたびに悪化していく病気なのだから。

つい先日、世界自然遺産の島・屋久島に出張した。南の島といえば、やはり宝塚風クサい南洋のラブロマンスではなかろうかと、予定稿を書きかけていた。

「この島で、ぼくはずっと君を待っていたのかもしれない」
「わたしたちが巡り合ったのは、森の妖精の魔法なのかしら......」
「あの屋久杉には、縄文の昔から神様が宿っているんだ。君の願いごとはなに? 神様にお願いしたら、叶うかもしれないよ」
「願いごと? ......いやよ、恥ずかしいわ」
「いいじゃないか。聞き耳を立てているのは、もののけ姫かヤクザル大王くらいさ」
「あぁ、陽が差しているのに、雨が降って来たわ」
「この島は雨の島なんだ。ほら、虹が橋を架けた......」
「きれいね。手をかざしたら、指の隙間を通り抜ける雨が指輪みたい」
「ハニー、それはぼくからのプレゼントだよ。ごらん、木々の枝にとまる雨の粒が、ダイヤモンドのようにきらきら輝いている。あれがぼくたちのクリスマスツリーさ」

ちっ。甲斐性のない男だねぇ。雨粒の指輪なんかでだまくらかしてるんじゃないよ。そんなもん、宝石・金買い取り専門店に持ってっても、一銭にもなりゃしねぇ。ったく冗談じゃあないよ。そんなことを思ったそこの貴女、心が汚れています。反省しなさい。え、それ、わたしですか? すいません。

余談ではあるが、屋久島の電力はほぼ水力発電である。電気事業法では九州電力に電気の独占供給権が与えられている地域だが、この島だけは法の例外となっており、島内の半導体材料等製造メーカーが電力供給を行っている。ただし電力料金は九州電力より割高である。反原発の方も推進派の方も、この島の状況から何らかのヒントを読みとれるかもしれないので、勝手に研究したまえ。うふん、「歌う田舎者」って勉強になりますこと。皆さま、これでまたひとつ賢くなりましたわね。

さて、出張一日目の仕事を終えて、予約していた民宿にたどり着いた。部屋の引き戸を開けて荷物を下ろすと、隣の部屋との仕切りが壁ではなく襖である。ほほぅ、襖ですか。風流ですなぁ。襖と言えば、もちろん下張りに春本が隠されていないかチェックするのが文化人の勤めであるので、ためつすがめつ確認を行ったが、残念ながらそのようなものは発見されなかった。




......っつーか、襖ってなに! 襖って鍵もなく開いちゃうんだぜ! 隣に宿泊してる人のマヌケな寝顔を覗けるんだぜ! 隣の宿泊者が美女の匂いを嗅ぎつけて、わたしの部屋に侵入したらどーすんだ! 美女は神秘的でなければならんのだ。よだれを垂らした寝顔など、絶対見られてはならんのだ!

しかし、襖も蹴破らんばかりに暴れまわり、隣の宿泊者まで起こすという乱暴狼藉を働いたのはわたしの方であった。夜明け前から子宮内膜症の激痛がはじまり、うんうん唸りながら部屋中を転げまわることになってしまったのだ。

さて、僭越ながら、ここで君たち可愛いベイベーに、女体の神秘について、愛の性教育を授けようと思う。デジクリ読者諸兄におかれましては「えっ、子供の作り方? そんなのわかんなーい! コウノトリが運んでくるんじゃないの?」などといううつけ者はおられないと思われるが、一応耳を傾けていただきたい。

子宮というものは「精子クンは、今日お渡りになられるかしら」と、いつも準備を整えて待っている器官である。その準備とはすなわち、お渡りになった精子クンが、ふかふかのベッドでお休みになられるように、子宮内部に内膜という布団を整えておくことである。ところが、いつまでもお渡りがないと布団が古くなってしまうので、一カ月経ったら、古い布団を捨てて新しい布団に入れ替えるのであるが、これが生理である。

このような営みを毎月繰り返すなか、目出度く精子クンがお渡りになられたら、♪こんにちは〜 あっかちゃん〜♪ となるわけなのだが、精子クンをお迎えする内膜が、子宮内部ではなく、子宮筋層の中や卵巣、卵管、直腸、ダグラス窩、果ては盲腸、膀胱、肺などの間違った場所にはびこることがある。これが子宮内膜症である。

間違った場所にできた内膜も、生理のたびに剥離出血を起こすので、悪化すると出血箇所で内臓の癒着を起こし始める。子宮内膜症の症状として一番多いのが、ひどい生理痛である。

まぁ、これがとにかく痛いのだ。病気ドラマの双璧といえば、吉永小百合の「愛と死を見つめて」か、山口百恵の「赤い疑惑」ではないかと思うのだが、あんな美しい病気であれば、そりゃ浜田光夫も三浦友和も手を差し伸べるであろう。しかし、わたしの場合、狂った野獣が涙と鼻水垂らしながらのたうちまわるの図になるので、百年の恋も冷めはて、男は皆去って行くの巻なのである。

最近では生理期間以外でも激痛が起こるようになり、今回の屋久島のアクシデントで、わたしはもう半分くらい覚悟した。もうええわ! 子宮取ったる。こんなんがいつ起こるかわからんのじゃ、人生何の計画も立てられんわ!♪さらば〜子宮よ〜旅立〜つ船は〜♪

宇宙戦艦ヤマトなど歌ってる場合ではないのだが、薬で抑えることができなくなれば、最終手段は子宮全摘しかない。そりゃ子宮全摘すれば子供はできないわけだが、わたしが今さら子供など作ったら、ギネス公認・高齢出産薩摩藩一などと認定されるかもしれないではないか。そのような屈辱には到底耐えられない。

もとい、カミカゼ・ハラキリは日本人の文化であるからして、ここで一発、ハラキリくらい体験しておけば、より一層ヤマトナデシコの美しさに磨きがかかるやもしれぬ。ここは凛々しく、手術台でまな板の上の鯉になり「煮ようが焼こうが勝手にするがいい!」と、医者に啖呵を切ろうではないか。

しかしながら、肩で風切り誇大妄想ばかりほざいていると言われるわたしも、実際は気が小さくて怖がりのかわいこちゃんであることは誰にも知られていないし、わたしも知らない。本当にハラキリとなると、麻酔の注射を見ただけで、ショック死してしまうかもしれない。

もしも死んでしまったら、一番気がかりなものは、パソコンである。なぜなら、パソコンの中には趣味嗜好などの恥ずかしい個人情報がぎっしり記録されているからだ。あ、いえいえ、あたくしのパソコンにはそんなものカケラもございませんけどね、えぇ。あたくしの気がかりなのは、AMAZONで買い物するためのIDパスワードとか、twitterのアカウント情報とか、そんなレベルですわよ。

あえて、あ・え・て、恥ずかしい情報をあげるとすれば......そうでございますわねぇ、たとえば今回のデジクリを書くにあたって「四畳半襖の下張」をググりまくったので、それがブラウザのキャッシュに残されていることかしら。あとで情報を再確認するために、関連サイトをお気に入りなどに入れてもおりますわ。

もっと詳しくリサーチが必要ではないかと、あちこちネットを彷徨ったので、クッキーにも怪しげなものが記録されているかもしれません。でも、これはすべてデジクリのために調べたわけであって、あたくしの趣味嗜好なんかじゃないんですのよ。わかってますわよね、もちろん。

それなのに、あたくしの死後、パソコンを覗いた人間に「こいつ、四畳半襖の下張とか見てやんの、くくく」などと言われては、清廉潔白純情可憐なあたくし、死んでも死にきれませんわ!!

え? なんですって? お気に入りに「チャタレイ夫人の恋人」や「O嬢の物語」「エマニエル夫人」も入ってる? おーほほほほほ。古今東西の官能の名作を知らずして、文化人とは言えませんでしょう? つまらない質問ね。これだから下々のものたちには困りますわ。

え? 起動したら勝手にどこかのサイトに接続して、山のようなポップアップ画面でパソコンがフリーズした? 怪しいアダルトサイトを見たんじゃないか......ですって? んまぁ、失礼ですことよ。それは山のようなポップアップを立ち上げるためのJAVASCRIPTの書き方を、ソース表示で学んだだけですわよ。美女は美しいだけでなく、スキルアップにも励んでいるという証拠ですわ、ほほほ。

そんなわけで、死後のパソコンの始末について何かいい方法はないものか、ネットを彷徨っていたところ、このようなものを見つけた。

【自分の死後、アカウントの面倒みてくれるwebサービスについて調べた】
< http://matome.naver.jp/odai/2130301787282357401 >
【自分が死んだときパスワード等を近親者に配布してくれるサービスPassMyWill】
< http://ameblo.jp/it-help/entry-11038316538.html >
【窓の杜「僕が死んだら」】
< http://www.forest.impress.co.jp/article/2007/12/19/okiniiri.html >
【死んだ時 HDD どうするの?おまえら】
< http://logsoku.com/thread/hato.2ch.net/news/1288272434/ >

ほっほー、なるほど。facebookなどは、登録者が死んだら追悼アカウントという扱いになるとのこと。「このユーザーは○年○月○日に逝去されました。享年○○歳。合掌」とニュースフィードに現れたら、「いいね!」ボタンを押せばいいんだな......いいのか? もしかすると追悼アカウント用に「焼香」ボタンとか「読経」ボタンなどという隠しコマンドがあったら、マーク・ザッカーバーグを褒めてつかわそう。

しかし、死んでまでアカウントを残しておくのも美女の哲学に反する。立つ鳥跡を濁さず、この世の残骸は、すべて三途の川に捨てていくのが潔い死に方ではないのか。各種アカウントをすべて削除したあと、絲山秋子の「沖で待つ」的に、物理的にHDDを破壊するのが一番ではないかと思うのだが、他人に依頼して破壊してもらうというのがどうも安心できない。

ちなみに、絲山秋子の芥川賞受賞作「沖で待つ」では、主人公が、同期男子と「どちらかが先に死んだら、生きてる方が死んだ奴のパソコンのHDDを破壊しよう」と協定を結んでいたが、不慮の事故で同期男子が亡くなり、主人公が彼の家に忍び込んで、HDDを破壊するお話である。

やはり脳に埋め込んだ生命反応送信チップから信号が送られなくなったら、すべてのアカウントを削除する処理を自動で走らせたあと、パソコンと、ついでにスマホも自爆するという仕組みが一番よさそうなので、誰か作ってはくれまいか。

死後のパソコンの始末についても方向性が定まったところで、「さぁ、切れ、切ってくれ」とばかりに、雄々しく悲壮な覚悟で、別の病院にセカンドオピニオンを聞きに行ったところ、長い長い待ち時間の末に「うーん、別に切ることはないんじゃないですかねぇ。切っても治らないかもしれないし」という箸にも棒にもかからない回答が。これだから大病院の先生はイヤである。この付き合いきれない子宮をどうすりゃいいというのだ。

2011年の暮れ、ますます混迷深まるわたしの腹の中である。

※「愛と死を見つめて」青山和子
< >
※「もののけ姫」宮崎駿
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00005Q4I3/dgcrcom-22/ >
※「ヤクザル大王」椋鳩十
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4861241170/dgcrcom-22/ >
※「四畳半襖の下張」大鶴義丹・村上あつ子
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000AMZ2EM/dgcrcom-22/ >
※「こんにちは赤ちゃん」梓みちよ
< >
※「赤い疑惑」山口百恵・三浦友和
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00031YCQY/dgcrcom-22/ >
※「沖で待つ」絲山秋子
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4167714027/dgcrcom-22/ >

【もみのこ ゆきと】qkjgq410(a)yahoo.co.jp
働くおじさん・働くおばさんと無駄話するのが仕事の窓際事務員。かつてはシステムエンジニア。病気の正しい知識はお医者さんに訊ねましょう。

通勤バスに揺られながら、ハラキリするかしないか物思いにふけっていたところ、目の前に「K-POPワールド展」のポスターが。「12/3 JUNO来鹿決定!」と書いてあるが、K-POPに興味がないので誰なのかさっぱりわからない。そこでK-POP好きの妹にメールした。

「JUNOって誰だよ、有名か?」
「東方神起のジュンスの双子の兄ちゃん。鍛え上げられた肉体が売り」
「ほー。400名招待だとよ」
「そりゃ、全員と握手orハグorハイタッチありだね。行くべし。若い男に触るべし。更年期の薬飲むよりK-POP」

というメールが来た。妹よ、わたしは更年期ではないのだよ。ぷんすか。いや、しかしひょっとするとヘタな薬飲むより、若い男に触ったほうが、ホルモンバランスも整うような気がしてきたぞ。その鍛え上げられた肉体に触ったら、御利益があるかもしれん。ありがたやありがたや。......すっかり行く気になったのだが、その日は出勤日であった。うぅ、口惜しや。

くそぅ、こうなったら見境なく若い男に触りまくってやるぞ。いきなりわたしに抱きつかれた若い男の諸君。怒らないでほしい。これは治療であるからして、セクハラではないのだ。わかったな。