気になるデザイン[72]「色」が決め手の二冊の本に魅せられて/津田淳子

投稿:  著者:  読了時間:6分(本文:約2,800文字)


東京はここ数日雪がちらついたりと、大寒を過ぎいよいよ寒さ本番。寒い季節も好きで、何度かこの時期、北海道の釧路湿原や屈斜路湖あたりに遊びにいって、明け方、露天風呂に入り、濡らしたタオルをブンブン振り回して「わーい、凍って棒みたいになったー!」と遊んだりもしております......。幼稚すぎてすみません。

今年も、毎週二冊、気になったブックデザインの書籍をご紹介していきたいと思います。

一冊目は『だから、僕らはこの働き方を選んだ』(馬場正尊、林厚見、吉里裕也著/ダイヤモンド社刊/1500円+税)装丁は尾原史和さん(SOUP DESIGN)、本文デザインは本庄浩剛さん(SOUP DESIGN)。
< http://www.diamond.co.jp/book/9784478015261.html >

書店でこの本を目にすると、微妙というと語弊があるが、ささやかな黄色のカバー、そしてそれとちょっと違う暖色系の黄色が、これまたささやかに再現された帯に、なんだか心惹かれて手に取ってしまう。

すると気づくのが、本の地や天部分、帯裏などから黄色い色が発光しているかのように見えること。慌ててカバーや帯を取ってみると、なるほど、これはカバー、帯の裏側に黄色が刷ってあり、それが紙が若干透けて表に色が見えているのだ。それも、カバー裏は蛍光イエロー、帯裏は暖色系の黄色を刷っているために、カバーと帯が少し違う色に見えていたのだ。

カバーを取った表紙も、そして見返しも蛍光イエローで刷られ、扉は帯と同じように、裏に暖色系の黄色が刷られている。




細かいことを話すと、カバーも帯も扉もすべて、包装紙に使われるような「片艶晒クラフト紙」を使っている。この紙は、片面は金属ロールでキュッと潰しているのでかなり平滑、裏は大げさに言うと毛羽立ってガサガサした、表裏差のある紙。

カバーと帯は、この紙の裏面を表にして使用し、なおかつその上からPPフィルム貼り加工をしているので、ツルッとしたフィルムの表面ながら、下地の紙のザラザラが影響して、ちょっと不思議な感じになっている。

本書を読んでも、明確にこのカバーや帯、扉のデザインの意図はわからない。でも、なんだか自由に会社と社会とで働き生きてゆく術が書かれている本書の、その自由な感じが、この自由なデザインに通じているように感じた。なんといっても、一見わからないけど、気づくとなるほどとなるブックデザインはおもしろい。

もう一冊は、『ソーシャルデザイン ──社会をつくるグッドアイデア集』(グリーンズ編/朝日出版社刊/940円+税)。ブックデザインはグルーヴィジョンズ。
< http://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255006222/ >

この本は、「『これからのアイデア』をコンパクトに提供する新シリーズ〈アイデアインク〉」と銘打たれた朝日出版社の新しい書籍シリーズンの第二弾。実は第一弾の『情報の呼吸法』も買いたかったのだが、二度ほど書店を巡っても売り切れで出会えず。

Twitterでこのシリーズが非常に話題になっていて、どんどん増刷している様子を伺い見ても、正直こういう内容の本にそれほど大きく興味を持っていなかったこともあり、ネットでも即注文ということはしなかった。

年明け書店に行った際に、お店に入ってすぐの平積み台に、この『ソーシャルデザイン』が並べられていて、「おお、これが話題の」と思って手に取った。するとこの本、カバーや表紙が薄いグリーンの紙でできているのには驚かなかったが、本文用紙が同じ薄いグリーンの紙でできていた。これには驚いた。うーむ、すごいな。

カバーも表紙も本文も、すべて同じ「紀州の色上質〈若草〉」という紙が使われている(たぶん)。こんな薄グリーンの本文用紙が使われた本を読んだことがなかったので、ついつい購入。

読み始めてみると、本文用紙が薄いグリーンでも、特に気になったりいやだったりすることもなく、スッと読める。内容もわかりやすく面白かった。

本書の紙も注目したポイントのひとつだが、本のサイズも大変いいと感じた。B6変型サイズで、縦はB6と同じ、横幅を少し(多分10mm)落としてスマートにしている。新書よりも少し幅広で(背も高く)安定した感じがあり、でもB6正寸よりはスマートで新鮮さがある。表紙が薄めなことも相まって、本がしなやかに開いて読みやすさも抜群だった。

この本は、このブックデザインじゃなければ買わなかった本。こんなふうに、内容以外の面で後押しされて買い、おもしろい本に出会えるというのが、ブックデザインの持つ大きな力だと、改めて感じたのでした。『情報の呼吸法』もぜひ書店で出会ってみたいものです。

とまあ、今年も本三昧になりそうな予感をひしひしと感じ、どんな本に出会えるのかのわくわくと、またお金がなくなる......というドキドキ感いっぱいの1月なのでした。

※昨年1年、気になるブックデザインをご紹介してきましたが、来月始めに発売予定の『デザインのひきだし15』では、「デザイン誌編集長、デザイン書編集者が選ぶ2011年ベスト・ブックデザイン」という記事を掲載し、私も2011年にジャケ買いした本から10冊を選んでご紹介しています。来月になりましたら、ぜひ書店店頭でご覧ください!

※今週の金土日(27日〜29日)、神保町の東京古書会館で「小口絵の世界へ」という展示会が行われます。詳しくは以下のWebで見ていただければと思いますが、本の小口(断裁面)を斜めに倒すと絵が出てくるという、日本ではほとんど知られていなかったすごい本が108点も一挙に展示されます。

ブックデザインや本にご興味のある方はぜひこの貴重な機会にご覧ください。28日は、デザイナーの奥定泰之さん、文書管理コンサルタント・フォント研究をなさっている長村玄さん、僭越ながら私、そしてゲストとして作家のモブ・ノリオさんもおいでになり、座談会が開催されますので、よろしければそちらもお越し下さいませ。
< http://dhikidashi.exblog.jp/ >

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp twitter: @tsudajunko
デザインのひきだし・制作日記 < http://dhikidashi.exblog.jp/ >

『デザインのひきだし14』の巻頭特集は「表面加工 A to Z」さまざま実物サンプルが満載! そして今号の表紙は超ど派手な表面加工+小口多色刷り。全国の書店にて好評発売中です。

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