[3192] 2012年MANGAセミナーの決意

投稿:  著者:  読了時間:30分(本文:約14,500文字)


《スケッティーノ! スケッティーノ!》

■買物王子の家づくり[21]
 まだあった入居前にやること
 石原 強

■ショート・ストーリーのKUNI[110]
 メール
 ヤマシタクニコ

■ローマでMANGA[48]
 2012年MANGAセミナーの決意
 midori




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■買物王子の家づくり[21]まだあった入居前にやること/石原 強
< http://bn.dgcr.com/archives/20120126140300.html >
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トラブルを乗り越えながら工事が進行していきます。平行して、新居に必要なものを揃えたり、いらないものを処分します。引っ越し前の仕上げとして、床の無垢フローリングにワックスを塗る作業も待っていました。

●エアコンとテレビを買いにいく

工事に含まれないものは、別途、自分で揃えなければなりません。必要なものの代表は「エアコン」です。すべての部屋に揃えると、合計5台必要になります。このタイミングで出費が厳しい。冷房が必要な夏までは、必要最低限で我慢します。唯一、家族が集まるダイニング。ここは階段があって上下に抜けているので床暖房だけだと寒そうです。

まずはヤマダ電気で下見をします。白い箱が並んでいるだけで、どれも一緒に見えます。普段はカタログで比較して決めるのですが、今回は店員さんに相談しました。

設置する部屋を説明するために図面を見せて、広さは10畳くらいと伝えると、15畳対応の5.6kwのものを薦められました。パワーで価格が違うので、もう少し小さいのでもよいのでは? と聞くと「カタログスペックはあくまでも目安。火を使うキッチンがつながっているので、冷房が十分に効くようにするためにパワーに余裕を見たほうがいい」というアドバイス。なるほどと思います。

最近話題の「お掃除機能も欲しい」と話すと「配管は壁に穴をあけるタイプですか?」と聞かれた。天井裏に隠す「隠蔽配管」の予定と伝えると、メーカーによって設置できない場合があるとのこと。対応できるメーカーの中で薦められたのは日立のエアコンです。もうすぐ新製品が出るので、同じクラスで比較すると他社より少し安くなるらしい。

懇切丁寧に教えてくれたし、ここで決めてしまおうかと思ったけど、ここは冷静にと、名刺に見積金額を書いてもらいました。家に帰って「価格.com」で検索すると、工事費と延長保証込みでヤマダ電気の見積より安いお店を見つけて注文しました。ごめんなさいヤマダ電気さん。

リビングのテレビは、引っ越しするまで我慢していた念願の買い替えです。これまでは、一人暮らしを始めて買ったソニーのブラウン管のアナログテレビを10年以上使ってきました。地デジで見られなくなったけど、あまり家でテレビを見ないので、安価なチューナーを買って良しとしてきました。

買い替えるなら、やっぱり大画面のものが欲しい。デザインが好きなので、引き続きソニーの液晶「ブラビア」にします。ネットの口コミでは46インチが迫力あっていいと書いてあり、お店で見比べてもハイスペックなものに目がいきます。しかし、その分金額も高いので泣く泣く40インチで諦めます。

アナログチューナーしかついていないDVDレコーダーも、ブルーレイに買い替えます。テレビとレコーダー同時購入だと、ヤマダ電気でセットのボーナス10,000ポイントが付くからです。これならリサーチしたネットショップよりも安い。文句なしで即決しました。

●モノを減らす減らす

増やすモノがある分、できるだけ持って行くモノを減らしたい。そもそも劇的に収納が改善するわけではない。2人の息子のモノは日々増えています。持っていっても捨てるのなら、先に減らしてしまったほうがいい。これまでも様々なものを買い込んで溜め込んでしまうタチなんですが、ここは一念発起して捨てることを決意しました。

家を見回して見ると、スペースをとっているものの筆頭は洋服です。これを処分する。「片付けの達人」みたいな人の記事を読むと、「だいたい3年着なかったら捨てるべき」と書いてある。確かに着なくなると避けていって、タンスの肥やしになっていくことが多い。もったいないと思ってもどうせ着ないのなら邪魔なだけだ。3年でと割り切れない服もあるけれど、大きなビニール袋に放り込んだらあっという間に一杯になりました。

コートとか、ジャケットとか、あまり着込んでなくてキレイなものは、友人にメールで連絡して譲ってしまう。あとは近所のリサイクルショップに持ち込んでみた。スーツは「サイズが合う人が少ない」と言われて引き取ってくれなかったけど、コートはOKということで、少しだけお金にかわった。

それから本。これも本棚からはみ出して山のようになっています。これも減らす。シリーズで揃えているマンガもまとめてブックオフに買い取ってもらう。いらないものを処分する。持っていかれる前に一度は読み返したいので、シリーズごとに袋を分けて詰めておきます。結局、時間がなくてそのまま処分してしまいました。

iPodで聴くためにデジタル化した後、CDはすっかり使わなくなりました。本と一緒にすべて処分しました。期待はずれで、もう見ないだろうと思うDVDも含めます。保存用と思っているDVDも、そのうちVODのタイトルが充実したらいらなくなるだろう。トータルで購入額の1割にもならないけど換金できました。

そのほか、雑貨、コレクションしていたおもちゃなども処分しました。それでも収納は一杯なままで、まったく減ったように見えないのは何故だろう...、まだまだ処分を続けないとダメみたいです。

●床は自分で仕上げる

ついにこの日がきました。最後の仕上げとして、無塗装のフローリングにワックスを塗るのです。フルヤさんからお薦めされたのは、「未晒し蜜ロウワックス」です。ネットでチェックすると、原料はミツバチの巣から作る蜜蝋、荏ゴマ油のみということ。床にはいつも息子ふたりが寝転がるので、天然のものなら安心できます。
< http://www.mitsurouwax.com/cont03/ >

思ったよりも小さな缶に入っていました。自然できれいな黄色のワックスです。きつい匂いもありません。ヘラでスポンジに塗り付けて、少量を薄く伸ばすのがコツということ。最初は、三階の子供部屋からスタート。ワックスが乾くまで一日程度かかります。その間、部屋には入れないので、部屋の奥から出口に向かって塗り進めます。

少しずつ塗って、布で拭くのを繰り返します。フルヤさんの見よう見まねで作業を進めます。半分ずつ塗り進めましたが、僕の塗ったところの方がムラになっているように見えて残念。それでも作業を続けていくと、徐々にコツがつかめてきました。

スポンジにはパンにバターを塗るように薄くまんべんなく広げて、上から塗るというより木目に沿って擦り込んでいくようにすると具合が良いようです。塗った後は、木目がはっきり現れてきます。無塗装の白い色もきれいだったけど、木の質感は塗った後のほうがいい。

フルヤさんには「慣れないと大変だし、楽しんでやってください。疲れたら終わりにしていいです、残りはやっておきますよ」と声をかけられました。四つん這いで作業を続けるのはキツイ。でも、自分の家なのだからできるだけ自分の手でやっておきたい。

三階の二部屋が終わったので、二階に移ります。フルヤさんには階段をお任せして、リビングを塗って行きます。途中、休みをとりながら小一時くらいでリビングが終わりました。ちょっと上手くなった気がします。

リビングを半分まで塗り終えたところ
< http://bn.dgcr.com/archives/2012/01/26/images/01.jpg >

三階に比べると塗りムラが少ない。その勢いで一階の寝室に進みます。最後はキッチン、ダイニング、最後に玄関と進んで、すべての床をなんとか塗り終えました。ちょっとした達成感と、ここが「自分の家になる」という実感が湧きました。

翌日起きると身体が痛い。ワックス塗りを頑張りすぎたせいなのか、肩とか腕とか普段使わない筋肉を使ったみたいです。四つん這いで作業を続けたので膝も痛い。一回塗りで仕上がるワックスで良かった、正直これを二度やるのはキツイです。入居後の家の手入れは、床に限らず「手間がかかりそうだなあ」とちょっと不安になったのも確かです。

【いしはら・つよし】tsuyoshi@muddler.jp
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前にも増して他の家にも興味を持つようになりました。漫画家山下和美さんの「数寄です!」は、東京に自宅の数寄屋を建てるという話です。建てる動機はまったく違うけど、土地探しで迷ったり、家づくりを建築家と議論するところは似ているところもあって面白い。大工さんに差し入れするタイミング、なんて同じように悩んだなと思います。建てるための金策で悩むところもリアルです。どの家にも、それぞれオリジナルのエピソードがあるんですね。

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■ショート・ストーリーのKUNI[110]
メール

ヤマシタクニコ
< http://bn.dgcr.com/archives/20120126140200.html >
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何らかの理由で届かないメールがある。
Mail Delivery Systemとかのよくわからない英文とともに送り返されるメール、ならまだいいが、それもないし、確かにこっちの送信済みメールの中には入っているのに、相手には届いていないらしいメール。これらのメールはどうなっているんだろう?

うわさではメールの国の地下世界に、それらのメールたちのたまり場があるらしい。私が想像するに、そこはSF映画に出てくるような複雑な曲面で構成された階層構造を持ち、全体は巨大な樹木のよう。そしてブルーとグリーンの光がたゆたう幻想的な世界。たぶんね。

そしてそこで、届かなかったメールたちは日がな一日、うんこ座りしたりねそべったりしてはぐちを言い合っている。

「ああ退屈だなあ」
革命研究所メールが言う。
「まったくだよ。何の因果でこんな」
大谷ハルメールが言う。

「見なよ。上の方ではあんなにいっぱい、ろくでもないメールが行き交ってるというのに」

断っておくが、革命研究所メールとは送信者のアカウントが「革命研究所」であるという意味、同じく大谷ハルメールは送信者のアカウントが「大谷ハル」であるということだ。

革命研メールが指さした上層部では高速でメールたちが行き交い、ひとときもじっとしていない流れのようだ。
「見ろよ。いかにもなぴかぴかスパム野郎が集団で行くよ。けっこうな数だ」
平田源五郎メールが言う。

「一見かっこつけてるけど頭悪そ」
「6000万円差し上げますとか、簡単に恋人が見つかりますとかいうんだ」
「ああいうのがどんどん届くのにおれたちは届かないってどういうことだ!」
大谷ハルメールが毒づく。

「まったくだ。とはいってもおれの場合、先輩に向けて『先日お借りしたあの、とてもタイトルを書けないDVDの×××××、すいませんがもう少しお貸しいただけますでしょうか』というメールなんでたいしたことないといえるし、それより戻ってきたら自分でもはずかしい、ていうか、ひょっとしてそれを彼女にでも見られたりしたら目も当てられない、ような? だから、おれがここにいるほうが送信者にとってもいいことかもしれないんだけど」
革命研メールが言った。

源五郎メールも言った。
「まあおれの場合も、大したメールじゃない、どころか件名だけ書いて本文書くの忘れて送信してしまったというケースなんだよ。何考えてんだ平田源五郎」

ハルメールも言う。
「おれの場合は息子にあてて『先日送った梅干しは塩と砂糖を間違えて漬けてしまったものなので、できれば食べてほしくないけど手遅れならいいです』という内容で、書いた本人が言うんだから別にいいとも思うんだけど、それにしたって親の愛情がつまってるじゃないか。一応。おまえらとは違うんだぜ、スパム野郎!」

「怒鳴ったって聞こえないさ」
「あいつらだってほとんどは着いた途端にゴミ箱行きだぜ」
「でも届かないよりいいじゃないか」
などと話していると「ああっ」と小さな声がして、上のほうから落下してきたものがいる。
どさっ。

「新入りだ」
「どうした。アドレス間違いか」
「痛たた・・・そうみたい」
新入りはしくしく泣き出した。

「泣くなよ」
「だれだって最初はショックだ。張り切ってビュン! という効果音とともに出発したのにこんなところに落とされて。だけど仕方ない」
新入りメールはしばらく泣き続けたが、やがて泣くのに飽きたようだ。あたりを見回し
「ここって...うわさのメールの墓場?」
「墓場だと?!」
「縁起でもないこと言うなよ!」
「おれたちはゾンビか!」

「まあまあ。怒るなよ、新人相手に」
革命研メールがとりなした。新入りがみんなを見回しながら言った。
「あたし...永遠にここにいなきゃいけないの?」
新入りの送信者は「ヒロキ0208」というらしい。

「永遠、といわれると」
「ちがうような気がするなあ」
「おれたちにもよくわからないけど、ここにいられるのも期限があるらしい」
「ものすごい数だからなあ。メールって」
「物理的に不可能」

「それに、その期限が来なくても消滅していくやつがいる。用済みのメールは消えていくんだ」
「用済み? どういうこと?」
「メールの用件そのものがもう、済んでしまったものはめでたく成仏、じゃない消滅できるんだ。たとえば『今日のオフ会、都合で行けなくなりました』というメールはオフ会が済めば不要だろ?」

「仕事のデータを送ったとか受けたというメールも、その仕事が終われば不要だし」
「でも、そんなのじゃないメールもたくさんある。おれたちメールも、送信者の気持ちもちゅうぶらりんなまま」
「それでも、いつかかたをつけなくちゃならないのさ」

「けっこうシビアなのね」
ヒロキメールはため息をついて下を向いた。
「あんたは...ひょっとして告白メールかい?」
ハルメールが好奇心を抑えきれず聞いた。

「告白、じゃあないけど。中学生の男の子が同じクラスの女の子に送ったメール。ほんとは、心の中ではその女の子が好きなんだけど、それを必死で隠してて、それどころか...デブだとか大根足だとか言ってからかって、それでその子は泣きだしたの。それをすっごく後悔して...ごめんなさいメールだったの、私」
「思春期だ!」
「なんて甘酸っぱい!」

「おれたちとはちょっとちがうな」
「届けなくちゃいけないだろ、これは!」
「でも、君がここに落ちてきたってことは、その気持ちは届いていない」
「そうなの...送信できなかったこともわかってないよね」
「このままじゃ本人、ヒロキは、ごめんなさいメールを出したのにシカトされてる、と思ってしまう...」

「世をはかなむ...」
「ぐれる...」
「あばれる...」
「ろくな大人にならない」

「えーっ! そんなあ!」
ヒロキメールはまたしくしく泣き出した。落ちてきたときみたいに。
「泣くなって」
「だって...」
「かわいそうだけど、おれたちにはどうすることも...」

「できないことはないんだけどな」
革命研メールがすっくと立ち上がって言った。
「え?」
「なんか方法あったっけ?」
「可能性は低いけど」革命研メールは言った。
「時々上の方をMail Delivery Systemが通るだろ」
「ああ、あのこわもておやじ」
「あいつが通ればみんな道をよけてくれるってうわさの!」

「Mail Delivery Systemは先方が受けてくれなかったメールを送信者のもとに連れて帰るわけだけど、ひょっとして、まさにヒロキ0208のもとに向かっているところを発見できたら、それに便乗することができるじゃないか。せめて元の送信者のところに戻れば打つ手はあるというもんだ」
「それはいい考え...いや、でもものすごく確率低いよ」

「メールが何通あると思ってるんだ!」
「スパムの群れのかげに入ったらまず見分けられない」
「それに、いつもかなりの高速でどどどどど! と走るから、声をかけることもできるかどうか...」
「無理だぜ」
「そうだなあ」

「あきらめるか...」
と思ったとき、突然ヒロキメールがつぶやいた。
「あ、あそこ」
「え?!」

みんなはヒロキメールが指さすほうを見た。上のほうの道をたったいま、あごひげを生やし、筋肉隆々の全身褐色男が大木のような、いや、縄文杉みたいな足でどかどかと通っていく。
「Mail Delivery Systemだ!」

なんで今日に限ってはっきり見分けられたかというと、妙にゆっくり歩いていたからだ。そしてその理由はすぐわかった。Mail Delivery Systemときたらもともとでかい身体なのに両手、背中、脇腹に、都合17件ものリターンメールを抱えて、ほとんど「小山」と化していたのだ。そしてのしのしと移動する小山の胸には「全部ヒロキ0208行き」と書いたゼッケンが!

「まともにメール送れないのか、おまえの送信者は!」
「テストでも間違い多そう!」
「ひとごとながら心配になるぜ!」
「しっかりしろよヒロキ!」

みんなにあきれられながら、ヒロキメールはMail Delivery Systemに大きな声で叫んだ。
「おーいMail Delivery System! 私も連れてってー!」
みんなもいっしょに叫んだ。
「デリバリおやじー!」
「連れてってやれー!」
「もうひとり増えてもいっしょだろ!」

気づいたMail Delivery Systemはにかっと白い歯をむき、ベースギターみたいな声音で答えた。
「オケ」

そしてほかのメールをひとまとめに抱えると、空いた片手をぐーんと下に伸ばした。そこへ思いっきりジャンプしたヒロキメールが飛び込むと、まるで吸い込まれるように小山の一角におさまった。Mail Delivery Systemは合計18のリターンメールを抱えたりかついだり頭にのせたりしてどすどすと去っていった。

「ふうっ」
「一件落着か」
「ラッキーなケースだったな。普通はあんなに簡単にMail Delivery Systemに便乗できるもんじゃない。いやあうらやましい」
「おれなんか正直、戻りたくないな。戻ったらすぐに削除されるだけだし...」
源五郎メールがしみじみ言った。

まったく、メールに愛想をつかされるような送信者にはなりたくないものだ。

【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
< http://midtan.net/ >
< http://yamashitakuniko.posterous.com/ >

部屋の片付けをした。何年も(10年以上?)手をふれていなかったところからは、出るわ出るわ、もう使ってないソフトの付属マニュアル、もう使ってないプリンタやスキャナのドライバ、はてはワープロ(Rupoでした)のインクリボンやフロッピーなど、いくら捨てるのが苦手な私でもさっぱり捨てられるものが続々。はい、今年こそちゃんと整理します。

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■ローマでMANGA[48]
2012年MANGAセミナーの決意

midori
< http://bn.dgcr.com/archives/20120126140100.html >
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●風が吹くと桶屋が儲かる

1月に入って、ローマのマンガ学校で私のMANGAセミナーが始まった。セミナー関係は金曜日と決まっている。第一週の金曜日は6日で、「ベファーナ」という祭日で学校は休み。だから13日の金曜日が2012年度第一回の授業となった。

お聞き及びかとも思うけれど、大型クルーズ船コンコルディアが中部イタリアのジリオ島付近で座礁した日だ。不幸にも死者も出て、さっさと逃げ出した船長に世界中が呆れた事故が起きた記念すべき日だ。

今年のMANGAセミナーのあり方を書くのに、どうしてもベースになっている私のあり方に触れないわけにいかない。風が吹くと桶屋が儲かる...くらいの因果がある。

それは幼い頃に得た性癖がベースになっている。「三つ子の魂百まで」というやつだ。いい癖ではなく、後回しにするという悪い癖。後回しにするのは、僅かな困難を前にして乗り越えるのではなく、迂回してしまう癖から来ている。

もともと持って生まれた性格の他に、ちょっとした失敗に大声で怒鳴る父を持ったというのも無関係ではないと思う。失敗してはいけない。失敗するくらいなら何もしないほうが良い。でもしなくちゃいけない。とりあえず、頭を空っぽにしてそのことを忘れておこう......とインプットしてしまったのだ。

私は両親にとって初めての子で、どちらも若かった。父は男ばかり4人兄弟の三男で、男勝りの母を大将に政治論議を活発に繰り返す家庭で育った。そのノリでふにゃふにゃの幼い女の子に怒鳴ってごらん。萎縮しないほうが無理......いやいや、言い訳ではなく診断です。親になるのは難しいという話でもある。

ともかく、そういう癖を持っていると気がついたのは相当後になってからで、癖が十分染み付いてからだ。闘い、挑むより、逃げるほうが楽。傷つかないで済む。アイデアが湧いても頭の中だけに納めて表に出さなければ、イニシアチブを取らなければ、間違わない。非難されない。

そうやって、MANGA家になりたいと思いながら、描いてみて下手だなと思うとそれ以上進まなかった。講談社モーニングの編集長と知り合い、ローマで生活して見たことをMANGAにしてみないかと誘われ2年は頑張った。

そろそろフィションを描いて見ませんかと担当の編集さんに言われ、8ページのショートを描いてはみた。一話目は掲載された。二話目の下書きにダメを出され、次もダメを出された。次に出したのは一話目掲載から時間が経ちすぎだから無駄と言われた。そして萎縮してしまった。たくさんの漫画家になりたい人が夢見る状況に恵まれたのに、自分で潰してしまった。

年を経て、ローマのマンガ学校にセミナーを持つに至った。自分でわかっていることと、それを伝えることは次元が違う話。わかってもらう、というのは難しい。

セミナーを初めて10年になる。10年経って私のセミナーから、なにか芽が出たようには思えない。誰かの心のなかに何か残っているのかもしれないけれど、私の目に見える形で出ていない。それを強く思ったのは、一昨年のことだ。

同じ金曜日に「視覚伝達と美術の歴史」というセミナーがあった。私のMANGAセミナーの前にある。私も参加したことがあって、目からウロコがボロボロ落ちる授業だ。当初は私のセミナーと同じように、始まってすぐは教室満杯で、徐々に参加者が減っていった。課題制作の量が増えていくのと反比例する。

ところが、一昨年、このセミナーの参加者がまったく減らず、逆に増えて他の教室から椅子を運びこむくらいの盛況だった。課題が増えているのに? 私のセミナー参加者はいつものように減っているのに?

なぜ? の答えは簡単だ。面白いから。ためになるから。課題制作の時間を削ってまで参加する価値があると生徒が思うから。

確かに、「視覚伝達と美術の歴史」はこの学校を選んだ人なら全員に興味があるはず。MANGAはそうではない。という違いはあるものの、もっとたくさんの漫画に興味がある生徒に「課題制作の時間を削ってまで参加する価値」を見出してもらってもいいのではないか。

10年の経験で、私が考えるレベルより下げること、説明に具体性をもたせることを学んだ。ただ、そのまま、なんとなく時間に追われるように授業をこなして来た。確かに時間に追われてはいたけれど。

そして私の年齢だ。今年で58歳。還暦まで余すところたったの2年。勤め人なら退職する時期。第二の人生を歩む時期。私は何をしてるんだ! と、やっと考えるようになった。さらに、父を含め、父方の親戚はほぼ全員70歳を迎えずにこの世を去っている。死ぬこと自体は怖くはないけれど、何かを成し遂げずに去るのが辛い。

それらが合わさって、昨年「MANGA言語をイタリアの漫画家志望者に伝える」ことをもっと具体的に活動しよう! と決心するに至ったのだった。そして、MANGA言語を解説した本を学校の編集部から出すことになった。

授業にもその思いをもっと込めたい、もっときちんと伝えたいと考えた。今まで、どうせセミナーだしと、生徒には甘かったが厳しくするのが彼らのためと思い直した。

クラス内でレイアウトを描いてもらうのだが、中には「家で描いてくる」と言って描かない生徒もいる。そういう生徒は大抵描いてこない。だから、言葉を尽くしてなんとかクラス内で制作するように持っていく。

提出された作品を毎回本にまとめている。授業が終わる5月末、「みんな6月の進級試験で課題が大変な時期だろうから、夏の後でもいいよ」などと甘いことを言っていたがそれも止める。今まで、夏の後、学年が始まって提出された例は一件だけ。今年から最後の授業で提出しない場合は受け付けないことにした。

今年二回の授業をやってみて、なんとなく私の心積もりが通じたような手応えを感じている。今のところ、教室内で皆、手を動かしている。とりあえず桶屋までことが運んだ。

もう一つ桶屋がある。セミナーの元生徒や、別口で知り合った漫画家志望者が、レイアウトを見てくれないかと言ってくることがある。私はMANGAの先生だから、ふたつ返事で引き受ける。

でも、正直、内心めんどうだと思ってたり、今までは週刊締め切りの仕事があったりして、ついついの頼まれたレイアウトが頭から抜けてしまうことが多かった。内心の内心では、時間ばかりかかって、お金にもならないのに......と思ったりしてることも、頭の中の予定表にちゃんと書き込まれない一因だと思う。正直なところ。

でも今年は違う。週刊締め切りの仕事がなくなったし、MANGA構築法を70歳になる前にイタリアの皆様に伝えられるだけ伝えることを目標に掲げたので、きちっと目を通して返事する。

こういうヤル気のある若い漫画家志望者から、こういう形でお金はもらわない。空気を栄養にする方法は獲得してないし、家のローンがあるから金銭の収入は必要だから、別の方法で獲得する。

例えば、本を出して、それを買ってもらう。きちっと返事をしていくことで、レイアウトを見て、直すべきところを見つける訓練の回数も増える。さらに、口コミで広げてもらい、ワークショップにつなげていけるかもしれない。ワークショップでお金をいただけば、生徒側の負担も軽くて済む。

こうして桶屋の出番になった。まだ「儲かる」かどうか分からないけれどね。

最近になって、またもう一件桶屋の続きが出てきた。FaceBookでオトモダチになったindipendent comicsと名乗る男性からコンタクトがあった。インディーズのコミックス+ミュージックフェスティバルを企画、開催した経験を持ち、そのコンセプトで季刊の雑誌を準備している。ついては、MANGAと日本の文化についてなにか投稿してくれないか、ということだった。

MANGA言語をMANGA好き以外にも話をする良い機会がやってきた! と感じた。イタリアのこういう機会は予算なしでやる場合が多いので、報酬は期待できないだろう。でも、彼は参加する人にはなるべく何がしかの報酬を出したいと思っている、とのこと。すぐに報酬の具体的な話をするのは珍しい。それだけ真面目と受け取った。

※風が吹けば桶屋が儲かるということわざは、今では「あり得なくはない因果関係を無理矢理つなげて出来たこじつけの理論・言いぐさ」を指すそうです。ことわざの本来の意味からすると、私の使用法は正しくないと思いますが、一見無関係であることがつながっていくという意味で、授業のあり方を説明するのに、私の幼い頃の体験とそこから来る性格を引いてまとめてみました。

●アングレームに飛ぶのは一部

前回、MANGA言語を解説した本「MangaBook」が、1月末のアングレーム国際コミックスフェア(フランス)に出ていくかも、という話をした。

一冊目の「キャラのスケッチからストーリーを作る」の作者が途中から生活費を稼ぐための仕事が忙しくなって、スピードダウンした。その間、二冊目をしあげたものの、編集部はMangaBookがファイルが揃ってない......という頭で、月刊誌の発刊に追われるまま、放り出した格好になってしまっていた。

二冊目を仕上げることに没頭して、編集がどういう状況で何をしてるのか、MangaBookの進行状況はどうか、というコンタクトをおざなりにした私のせいでもある。

つまり、アングレームには出て行かない。ただし、PDFは送ってあるので、これをプリントアウトして「プレヴュー」として紹介しようと思えばできる。校長はやる気あるかな〜。それとも、出来上がってから紹介の方を好むか。この次の機会は4月末〜5月初めのナポリのコミックスフェア「コミコン」か。
< http://www.comicon.it/ >

いずれにしても、企画は進む。3号と4号の作画家も決まってさっそく表紙絵に取り掛かっている。読者の反応が今から楽しみでございます。

【みどり】midorigo@mac.com

このテキストの最初に書いたイタリアの豪華客船が座礁した件。
< >
挫傷の様子3Dシュミレーション
< >

事故もそうだけど、スケッティーノ船長がさっさと逃げ出し、「いや、逃げたんじゃない。滑って救命ボートに落ちたんだ」と言い訳したことにイタリア中が唖然としてます。

リボルノの湾岸監査の所長との会話が公開されるにいたって、あいた口がますます大きくなってます。所長が「船の前方へ行けばロープはしごがあるからそれですぐに船に戻って避難を指揮するよう要請する」に「そうは言っても、ここ、真っ暗なんですよ」

で、ネット、特にYouTubeにいろいろMADが出まわってます。「笑いを取るなんて犠牲者に対して悪いと思わないのか」という書き込みも見られます。皮肉はより良くあろうとするための発露でもあると思うので、犠牲者への冒涜にはならないと考えます。犠牲者を笑ってるわけではないしね。

以下、イタリア語ですが、どうぞ。

(画像)「沈んでるんじゃない! スケッティーノがフェザリングをしてるんだよ!」
< http://p.tl/w_Ho >

Full Metal Jacket
< >
< >

A-team
< >

スケッティーノの歌
< >

コンコルディアのコマーシャル、事故後
< >

単語の意味「スケッティーノ」(スケッティーノする。有事の際、責任を逃れ、アホな言い訳をすること。名誉という感覚がない様。)
< >

中国製スケッティーノアニメ
< >

(MADはニコニコ動画で見る日本製のほうがよく出来てるね。というのは、別の話)

イタリア語の単語を覚えられます! というメルマガだしてます。
(強硬にサボり中。。。)
< http://archive.mag2.com/0000075559/ >

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■編集後記(01/26)

・NHK「坂の上の雲」が2年がかり13回の放送で完結した。見応えがあったのはやはり第3部、二○三高地と日本海海戦である。ドラマの進行に合わせて司馬遼太郎全集を拾い読みした。中でも日本海海戦の見せ場である、敵前大回頭という捨て身の作戦については、ドラマではよく分からなかった。全集で読んでも正確にイメージできない。「『坂の上の雲』と日露大戦争」という文芸春秋・臨時増刊号で、時系列の航跡図などを見たが、非常に難解でますますわからなくなったが、まあいい。完璧な勝利だったのだから。二○三高地については、乃木希典に対する司馬の評価が異様なもので、ほとんど全否定、ほとんど罵倒である。初めに読んだとき強烈な違和感を覚えた。不愉快だから、多分今後も読み返さない。ドラマでも、乃木を柄本明、伊地知参謀を村田雄浩という配役で無能ぶりを演出していたな。それにしても、日本海海戦でもし日本が敗れていたら、と考えると恐ろしいパラレルワールドが出現する。よくぞ勝ってくれた。ご先祖様万歳。だが、日清・日露戦争を知らない子どもたちがいる。「坂の上の雲」が架空のドラマだと思っている大人もいるそうだ。日本の歴史教育はどうなっているんだ。司馬によれば、その当時の日本政府は日本の歴史の中でもっとも外交能力に富んでいたそうだ。ひるがえって今のスケッティーノ政権のお粗末な外交ときたら(泣)。(柴田)

・たまり場に行ってたのか。しっかりしろよヒロキ!/マニュアル類には手をつけていない。不可侵地域化している......。/萎縮するのと父親の関係、とてもわかる。自分で潰した機会がどれだけあることか。/去年のクリスマス。友人とスタバにいた。手軽に寄れるコーヒーショップで、ネットが繋がり、遅くまで営業しているスタバは重宝する。ただし小腹が空いている時には行かない。ケーキ類の甘さと重さときたらもう。お買い物した袋をまとめたり、お互いの貸し借り品を交換したり。その日の出来事やら他愛のない話やらをしていたら、サンタの格好をした店員さんが、お店からのプレゼントです、良かったらどうぞ、とケーキをくれた。残り物を配っていたのだろうが、嬉しい反面、スタバのケーキか......とお腹をさする。一口食べてみる。スタバのケーキとは思えない控えめな甘さと軽さ。ぺろっと完食。まさかお店からケーキをもらえるなんて思わなかったから、とても嬉しい。ラッキーだわ。もらったのは私たちが最初で、そのうちだんだんとまわりにも配られていった。そして気付いた。お店は女性客ばかり。スタバって女性の度合いが高いのね。ケーキをもらった恩があるから、また行くぜ。(hammer.mule)