[3204] 芸術家、大量発生の時代

投稿:  著者:  読了時間:31分(本文:約15,400文字)


《経験を白紙に戻すことに抵抗感があるでしょうか?》

■エンドユーザー大変記[19]
 唐突な決意
 ジョニー・タカ

■クリエイター手抜きプロジェクト[305]Adobe Illustrator CS3/CS4/CS5編
 テキストファイル内の文字を配置し保存する
 古籏一浩

■データ・デザインの地平[15]
 芸術家、大量発生の時代
 薬師寺 聖

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■エンドユーザー大変記[19]
唐突な決意

ジョニー・タカ
< http://bn.dgcr.com/archives/20120213140300.html >
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唐突な話ではあるが、今年の目標に「ライヴ配信をやってみたい」とした。pixivの中でも交流を持ち始め、色々な方の配信を見るにつれ、なんとなく、やってみたいと思ったからである。

実は環境は既にあって、私が持っているAcerのネットブックにはwebカメラが内蔵されている。やろうと思ったらすぐ出来てしまう。

ところが、やってみたいと思ったら、あれこれ欲をもたげるのが悪い癖である。例えば、画面を映した状態で配信してみたい、とも思ったのも事実だ。最低限の予算とショボイPCのスペックでどれだけ出来るか、という不安もある。

やれば何かできると思う─パソコンを初めて買ってホームページを開いた時や、まだブログという言葉がなかった頃に始めてみたり、なにかしらの動機というものもなく、突然やみくもに始めてしまうのが癖である。

やれば何かできると思う、の出典
UWF→PRIDE─総合格闘技20年史[B.B.mook─スポーツシリーズ(238)]
< http://www.amazon.co.jp/dp/4583612052 >
ここでのジェラルド・ゴルドーとの試合に挑む前の中井祐樹の言葉から

とりあえず、内容としては"コンピレーションの実践"として、実際に自分が長年続けているライフワークを見せたい、というのがあった。

私の"コンピレーション"というのは、なかなかわかりにくいもので、ゲームをバックに別の音楽を流す、というのは伝わりづらかったというジレンマを長年抱えていた。それを、実際にやっているところを映して見せたらどうか、ということを考えていたのである。

当初、私より音楽に造詣のある方からご支持をいただき、それが今でも続けている原動力となっている。でも、単純に、わかりにくい、という感覚は当初からも持っていた。

今のところ、まだ揃えないといけないものもあるので、いつライヴをやってみるか、という予定は立てていない。でも、やってみようと思う。

とりあえず、デフォルトの環境でやってみる→足りないと思ったら機材を買い足す(追加のカメラやヘッドセットだったり)→最終的には画面キャプチャー出来るところまでやってみる──ここまでが一応決めていることである。

時期が決まったらまた予告致します。よろしくお願い致します。

【ジョニー・タカ】johnnytaka32(a)gmail.com

1976年、横浜・関内で生まれ、上州と越後の風を受けて育ち、来世でもFUNKを踊り続けるフリーランサー。ヴァーチャル・キャラクターに曲を付けて選曲を展開する"コンピレーション"を1998年から行っている。2012年はようやく発売されたPSPソフト『フォトカノ』のコンピレーションを展開予定(と言っても勝手にやってるだけです。それを続けて14年目)。PS3でも『THE IDOLM@STER2』が発売されたので、そちらの選曲作業も始めてます。
< http://music.ap.teacup.com/cafedejohnny/ >

日常ブログ < http://ameblo.jp/johnnytaka/ >
ツイッター < http://www.twitter.com/johnnytaka1962/ >

○あれも買いたい、これも買いたいと言いふらしても現実の壁はなかなか高く、実現できていないほうが多い。見事なほどの"公約破り"だ。iPod nanoも買うとは言いながら買えていない。そんな中でも新nanoの噂まで飛び出るので、まだ待っていたほうがいいのか、それも迷う。

○この時期は胃が痛くなる確定申告もやっと終了。いくら自分の経費とはいえ数字と格闘するのは精神的に参る。一番困るのは「あの領収書、どこ行ったっけ...」である。数字を計算する以上に領収書を探す方に時間を取られる(ちゃんと整理しておけ、と言われたらそれまでだけど...)。

○じわじわ話題になっている『孤独のグルメ』。あのドラマの不思議なところは、ただゴローちゃん(主人公・井之頭五郎)が飯食べてるだけなのに、何故か見てるこっちがにやけてしまうこと。幸せそうに器を持って、飯を食う演技をする松重豊もある意味すごい。

その後に原作者・久住昌之本人がその店を訪れて、必ず酒を飲んでるのもイイ(ゴローちゃんが酒を飲めない設定のため)。そして当然、見ているこっちも腹が減ってくるという不思議。この部分を書いている2/8は、中野区鷺ノ宮でミックスカツと豚ロースニンニク焼きの回だった。ヘヴィなメニューながらも食べたくなってしまう...。

ネットで話題のグルメドラマ「孤独のグルメ」裏話を番組P公開
(NEWSポストセブン)
< http://www.news-postseven.com/archives/20120204_85029.html >

○同じくらい不思議に思うのはNHK・Eテレで再放送しているアニメ『日常』。

< http://www.shinonome-lab.com/index.html >
< http://www9.nhk.or.jp/anime/nichijou/ >

民放→NHKという異例の再放送であり、NHK用に再編集したものだが、何故か奇妙な面白さが余計に醸しだされている。『日常』でよく言われるのが、ディズニーのアニメや「トムとジェリー」を見てる感覚になる、というもの。

"再編集の魔力"で小気味いいテンポになっている。個人的には『天才バカボン』(昭和版・平成版両方)のノリに似ている。しかし何よりもCMが入らないのがいい。あの村上隆も絶賛するくらいだ。
< >

○やるなら完璧にやる─これはその極みのひとつだ。iPadに嫁の画像というのもある意味オシャレである。

アニメも料理も好きですから--「痛飯」レシピをクックパッドに掲載するクリエーター(CNET Japan)
< http://japan.cnet.com/news/society/35012933/ >

クックパッドに投稿されている「嫁と食べたい自炊飯」(※ただし嫁は二次元)が色んな意味でハイレベル!(GIZMODO)
< http://www.gizmodo.jp/2012/02/its_also_called_ita_meshi.html >

○やっとこの続きが来た。CG制作と金型成型での"ものづくり"の目線ではまったく世界が違うんだなぁ。

モノづくり素人だけど2代目社長の製品開発(2):ハイパーモデル分割タイム始まるよ(@IT MONOist)
< http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1202/10/news012.html >

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■クリエイター手抜きプロジェクト[305]Adobe Illustrator CS3/CS4/CS5編
テキストファイル内の文字を配置し保存する

古籏一浩
< http://bn.dgcr.com/archives/20120213140200.html >
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今回は、Illustratorでテキストファイル内の文字を配置し、保存するスクリプトです(まあ昨年11月のネタの続き)。このスクリプトでは連番ファイルではなく、ひとつのAIファイルとして保存します。

また、テロップでphotoshop独自のエフェクトを施さない場合には、Illustratorで配置した後でPhotoshop形式として書き出した方が高速です。スクリプトの処理速度差が150倍ほどあります。テロップが大量にある場合にはIllustratorで配置した後でPhotoshop形式で書き出すのがよいでしょう。

以下のスクリプトは、ひとつのレイヤーに複数のテキストフレームを生成するタイプです。必要な基本ファイルなどはこれまでとまったく同じです。


// テキストファイル内の文字を配置し1つのAIファイルで保存する
(function(){
var aiFile = File.openDialog("基本となるAIファイルを選択してください","*");
if (!aiFile){ return; } // キャンセルされたら何もしない
var textFile = File.openDialog("配置するテキストファイルを選択してください","*.txt");
if (!textFile){ return; } // キャンセルされたら何もしない
var saveFile = File.saveDialog("保存するファイル名を入力してください");
if (!saveFile){ return; } // キャンセルされたら何もしない
var flag = textFile.open("r");
if (!flag){
alert("ファイルが読み込めません");
return;
}
app.open(aiFile);
var layObj = app.activeDocument.layers[0].textFrames[0]; // 一番上のレイヤーを指定
while(!textFile.eof){
var text = textFile.readln(); // 1行読み込む
layObj.contents = text;
layObj = app.activeDocument.layers[0].textFrames[0].duplicate();
}
activeDocument.saveAs(saveFile);
activeDocument.close(SaveOptions.DONOTSAVECHANGES);
})();


以下のスクリプトは、Photoshop形式に書き出す場合に使用してください。なお、スクリプトからPhotoshop形式に書き出せますが、レイヤー別に書き出すように設定しても反映されません。つまり、スクリプトから書き出すとうまくいきません(CS3〜CS5いずれも同じ)。

このため、手作業でファイルメニューから「書き出し...」を選択しPhotoshop形式でレイヤーを保持して保存してください。なぜか、これだとうまく保存されます(アピアランスが適用されている場合はアピアランスごと分割されます)。


// テキストファイル内の文字を配置し1つのAIファイルで保存する
(function(){
var aiFile = File.openDialog("基本となるAIファイルを選択してください","*");
if (!aiFile){ return; } // キャンセルされたら何もしない
var textFile = File.openDialog("配置するテキストファイルを選択してください","*.txt");
if (!textFile){ return; } // キャンセルされたら何もしない
var saveFile = File.saveDialog("保存するファイル名を入力してください");
if (!saveFile){ return; } // キャンセルされたら何もしない
var flag = textFile.open("r");
if (!flag){
alert("ファイルが読み込めません");
return;
}
app.open(aiFile);
var layObj = app.activeDocument.layers[0]; // 一番上のレイヤーを指定
var s = (new Date()).getTime();
while(!textFile.eof){
var text = textFile.readln(); // 1行読み込む
layObj.textFrames[0].contents = text;
layObj = app.activeDocument.layers.add();
var dup = app.activeDocument.textFrames[0].duplicate(layObj);
}
var e = (new Date()).getTime();
$.writeln((e-s)/1000+"秒");
activeDocument.saveAs(saveFile);
activeDocument.close(SaveOptions.DONOTSAVECHANGES);
})();


【古籏一浩】openspc@alpha.ocn.ne.jp
< http://www.openspc2.org/ >

iPhone/iPadにアーケードゲーム(ゲームセンターのゲーム)を移植すると、ほとんどの場合、期待通り操作できず難儀してしまいます。例えば、バンダイナムコゲームスの「NAMCO ARCADE」はレバー操作と十字キーですが、iPhone/iPadとも操作しにくく、ゲームとして遊ぶのが大変です。収録されている中ではアクション性の薄いドルアーガの塔が、まあ何とか遊べるかなという状態。

・NAMCO ARCADE
< http://www.bandainamcogames.co.jp/mobile/namcoarcade/ >

iPhone/iPad用にアーケードゲームを出しているのは、ナムコだけでなくタイトーにもあります。その最新作が「DARIUS BURST」。

・DARIUS BURST
< http://tap.taito.com/ja/darius.html >

タイトーは「DARIUS BURST」より少し前に、「RAY FORCE」という縦スクロールシューティングゲームも出しています。が、「RAY FORCE」も自機が自分の指に隠れてしまうことが多く、ゲームとしてプレイしにくい状態。

ところが「DARIUS BURST」は、これまでとは違い非常に操作しやすいというか、わりと普通に自機を動かせるようになってます。iPhoneでもちゃんと弾よけができる、というほど。どうせタッチパネルではアーケードゲームを移植しても無理と思っている人は、是非プレイしてみるとよいでしょう。


・毎度おなじみASCII.jpの連載「iBooks AuthorでHTML5の電子書籍作ってみた」
< http://ascii.jp/elem/000/000/665/665232/ >

・クリエイター手抜きプロジェクト【2011年分まで用意しました】
< http://www.openspc2.org/projectX/ >

・改訂5版JavaScriptポケットリファレンス
< http://www.amazon.co.jp/dp/4774148199 >

・10日で覚えるHTML5入門教室
< http://www.amazon.co.jp/dp/4798124184 >

・ハイビジョン映像素材集
< http://www.openspc2.org/HDTV/ >

・Adobe Illustrator CS3 + JavaScript 自動化サンプル集
< http://www.openspc2.org/book/PDF/Adobe_Illustrator_CS3_JavaScript_Book/ >
吉田印刷所の「印刷の泉」でも購入できるようになりました。

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■データ・デザインの地平[15]
芸術家、大量発生の時代

薬師寺 聖
< http://bn.dgcr.com/archives/20120213140100.html >
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前回の記事(第14回「技術進化が促す、人類総デザイナー化」では、技術進化により、エンド・ユーザー自らがモノを作る「人類総デザイナー化」時代が到来すると述べました。
< http://bn.dgcr.com/archives/20120116140100.html >

今回は、その変化が芸術に波及する問題を取り上げます。

●デザインは、芸術へと向かう

人類総デザイナー化時代には、次のように、デザイン業界の常識や制約が解き放たれます。

1)ターゲットが変わる 〜特定グループから個人へ〜

通常、デザインでは、年齢や職業や関心の範囲など類似の属性を持つグループに対して、表現を計画します。

ところが今後は、このターゲット(訴求対象)が、グループではなく個人になっていきます。前回記事のカーテンのデザインの例のように、自分自身になるのです。

これは実に理にかなった話です。なぜなら色や形の認識には個体差があるからです。感覚器官から入力された情報が処理される工程の一部に、小さなバグが忍び込んでいるだけで、処理結果は異なってきます。バグ、というと良い印象の言葉ではありませんが、ヒトにはそれが必要です。バグは多様性の母体です。

バグはさまざまな表現を生み出します。色や形の情報の一部が省略され、抽象化されているヒトの脳内処理の状況は、現時点では、他者であるデザイナーからはうかがい知ることができません。自分をターゲットに自分で作る方が的確です。

2)表現対象が変わる 〜対象よりも自己を表現〜

デザイナーの仕事は、企画書で規定される「ヒトやモノや概念」といった対象の情報が、ターゲットに伝わるよう、的確に表現することです。その対象を「自分自身」とし、自分を表現してしまったなら、それはデザインではなく芸術になってしまいます。ですから、デザイナーは自身を無にして対象に対峙します。

ところが、個人が自身のためにデザインする場合、対象は自分自身となります。自身の内面や嗜好や考えを反映することになります。

3)クオリティが変わる 〜下限も上限も基準もない評価〜

クオリティをどこまで高めるかについては、100人いれば100通りの基準があるでしょう。「1ピクセル」のズレを「100ピクセル」にも相当する大きな違いと捉える人もいれば、まったく気付かずスルーする人もいます。

たとえば、白いテーブルに置かれた、白い陶器のクリーマーの中の白いミルク、白い砂糖は、どれも同じ白ではありませんが、そのような違いを「まったく異なる白」と感じる人もいれば「どのみち同じ白」と感じる人もいます。

同程度の痛みでもより強く受信する病気があるように、もとのデータが同じであっても、その受け取り方には個体差があります。

プロのデザイナーは色や形の微妙な差にこだわりますが、個人が自分のためにデザインする時代には、当人が良しとするなら、それが基準となります。

4)完成度が変わる

個人が自発的に創るものには、納期がなく、費用対効果や結果責任をシビアに考える必要がありません。

クオリティを高める努力をしなければならない社会的要請はありません。プレゼンテーションを勝ち抜く精度はもとめられません。そうなると、必ずしも練り上げられてはいない結果が散見されるようになります。

5)評価基準が変わる

「人類総デザイナー化」時代には、デザイナーと顧客とエンド・ユーザーという三者の区別はなくなります。表現する側も、それを評価する側も、同じ個人という立場です。

「ヘタうま」ではなく「ヘタへた」が、むしろユニークという点で評価を得られることもあるでしょう。長く傍にとどめておきたい落ち着いたデザインよりも、見た瞬間にインパクトを感じる派手な色で動きの多い、にぎやかなデザインが溢れるかもしれません。

以上のように、デザインはきわめて個人的な体験となり、その結果、デザインと芸術の境界は失せ、芸術色が強まっていくと考えられます。

●「デザイン≒芸術」の役割は、驚きの提供

では、デザインの芸術化傾向は、デザインと芸術をどのように変えていくのでしょうか。

筆者は、芸術の役割には三つあると考えています。

A)生き辛さの軽減
B)社会のバランス維持
C)驚きの提供

A)は、癒し、慰め、共感を誘い、人々の精神をマイナスからゼロへと近付けるというものです。

英詩人Housemanは、詩の職能を「"to harmonize the sadness of the world"(この世の悲哀を受容可能な形に和らげること」【*1】と述べています。芸術には、この世界に生きる苦痛をやわらげる効能があります。

B)は、リアルとは真逆のイメージ──社会が平穏な時には闇を、社会が苦痛に満ちている時は明かり──を提供し、社会の精神性のバランスを維持するというものです。イメージトレーニングのように、実体験でなくとも、イメージはヒトの精神と言動に影響を及ぼ役割を果たします。

この芸術を提供する者は、リアル社会の逆を生きる者であり、社会ではマイノリティです普通を切望しながら普通になれないアウトサイダーたちが【*2】、社会の調整弁としての芸術を生み出します。

C)は、意表をつく表現を提供し、ドーパミンを放出させ、鑑賞者の脳を覚醒させるものです。ヒトはすべからく驚きをもとめます。刺激のない状況では、脳は誤動作し、幻覚すら生み出すほどです【*3】。

ところが驚きには耐性があります。数10年前には茶の間で東京オリンピックに沸いていた人々も、いまやリビングでくつろぎながら、被害者への共感はそこそこに犯人を推理し、暴力や殺人のシーンを見つめます。

そのうち子供も観賞する美術展に、葬体芸術のインスタレーションが出展されても問題視すらされなくなるかもしれません。飽きやすく倦みやすいヒトには、驚きが提供され続けなければならないのでしょう。

A)の役割は、悲しみの受容や足踏みを停滞と捉えられる現在では、風前のともしびです【*4】。

B)の役割も、すでに終わっているのではないでしょうか。社会の中に暴力化傾向が強まっているときでも、より暴力的な映像が作られているのですから。

どちらにしても、生き辛さを抱えている人が、あまりに増えました。いまや、昭和の文士が描く不幸はそこかしこにあり、自殺さえも文豪の範疇ではありません。過去のアウトサイダーたちの苦闘は、明るく開かれたメンタルクリニックの投薬対象となっています。

我々は、あたたかいホームドラマの中に「ごく普通の家庭、ごく普通の人々、貧困や病気であろうと、家族や隣人のために泣き笑い苦しみ、愛(=自身の人生の時間)を提供し合う人々、そういった人々こそがマジョリティである」という幻想を見ていただけなのでしょうか?

いや、そうではないでしょう。毎日のように流れる、悲惨な事件や事故のニュース。人生の苦闘が無差別に降りかかり、ごく普通の人々のこころを破壊しているのではないでしょうか。

生き辛さを抱えるアウトサイダーの方が増えてしまうという、マジョリティとマイノリティの逆転現象が起こりつつあるのかもしれません。

A)と B)が衰退する一方で、C)の役割は大きくなっています。

データ爆発の中にあって注目されるには、新規性とタイミングが重要であり、意図して驚きを提供する表現が増えることは否めません。そして、評価されると露出が増え、類似の傾向の作品も増えるというサイクルができ上がります。誰もが自分自身の基準を持つため、表現の拡大を止める手段はありません。

●報酬系の変化が、短期サイクル化を招く

さらに、大量の芸術寄りのデザインが短期サイクルで現れる傾向に拍車をかけるものがあります。それは、「報酬系」の短期化です。報酬系は、ヒトの言動に大きく影響します【*5】。短期報酬系の人が増えれば、サイクルはより短くなります。

短期報酬系の人々にとって、「(作る側としては)カタチある作品を矢次早に生み出したい」「(鑑賞者としては)新しいものをもとめ続けたい」という意思を、行動に移さないように抑制することは困難だからです。

筆者は、脳に生じたバグが、ヒトの生来の「報酬系」をより短い方向へとシフトさせているような気がしてなりません。

なにしろ、バグを引き起こす原因が増えています。まず、豊かな食生活は、脳血管障害による高次脳機能障害を引き起こす可能性を高めます。また、事故や化学物質や虐待は、直接的な脳損傷やPTSDを引き起こす可能性を高めます。

我々は、ニュースの「生命に別条はない」という決まり文句に、慣れてしまってはなりません。「一命はとりとめても後遺症がのこる」可能性があるかもしれないこと、その快復のために被害者が苦闘するかもしれない時間に思いを馳せなければなりません。それらのバグは、発生する箇所によっては、生来の報酬系を変えてしまうこともあるでしょう。

さらに、昨今のように社会不安が高まり、標準報酬系の人々が将来不安から子孫を遺すことをためらうと、結果的に、短期報酬系の人の方の割合が増えるのではないでしょうか。

この報酬系は脳内物質に左右されているという研究があり【*6】、遺伝の可能性がゼロであるとは言いきれないでしょうから、世代を追うごとに、その割合は増えるかもしれません。

もし、短期報酬系の人から、他の報酬系の子が生まれたとしても、小鳥の雛が親鳥の歌を覚えてしまうように、生育環境によって、短期報酬系の言動を学習してしまう可能性もあります。今後、報酬系は加速的に短くなっていくと考えられます。

しかしながら、これは、必然的な現象なのです。混迷の時代には、短期報酬系の人が必要です。未曽有の状況に、考えるよりも先に行動し、結果的に吉と出る(かもしれない)道を切り開くことは、長期報酬系や標準報酬系の者にはできないからです。宇宙に出て、人類の可能性を拡げる責務は、短期報酬系の次世代の双肩にかかっていると筆者は考えます【*7】。

社会危機を乗り切るための生命の戦略、人類が生き残っていくための当然の帰結かもしれません。

●短期報酬系の増える社会に適応せよ

社会の維持には、短期・標準・長期、それぞれの報酬系の人が必要です。ただし、ある人口比のもとに構築された社会システムは、その人口比が変わると、維持が困難になります。その時には、システムの方を変更するか、それが無理なら、構成員のひとりひとりが生き方を変えて適応するしかありません。

複雑化きわまりない力関係のうえに成立している、社会システムの変更は不可能です。ならば、デザイナーたちが、生き方を変える必要があります。

まず、すでに「その白は、"#FFFFFFFF"ではない」ことが、「1ピクセル"も"、ズレている」ことが、重要ではない時代が始まっていることに気付かなければなりません。

デザイナーにとって重要なことは、たいして重要ではなくなるのです。そのクオリティはもとめられないのです。経験を積むなかで蓄積してきたことも、その職種を守るための方便でしかなくなります。スタイルの確立に邁進しても、固定化したスタイルはすぐに飽きられてしまいます。

経験を白紙に戻すことに抵抗感があるでしょうか? どのみち、その先には、表現というワンクッションを必要としない世界が到来し、「私」のイメージは「あなた」のイメージになるというのに【*8】。

感情を物理的に変える安全な薬剤が認可された暁には、感動の喚起は、医療の役割になるかもしれないというのに。

これからは、自ら作り発表することによって糧を得るのではなく、自ら作りたい人々の行為を「手伝わせていただく(≠プロデュースしてあげる)」方向にシフトしするのが賢明でしょう。

コンテンツを作り発表するより、それを発表するためのツールやプラットフォームを開発して、使い方とノウハウを伝えるのです。ゲームを作って与えるより、ゲームを作る方法を教えるのです。

ヒトが、電気や化石燃料を使う代わりに自分の身体を動かし、他者に考えてもらう代わりに自分の頭で考える、そのことを、面倒だ億劫だと思わず、楽しめるようになる方法を伝えるのです。

そして、自ら作る場合は、作り方を教えた人々と同じ土俵に立ち、プロではなく一個人として自分のためにデザインをすればよいのです。


*1 石井正之助著「英詩の世界」大修館書店

*2 古い本で恐縮ですが、筆者が10代の頃のバイブルだった、コリン・ウィルソン著「アウトサイダー」は、バグのある脳を抱えながら、災い転じて福になした人の列伝です。

*3 これも古い本で恐縮ですが、藤岡喜愛先生の著書「イメージと人間 精神人類学の視野」NHKブックス、に感覚遮断実験の顛末があります。

*4 本連載第10回「データ設計者は、ヒトを知れ、脳を知れ」参照
< http://bn.dgcr.com/archives/20110926140300.html >

*5 日経IT Pro「Webプランニングから始めよう!」(PROJECT KySS名義、筆者単独執筆連載)「第15回 異なる時間認識タイプの協力が,問題解決を速くする! 2007年2月掲載」
< http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20070202/260428/?ST=webdesign >

*6 科学技術振興機構報 第87号 「理性と衝動性のメカニズムの解明へ一歩」
< http://www.jst.go.jp/pr/info/info87/index.html >

余談になりますが、筆者の知るMRIの所見から、大脳基底核の損傷が脳内と小腸粘膜双方のセロトニン濃度に関与し、行動様式と食事の嗜好と胃腸の活動を決定付けている可能性があるように思います。食事内容と日々の行動は体形に影響しますから、シェルドンの"体格と気質"も、あながち間違いではないようにも思います。

*7 筆者は超長期報酬系であって標準ではなく、逆方向のマイノリティです。このような混迷の時代を生き抜くには、もっとも適していないタイプでしょう。最期のときまで地球の一箇所におとなしく留まっていることにします。

*8 本連載第7回「脳活動センシングの進化が、作曲を変える」参照 
< http://bn.dgcr.com/archives/20110613140100.html >


◆Windows Phone 関連情報

◇Windows Phone アプリケーション、続々開発、公開中。

「一日一句 投稿対応版 Ver.1.0(無料)」筆者単独開発。1月25日公開。俳句や川柳を記録するアプリ。facebook 投稿対応。季語検索、英語俳句作成支援機能付き。
< http://www.windowsphone.com/ja-JP/apps/df7d0863-ee51-4010-91d8-6a5673f128af >

「道友日本 Ver.1.0(115円、試用版あり)」
旅での出会いをテキストと写真で記録するアプリ。facebook 投稿対応。
企画デザイン:筆者、開発:kuniyasu。1月10日公開。
< http://www.windowsphone.com/ja-JP/apps/3b73dbc8-64bd-42b4-aacd-52bb24ad398e >

※筆者協力開発アプリ(ネーミング、タイルデザイン等)も含め、次の Webページにまとめています。
< http://2008r2.projectkyss.net/App_WP.htm >

MSDN「Code Recipe」にサンプル解説記事を書いています。今月末に2本掲載予定。開発の参考に。
< http://msdn.microsoft.com/ja-jp/ff363212#WinPh >

◇Kinect for Windows センサーが、2012年2月2日より出荷開始されました。
< http://www.microsoftstore.jp/ >

◇「オープンソースカンファレンス 2012 Ehime」
3月24日(土)10:00〜18:00。地ビールと魚と温泉を楽しむだけでも価値あり。ぜひ会場へ。
< http://www.ospn.jp/osc2012-ehime/ >

【薬師寺聖/個人事業所セイザインデザイン】
個人事業所 < http://www.seindesign.net/ >
ブログ < http://blogs.itmedia.co.jp/seindesign/ >
PROJECT KySS < http://www.projectkyss.net/ >
< infosei@seindesign.net >

ヴィジュアル、サウンド、テキスト、コードを扱う、四国の個人事業主。科学技術や医療・福祉分野のXML案件の企画デザインに実績があり、コラボレーションユニットPROJECT KySS名義で、XML、RIA、.NETに関する書籍や記事、多数。さいきんは、Windows Phone 対応 Silverlight アプリケーション開発に注力している。
Microsoft MVP for Development Platforms - Client App Dev
(Oct 2003-Sep 2012)

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■編集後記(01/13)

・2012年大学入試センター試験問題の国語をやってみた。1月15日に新聞に掲載されたものだ。国語はものすごく細かい文字で、新聞の両面びっしり埋まっている。机に置いた状態では眼鏡をかけないと見えないが、眼鏡はうっとうしいので新聞を手に持って裸眼で読んだ。全部で4問あり、第1問は木村敏「境界としての自己」という超難解な現代文、第2問は井伏鱒二の小説「たま虫を見る」全文、第3問は古文「真葛がはら」、第4問は漢文である。試験時間は80分。「境界としての自己」という文章の拷問に近いむずかしさ、小説の解釈の仕方の多様さにてこずりながら必死で解く。古文と漢文はなんとなくわかるが、正確には読み取れない。ここは推理で。結果、各問配点50点で、現代文34点、小説35点、古文28点、漢文38点、合計135点だった。現代文と小説で点が稼げなかったのはショック。古文と漢文は、問題の文章よりも解答の選択肢をじっくり読み込んで、一番まともそうなものを選んだ結果だ。いけるかもと思った古文が最低で、ほとんど推理の漢文が最高とは皮肉なものだ。全国平均が117.95点だから、まあまあの成績だろう。後からネットで調べたら、古文は2011年10月に東進の模試で出題されていたという。ラッキー! と小躍りした受験生もいるわけだ。日本史Bもやってみようかなあ。(柴田)

・昨夜、アニメ「日常」の話を偶然おかだよういちさんから聞いた。見せてもらった動画、スタバでの注文ネタで爆笑。はじめてスタバに入った時に緊張したのを思い出した。民放版は全篇通して見ると、登場人物らが、きちんと繋がっているのがわかるそうだ。/「デザイナーにとって重要なことは、たいして重要ではなくなるのです。」昨日、まにカレで受付をしてきた。Illustratorのセミナーで、目から鱗だという感想を多く聞いた。懇親会ではグラフィック系の方の参加が多かった。文字詰めを全然気にしていないカタログなんて、いくらでもあって、でもそれに皆慣れちゃってるよね、と話していた。チラシを作る人ともお話をした。膨大な情報を優劣つけてレイアウトできるディレクター、デザイナーは凄いと思う。たくさんの写真、色の洪水をまとめあげる技。肉類の色の調整では、特にかつおの叩きは難しいそうで、本物の色に近づけるとまずそうだし、鮮やかにすると嘘に見えるからぎりぎりのところで調整するのだそうだ。チラシはなくならないと思うんだよね。目玉商品を大きく取り扱うことで、お客さんは自然と優劣を知り、買い物メモにもなる。一枚の紙で献立まで連想させる。ほんと素晴らしいツールだと思う。これがWebサイトなら、目玉商品はバナーか、トップにメイン画像として数点掲載して、あとは並列に置く程度じゃないかなぁ。回線スピードや技術が上がり、もっと素晴らしいレイアウトが出てくるのだろうか。動画や音声によるPRができるところは、大きいな。(hammer.mule)
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