わが逃走[100]冬の尾道2012の巻(後編・物件紹介)/齋藤 浩

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こんにちは。わが逃走です。なんと100回記念です。
よくもまあこんなにくだらないことばかり書き続けられたものよ、と思うのだが、これというのも仕事とは違い、誰かに何かを何が何でも伝えねばいけないという束縛もなく、言いたいことを言いたいように書いてこられたおかげであります。

継続は力、と申しますが、100回を機会に女にモテるようになったとか、そういった都合の良い展開になることを期待しつつ、とりあえずは120回くらいを目標に、これからも地味にだらだらと書いていこうと思います。

さて今回は『冬の尾道』最終回、素敵な物件について語ります。
あくまでもオレ基準の素敵な物件です。念の為。




オバQ
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電気屋さんの前にて。なんと2010年まで現役だったのだが、閉店に伴い姿を消していた。もう会えないかと思っていたら、その店舗が観光案内所的な空間に変身しており、オバQも復活。

さすがにもう動かないらしいが、商店街にこういった記号が存在するだけでみんなが幸せになれる。オバケの国なんかに帰らずに、これからもここにいておくれ、Qちゃん。

ヒーローとフラフープ
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こころのふるさとたる所以である。ここは昭和だ! 尾道にはいつ行っても故郷に帰ったような安心感を覚えるのだが、今回もウルトラマンエースがかっこよく迎えてくれた。

現役の商店街ほどその地の文化を肌で感じられる場所はない。「商業施設を作ってやるからここに住め」という考え方に基づいた町は、住民の高齢化とともに破綻してゆく。

日本全国イオン化している中、「人が住みやすいと、良い店も増えてゆく」という自然な流れを意識することこそ、町の繁栄につながるんじゃないかと思う今日この頃である。

歩幅
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美しい平面に肉球の跡をつけるのはさぞや快感であろう。犬猫の気持ちはわからんが、この行為だけはわかる! オレもやってみてえ。

雪が降ると誰も歩いてないところを歩きたくなるものだが、その心理の究極形がこれだ! しかし人の体重は重すぎるので、ここまでほほえましいレリーフは作れないだろう。

自転車
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今回、尾道をモノクロフィルムで撮影して「尾道は陰影の町である」と断定したオレである。朝日があたって一日が始まり、夕陽があたって一日が終わる。

当たり前のことなのだが、一日中高層建築の影に暮らしていると、どっちが東でどっちが西なのか、なんてことは意識しないとわからなくなってしまう。しかし、ここ尾道では常にそれを感じることができるのだ。この当たり前こそ最高の贅沢と言えましょう。

すべりどめ
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尾道は坂の町である。水はけの工夫と同じように、滑り止めの工夫は、生活していく上での必然から生まれる。そこに生活者の美意識が加わるとこんなにも素敵なデザインが誕生する。きれいだなあ、どんな人が作ったんだろう。と思っていたら、すみっこにサインがあった。
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道の字
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幼稚園の運動場の壁には風抜き穴があって、そこには鉄でできた素敵なタイポグラフィが埋め込まれている。使われ方や素材を考えた上での創意工夫が素晴らしい。写真は全8文字の内のひとつ。当然、尾道の「道」です。ひょっとしたら全国には、まだこんな文字がたくさん残ってるかもしれない。それを探して記録するってのもライフワークとして楽しそうだ。

新聞受
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郵便受けほどメジャーでなく、牛乳受けほどかわいくない存在ではあるが、新聞受けも素敵だ。この絶妙な直線と曲線のコンビネーションを見よ!

展開図がすぐに浮かぶほどつくりはシンプルだが、質素な中にも華を感じさせようとする作り手の工夫を感じる。魔法瓶の花柄には辟易するが、こういった静かな思想は好ましく思えるのであった。

洗面台
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使われなくなってどれくらい経つのであろうか。ここ尾道ではこういったものたちを度々見かける。ワビサビを感じる反面、空き家が増えて取り壊されて、という流れを背後に感じるのもまた事実。

港の建築
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港のまわりには、煉瓦づくりの倉庫や海運会社の建物など貴重な近代建築が残る。生活者のことを思えば致し方なしだが、絵的には背後のマンションさえなければなーと思うのだった。

山の手と違い、平地は区画整理も容易なためか、失われてゆく風景が多い。全国的に言えることだが、おじいちゃんと孫が同じ地に住みながらも同じ風景を共有できないことに対し、我々はもっと危機感を持つべきではなかろうか。

以上、3回連続でお送りした『冬の尾道』いかがでしたか。書いてる本人はスゲー楽しかったのですが、読んでる方の中にはクドイ! と思われた方も少なくないと思われます。

気がつけばもう3月に突入ってことなので、そろそろ趣向を変えてみなければ。という訳で、近いうちに『春の尾道2012』を発表予定。乞うご期待。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。