デジアナ逆十字固め...[124]大阪のオバちゃんに分かるように
── 上原ゼンジ ──

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久しぶりにテレビの取材を受けた。最近三件ばかり打診があったが、すべてボツっていたので、どうなるのかと思っていたら今回はすんなりと企画が通ったようだ。

テレビの企画が決まっていく過程としては、まずプロデューサーや構成作家が集まってネタを考え、そのネタに合う人や商品などをリサーチ会社が探しだし、出演できるかどうかの打診をし、オーケーであったら再度企画会議でGoするかどうかを決める、というようなことをやっているらしい。

つまり、打診があった後に企画が通らなければ、話はなくなってしまう。ただし企画が通れば、かなりバタバタと撮影に向けてことが運んでいくことになる。今回の場合は、打診があってから2日で企画が通り、5日後に打ち合わせ、そして9日後にロケの収録ということになった。

番組は読売テレビの「大阪ほんわかテレビ」。残念ながら関西ローカルの番組です。関東では「中井正広のブラックバラエティ」をやっている時間帯だ。どんな番組か知らなかったのでホームページを覗いてみた。

出演者は、笑福亭仁鶴、間寛平、中川家、なだぎ武といった方々らしい。なかなか豪華な顔ぶれですね。特に笑福亭仁鶴さんの名前に私は強く反応しました。生まれて初めて買ったレコードが、笑福亭仁鶴の「どんなんかなァ」だったから(笑)




当時は京都に住んでいて、仁鶴師匠は憧れの人でした。1970年頃の話。私は小学2年生、師匠は33歳。今では吉本興業の特別顧問で、上方お笑い界の重鎮になっているけれど。

私は小学校3年になる時に関東に引っ越してきたのだが、当時関東には関西のお笑いが全然なくて悲しかった。今は関西のお笑いが日本を席巻してるけど、42年前はまださびしい状況でねえ。唯一の楽しみは日清フーズ提供の「ヤングおー!おー!」ぐらいだったな。まだ、さんまは登場しておらず、ザ・パンダが大人気だった。

ディレクターさんは、わざわざ大阪から打ち合わせに来てくれた。そして私が作った宙玉レンズや手ブレ増幅装置などを実際に見てもらい、段取りなどを考えていった。ただ、今までのテレビ出演経験の中で、意にそぐわないことをやらされたこともあったので、その辺りは注意をしなければいけない。

たとえば、テレビ向きのネタとか、視聴者がすぐにできるようなものを求められるんだけど、他のテレビ番組でやっていたようなネタを拾ってきて、やってくれと言われる場合もある。それ、オレが考えたアイディアじゃないし、やってもそんなに面白くないでしょ、というようなケース。

だからテレビを観ていても、ああこれはこの人の発想じゃなくて、構成作家がどこかで見つけてきたアイディアなんだろうなあ、というのが気になってしまう。だって何かの専門家が、そんなにテレビ向けするようなネタをたくさん持ってるとは思えないし。

●写真を言葉で伝える

ディレクターさんからは、構成を考えるためにいろいろと話を聞かれた。たとえば「なぜこういうことを始めるようになったんですか?」というようなこと。これは私にとって重要な問題なので、まず何から話したらいいだろうか? などと考えていてはいけない。

ディレクターさんが求めているのは、「大阪のオバちゃん」がパッと分かるような回答だ。写真の技術的なことも、オバちゃんが理解できるような言葉で説明をしなければいけない。これって実はけっこう難しい。

たとえば「何を撮ってるんですか?」と聞かれた場合、写っている以外の何かを撮ろうとしてるんだから、そんな簡単に言葉にできるようなもんじゃないんだ! と言いたいような場合もある。一方で写真家は撮影するだけじゃなく、自分のやっていることをきちんと言語化して説明できなければダメだ、という言い方もある。

確かに日本の写真家はそういう部分が弱かったかもしれない。だから最近は写真家のホームページでも、きちんとアーティストステートメントを掲げている人も増えてきた。これは写真家に限らず、アーティストが自分のやっていることについて、きちんと文章化にしておこうということ。自分で自分のやっていることを整理するためにも、人に理解してもらうという意味でもいいことだと思う。

ただ実際にそういった写真家のステーツメンツを読んでみると、堅苦しかったり、難しげな場合が多い。まあ、言いたいことは分かるけど、あまり観念的にならずに、やさしい言葉で考えていることが伝えられればそれに越したことはない。

そんな時に、大阪のオバちゃんに説明するというトレーニングも悪くないと思う。写真によけいな言葉はいらないという思いはあるけれど、自分でもなるべく簡潔で分かりやすいアーティストステートメントは書いてみたい。

●新しい写真を関西限定公開

埼玉の自宅までロケに来てくれたのは、お笑いコンビのダイアンだ。最初ダイアンという名前を聞いてもピンと来なかったけど、YouTubeでネタを見たら思い出した。M-1の決勝にも二度進出している芸人さんだ。

関西のお笑い芸人が家に来て、どう対応すればいいものかと思ったけど、実際には収録は割とスムーズに進んでいった。一対一でなんか話さなきゃと思うと緊張もするが、コンビが二人で勝手にボケたり、突っ込んだりという時間があったので、それでこちらも落ち着くことができた。ただし、二人のネタが始まってしまうと、こちらはどこから入ったらいいのか困ってしまうこともあったのだが......。

いちおう今回はテレビ映えのするネタもいくつか用意した。一つはドリルドライバーを使った写真。まず子供部屋にクリスマスのイルミネーションを張り、その前にダイアンの津田さんに立ってもらう。そして電動ドリルドライバーに付けたカメラを回転させながら撮影を行う。

この時ストロボを軽く発光させるというのがミソ。するとまずイルミネーションがグルグルと回転した軌跡が写る。さらに発光させた瞬間に人物が浮かび上がり、その二つが合体したように写るのだ。この絵面は新しいかもしれないな。もうちょっとスマートに仕上げて、宙玉レンズのように普及させたいものだ。

相方の西澤さんは水玉レンズで撮影した。これはレンズ前に透明なアクリル板を取り付け、そこにスプレーで水滴を付ける。水滴の一つ一つに西澤さんが写るのだ。これはかなり不気味な写真になりました。考えてみたらこれらの撮影法で人物を被写体にしたのは初めてだった。関西限定ではありますが、世界初公開の写真をお楽しみください!

◇大阪ほんわかテレビ
4月1日 23:20〜(読売テレビ)
< http://www.ytv.co.jp/honwaka/
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