Otaku ワールドへようこそ![150]男一匹プラス猫五匹、廃車に暮らす/GrowHair

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入間川の河川敷に置いた廃車の中で5匹の猫とともに暮らす男がいる。上田友浩(仮名)。62歳。通りがかりに立ち話をしたのが去年の10月23日(日)。仕事してないと言ってたけど、じゃあどうやって生活しているのだろう。クエスチョンマークがずっとぶら下がっていた。聞きに行くか。事前にアポをとる手段がないので、とにかく訪ねて行ってみた。

3月20日(火・祝)。風はほとんどなく、日差しはやわらか。オオイヌノフグリのうす紫の小さな花弁が地面すれすれに散りばめられる中、背の低いタンポポがもう花をつけている。安比奈駅があったあたり、竹やぶに隣接して、その「家」はある。

いるかい? 窓からぬっと顔が。やあ!




●庭付き一戸建て

ここに住むようになってから12〜13年経つという。草ぼうぼうの河川敷、生い茂った草に埋もれるようにして、車の轍のついた小径がある。竹やぶの脇、道に面して平らに均された一画があり、廃車になったトヨタのワンボックスカー「タウンエース グランドエクストラ」が置かれている。そこが上田氏の「家」。

窓のすぐ前にイントレが組まれ、物干し竿になっている。フロントヤードには自転車が置いてある。発泡スチロール製の箱が机くらいの高さに積み上げられ、収納兼作業台になっている。まな板や蚊取り線香が置いてあり、スコップが立てかけられ、なぜか鉢植えのサボテンまである。綿の出た、というよりカバーがほとんど風化したふとんが延べられていて、猫たちの寝床になっている。

バックヤードはごみ捨て場になっている。キャットフードの大きな空き袋になにやらパンパンに詰められ、ガムテープでしっかり留められているのがたくさん積み上がっている。

車内には寝床がある。寝床の奥側の脇にはストーブが置かれ、後部には卓上カセットコンロがある。ウスターソースやめんつゆもある。日本酒のワンカップの空き瓶が数本置きっぱなしになっている。

広い河川敷にはホームレスの集落のようになっているところもあるが、上田氏は距離を置いて、孤立して暮らしている。かといって人との交流をかたくなに拒否しているわけではなく、快活でよくしゃべる。

ずっと以前、小径に子猫がいて、かまおうとしたら視線を感じ、見ると車の窓からじっとこっちを見ている初老の男性がいた。「こんにちは」と声をかけると「こんにちは」と返してくる。いい人っぽい。「あなたの猫ですか」「うん」。

以来、通りすがりに軽くあいさつしたり、ちょっと立ち話したりしていた。私は撮影目的で来るので、ゆっくり話をしている暇がなかった。今回は、話をしに行こう。次の週末に人形の撮影を予定しているのでロケハンも兼ねているのだけど。私の格好は例によってセーラー服。

●すこぶる健康でけっこう文化的な生活

八瀬大橋の下には最近までホームレスの集落があった。以前は水上公園にいたが、追い出されて移ってきた。犬を飼っていたり、文庫本を読んでいたりして、なかなか文化的な生活が営まれていた。けど、塗り替える計画があるとかで、立ち退きを食っている。

福祉の人が来て、用意されたアパートに移るように言われた。でも、面倒をみてくれるのは2〜3か月。その間に職を見つけ、自活できるようにならないとならない。3人行って、うち2人はもうアパートを出てどっかへ行った。

橋の下にはもう一人ぐらいしか残っていない。立ち退いた跡地は、片付けられて更地になり、木製の杭が打たれ、針金が張り巡らされ、立ち入れないようになっている。水上公園から西武文理大学までの間に15〜16人ホームレスが住んでいる。

食料は主にコンビニで買ってくる。時々、ベルクにも行く。ベルクは食品スーパーマーケットで、的場駅の近くにある。農家のおばさんから野菜を買うこともある。ネギは太いのが3本で100円。白菜はでかいのが丸ごと150円。

それと、畑作をやっているホームレスの人が近所にいて、食べきれないほどの収穫があるとおすそ分けしてくれる。河原に細長く作った畑は2反(=600坪)もの広さがある。その人は実家が農家だったので、畑作のやり方は心得ている。なす、きゅうり、トマトなどを作っている。

もらった分も食べきれなかったりする。現にサトイモが余っていて、貯蔵してある。5〜6回、持ってきてくれた。酒のつまみにはちょうどいい。

一日2食。朝は食パンにコロッケを挟んだりして250円。晩は野菜を煮て鍋にして酒飲みながら。

運転席と助手席の間に、キャットフードがたっぷり盛ってある。あるだけ食べて食べ過ぎるということはなく、猫たちが自主的に適量食べている。

──話をしているとき、敵猫の襲来があって、ちょっとした騒ぎが起きた。まったくの野良からすれば、飼われてる猫はねたましい存在なのかもしれない。大騒ぎして撃退した。

雑貨などの必需品は、東武東上線霞ヶ関駅近くにある100円ローソンで買ってくる。ウスターソースが100円。めんつゆも100円。賞味期限は2013年3月7日とたっぷりある。

トイレは、河川敷にあるモトクロス場の簡易トイレが一番近いけど、コンビニまで行くことが多い。八瀬大橋のたもとにデイリーヤマザキがあり、その先にスリーエフがあり、さらに先にセブンイレブンがある。そこまで行く。ウォッシュレットなのがいい。トイレを使ったら、必ず何か買う。パン、野菜、きのこ類など。

洗濯するし、風呂にも行く。狭山市の、昔、ごみ焼却場があったところに娯楽施設がある。狭山市市民健康文化センター「サンパーク奥富」。市の施設で、料金は銭湯とあまり変わらない。埼玉県の銭湯は410円だが、ここだと市民なら300円、他地域の人だと450円だ。

行くのは、よくて週1回ぐらい。夏場は行かない。お湯が作れるから。5リットルのペットボトル6本に水をくんで日向に置いておくと、お湯になっちゃう。夕方4時ごろにはすごい熱くなってる。50度近く。うめないと熱くてかぶれない。3〜4本使えばじゅうぶん。

物干し竿につり下げてある真新しい傘はベルクで買ってきたものだ。夕立ちにあい、止むのを待っていたが、止まないので。移動には自転車を使っている。

夜は、月が照っていなければほぼ完全な真っ暗闇になる。寝るしかない。電気が来てない以上、電灯もテレビもないが、懐中電灯とラジオはある。ラジオでニュースを聞いている。

冬も、そんなに寒くなく過ごせる。ストーブを拾ってきて使っていた。猫も暖房代わりにいい。5匹いる。親猫が3匹と、ここで生まれた子猫が2匹。

病気はしたことがない。若いころ歯医者に1回行っただけ。それ以外は医者にかかったことがない。風邪ぐらいはひくけど、寝込むほどひどくなったことはない。

生活にあんまり不便はない。普通に暮らせる。食って寝て、安い生活費。そんなに食わないし。家賃も電気ガス水道代もかからないし。月5〜6万円で生活できる。

●以前は草刈り仕事があった

今は仕事をしていないが、以前は草刈りをして収入を得ていた時期もある。役所からの請負い業者が、河川敷に住んでいる人たちに声をかけて人手を募集する。夏場限定で、7月から10月までの4か月間。4〜5日を1ラウンドとして、6ラウンドほど。近辺だけでなく、越辺(おっぺ)川まで行って刈ることもあった。

1日8時間働いて、日当は8,000円。川越水上公園から西武学園文理高校の上流まで刈るのに5日かかる。刈ったら枯れるまで放っておく。それから集めてダンプに積み、捨てに行く。その片付けでさらに4日ぐらい働ける。2008年まではその仕事があったが、それ以降はぱったり来なくなった。

近所のホームレスたちは、それぞれなんか適当な仕事をしている。そこらへんからマムシを捕ってきて焼酎に漬けて売ってる人もいるし。5年以上育ったやつだと、1本1万円ぐらいで売れる。ひと夏で30本分ぐらい捕れる。

──福祉の車が通りがかった。川上のほうから小径をゆるゆる走ってきて、「家」の前で土手のほうへ曲がり、しばらくすると同じ道を引き返してきた。1か月にいっぺんぐらい回ってくる。いつも同じコースだ。

●来る前は営業マンとかトラックの運転手とか

羽生(はにゅう)で生まれ、中学卒業までいた。16歳で羽生を出た。家族はいない。おくふろは早くに死んだ。親父も死んだ。姉貴も死んじゃった。子供はいない。妻の連れ子はいたが、別れたとき、妻と一緒に出ていった。別れてそれっきり。どこにいるかわからない。天涯孤独。

羽生を出てからは、あちこち行って、いろんな仕事をした。地方へも行った。浜松町で営業の仕事をしていたこともある。屋根の上に設置するソーラーシステムというのが流行っていた。太陽光発電器、ではなく、太陽熱温水器。お湯がわくやつ。西田敏行が宣伝してる「朝日ソーラー」とか、「ゆワイター」とか、ナショナルのとか、3〜4種類あった。それを売って歩く仕事。ものすごく売れた。

けど、詐欺だか何だかで会社に手入れが入った。2年半やってて飽きてきたころだったので、ちょうどいい機会だと辞めた。それから半年ぐらいしたらその会社は潰れてた。貯めたお金で免許を取って、関東近辺に配達する運送会社に勤め、道を覚えた。

16歳ぐらいのときに軽二の免許を取り、自動二輪の免許を取り、18歳になって学科試験免除で普通車の免許に書き換えた。大特の免許も取った。

旭川で線路工夫をやったこともある。夏だけ、5年くらい。貨物の操車場を新しく作るってんで、線路を敷設していた。

川越に長く暮した。平成9年の誕生日まで仕事していた。18年間ぐらいトラックの運転手をやっていた。

ここに暮らし始めたときは蓄えが600万円くらいあった。それだけあれば普通にアパート暮らしして仕事して生活を維持することも可能は可能だった。けど、そういうのが嫌になっちゃった。人とのつきあいがわずらわしくなった。人と一緒に仕事するのも。

カミサンは浮気してた。耳に入ってくる。それで喧嘩して、結局離婚。言わなくてもいいようなことをぺらぺらぺらぺら言うからね。1週間に1回帰ってくるだけだった。月に6日しか帰らない。あとは出っ放しだからさ。

車であちこち旅行して、帰ってきて、そのまま住んでいる。自分の車だ。車検が切れ、故障して、走らなくなった。

●いよいよ困ったら福祉が頼りか

当初あれだけあったお金も、もうずいぶん少なくなっちゃった。草刈りの仕事も来なくなっちゃったし。今の生活が続けられるかどうか......。

福祉の人が車で回ってきて、紙を配って歩いている。さっきの車もそうだ。「埼玉県社会福祉士会」とあり、「屋外で生活している方へ」という題で、屋根のあるところに住みたい、仕事を持って収入を得たい、などとお考えの方はご連絡ください、とあり、電話番号が記されている。

福祉の人の説明によると、アパートを見つけてくれて、2〜3か月は面倒をみてくれる。その間に仕事を見つけて自活できるようにならないとならない。仕事探せなんて簡単に言うけど、60歳過ぎてからじゃ、どこも使ってくれないよ。

ここにいたままで、手当だか保護だかを受けるというのは、できないようだ。ああいうのは銀行振り込みだが、住所がないと通帳が作れない。身分証明書がないと口座を作ってもらえない。

住むところがなくなると、戸籍は別のところに移されるらしい。まず、アパートに住んで、戸籍を復活させないと。その手続きに1週間かかる。

2〜3か月だけ面倒みてもらったって、その後、仕事がなくて家賃が払えなくなって追い出されたら、今よりもっとどうにもならなくなる。当面電話する気はないけど、いちおう紙はとってある。草刈りでもゴミ拾いでも、なんか仕事を出してくれりゃ、この生活が続けられるんだけど。

──猫が、距離を置いたところからじーっとこっちを見てる。ここの猫は飼い主にだけなついて、それ以外の人には決して近づかせない。セーラー服の変なおっさんが居座っているせいで、帰れなくて困っているのだ。あ、じゃ、そろそろおいとましましょうか。

写真はこちら:
< https://picasaweb.google.com/107971446412217280378/Home120320 >

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
セーラー服仙人カメコ。アイデンティティ拡散。

3月18日(日)、いつものようにセーラー服を着て下北沢に行った帰り、小田急線に乗ると、カメラを持ったおじさんに声をかけられた。撮らせてくれませんか、と。はい。車内で数カット。写真家の方で、電車の中で、目に留った人がいると、お願いして撮らせてもらっているのだそうだ。すごい。度胸あるなぁ。断られることはもちろんあるけど、トラブルになることはないという。

4月に電車内で撮った写真で個展を開くのだそうだ。私が被写体のはまだ使うかどうか決めてないそうだけど。

◎中山学写真展 トレイン撮レインシリーズVol.1『電車の中のニッポン』
会期:2012年4月17日(火)〜4月29日(日)
会場:GALLERY SHUHARI 東京都新宿区四谷3-13大高ビル3F(1F南昌飯店)
電話:03-5269-1436 
E-mail: info@gallery-shuhari.com
< http://www.gallery-shuhari.com >

3月31日(土)と4月1日(日)に映像作家・寺嶋真里さんの『アリスが落ちた穴の中〜Dark Marchen Show!!』の上映と、それに出演しているパフォーマンスグループ Rose de Reficul et Guiggles のライブ公演のイベントが浅草橋「パラボリカ・ビス」であります。映像の上映は土曜日、ロウズさんたちのパフォーマンスは両日。

ロウズさんは奈良在住で、関西方面を中心に活動しています。東京で公演を開くのは1年ぶりです。奈良で淑女雑貨のお店「Toe Cocotte」(トゥ・ココット)を営み、私は、去年の9月と今年の1月におじゃましています。
去年9月に撮った新メンバー Yuwanちゃんの写真:
< https://picasaweb.google.com/107971446412217280378/Yuwan110924 >
今年1月に寺嶋さんに京都駅で撮ってもらった写真:
< https://picasaweb.google.com/107971446412217280378/Kyoto120128 >

悦楽共犯者達の2日間
〜2 jours pour "Esprit et Ridicul"〜
日時:3月31日(土)【Espritの巻】7:00pm 〜
   4月 1日(日)【Ridiculの巻】3:00pm 〜
場所:浅草橋「パラボリカ・ビス」
< http://www.yaso-peyotl.com/archives/2012/03/dark_marchen_show.html >