more READ, more MESS!![02]MESS001漫画「だれかのみほとけ」制作始末
── 宮崎希沙 ──

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前回は、自費出版レーベルMESSを立ち上げるきっかけのお話をしました。今回は、アーティストは誰と組んで、どんな本を作る? って具体的な話です。

身の回りにいる友達で、あるジャンルのことを「本気で」「それで食べて行くつもりで」やっている子たち、かつ「本として作品を形にしたい」と思ってる子と、まずは組んでみようと考えました。

作家の中でも、例えばイラストレーターでありデザイナーでもあるような、自分自身でデザインできて、本も作れる子は、本人がやればいいと思っていました。あくまで私がデザインをしてやれること、編集の役割も出来ること、本の中身も話し合いで練り上げること、それらをポイントに人選しています。

ラインナップの第一弾は漫画「だれかのみほとけ」。小学校からの10年以上の付き合いで、一緒にバンドもやっている松永恵実の漫画を本にすることでした。
< http://d.hatena.ne.jp/emikan369/
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彼女は昔から漫画を描いていて、プロの漫画家の元で月刊連載作品のアシスタント修行もしています。そこで、オリジナルのストーリーで、技術的にもクオリティの高いものを描いて欲しかった私は、一本描いたものでそのまま本を作ってしまおうよ、と提案しました。

これまでに彼女は、オリジナルの漫画をペン入れまで行って完成させたものはひとつだけで、それを展示したり、商業誌の漫画賞へ投稿したりはしていました。その内容はかなり詩的なもので、漫画としての構成というよりは、絵画的なアプローチの強いものでした。

それを踏まえて、どこまで他人にもわかりやすく、かつ彼女の世界観を壊さずに、40ページ程度の読み切り漫画を描くことが出来るのか? その実験をやってみることが、彼女のためにも必要なはず! と思っていました(お節介!)

彼女自身も、きちんと描きたいテーマをひとつあたためていたので、じゃあそれをやってみよう! となったのです。仏像マニアである彼女が京都へ行った時の体験をベースに、現実世界から少しねじれた場所へ女子高生が迷い込み、「善」か「悪」かというだけの世界から遠く離れた境地に存在する「仏」のようなものへ接触する、という話。

まずは漫画の最初のラフ構成である「ネーム」を切る段階から口出しをして、全体の流れや具体的なコマ割りなど、ストーリーをより伝わりやすくするためにはどうすればいいのかを相談しました。

私自身プロの編集者ではないし、一(いち)漫画読者としての意見でしかないのですが、そうやって二人であーだこーだと話を練り上げて行くことによって、彼女自身のモチベーションも上がり、私もどういう装丁がベストなのか? ということを連動して考えられました。

こうして中身を決めたら、原稿の下書き、ペン入れ、ベタ塗り、トーン貼りという作業。40ページの漫画の作業をすべて一人でやるのは、想像以上に大変なことで時間も膨大にかかります。私はその時初めてそれを実感しました。

プロの漫画家は、大体20ページ前後を週刊で描いたり、40ページ前後を月刊で描いたりしています。もちろん何人ものアシスタントと共にですが、そのペースで漫画の原稿を仕上げるのは非常にハードで、体力的にも精神的にも消耗する仕事なのだなあ......と改めて思ったり。

スタートが5月、ネームを切るのに既に一ヶ月かけていたので、原稿作業は6月。8月半ばにイベント出展するまでに本を完成させたかったので、入稿作業など逆算したら40ページを仕上げる時間はほぼ一ヶ月半。

これは手伝わなければ完成しない! と気付き、仕事や学校が終わった後、作業場である彼女の家へアシスタントに行く日々が続きました。おかげで漫画制作の基本的な知識や技術がちょっと身に付いたという、予想外の収穫もあったのですが。

そんなこんなで、中身と合ったカバーや本作りを同時進行で考えます。予算8万円以内で200部を作るためにはどうしたらいいか。漫画は同人誌を作る人口が多いことから、少部数で安く作ってくれる印刷会社はけっこうあります。

ただ、今回の問題は原稿が「アナログ」なことです。現在の漫画同人誌は、最初からデジタルで原稿を作るスタイルが多いようです。デジタルデータで受け取ることで、処理が短縮出来て、安いコストで作りますという印刷会社が多いのです。

手描きの原稿では、スクリーントーンというグレー色の多い模様や網をシールのように貼っている部分が、繊細なスキャニングを行わないと印刷でモアレが出てしまい、美しい仕上がりにならないのです。吹き出しの中などの台詞部分は、文字をプリンターで打ち出し手作業で切り貼りしています。

そこで、手描き原稿を受け入れて印刷、製本まで行ってくれる会社を探しました。結局は「ねこのしっぽ」という老舗同人誌印刷会社へ頼みました。対応が非常に丁寧で、仕上がりも素晴らしかった!
< http://www.shippo.co.jp/neko/
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ストーリーに合わせて数ページだけ紙を替えているのですが、そういったオプションも自費出版ならでは。判型をA5サイズにしているのも、いかに二次創作の同人誌っぽくならないようにするかという観点から、一般に売られている大判コミックと同じにしたのです(同人誌には、A4やB5など大きめのサイズで薄い本が多い)。

そして、中身も表紙もすべてモノクロ一色で印刷してコストを抑え、別に印刷した厚紙のカバーを付けることによって、安っぽくならない工夫をしました。テーマに合わせたミステリアスで和の雰囲気のある外身を目指し、カバーはフルカラーではなく孔版印刷の二色刷りで作りました。味のある印刷は「レトロ印刷JAM」大阪の若い人達がやっている元気な印刷屋さんです。
< http://jam-p.com/
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色違いで二種類作ってもらったものを、手でスジを付け一冊ずつくるみ、シールで封をしています。これらすべての印刷コストは、200部でほぼ8万円。ふたりの手作業で仕上げたことで、この費用に抑えられました。

ラインナップすべてがそうなのですが、本の印刷費と全部の部数を売り切った時に出る利益が、ほぼ同額になるように設定をしていますから、この漫画は一冊500円で販売。委託で掛け率が変わることも考慮した値段です。

「だれかのみほとけ」は、作家の手売りやコミケ出展、書店委託などで今までに150部ほど売上げを出しています。これを作ったことで出版社の漫画編集部の目にとまり、現在彼女は読み切りを新たに持ち込み中とのこと。こういった反応がきちんとあるということが、何よりも良かったと思うことです。

これで彼女が本当のプロになって、単行本を出す時にはまた私がデザインをしたいなあという夢がふくらみます。もちろん、もっと多くの人に、今の彼女にしか描けない作品を読んでもらいたい!

「だれかのみほとけ」松永恵実は、こちらから。
< http://mess-pressed.com/001.html
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【宮崎希沙】グラフィックデザイナー
自費出版レーベルMESS主催
< http://mess-pressed.com/
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< http://d.hatena.ne.jp/december_girl/
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無事に大学を卒業し、なんと成績優秀賞なるものまで頂きました。4年間色々やってすべてが変わった気もすれば、何もせず何も変わらなかったような気もしています。でもただ明確なことは、現在プー太郎ということ! 引き続き求職中です。エディトリアルのお仕事は、どこも大変みたいだ〜。

最近のお仕事は、日本の現代美術家・MIRAIのオフィシャルサイトのデザイン/構築をしました。彼女の本も、現在企画中。キワドい女の子たちのポップでグロテスクなイラストです。
< http://mirai-official.com/
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また、友人と活動中の"yakk"。東京都の20代女子4人でzineと呼ばれる小冊子を作っているグループ名でもあり、zineそのものの名前でもあります。
Yumi、Anri、Kumi、Kisaの4人がまず企画会議を経てそれぞれお題を出す

それに答えた素材を本人含めた4人全員が作る

お題を出した本人が4人から回収し、1冊のzineにまとめる

4つのテーマで作られた4冊のzineを1パックに!
という流れで制作。現在6店舗で販売中。現在発売中のVOGUE girlにも掲載されています。
< http://yakkblog.blogspot.com/
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