[3251] 旅に出るスイッチが入ったと感じさせていただきます

投稿:  著者:  読了時間:27分(本文:約13,300文字)


《後片付けの準備も事前準備のうち》

■歌う田舎者[32]
 旅に出るスイッチが入ったと感じさせていただきます
 もみのこゆきと

■ショート・ストーリーのKUNI[115]
 好みの女
 ヤマシタクニコ

■4/14「まにまにフェスティバル」やっちゃうよー[05]
 やったよー(前編)準備から後片付けまで
 川合和史@コロ。



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■歌う田舎者[32]
旅に出るスイッチが入ったと感じさせていただきます

もみのこゆきと
< http://bn.dgcr.com/archives/20120419140300.html >
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仕事上の必要性にかられて、経営関係のメールマガジンをいくつも購読している。あまりに数が多いので、見出しだけでパスしているものも多々あるのだが、ふと目にしたあるメールマガジンに、こんな文章が書いてあった。

引用──厳しい環境を助け合って生き抜き、数多くの苦しみと感動を味わった方々は、遺伝子にスイッチが入っていると感じさせていただきます。──

え?? なんですと? タイプミスであろうか。いや、しかしこれ以降の文章も「させていただきます」のオンパレードなのである。日本という国は、いつのまに「させていただきます」がオールラウンドな敬語になってしまったのだ。このような尊大な表現が、丁寧な言い回しとして市民権を得ているとは何たることか。

えー、ちなみに営業妨害になってはいかんので、一応調べたところ、このメールマガジンはWEBで公開されていないようなので、偶然わたしと同じものを取っている人以外は、検索しても、どちら様の書かれたものかわかりませんので念のため。

しかしながら、これは放っておくわけにはいくまい。言葉の乱れは心の乱れ。ファーストフードやコンビニでのマニュアル会話集なども、癇に障ること多々これあり、憂国の志士としては日本語の行く末が心配でならない。

そのため、今回のデジクリでは、このような神をも恐れぬ乱れた日本語に喝を入れ、敬語に関する深い思索と考察を交え、心まで乱れた日本人に檄を飛ばす所存である......いや、所存であった。

なぜ過去形になっているのか。それは、日本語の乱れに関する文部科学省の公開文書URLや、「させていただきます」の用法に関する参考URLなどを登録していた自宅のメイン機が壊れてしまったからである。

しかも壊れた翌日、旅に出るスイッチが入ったと感じさせていただいたので、メイン機を修理する暇もなく、飛行機に飛び乗らせていただいたわけなのでございますが、何か文句など感じさせていただきましたでしょうか?

そったなわけなんで、すっかたなかんべ。おら、今、チリのサンティアゴさいるだ。サンティアゴいうたら、日本の反対側にあるところだべ。

アジェンデ政権がクーデターで倒れたあと、16年半に及ぶピノチェトの軍事独裁政権下にあったけんど、1989年にエイルウィンが大統領選で圧勝して、やっと軍政が終わりになったいう国でんがな。ま、もちろん、ここんとこは「地球の歩き方」からのパクリやけどな。

動乱の時代やったけんが、日本の商社が革命側・反革命側に立って、政治とも密接に絡んだ企業活動で激しく火花を散らしよったことは「革命商人」(著:深田祐介)に詳しかと。え? わしですか? わしは読んでないけんどな。人の話によると、そう感じさせていただいたっちゅーことや。

ホテルのテレビをつけると、MTVらしきものが垂れ流されとるけんど、この国のミュージックビデオいうもんは、どうにもこうにもエッチでいけん。さっきのビデオなんぞ、男にしなだれかかって絡む女のヘアーがかすかに映っとったで、ヘアーが。そんなんでええのんか。まったくけしからんわ。植物検疫で梅干し没収する暇があったら、ヘアーを取り締まりゃーどがんね。

さて、それはさておき、やはりチリというからには、青森県の敵を討たねばならぬのが、薩摩藩の人間としての使命ではなかろうか。なんと言っても、日本の北から二番目、南から二番目という地味な場所同士、困難には手を携えて対処すべきではないかと感じさせていただいているわたしである。

皆様すっかりお忘れかもしれぬが、青森県住宅供給公社の殿方から14億もの金を巻き上げたアニータ・アルバラード。当時は噂のチリ人妻として時の人となり、騒動に乗じて、ゲイシャワインだのCDだの出してひと儲けしたようであるが、ここは一発、チリにギャフンと言わせてやらねばならぬ。

青森県のために一肌脱いで、チリ人の男を手玉に取り、1兆円くらいは巻き上げてやろうではないか。そして、モアイ焼酎でも売り出して、大富豪への道をまっしぐらだ!

このような気高く美しい志を抱き、成田よりダラス経由でサンティアゴに入ったのであるが、着いたとたんにチリ人の男に金を巻き上げられた。どういうことやねん! 気高く美しい復讐はどこに行ったとでごわすか!

長距離路線を二つも乗り継いで、しかも成田とダラスで5時間近くの待ち時間に加え、サンティアゴ行はほぼ満席。まったく眠れなかったのである。今回初めて旅行用ノートパソコンを入れたリュックは、思いのほか重く、体中が痛かったので、ミニバス(ホテルまで送迎してくれる乗り合いバス)を使おうと思ったのが大きな間違いであった。嗚呼、いつもなら地元民が使う公共交通機関を使うのに......。

空港でIDカードらしきものを首にぶらさげた男が近づいてきて、「Taxi?」と聞くので「No, Mini Bus」「Ok, I'll take you」の言葉について行ったわたしは大馬鹿ものである。今思えば、IDカードなど、適当に作って首からぶら下げておけば、それらしく見えるものだ。ミニバスで、サンティアゴ市内までは5,500チリペソなのだが、20,000チリペソ巻き上げられてしまった(US1$=約470チリペソ)。

まぁ、そもそもちゃんと「地球の歩き方」を再確認しなかったわたしが悪いとは言え、睡眠不足の寝ぼけ頭には、チリペソの単位が染み込んでおらず、20,000ペソと言われて、そんなもんかいな? と思ってしまったのだ。

お調子者の客引きからバトンタッチした運転手は、サングラスをかけた、ちょっと強面である。市内まで30分の間、何もしゃべらない。車内で「あれ? おかしくないか、この価格......」iPhoneに入れたレート換算アプリで計算すると、やはりボラれている。

だが、このまま黙って引き下がるのは悔しすぎる。「日本人はやっぱりカモだな」と舐められては、敵を取ると誓った青森県民の皆様に申し訳が立たない。弘前城の桜吹雪の中で、腹かっさばいてお詫びをしなければ死んでも死にきれぬではないか。

許せん! ひとこと言ってやる。ホテル最寄りの小道で、運転席のドアに立ちふさがり、礼儀正しく喧嘩を吹っかけさせていただくことにしましたが、よろしかったでしょうか?

「ちょっと料金が高すぎるとではごわはんか」
「何を言ってるんだ、セニョーラ。これが正規料金だ」
「あたいはミニバスち言ったどなぁ。ミニバスは5,500ペソごわんど。ここに書いてあっが、こら」

「これはミニバスじゃなくてタクシーだ」
「タクシーでも15,000ペソじゃっど。おかしかど」
「おかしくない。これは普通のタクシーより大きなバンだ」

「晩も昼もなか! おいどんはミニバスち言ったで、お金を返してくいやい」
「ホテルに聞いてみろ。これが正規料金だ」
「ないごて、そげなこつ言うと。おまんさぁは血も涙もなか人じゃらいなぁ。おいどんは、会社も退職しっせえ、もう収入はなかたっど。じゃっとに、こげん仕打ちをすっとは、まこてチリ人つあ、どげな人間じゃったろかい」

「おれは忙しいんだ。そこをどけ」
「うんにゃ、おまんさぁが金を返すまで、どかん」
「あんたがミニバスと言ったかどうかは、おれは知らん」
「客引きの男に、ミニバスち、ちゃーんと言うたが。5,500ペソにしっくれとは言わんで、せめて10,000ペソ返してくれんどかい?」

「できん」
「ないごてな。10,000ペソでも、ミニバス料金の倍じゃっどが。おまんさぁは大儲けじゃ」
「できんといったらできん!」

もちろん、英語にもスペイン語にも超堪能なわたしであるが、日本人としての矜持を示すため、このやりとりは全て日本語時々鹿児島弁でさせていただきましたが、よろしかったでしょうか? なんでしたら、ご一緒にポテトもいかがですか?

どうあっても金を返す気がなさそうなので、仏教徒として最後の手段に出た。
「ぎゃーてーぎゃーてーはらぎゃーてー、はらそーぎゃーてー、ぼーじーそわかー、末代までお前の身には祟りがあるぞよ! なまんだーなまんだー仏教徒をなめんなよ!」

それはもう幼いころから宝塚を見続けてきたわたしであるからして、迫真のクサい演技力で、おどろおどろしく唱えましたとも。これで、あいつの身に何か悪いことが起こったら、「あの日本人の祟りだ! ママン、怖いよぅ!」と思ってくれるだろうよ。ふん。

ちなみにホテルのフロントのにいちゃんに「空港からここまで20,000ペソってどうよ?」と聞いたら、「えっ? 20,000ペソ? あなたが乗ったタクシー? いやー、それはちょっと......法外に高いわけじゃないけど、高いですね。ホテルから呼ぶタクシーでも空港までは14,000ペソだし。うわー、残念でしたね」とのことである。ほらみろ、クソ運転手!

そんなわけで、しょっぱなからチリ人の男に蹴つまづいた旅のスタートである。戻ったら自宅のメイン機を治療せねばならぬという大仕事もあるが、このご時世に次の仕事を見つけるほうがよっぽど大仕事だ。

なんとかせねばならぬ。なんとかせねばならぬが、まぁ、それは生きて帰ってから考えよう。

さて、この旅の先にはイースター島があるのだが、ここでぜひ歌いたい曲がある。松坂慶子のこの名曲である。

♪こ〜れ〜モ〜アイ
♪あれモアイ
♪きっとモアイ
♪たぶんモアイ

モアイの横で、バニーガールの衣装と網タイツをはいて、指さし確認しながらぜひ歌ってみたいものである。

それでは皆様、来月もぜひ元気で、生きて日本でお目にかかりたいと感じさせていただきます。グラシアス、グラシアス。

※「革命商人」(深田祐介)
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4167219239/dgcrcom-22/ >
※「愛の水中花」松坂慶子
< >

【もみのこ ゆきと】qkjgq410(a)yahoo.co.jp

かつてはシステムエンジニア。その後、働くおじさん・働くおばさんと無駄話するのが仕事の窓際事務員。現在、失業して国外逃亡中。

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■ショート・ストーリーのKUNI[115]
好みの女

ヤマシタクニコ
< http://bn.dgcr.com/archives/20120419140200.html >
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こんなことも起こるのだなと思った。彼はひとりで生きてきた。結婚していたこともあるが、数年しか持続しなかった。そのことを別に悔いてはいない。妻だった女を恨む気もないし、自分が特に愚かだったとも思わない。なるようになっただけだ。

自分は何歳になったんだっけ? まだ自分ではそうは思っていないが、世間はたぶん彼に老人のレッテルを貼っている、だろうことはなんとなくわかる。初老というところか。仕方ない。

その彼が、女と出会った。近所のスーパーで買い物を終え、店を出たときに女が後ろから呼び止めた。
「かごにこれが残ってたわ」

薄い袋に入った液体調味料の袋を、女は差し出した。かごに入れたのに袋に移すときにうっかり忘れることはよくある。特にひらべったいものは、かごの側面に貼り付くのだ。

「ああ、ご親切にどうも」
言いながら彼ははっとした。女が、美しかったから。少なくとも、彼の好みだったから。それを機に、彼は女と時々話をするようになった。どことは教えてくれないが、近くに住んでいるらしい。

何を話すんだって? 何を話したんだろう。むかしどんな仕事をしていたか。子どもの頃何が得意だったか。うれしかったことはどんなこと。好きな食べ物。

いやなことはあまり話さない。と思う。いや、話したかもしれない。彼は忘れっぽいから、いちいち覚えていない。まるで遠い山にかかる春がすみのように、そのへんはぼんやりしている。いいんだ。人生なんてぼんやりかすんでいるくらいがちょうどいいんだ。

女は30代だろうか。40くらいかもしれない。目が大きいが、笑うと目の回りにしわができる。でもかまわない。いつも明るい色の服を着ていて、そばにいるだけで気分がはなやぐ。黒やねずみ色の服を着ている女はきらいだ。よく笑う。彼がつまらない冗談を言うと予想の数倍笑う。ああ、楽しいなあと思う。こんな気分はひさしぶりだ。もう、二度と味わうこともないだろうと思っていた。こんなことが起こるなんて。

彼と女はどんどん親しくなっていく。ひとり暮らしの散らかった部屋を片付け、女を呼ぶ。女は手みやげに菓子を提げてきたりする。ところが、茶の用意をしようとして、彼はふいにめまいに襲われる。もう少しで頭を壁に打ち付けるところだったが、女が支えてくれたおかげで助かった。

「だいじょうぶ?」
「ああ。そういえば、病院に行ってたんだが、めんどくさくなって最近行ってない」
「いけないわ。明日にでも行って、ちゃんと診てもらって」
「気が向けばね」

女は悲しそうな顔をする。自分のことを心配してくれるのだ。そんな人間は、この世にもういないと思っていた。彼の親はとっくに死に、たったひとりいる弟が行方不明だが、もともと仲は悪かった。ひとりのほうが気楽だし、それでどうにかなっても自分の責任だから納得できる。でも、と彼は考えた。

最期のときにこの女がそばにいてくれたら。

いや、そんなことを考えないでおこう。いくらなんでも虫が良すぎる。

梅が咲いて桜が咲いて、散って、青空がまぶしくて目を細めてしまうような日が何日か続く。天気予報では次の日もいい天気らしい。それで思い立って、ふたりでピクニックに出かける。ピクニックだなんて自分で笑ってしまいそうだ。

待てよ。ピクニックでよかったんだろうか。自分がそんなものと縁のない生活をしてる間に世間ではピクニックという言葉が死語になっていたりして、その言葉を口にしたとたんに笑われたりしないだろうか。彼はそんなことばかり気にしている。笑われてもいいか。

で、その日になって弁当を持って、私鉄に20分ほど乗って、花がたくさん咲いているらしい有名な公園に行く。家族連れがいっぱいで気恥ずかしいが、考えたら彼も女とふたりなのだ。彼は女とふたりで青空を見上げては、ふたりで目を細める。そして笑う。

あ。と思った。女の笑った顔を見た瞬間、なぜか「ちょっと違う」という感じが突然した。かなり自分の好みに近いと思っていたのが、そうじゃないかもしれないぞというような。たぶん、笑った顔そのものではなく、そのとき笑顔のすきまからこぼれおちた何かが。

たちまち「ぜいたくいうな」と別の声が言う。まったくだ。100%好みそのものの女がいるわけない。いたとして、自分と親しくなれるわけがない。しかし、その小さな違いがいちごの種みたいにいつまでもはさまったまま取れない。忘れようと決めたとき、彼はまたもやめまいに襲われ、倒れてしまう。起き上がれない。

彼は女に言われるまま病院に行くが、入院のすすめは断ってしまう。なんとなくだるくて、寝たり起きたりの日々になってしまう。女はまめに通ってきて世話を焼く。看護師の資格があるのだそうだ。彼はふと思う。

最期のときにこの女がそばにいてくれたら。

待てよ。以前もこんなことを思ったような気がする。いや、気のせいか。記憶に自信が持てない。何もかもがぼんやりしている。でも、と彼はまた思う。できすぎじゃないか。なんだか妙だ。これはひょっとしたら、なにかの罠ではないか。

女は何かたくらんでいるのではないか。財産? 財産というほどのものはないが、まったく貯蓄がないかというとそうでもない。それが目当てか。なんてことだ。そう思うからかもしれないが、彼にはいよいよ女は自分の好みと違っているように思われる。声も、髪形も、歩くときの尻の揺れ方も、そう思い始めるとひとつひとつが気に入らない。

自分の好みの女はどうだっけ。好みの女。好みの女? そういう設問に、いつか答えたような気がする。あなたの好みの女性はどんなタイプですか。そう、確かに答えた。なんのために答えたのだろう?

彼の具合は加速度的に悪くなり、もはや会話も十分にできていない。時折、医者がやってきて女に指示をしていく。
「ちゃんと寝てないとだめよ」
「無理しちゃだめ」
「かわいそうに。もう、ちゃんとしゃべれないみたいね」

女はまるで子どもに対するように言う。何を言うんだ。どうせ財産目当てのくせに! おまえなんかまったく好みの女じゃない。失敗した。自分の最期はこんなふうになる予定じゃなかった。

不意に、脳内の霧が晴れるみたいにクリアになって、突発的に記憶が蘇る。二年くらい前のことだ。彼は台所のテーブルで、分厚い書類の一枚一枚に回答を書き込んでいる。

Q 最期のときに、あなたがそばにいてほしい人はどんなひとですか?
・女性  ・男性  ・どちらでもよい
Q 上の質問で「女性」と答えた方、その女性の外見はどんなタイプですか?

彼が回答を書き込んでいるのは「ひとりぐらしの方専用・いざという、そのときのための保険」だった。彼はネットでそのような保険があることを知ってすぐに説明書を取り寄せたのだ。

ひとり暮らしのあなた。ふだんは気ままな生活を楽しんでおられると思いますが、いざ最期のときのことを考えると不安になることがありませんか? 「孤独死」という言葉が脳裏から離れず、夜も眠れないことがありませんか? 当社はそのときのために必要な一切の手続きを代行することはもちろん、たとえば「好みのタイプの異性に抱かれ、その腕の中で安らかに最期の時を迎えたい」といったご希望もオプションサービスとしてかなえることができます。恋人や友人がいない方でも、心配いりません。ご希望の方はあらかじめ好みのタイプを記入してご登録くだされば.........

いつの間にか医師が枕元にいた。女に状況を聞いている。
「もう意識が混濁しています。ええ、もちろん、日頃から軽度の認知症ではありましたが、いまは私たちの会話も認識できていないと思われます」

女は彼の体にそっと腕をまわす。やせた彼を抱きかかえるような姿勢を取る。彼は違う、違う、と思う。

あのとき悩んだ。別れた妻と正反対の容姿を、あえて選択肢の中に探し、選んだ。目が大きくてはでな外見の女。彼の妻だった女は色白で目は細く、地味だがふうわりとした上質の和菓子のような女だった。着ているものも地味だったが、違和感がなかった。やっぱり自分がいっしょにいてくつろげるのはそういうタイプなのかもしれない。

なのに、今、微妙に違うタイプの女が自分を看取ろうとしている。違うんだ! でも、彼がそう言おうとしても声にならず、息がもれるだけだ。
そして、ついに。

「ご臨終です」
医師がそう言い、女がゆっくりと、やせて軽くなった彼の体をふとんに戻した。「これで幸せな最期を迎えられたことになるのですね。いやあそれにしても画期的なサービスだ。すばらしい。あなたもたいへんだったでしょうけど」

「ええ。この方の場合、医療機関から契約保険会社に末期がんの連絡があり、契約データに従って私が派遣されました。病気の告知は望まないということだったので、すべては極秘裏に、自然な出会いを装って進められたのです。幸か不幸か認知症が進んでいたので、たぶん何も疑わないままだったのではないかしら......」

女は立ち上がって帰り支度を始めた。やがて連絡を受けた保険会社から担当員が到着し、契約に基づいた処理がなされた。

【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
< http://midtan.net/ >
< http://yamashitakuniko.posterous.com/ >

iPhoneのアプリでMinipianoというのがあって、ためしに入れてみた。たった1オクターブのピアノだけど、なんだか楽しい。ドレミの歌なら1オクターブで間に合う。アメイジンググレイスもオッケー。他に何がひけるかな。小学生のとき、ハーモニカが吹けるようになったときのことを思い出した。

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■4/14「まにまにフェスティバル」やっちゃうよー[05]
やったよー(前編)準備から後片付けまで

川合和史@コロ。
< http://bn.dgcr.com/archives/20120419140100.html >
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......ども、デジクリ5度目の登場、川合です。(ぺこり)

これまでデジクリで4回に渡って見どころ紹介をしてきた「まにフェス」こと、まにまにフェスティバルですが、先週14日、無事開催することができました!ご来場いただいた方、出展・出演いただいた方、応援いただいた方、スタッフ、関わっていただいたすべての方々のおかげです。ありがとうございました!

ご来場いただいた方の数は延べ1000名弱と、おかげさまで予想以上の大盛況となりまして、ひとまずはほっと胸をなでおろした、というところです。

土曜に開催して今日はもう翌週の木曜だというのに、後片付けがまだまだ全然終わっていないんですけどね......開催日の夜からずっと片付けてるのに。何をそんなに片付けているの? と思われる方もいらっしゃると思いますので、今回は「準備」から「後片付け」まで、本番以外の裏側を少し、ご紹介。

そんな話より本番のことを、という方は、今日明日あたりから順次、サイトで出演者メッセージや、一部ステージの講演資料などを公開していきますので、そちらをチェックしてみてください。また、4Fで行われた各セッションにご参加いただいた方には、そちらのフォローアップメールも、数度に分けてお送りしますので、今しばらくお待ちください。あ、次回は少し本番のお話をすると思います。たぶん。

さて、では「準備」のことから。

私たちがイベント(主にセミナー)開催を考えるとき、一番初めに決めるのは、「内容」か「会場」、「日程」です。内容、といっても、最初から細かいことまで決めるわけではなくて、「こんな感じのイベントしよう」程度のものです。

「何をするか」「どこでするか」「いつするか」と、どれから先に決めるかは、その時々によって違います。また、「どこで」と「いつ」は、かなり密接で、片方がもう片方に大きく委ねられます。というのも、自分たちで会場を持っているわけではないので、「どこで」を固定すれば、そこの空き状況に左右され、「いつ」を固定すれば、その時に空いている会場を探すことになるからです。

密接だからこそ、同時に考えることが多いですけどね。例えば「4月にやりたいけど、産創館って空きあるかな?」と調べて、空いてる日があれば、その日に決めてしまう、という具合に。

もっとも、どちらかといえば、「何をするか」から考えることが多いです。基本、私たちがイベントをする動機は、営利は二の次で、単純に「やりたいから」って場合がほとんどなので。

会場や日程から入る場合というのは、ちょっと打算的な時か、外部から依頼があったか、ですね。打算的、というのは、「前はあそこで開催したから、次はここにしよう」とか「その会場で開催すると、あそこに協力してもらいやすいから」とか、「いついつ開催に備えて、この時期に先にこれを」とか。「相談したら条件付で無料で借りられそう」なんていうのもあります。

なんにしても、「いつ」「どこで」「何を」が決まれば、イベント準備の半分は片付いたようなもの。それくらいに大事な部分です。

では今回の「まにフェス」がどうだったかというと......かなりのイレギュラーで。実は、4/14に考えていたイベントが、ちょっとした事情で白紙に戻っちゃって。予約した会場だけが残ったんですよね。で、せっかく押さえた会場をキャンセルするくらいなら、ということで、あたためていた企画を引っ張り出してきて、無理やり突っ込みました。(笑)

その分、準備期間が圧縮されて、大変な思いをしましたけど。ま、そんなこともありますよという話です。

準備の残りの半分にはどんなものがあるかといえば、「内容の詳細を詰める」「講師のアサインと条件交渉」「広報」「申込受付」「申込者への案内」「備品の手配」「スタッフの手配」あと「協力依頼」「協賛依頼」といったところです。

残り半分がやけに多いな、って思われそうですが、ある程度はやることが自動的に決まってくる性質のものなので、ここは粛々と進めるのみ、といった感じで。ただ、順番と時間でいつも苦労しますね。

例えば、詳細が詰まってないと広報が上手くできないし、広報が上手くできないと申込が進まないし、協力も得にくくなるし、と。で、順番の前のほうが押すと、後ろがどんどん詰まってきて。まあ毎回のように、その辺りで泣かされています。

じゃあ準備期間をたっぷり取って早くから始めればいい、と思われそうですが、Web周りのことを主に扱っていると、ネタの鮮度がそんなに持たないので、結局ある程度開催が近づかないと、詳細が詰まってこなかったり、用意していた話が覆ったりするんですよね。難しいところです。

ともあれ、そんなこんなで準備を進めたら、あとは本番。本番はもう、ただただ想定どおりに事が運ぶのを祈るのみ......なんですが、アクシデントはつきもの。アクシデントに備えるのも準備のうちなので、まあ準備がしっかりできていれば本番は比較的(裏方は)楽だったりします。体はきついですけどね。

そして、後片付け。撤収作業や備品整理だけじゃありません。アンケート集計、告知サイトの終了処理、講師はじめ関係各位へのお礼と報告、参加者へのお礼とフォローアップ、次回開催の告知、感想ヒアリングなどなど、終わってからも、準備に近いくらいの作業が待っています。

それぞれの作業内容についてはある程度ご想像いただけると思いますが、今回、何をそんな手間取っているかというと、イベント規模が大きくて、報告のために用意する素材が普段よりずっと多いことと、関係者の数がものすごく多くて、ちょっとした連絡や取りまとめも、その分膨れ上がっていて。

だいたい私たちが普段開催しているセミナーイベントが、講師3人、スタッフ5人、その他関係者が2〜3社とすれば、今回の「まにフェス」は、ざっとその5倍以上は関わっていて。人の数が5倍になると、対応の手間は5〜10倍くらいって感じです。

でも「後片付け」にも、準備ほどでないにせよ「期限」があるわけです。しかも、後片付けの期限ってイベントの大小に関わらず、常識的な範囲で同じだったり。ああ、なんか、どんどん泣き言になってきていますね。(笑)

当たり前のことで、分かっていたことなんですが、まにフェスを通じて改めて、身をもって痛感した後片付けのポイントは「後片付けの準備も事前準備のうち」ということ。本番終わってから後片付けを始めてたのでは遅いってことです。(いや、いつもはそれでも何とか、ごまかしごまかしやってたんですけど)

皆さんがイベントをされる時は、こうならないように気をつけてくださいね。では、後片付けに戻るとします......

・まにフェス、参加された方も、参加できなかった方も、こちらをまた是非。
< http://m2.cap-ut.co.jp/fes/ >
開催報告を近日更新。それからしばらく更新が続きます。

【川合和史/合同会社かぷっと 代表】
< http://cap-ut.co.jp/ > < koro@cap-ut.co.jp >
< http://twitter.com/cap_ut > < http://www.facebook.com/caputllc >

準備だの片付けだのはいいから、「まにフェス」の話を聞かせろって?あの、すいません、お話の材料をまとめる準備が間に合いませんでした。(・ω< )テヘペロッ

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編集後記(04/19)

●荒山徹の「柳生黙示録」を読む(朝日新聞出版、2012)。おもしろいおもしろい、一気に読破。でも途中で、どうやって終わらせるのか心配になった。荒山徹といえば、柳生と朝鮮をいじり倒す作品が多く、この分野の第一人者、って他に誰もいない。この分野はこの人が発明したからだ。荒唐無稽という表現ではまだ足りない、とんでもない世界観なのである。そして、今回の舞台は主に島原、天草。あの「島原の乱」に柳生十兵衛が介入、いや当事者となって豪剣を振るうお話だ。

柳生陣営は、十兵衛を筆頭に大目付柳生宗矩、宗冬、棄教を拒み通して国外追放を命ぜられ20年も前に呂宋で死んだはずの高山右近、右近を守るジョホール王国の女剣士ヤスミナ姫、異端尋問奉行荒木景村ら。高山右近の帰国の意図はなにか? 一方、キリシタンの指導者・森宗意軒の陣営は天草四郎時貞、キリシタン忍び部隊の神聖ハポン騎士団7人衆、ビルゼンダアデ少年剣士団ら。キリシタンによる日本制圧計画「ヴァ号作戦」を阻止せんと、十兵衛らが戦いを挑むが、天草四郎の正体を知った十兵衛は愕然とする。

そんな手があっていいのかとは言っても無駄、もうなんでもありなのが荒山徹ワールドなのだ。島原の乱の恐るべき目的とは? 霊的存在の四郎を十兵衛は斬ることができず敗北し、ついには自身が十字架にかけられてしまう。そして迎えた衝撃のラスト。十兵衛と一身同体となったのは誰あろう、あのお方だ。ここまで来ると本を投げ出したくなるが、あと数ページで終わる。おもしろいけど何も残らない。それが潔いんだなあ。(柴田)
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4022509333/dgcrcom-22/ >
→アマゾンで見る(レビュー1件)

●カブトムシの幼虫。昨日の後記では快調そうに書いているが、実は慌てまくっていた。というのも、朝なのに土の表面に出てきていて、微動だにしなかったからだ。急に、生き物を飼う時の怖さ・悲しみを思い出した。容器のまわりには土が少しこぼれているし、表面はぼこぼこしていて、夜中に動き回った様子がうかがえる。なのに、なぜ外が明るくなってきているのに表面にとどまっているのだ? 体躯はぷりぷりとしていて、栄養十分に見える。調べると酸欠という話があった。昨夜、湿度を保つように少量の水をかけたが、そのせいで二酸化炭素が? 直射日光は遮っているものの、光が良く入るマンションでとても暖かい。うちに来て、急な気温変化で弱っているのかもしれない。触りたくても、まだ抵抗があって触れないし、弱っているなら触ってはいけないような気もする。検索しまくる。土はまだ養分十分に見えるが、もしかしたら総量が足りないのかもしれない。容器を近くのバラエティショップに買いに行ったら、シーズン前とかで置いておらず、最初にもらったジップロックコンテナのふたをずらしたまま飼っている。ペットボトルで飼っている人もいるので、休みの日にでも買いに行くか〜と安易に構えていたが、器が悪かったのかもしれない。カブトムシって飼うのに難しかった覚えなんてないのに〜。ノウハウを検索しまくり、近くに昆虫ショップはないのかと調べまくり、いやだいやだ死なせたくない、と気が動転していた。もう耐えられないと家人に電話をかけている最中に、蓋が動いた。あれ? うるさいなぁという感じで(音は聞こえないよね?)、もこもこもこもこと潜って行った。紛らわしい。良かったとほっとして気づいた。洗濯物を干すことを。ああ、もー!/Nさんは蛹後に触って弱らせてしまったとか。幼虫時は少々触っても大丈夫ですよ〜と教えてくれた。ありがとうございます!(hammer.mule)