ユーレカの日々[11]組立付録の時代、ペパクラメディアの時代/まつむら まきお

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朝の連ドラ「梅ちゃん先生」のオープニングがちょっとした話題だ。レトロな昭和の風景がジオラマで再現され、郷愁を誘う。このジオラマの作者は山本高樹さん。

< http://www.hiyori-geta.com/ >
今はCGが全盛だが、昭和のノスタルジックな風景にはこういった手作りの模型がよく似合う。

以前も書いたが、僕のような1960年代生まれの男性は多かれ少なかれ「模型好き」「ジオラマ好き」だ。この歳までそれを引きずっているかどうかはともかく、小学生の頃はみんな、サンダーバードやウルトラマンといったミニチュア特撮に夢中になり、プラモデルブームの洗礼を受け、実物大未来都市ジオラマ「大阪万博」に度肝を抜かれた。

今のようにCGもビデオもゲームもNAい時代、模型は子どもにとって一大エンタティメントだったのだ。この歳になってもドリンクについて来るフィギュアをつい買い集めたり、ディアゴスティーニの週刊模型に手を出しそうになったりするのは、そういった刷り込みのせいだ。「梅ちゃん先生」のオープニングもつい、見入ってしまう。

そんな僕らにとって一番身近な模型は、小学館の学年雑誌「小学◯年生」の「組立付録」だった。




厚紙に印刷、型抜きされたパーツを組み立てると、乗り物や建物、道具などができ上がる。今でいうペーパークラフト、ペーパーモデルだ。高価なプラモデルは特別な時にしか手に入らないが、「学習」雑誌は毎号買ってもらうことができ、そこには毎月、なにかしらの組立付録がついてきた。

今のようにキャラクタービジネスが定着する以前である。ウルトラマンなどのキャラクターものもあったが、モデルは東京タワー、アポロ宇宙飛行士(たしか歩くという、子どもから見ても無茶ぶりなものだった)、霞が関ビルなど、実在の建物なども多かった。

小学館のサイトでは、当時の東京タワーの組み立てモデルがpdfでダウンロードできる。ここに載っているのは昭和43年、小学二年生の付録。その頃ぼくは幼稚園なので時期がずれているが、おそらく何年かは再録されていたのだろう、ぼくもこれを組み立てた記憶がある。おどろくほど少ない部品点数で、ビルや駐車場、さらに糸をつかった昇降可能なエレベーターまで再現されている。

かなりの大きさだった記憶があるが、このサイトを見ると、なんと1.5mもある。小学生の身長よりでかいのだ。
< http://family.shogakukan.co.jp/kids/netkun/furoku/menu.html >

調べてみるとこのような組立付録の歴史は古く、戦前の子ども雑誌にも、建築物や軍艦などのモデルなどが付いていたようだ。印刷した紙という、量産しやすく、また、工業化時代に必要な指先のトレーニングという目的もあったのだろう。たくさんの組立付録が発行されていたらしい。

乱暴に切り取って、セロテープでベタベタと貼っても、かなりのサイズにちゃんと組み上がる。一枚の紙が立体になるのが面白く、毎月枚月、夢中になって組みたてた。弟や妹の付録まで手を出してしかられた記憶もある。

一度憶えてしまった、立体物が自分の手で組み上がるという悦楽への興味は、その後LEGOブロック、プラモデル、さらに大学では建築専攻と順調にエスカレートしていくわけだが、間違いなく、自分の立体物のルーツは、組立付録だ。

中学校以降は、時代がプラスティックの時代になったこともあり、紙の組立モデルというものとは疎遠になっていた。すっかり「子どもの頃の記憶」になっていた組立モデルと再開したのは、今から25年ほど前、サラリーマンをしていた時だ。

アメリカに出張に行った先輩が、オミヤゲにペーパーモデルを買ってきた。たしか第二次世界大戦の戦闘機なのだが、機体の前半分しかない。シカの首の剥製よろしく、壁にかざれるというシロモノだ。

幸いそこはデザイン室。カッターもノリも揃っている。さっそくそれを奪い取り、会社で組み立てた。子どもの頃の雑誌付録と違い、部品点数も多く、それなりに組立に時間がかかったような気がする。

組み立ててみると、翼長が1.2mほどもあり、事務所の壁に飾ると、それはかなりの迫力だった。プラスティックモデルでこのサイズだと、組立は相当大変だろう。紙ならではのホビーがある、ということをこの時改めて知ったわけだ。

しかし、ある朝会社に行くと、そのモデルは半分分解して、壁から落ちていた。組立に使った両面テープがいけなかったのだ。何度か補修したが、そのうちゴミ箱行きとなってしまった。

それからしばらくして、今度は東急ハンズでおどろくべきペーパーモデルと出会った。ドイツ・Schreiber社製のペーパーモデル、第二次世界大戦の超大型飛行船「グラーフ・ツェッペリン」だ。

開発元サイト
< http://www.schreiber-bogen.de/cat.php?ac=4&t=205 >
国内取扱。こちらのサイトではパーツの一部を見ることができる。
< http://miniature.ne.jp/item/SB557/ >

実際に組み立てられたものが東急ハンズに展示されていた。1/200サイズ、全長118センチというビッグサイズである。おどろいたのはその精度と存在感だ。

ペーパーモデルは曲面を再現するのは苦手。だからモチーフは建物などが多く、航空機はまだ基本が円筒形だからそれっぽくはできるが、それでもディテールはデフォルメせざるを得ず、どこかオモチャっぽなる。

ところが飛行船ツェッペリン号は実物の断面が多角形。現在みかける広告飛行船は軟式で、気球同様内圧で膨らんでいるため、丸い。それに対し、ツェッペリンはガス袋と外装が別の硬式。なので、外装は膨らんでおらず、面はフラットである。

曲面が苦手なペーパーモデルにはうってつけだ。さらに、実物の外装も薄い布貼りなので、プラスティックモデルよりも紙の方がホンモノらしい、薄さと軽さが表現できる。

テグスで天井から吊された完成品は、まさに理想的なグラーフ・ツェッペリン号だった。完成させても、天井から吊せばいいので、置き場所に困らないというのも魅力だ。

たしか3,500円くらいだったと思う。当時3,500円というとそれなりのプラモデルが買える値段。たかだか紙に3,500円も出すのか? と何日か悩んだが、結局その魅力に勝てず、A4サイズほどの紙が9枚からなるキットを購入した。

当初、紙なのだからいくら精度が高くても簡単にできるだろう、と考えていたが、実際はそう甘いものではなかった。切り取りも、小学館の付録のようなカタヌキはされておらず、自分で正確にカットしなくてはならない。

カタヌキは印刷と精度がずれるので、このような大人の高級モデルであれば当然だろう。しかしキットを開封してみると、このモデルの切り抜きにはとんでもない工夫がなされていた。

通常のペーパーモデルでは、表面に切り取り線が印刷されている。これだと切り取った時に、エッジに黒い線が残ってしまう。なんとこのモデルでは、切り取り線を表に見せないために、すべての切り取り線が紙の裏面に印刷されていたのだ。表の印刷は各パーツサイズよりも大きめ、つまり塗り足しを設けることで、精度を維持しつつ、組み上げた時に切り取り線が表面に出ないことを実現していた。

3,500円とはいえ、所詮紙だろう、と思っていた気持ちが、一気に引き締まった。組立図を見てみると、さらにおどろくべき仕様が見つかった。それは「のりしろ」だ。このモデルでは、全てののりしろが別パーツだったのだ。

通常、のりしろはパーツの端に同じ面として存在するが、これを組み立てると接合部分に紙の厚さの段差ができる。1mmにも満たないそのかすかな段差が、模型としての「おもちゃ」っぽさの原因のひとつなのだ。

のりしろを別パーツにすることで、この問題が解決する。たとえば二つの面、AとBをつなぐとき、AとBを重ねるのではなく、AとBを突き合わせて、裏からのりしろパーツCを充てて接着するのだ。

こうすることで、表面には紙の厚みの段差が現れない。その結果、完成するツェッペリン号の表面には、段差も切り取り線も存在しない。紙でありながらとても美しい流線型ボディなのだ。

おそるべし、ドイツ人。

プロダクツに対するドイツ人の完璧主義に敬意を表しながら、ひとつひとつの部品を丁寧にカッターで切り抜く。面合わせを行うのだから、フリーハンドは厳禁だ。折り曲げ線は裏から鉄筆で折れ線を入れる。精度をきっちり出さなければ、スキマやゆがみが出てしまう。20等分ほどの輪切り状態の各パーツを丁寧に組み立て、それを接合。キャビンやエンジン、尾翼などのパーツまで組み上げるのに、軽く一か月はかかったと思う。

じっくりと作り上げたおかげで、完成したモデルは実に見事だった。今の家に引っ越す時、かなり薄汚れてしまって捨てるまで、8年ほど、部屋の天井でずーっと浮かんでいてくれた。

それから10年。昨年のことだ。書籍のイラストのキャラクターとしてロボットのデザインを考えているとき、それをちょっと3Dにしたくなった。愛用しているGoogle SketchUpを起動し、レトロスタイルの単純な箱型ロボットを30分ほどでモデリングした。その時、ふと、これをペーパーモデルにすることができるんじゃないか、と思いついたのだ。

それ以前から、「ペパクラデザイナー」というアプリがあるのは知っていた。仕事で自分が描いた建物をペーパークラフトにしてもらったこともある。3Dアプリとプリンタがあれば、あの組立付録が自作できる時代になっていたのだ。

Google Sketchupのデータでも、いくつかのアプリを経由すればペパクラデザイナーで展開できるんじゃないだろうか。そう思って色々と検索してみると、Google SketchUp用の無償プラグインにまさに立体を平面展開するものが見つかった。

インストールしてみると、これが非常に簡単。面を二つ選択すると、接合軸を軸にして、前者の面を後者と同じ面に展開してくれる。パチパチとクリックしていくと、箱がパラパラと展開図になっていくのだ。
< >

実際に展開してプリントアウトし、組み立てる。バーチャル世界でモデリングした仮想立体物が、印刷物を経て、立体物になる。組立付録から40年。模型少年だった自分が建築を勉強したり、会社員時代に3DCGを覚えたりしたりしたのはすべてこの日のためだったのか!! とまでは思わないが、まぁ、かなりの感動である。

ちょうど友人でイラストレーター・まんが家のMONさんが、A3サイズの同人誌を作るというので、そこにペーパーモデルのロボットを掲載してもらうことになった。最初は楽勝〜、と思っていたのだが、実際に作ってみると、いろんなことがわかってくる。

3DCGだと、見た目優先でつい、複雑な形状にしてしまうが、これを展開してみると、切り抜きや組立が非常に面倒になる。面倒なわりに、でき上がった立体のディテールはさほど、目に入らなかったりする。展開をどう行うかの工夫も必要。のりしろをどうつけるか、切り抜きやすいか、組立やすいか。

理想はツェッペリン号だが、そんな物を組み立ててくれる人はいないだろう。量産するのであれば、もっと手軽に楽しめるものにしたい。さらに、複数のパーツを一枚の紙に配置するための工夫。パーツ状態で「組み立てたい!」と思えるようなワクワクする感じが欲しい。

ツェッペリンを組み立てた時は、ドイツ人すげー! 紙モデルこうあるべし!なんて絶賛していたが、自分でやってみてはじめて、シンプルな子ども向け付録にも設計者の創意工夫が大いに詰まっていたことを知る。

あたりまえのことだが、できあがりがシンプルだから設計も簡単というわけではないのだ。自分の描く絵やマンガで、そのことは充分わかっていたはずだったのだが、模型というものに対しては消費者だったのでつい、甘く見ていた。反省。

さて、デザインや展開を何回も修正してはプリント、組立を繰り返し、完成したのがこちら。最初掲載してもらった同人誌が売り切れたので、単品として製品化したもの。

完成品
< http://www.makion.net/makionlog/item_422.html >
メイキング。SketchUpプラグイン情報などもこちらに
< http://www.makion.net/makionlog/category_6/item_353.html >

これをオフセット印刷、一枚100円で創作同人誌即売会コミティアで販売してみた。かなりのペーパークラフト好きなのか、二枚三枚まとめて買ってくれる男性、遠くから完成品を見つけ「かわいい」とかけよってくる女性、子どもにせがまれる親子連れなど、いろんな人が買ってくれる。

一点物の彫刻や完成させたプラモデルを「すごいねぇ」といって見てくれるのとは違う、メディアとして配布できる醍醐味。マンガやイラストレーションと同じように、メディアとして配布できる立体物。

立体の量産には、レジンやソフビなどのガレージキットという手もあるが、生産工程が大変だ。またガレージキットは「形状のみ」の販売であり、その表面は組み立てるユーザーにゆだねられる。

ペーパーモデルは、デスクトップでありながら表面のマッピングまで手軽に複製できる。大量に印刷されたそれぞれの紙から、立ち上がる立体物。これはハマル。

ぼくにとってのメディアファーストインパクトは、コピーによる同人誌発行やPageMaker、そしてWEBに至るデスクトップパブリッシングだった。セカンドインパクトは、制作から公開までアニメーションがデスクトップで集結するFlashだ。とすれば、このペーパークラフトというメディアはぼくにとって、サードインパクトなのかもしれない。

というわけで、今回、その第二弾、ロケットを制作した。ロボットといっしょに楽しめるよう、レトロなデザイン。有名なあのロケットやこのロケット、自分の中にある大好きなロケットの印象をすべてミックスした。

こちらは先のMONさん主宰「トイロ・ト・トイロ」クラフト特集「クラフトイロ」に収録され、先のロボと共に5月の東京コミティア、関西コミティアにて販売される。お出かけの節はぜひ覗いてみてください。

「クラフトイロ」
< http://www.seian-manga.net/toiro >

作りたいものは山ほどある。好評なら販売チャンネルも開きたい。しかし残念なのは、自費出版ではなかなか時間を割くことができないこと。だれか仕事として発注してくれませんか。

【まつむら まきお/まんが家、イラストレーター・成安造形大学准教授】
< twitter:http://www.twitter.com/makio_matsumura >
< http://www.makion.net/ > < mailto:makio@makion.net >

大学も仕事もプライベートも4月は忙殺状態。プロのマンガ家になった大学の教え子たちの原画展。29日はぼくも参加してのトークショー。
< http://www.seian-illust.net/manga10/ >

イラストを担当した森さんのiPhone開発本、重刷出来。アリガト三刷りや。
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4839941734/ >

コミティアの東京と関西。まつむらは本文中のペーパークラフト以外に、マンガ本の新刊も出します。関西はうちの大学のゼミも参戦。
< http://www.comitia.co.jp/ >
< http://www.k-comitia.com/ >
コミティアは「デジクリ読んでます」と言ってくださればポストカード進呈します。