[3261] ヨコハマは呪う

投稿:  著者:  読了時間:25分(本文:約12,100文字)


《押入れに向かってずずずずずずずずずずずと移動し始めた》

■私症説[37]
 ヨコハマは呪う
 永吉克之

■ショート・ストーリーのKUNI[117]
 ひとみととしお
 ヤマシタクニコ

■more READ, more MESS!![03]
 MESS002 フェルト動物ブローチ作品集「URBAN SAFARI」制作記
 宮崎希沙




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■私症説[37]
ヨコハマは呪う

永吉克之
< http://bn.dgcr.com/archives/20120517140300.html >
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4月に、仕事の打ち合わせがあってヨコハマに行った。何の仕事なのかは、先方さんにとって社外秘になることかもしれないので、念のために伏せておく。

また、打ち合わせの後、3人の方々と居酒屋で献酬したのであるが、その面子も一応伏せておく。今週火曜のデジクリを読めばそれがわかるが伏せておく。ちなみにFB(この頭文字が何を表しているかは伏せておく)の私のページを見ればたちどころに面子がわかるが、その事実も伏せておく。

                ■

ヨコハマに足を踏み入れたのは何年ぶりだろう。五木ひろしの『よこはま・たそがれ』がヒットしたのが1971年だから41年ぶりだ。いや待てよ、いしだあゆみの『ブルーライト・ヨコハマ』が1968年だから、44年ぶり。時の経つのは早いものだ。

44年前のヨコハマはまだずっと、私の住んでいる大阪に近く、横浜駅までは特急で1時間ほどだった。神戸と海の玄関口を競うようになるのはかなり後のこと。その頃のヨコハマは伊勢湾に面した漁師町といった風情で、そのため住民といえば、カニだのイカだのといった魚介類ばかりだった。

飲屋街の店が入り口の引き戸を全開にして、客が店から店へと気楽に渡り歩く夏場、ギターを担いでヨコハマに出稼ぎに行ったことがある。客のリクエストに応えて歌う、あるいは客のヘタくそな歌の伴奏をする、いわゆる「流し」をするのが目的だったが、しょせん相手は下等な魚介類なのだから曲の良し悪しがわかるはずもなく、いい加減に弾いてカネを巻き上げようと考えていたのだ。

「お客はん、一曲どないでっか?」

日本の魚介類のくせに日本語がわからないらしく、こっちが何を聞いてもピチピチ跳ねたりブクブク泡を吹いているだけで、何の曲をリクエストしているのか皆目わからない。そもそもリクエストをしているのかどうかすらわからない。

しかしそれでは商売にならないので、菊池章子『岸壁の母』や津村謙『上海帰りのリル』など、海のある街に相応しい曲をいくつか歌ってみたが、相変わらずピチピチブクブクしているだけで、歌が気に入ったのかどうかもわからない。

新旧和洋取り交ぜて10曲ほど歌っても一向に反応がない。私もさすがに頭にきて帰ろうと思ったが、手ぶらで引き下がるのも業腹なので、店にいた客のうち、カニを2〜3匹掴んで宿に戻り鍋にして食べたらこれがまた旨かった。身がいっぱい詰まっていて歯ごたえも充分。

翌日、車で大阪に帰る途上、道を歩いていたタラバガニやらズワイガニやらを片っ端から捕まえて、その足で道頓堀の「かに道楽」に持ち込んだら、店のオーナーが驚いて尋ねた。

「こらまた、えらい上物でんなぁ。どこで仕入れなはった?」

もちろん、ヨコハマの住民をとっ捕まえて来たとは言えないので、仕入れ先は答えなかったが、なにしろ卸値をべらぼうに安くしたので、訝りながらもオーナーは取り引きに応じた。その後私は、カニからエビ、イカ、イワシなどにも手を拡げ、ヨコハマの住民が絶滅するまでこの商売は続いた。

                ■

そんなヨコハマに人が住むようになったのは、東に向かって移動し始めてからだ。ヨコハマが現在の房総半島南端に落ち着くまでに、その通り道となった地方の文化や習慣、言語、風土病などを吸収して、史上まれに見る独特な文明を築き上げたのであった。

先月ヨコハマの居酒屋で一席設けてもらった時のことに話を戻す。ご同席の3名のうち、Be氏は先祖代々、白亜紀からのハマっ子。T氏は埼玉県、Br氏は神奈川県だが、どちらも近県だからヨコハマ文明に対して耐性を獲得しているようだった。しかし私は300マイル以上離れた河内の國の人間なので、最後には錯乱状態に陥ってしまった。

佇まいは普通の和風居酒屋なのだが、何か硬い物がコンコン当たる音がするので何だろうと思ったら、奥の畳の間がバッティングセンターになっていて酔客が狂ったように打棒をぶん回している。ネットが張られていないので、ときどきボールやスっぽ抜けた打棒が客席に飛んで来て食器を粉砕したり、客を直撃したりするのだが、鷹揚なヨコハマの人たちは蚊がとまったほども気にしない。

メニューを見ると「飲み放題プラス・バッティング20球で1名様2500円」というセットがあった。ヨコハマではこういうサーヴィスは当たり前らしく、槍投げやハンマー投げをセットにしている店もあるとのこと。たまに客が死ぬこともあるらしいのだが、板子一枚その下は地獄、という漁師の世界で生き残って来たヨコハマの人たちには世間話のネタにもならないのだそうだ。

日帰りするつもりでいたので、ビールだけで軽く済ませようと思って、注文を取りに来た店員に「ビー......」と言ったら、隣にいたBe氏が慌てて私の口を手で塞ぐと耳元でささやいた。

「ヨコハマで居酒屋に入ったらなぁ、最初はヘイケガニの鍋を喰うのがしきたりぞん。ビールなんて注文してみら、もう、べらこいことになっちまうがん」

向かいに坐っていたおふたりも、青い顔をして「そうそう」と眼で私をたしなめた。店内を見回すと、あちこちに鍋が置いてあったが、やはりヘイケガニを食べていたのだろう。

ヨコハマ弁はよくわからないのだが、とにかく最初にビールを注文すると大変なことになるらしいので、しきたり通りヘイケガニを注文したら、これがまた不味くて喉を通らない。ヘイケガニは食べられないから網にかかってもすぐに捨てると聞いたことがある。

「こいつはいくらなんでも......」と独りごとを言ったら、またBe氏が私の口を塞いだ。そして店員の眼を気にしながら小声で言った。

「非常識だな。残したら、おめ、どうなっても知らねぞん!」

私は半泣きで、何度も戻しそうになりながら何とかヘイケガニを胃に収めた。

「食べたから、もうビール注文してもいいですよね?」
「うんじゃ。次はガソリンを飲むでらい」
ガソリンとは強い酒の銘柄かと思ったら、本当のガソリンがグラスに入って出てきた。

「44年前のカニのたたりだ......」

そんな言葉がひとりでに口から漏れた。その後のことはよく覚えていないが、私が制止を振り切って店を飛び出すと、店員たちが「ぐえっぐえっ」とか「ちょわー」とか「びぎゃー」とか叫びながら追いかけて来た。それを見た歩行者もいっしょになって追いかけて来る。四つ脚で走って来る者もいれば、空中を飛んで来る者もいる。

私は逃げながら、桜田淳子の『追いかけてヨコハマ』を口ずさんでいた。

【ながよしのかつゆき】thereisaship@yahoo.co.jp
ここでのテキストは、ブログにも、ほぼ同時掲載しています。
無名芸人< http://blog.goo.ne.jp/nagayoshi_katz >

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■ショート・ストーリーのKUNI[117]

 ひとみととしお
 ヤマシタクニコ
< http://bn.dgcr.com/archives/20120517140200.html >
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ゴールデンウィークも過ぎて5月にしては気温が高いある日、ここは古くて狭い賃貸住宅の一室。

「ああ、なんだかいらいらするなあ」
「私も。気のせいかと思ったけど、ほんとにいらいらするわ」
「暑いからかなあ」
「かもね。5月だなんて思えないくらい。わっ」
「どうした」

「これのせいよ。何これ、いまだにファンヒーターがリビングに」
「そりゃそうさ。さっさと片付けないから」
「今日みたいな日は見ただけで暑苦しいわ、ファンヒーター」
「まったく同感だ。早くしまって、かわりに扇風機を出すべきだ」
「同感ね。扇風機があればきっと涼しいわ。なのになんでファンヒーターが」

「そう思うならなんとかしろよ」
「いやよ。めんどくさい。あなたがすれば」
「いやだよ」
「ああ暑苦しい」
「言うなよ。ますます暑苦しい」

油断もすきもないもので、このやりとりがたちまちしかるべきところにキャッチされたらしい。一人の男がやってきた。

「おじゃまします。なんですか。ファンヒーターをしまって、そのかわりに扇風機を出したい、と」
「ええ」
「家が狭いもんで、どっちかを出してどっちかをひっこめないとだめなんだ。それがめんどくさくて」

「わかります。どこのご家庭でも同じでして、今ごろの季節には夫婦げんかが多発します。夏の前、冬の前は離婚件数がピークに達するというデータもあります」
「ああやっぱり」

「そのような悲劇を少しでも減らしたい一心で、当社が新商品を開発しました。自分で押入れから出てくる扇風機、自分で押入れにひっこむファンヒーター」
「なんだって!」
「そんなすばらしいものがあるの。知らなかった。買いましょうよ、ねえ」

「うん。考えてみれば、今の時代、そういうものがあっても不思議じゃない。ファンヒーターや扇風機も自立しないといけないんだ。これは決してわれわれがものぐさなことを棚に上げて言ってるわけではない」
「もちろんよ、あなた」

「すぐにでも買いたいが、私としては古いファンヒーターや扇風機を捨てるのは気が進まないなあ。ファンヒーターは10年、扇風機は15年も使っている。ほとんど家族同然なんだ。特に扇風機には『ひとみ』と名前もつけている」
「えっ、知らなかったわ。そんな名前をつけてるなんて。そういう私もファンヒーターに『としお』とつけてますけど」

「ご心配いりません。今あるファンヒーターや扇風機、いえ、ひとみさんやとしおさんに同じ機能をつけ加えることができるのです。ちょっと割高ではありますが、ええっと、これこれで」
男は電卓をちょちょちょっと操作して、夫婦に数字を示した。

「ふうん」
「けっこうするんだな。来年は初孫の節句でひな人形を買ってやるつもりでいたが」
「やめましょうよ、そんなの。孫より私たちのほうが大事よ。だいたい勝手にデキ婚なんかするほうが悪いのよ」
「それもそうだな。じゃあそうしてもらおう」

契約をするとさっそく技術者がやってきた。そして、ファンヒーターと扇風機に装置を取り付けた。装置はとても小さなもので、見た目はまったくもとのままだ。

技術者が装置を「ON」にして帰ると、さっそくファンヒーターがもぞもぞし始めた。30秒くらい、ファンヒーターは──正確にはファンヒーターに取り付けられた装置は──自分の今いる状況を検証しているようだった。そして、やおら向きを変えると、押入れに向かってずずずずずずずずずずずと移動し始めた。

「やった!」
「動いたわ!」

ファンヒーターは自分で押入れの前まで行った。押入れのふすまは技術者が開けていったままだったが、そこからほぼ同時に扇風機が出てきた。そしてずずずずずずずずずずずずと首を振りながらリビングに移動し、押入れの空いたスペースにはファンヒーターがぴたりと収まった。

「なんてすばらしい!」
コードをコンセントに差し込み、スイッチを押すと扇風機はぶいーんと調子の良い音をひびかせ、暑苦しい室内に風を送った。

「ああ、涼しい」
「これからは毎年、苦労しなくてすむのね」
「ほんとうだ。君といちいちけんかせずにすむ」
「私たち、離婚の危機を乗り越えたのね」
「わはは」

やがて本格的な夏になり、その夏が過ぎて秋になった。夫婦がすっかり装置のことを忘れていたある日の深夜。

グワラグワラ、ドドド、ガシャッ、グシャッ、バリリリリッ!

恐ろしい音がしたと思うと、押入れのふすまを突き破ってファンヒーターが出てきた。そしてずずずずずずずずずずずとリビングに移動していった。そこにはまだ扇風機がいた。ファンヒーターはかまわず、突進した。かたくなに動かない扇風機。

ドーン! 
夜中のリビングにものすごい音が鳴り響いた。

翌日、技術者とセールス担当がふたりでやってきた。
「何かトラブルが起きたとお聞きしておりますが」
「トラブルが起きたどころじゃない。自分で出てくるのはいいが、押入れのふすまが破れてしまったじゃないか」

「それに、押入れににしまっていた、もらいもののテディベアとかもらいもののマグカップやもらいもののバーベキューセットが散乱してぐちゃぐちゃなの。ほら」
「もらいものでも使わないものは早く処分しろと言ったじゃないか」

「いつか使うかもしれないじゃないの。それに、扇風機とファンヒーターが両方出てると部屋が狭いの」
「そうそう。問題は、リビングも押入れも狭いということなんだからな。そこ
 をなんとかしてもらわなきゃ」

技術者とセールス担当はうなずいた。
「わかりました。これまではきめ細かくばらばらに設定していたのですが、それがかえってよくなかったようです。では、今後はシンプルに、一定の気温以下になるとファンヒーターが出てきて同時に必ず扇風機が引っ込む、また一定の気温以上になるとファンヒーターが引っ込んで必ず扇風機が出てくると、このようにさせていただきます」

「ええ、そうしてくださいな。いいわね、あなた」
セールス担当はさらに続けて
「あと、ふすまが破れてしまったということなので」
「ええ」

「ファンヒーターや扇風機が、自分でふすまを開けて出てくるようにしましょうか」
「できるのか、そんなこと!」
「なぜ最初からそうしてくださらなかったの」
「申し訳ありません。で、ついでに各自自分で電気やガスコンセントに接続すると。もちろん追加料金が必要ですが。えっと。これくらいで」
また電卓をちょちょちょっと操作して、数字を見せた。

「いかがなもんでしょう。少々お高いと思われるかもしれませんが、それだけの値打ちは十分あるかと」
「うーん。次女のほうもデキ婚で来年孫ができるそうなんだが、こいのぼりをどうしようかと...」
「孫なんかどうでもいいわよ。そんなのほっといて、追加でそうしてもらいましょ」
「そうだなあ」

そういうわけで、この家の扇風機とファンヒーターにさらに新しく機能が追加された。どちらも気のせいかりっぱになったように見えたが、もちろん気のせいだ。

順調にその年の秋も深まり、冬になり、年が明けて春になった。ぽかぽか陽気が続き、テレビのお昼のニュースが「今日は、ほぼ全国的に汗ばむ陽気となりました」と、暑苦しそうにしている人々を映し出した。すると、押入れのふすまがさっと開き、中から扇風機が出てきた。入れ替わりにファンヒーターがずずずずずずずとリビングを移動して押入れのふすまを自分で開けて中に入った。ぴしゃ。自分でちゃんと閉めた。

「まあ、なんて賢いのかしら。さすがだわ、としお」
「ひとみもだ。これで片付けの手間から解放された。いやあ技術の進歩はすばらしい。長生きはするもんだ」

ところが、翌日は一転して肌寒くなった。「たいへんです。日本列島に時ならぬ寒波がやってきました」とテレビのお天気番組が言う。都心部に雪が積もり、転んでいる人の映像が何回も映し出される。

扇風機はそれを聞いていたかのようにまわれ右をして押入れに向かった。すでに押入れのふすまをずいっと開けて出てきたファンヒーターと交代する。自分でふすまをぴしゃっと閉める。ファンヒーターはリビングで勝手にガスコンセントに接続してスイッチを入れ、ぶわーっと温風を吐き出す。

「あったかいわ〜」
「極楽極楽」
「えらいわ、としお」

次の日はまた暑くなった。「公園では早くも水遊びをするこどもたちの姿が」ニュース番組が言う。ファンヒーターはまた引っ込み、かわりに扇風機が出てくる。勝手にぶんぶん回って風を送る。ファンヒーターは押入れのふすまを開けて中に入る。ぴしゃ。ところが翌日また......

「いい加減にしてほしいわねえ。めまぐるしくて落ち着かないわ。で、今は何でしたっけ、扇風機が出てるんでしたっけ」
「ひとみだ」
そのひとみはぱらぱらぱら、とたよりない回りかたをしていたと思うと、ぴたっと止まってしまった。

「あらま。何回も出たり入ったりで疲れてしまったのかしら」
「そうじゃない。羽根に変なものがはさまって......なんだこりゃ。10年前の年賀状。あと、のびたゴムひもに、スパイダーマンの前売り券のおまけのバッジ......だから、押入れはちゃんとかたづけろと言ってるだろ」
「あなたこそ」
「君こそ」

なんだかいろんなものをいっぱい身にまとった扇風機がきょとんとしていた。

【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
< http://midtan.net/ >
< http://yamashitakuniko.posterous.com/ >

もともと鼻がアレルギー気味の私だが、何か月か前から夜寝るときは完全に鼻がつまり、口呼吸してしまうようになった。口の中ががさがさに乾燥していやな感じ。友人に言うと「マスクをして寝るといい」とアドバイスされ、迷っていたが先週から実行している。うーん、ちょっと効果あるかな。ちなみに「迷っていた」理由は「時々マスクのゴム跡が顔につく」と聞かされたからだが、まあいまのところだいじょうぶなようだ。

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■more READ, more MESS!![03]MESS002

フェルト動物ブローチ作品集「URBAN SAFARI」制作記
 宮崎希沙
< http://bn.dgcr.com/archives/20120517140100.html >
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自費出版レーベルMESS。前回に引き続き、ラインナップの書籍を作るまでの具体的なお話をしたいと思います。

第二弾は、「URBAN SAFARI 2012 Collection」。羊毛フェルトでスーパーリアルな動物のブローチを作っている、茨木菜摘 < http://d.hatena.ne.jp/ivrk/ >のブランド「URBAN SAFARI」のカタログ的役割の本です。

URBAN SAFARIとは......「身につける野生」をテーマに、都会に暮らしながらも野生動物の力強さやエネルギーをキャッチできるようなアクセサリーを制作しています。< http://www.facebook.com/urbansafariiiii >

羊毛フェルトという柔らかい毛の素材に、ニードルを刺してゆくことによって、徐々に固く成形してゆく手法で、作品を作る人はいま結構いるのではないでしょうか。彼女の場合は、その手法でとてもリアルな描写をすることにより、動物モチーフでありながら、可愛いだけでなく力強さを持ち合わせた作品を産み出しているのです。

もともと動物をこよなく愛す彼女は、この手法に辿り着くまでにも沢山の観察を重ね、絵や立体で描写を続けていました。その愛ゆえに産み出される力強さが、何にも代え難い存在の作品になっています。

可愛らしい手芸作品とは一線を画す"かっこいい"動物ブローチたち。ただ、一点一点の手作業ですから、生産にかける時間はある程度必要です。完成した端から展示会や委託販売店舗でどんどん売れていってしまうので、彼女の手元に様々のバリエーションの動物たちが残らないことが、とてももったいなく思っていました。

そこで、きちんとした撮影環境で作品を記録したいという彼女の希望から始まり、2011年秋までの段階で作ったバリエーションの動物を、一度カタログ形式の本にしてみようという話に進んでゆきました。

スタジオを借り、カメラマンを志す友人の熊原哲也さん< http://tkumahara.blogspot.jp/ > に作品の物撮りをお願いしました。

白バックで各作品の接写と、友人何人かにモデルをお願いして、着用写真も撮影。ブローチたちは、女性だけでなく男性にもぜひ着けてもらいたいというコンセプトから、男女を同数撮影して使用しました。

実際に、男性が着けてもとっても似合うことがよくわかります。表紙に採用した、たくさんのブローチを床に敷き詰める写真のディレクションも、その場で出て来たものです。

ブローチをカタログにするにあたって、実物のブローチだけでもう充分な完成度があるので、それを美しく見せるだけのできるかぎりシンプルなビジュアルを提案しました。ブランドのロゴタイプはもう既に出来上がっていたので、それに合わせたマークによるノンブルなど。

そして外見ですが、普通の形で冊子にしても芸がないので、ブローチのサイズがわかるように、すべてをほぼ実物大で一ページにつきひとつ載せ、本自体のサイズを120mm×120mmの変形にしました。ブローチを実際に手に取った可愛らしいサイズ感と同じような、手に馴染むサイズになりました。

本文はもちろんフルカラー印刷で50ページ。こうなると、予算がかさんできます。オンデマンド印刷を使っても、かなりのコスト。単価が上がり過ぎても困るので、50部での出版になりました。

また、デザインを考えているときから、本を裸の状態ではなく箱入りにしたいという思いがずっとありました。実際にブローチを箱に入れて販売していた経緯から、ブローチを手にする感覚と同じように、どうしても型抜きの窓を付けた箱にスリップインさせたかったのです。でも、印刷代だけでもう予算がほぼ尽きてしまった!

そこで、ファーストビンテージという種類の紙の最厚口を使い、50個の箱を手作りすることになりました。まず片面に、ロゴの矩形で窓を空けて、そこから表紙の写真を覗かせるために、カッティングマシーンで窓型を切り取ります。

ちょうどその頃に、クラフトロボというパーソナルなカッティング・マシンを知人から譲り受けたので、それを駆使しました。このマシンは小型のプリンタのような形をしていて、USBでPCに繋げばillustratorのパスデータに沿って、カッターの刃で紙を自動的に切り出してくれる、とっても優秀なメカです。

そしてもう片面に、位置を合わせてロゴを金色インクでシルクスクリーンプリント。箔押しとはまた違う風合いの、しっとりとした金色の印刷が上質感を醸し出しています。シルクスクリーンは、Tシャツくんという機械を持っていたので、それで感光させ版を作り刷り上げました。

仕上げに、本の本体に合わせた厚みでスジ付け。箱の形に折り、接着。両サイドが空いたスリップケースの出来上がり。こうして、自宅で完結させた作業によって、ほぼ紙代だけで「ロゴ型抜きとシルクスクリーン刷りの箱」を完成させたのです。それによって、本一冊の価格はフルカラー50ページにもかかわらず1,365円(税込)に抑えることが出来ました。

この本に載っているものが、URBAN SAFARIのブローチのすべてではありません。彼女は常に新しい種類の動物たちを産み出しています。URBAN SAFARIブランドは、GWの最後の週末5月5日・6日に、青山spiralで行われたSICFにも出展。次々と新しいシリーズを作り続けています。今後とも期待して下さい。

「URBAN SAFARI 2012 Collection」茨木菜摘は、こちらから。残り部数はかなり僅かになっています。ブローチのディティールが、貴方の手元でじっくりと眺められます。
< http://mess-pressed.com/002.html >

【宮崎希沙】グラフィックデザイナー/自費出版レーベルMESS主催
< http://mess-pressed.com/ >
< http://d.hatena.ne.jp/december_girl/ >

とある会社のDTP部署に潜り込み、日々必死に勉強。朝が早くて苦戦。デザインを学校で学んでいただけでは、知らない事の方が遥かに多く、実戦技術を身につける努力の必要さを身に染みて実感中。勤めに出ながら自分だけが出来る仕事もちゃんとやって行きたいです。

最近読んで面白かった本は、「プロ無職入門/高木壮太」「TOKYO 0円ハウス0円生活/坂口恭平」「分福茶釜/細野晴臣」「異性/角田光代、穂村弘」「再起動せよと雑誌は言う/仲俣暁生」など。

最近のお仕事は、< http://d.hatena.ne.jp/december_girl/ >より
・大倉山の美容院"iCE"のためのイラスト制作
・新進気鋭の映画監督たちによる映画祭"前夜映画祭"
< http://zenyaeigasai.tumblr.com/ >の当日パンフレット制作
・名古屋のアンティークレースブランド"Angelica Leaf"のカタログ制作
・日本各地へ移住計画の作家・竹内波のHP制作のお手伝い
< http://takeuchinami.com/ >
(最先端と、不便な最古感の同居というアンバランスさが最高なHPです。
何故かトップの絵がつまんで動かせる謎機能搭載。スマホでも見れるけどPC推奨です。音量注意)
4人組zine制作ユニットyakk < http://yakkblog.blogspot.com/ > でも、初夏に向けて大型企画を構想中です。

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編集後記(05/17)

●GW中に市立郷土博物館で開催された「第35回埼玉県名刀展 古刀の美」を見に行った。この博物館とは少々縁があり、10年以上も前に「昭和の暮らし展」を企画した友人の依頼で、所有していた名作コミックスを段ボール2箱ぶん貸してやり、堂々展示されたのだった。さて、今回の展示は鎌倉時代から室町時代にかけての刀剣類が中心で、短刀、太刀、脇差、刀など20振と刀装具13点。ものがものだけに、頑丈なガラスで囲った展示と受付ふたりの態勢だ。それにしても日本刀は美しい。魅入られる。欲しくなる。自転車、カメラ、自動車、家電などで美しいデザインだな、すばらしい機能だなと思うものがいくつかあるが、美しさと機能で日本刀を超えるものはない。本当に欲しい。

展示を見て気がついたのは、ほとんどが刃を下に向けてセットしている中で、刃を上向きにしたものが2点あったこと。その理由はなにか。受付に座っていたおじさん(たぶんわたしより年上)に聞くと「よく気がつかれましたね」と満面の笑み。刃を下向きにして紐で腰に吊るす(佩く)のが「太刀」で、刃を上向きして帯に差すのが「刀」である。だからその形態で展示してある。というようなことを滔々と説明してくれた。つまり、よくある質問と回答なのだ。よほどぼんやりしていなければ、誰でも気がつく疑問だ。それを「よく聞かれるんですよね」ではなく、「いいことを聞いてくださいました」という感じで応対するのが、おじさんの配慮である。まことに気持ちがいい。つい、拝一刀の胴太貫は、柳生十兵衛の三池典太は、近藤勇の虎徹は、佐々木小次郎の物干し竿は、なんてよけいなことを言いたくなるのを必死にこらえる。(柴田)

●自分で出てきてひっこむ、ひな人形はいいかも。箱に入ってくれるだけでもいい。うちのは、とても古い7段ぐらいのもので、飾るのは楽しいものの、しまうのは大変であった。

時間の使い方が下手だ。不規則な生活を正すべく、iPhoneのアラーム機能を使い、学校の授業のチャイムのように音楽を鳴らす。起床はもちろん、始業時間、休憩、家事......。ほとんど無視することになるのだが、一応の目安にはなる。GWだからと止め、再始動を忘れ、GW明けにだらだら仕事をしていたのは、そのせいだ、ろう、......たぶん。あるサイトに、リマインダー機能を使い、悪習慣を断ち切る仕組みが書かれていた。アラームでいいんじゃないの? とは思いつつ読み進める。画面キャプチャには「笑顔(゚∀゚)」や「お、ちゃんとできてんじゃん」などと書かれてあって、素敵だと思った。「お、ちゃんとできてんじゃん」ってフレーズがとても自然で、くすぐったくて、嬉しくなってしまう。「iPhone」から言われているみたい。自分で自分を褒めることって大切だよね。自信になるし、できてなかったらやらなきゃと思えるし。早速真似することにした。記事には30分後に同じリマインドが表示されるのだが、純正リマインダーの繰り返し機能は最短でも一日。これって同じフレーズをいくつか仕込んでいるってこと? 短くリピートする別のリマインダーを使っているってこと? アラームだったらスヌーズ機能があるし、音楽も変えられるから、やっぱりアラームの方が良いかも。リラックマのスタンプにある「やればできるんです」「そのちょうしですよ」「ハナマルあげます」、そして大好きな「ここらで ひとハナさかせてみますか」を仕込んでみようかな。(hammer.mule)
< http://d.hatena.ne.jp/renewal49/20120515/1337086632 >
iPhoneのリマインダーで猫背を治すぜ、という話
< http://www.kaomojinavi.net/ >
顔文字ナビ
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00106E34M/dgcrcom-22/ >
リラックマ 先生のごほうびスタンプ2