わが逃走[106]ポスターを作るの巻/齋藤 浩

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ここ数年間、広島県尾道市の写真を撮り続けているのだが、それなりにまとまってきたことだし、そろそろ何らかのかたちで発表したいなあ、なんてことを思っている。

最初は写真展を開こうと思ったのだった。で、セレクトしたプリントを前にして気づいた。どうにも私はこの町に対する思い入れが深すぎるからか、客観的に見ることができないのだ。

尾道には何度も通っているので、写真を前にするだけでその場所の空気や音なんかも思い出せる、というか意識しなくても"思い出て"しまう。

では、初めてこの写真を目にする人は、これを見てどう思うか? と考えると「......」。想像できない!

私にとって写真とはなんぞや?

1・グラフィックデザインにおける素材
2・そこにあった風景や行われたことを記録する手段
3・ただ好きだから撮る

そう、この三つめの『ただ好きだから撮る』がクセものなのである。
なぜなら自分のための絵を得る行為だから。




誰かに何かを説明する訳でもなく、好きな人に気持ちを伝えるためでもなく、オレがいいと思った写真をオレのために撮る。理由なんかないさ。

つまり、100人ひとがいたとして、そのうちオレ以外の99人が「わからん!」と言ったとしても、オレが満足できればそれらの写真は成立するのだ。

中にはイイ! と言ってくれるひともいるかもしれないが、ベースとなる概念がそもそも自己満足なのである。このような考えでヒトサマに見ていただくなんてことは、畏れ多くてできるもんじゃあない。

ではどうするか?
これらの写真を素材にしてポスターを作る!
と、いつだったか思ったわけです。

で、まずは尾道観光ポスターを試作してみた。が、ぜんぜんダメなんだな。そもそも、観光客誘致のために撮った写真じゃないし、しかも自分が撮った写真だし。

他の人が撮った写真をポスター用にセレクトすることはできる。そこに客観が入るからね。でも自分で撮ったとなると......ってことでまた振り出しに戻っちゃった。

もちろん仕事において自分で撮った写真を印刷原稿にすることはある。でもそれはシャッターを押すときの脳がデザイナー脳だからできるのであって、趣味全開脳で撮った写真となると難しいのだ。

そして、しばらくしてから思った。
"観光"ポスターである必要なんかないじゃん!

ポスターを作る上で、私は「あわよくば」という欲が出たのだ。つまり、自主プレゼンして正式発注されたら嬉しいな! という妄想である。

仮想クライアントとして、尾道市とか観光協会を想定したとする。で、もし正式発注されたとしたら、当然のことながらそのポスターには『広く観光客を誘致する』という目的が生まれるのだ。

しかし、錆びたトタン板とか不規則な階段など私の写真は、どう見てもその目的からは微妙に離れている。つまり、こうしてできあがったポスターは機能しないということになる。

ではどうするか。
『狭く観光客を誘致』すればよい。つまり、わかってくれる人を確実に振り向かせるポスター。

尾道路上観察学会なる実在しない団体を仮想クライアントとし、『路上観察のすすめ』と題したポスターを制作すると考えると、なんかイケそうな気になってきた。

で、さっそく美しい階段をテーマとして作ってみた。みたものの......。これがまたぜんぜんダメなのだ。オレが大好きな尾道の階段! しかも自由に作っていいにもかかわらず、である。

このように行き詰まると、鈴木八朗センセイの『エキゾチック・ジャパン』のポスターのシリーズがいかに素晴らしかったかとか、植田正治センセイの作為を感じさせない素直な写真がいかに偉大であるかが、今まで以上に深く感じられる。まるであの世から通信教育していただいているような気分である。

思うに、敗因は手の入れ過ぎであった。つまり嬉しくなっていろいろ切った貼ったしているうちに、自然な、そこにある素直な美が厚化粧されてしまった訳だ。ではどうするか。

(そもそも素のままでは写真だが、いったいどこからポスターになるのであろうか。印刷された時点? 写真もポスターも最近は同じプリンタで印刷されるのに?? Bサイズにトリミングされた瞬間? トリミングなんて大昔から暗室で普通に行われていたのに??)

と、どうやら私は写真とポスターの境界線にうろうろしているらしい。

フォトグラファとして撮影した写真をもとに、デザイナーとして構成し、そぎ落とす。その結果、もとの写真そのまんまになってしまったとしても、それはデザインという考え方を経た上でのものなのでポスターと言っていいのだ。そうなのだ! 境界線すれすれのポスターを狙ってみようか。

境界線とはいい言葉である。この言葉から導かれるアイデアはけっこう多いかも。機能するギリギリのポスター。ゲージュツとデザインの境目。自動車に例えれば、市販車とコンセプトモデルとの分かれ目。

こんなことを考えつつ、制作はじわじわと進行中である。で、さらなるプロトタイプができあがった。ベースとしたのは、今年の1月に撮ったモノクロ写真。

35mmフィルムで撮影しているので、縦横比は2:3。これを1:√2にトリミングする。その上で、ただ写真を見るのではなく、尾道を散歩しているような気持ちになってほしい。それにはどうする?

で、今回はシンプルに2:3の矩形を配置してみた。なんかイイかも。レンジファインダーカメラのブライトフレームにも見えるし、絵コンテのズーム指示にも見える。一枚の絵の中に、四角形をひとつ入れただけだが、これは効果絶大である(と思う)。

001.jpg  002.jpg
ようやく方向が見えてきたかも。なんて思っているのであるが、今回もいわゆる自己満足だった! と思う日が来ないとは限らず。
(つづく!)

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられ
ないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィ
ックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。