ユーレカの日々[12]使ってみてわかったiPad/まつむらまきお

投稿:  著者:  読了時間:14分(本文:約6,600文字)


昨夜のWWDC。retinaなMacBookProやら、mountain Lionやら、iOS6やらと目白押しだった。

cloudという巨大なムーブメントが押しよせたこの数年、パソコンの利用は大きく変化してきた。たとえばDropBox。ほんの数年前まで、自宅にファイルを忘れてきた、古いバージョンのファイルで上書きしてしまった、なんてトラブルが日常だったのが、もうすっかり過去の話になっている。

今回のWWDCで発表された、様々なサービスや新製品の傾向を見ていると、情報サービス、コミュニケーションサービスのウェイトがどんどん高くなっているのがわかる。独自の地図やSiriで提供される情報サービスなど。

過去、Appleは何度となく、独自のコミュニケーションサービスや情報サービスを行おうとしてきて、ことごとくフェードアウトしている。特に日本ではサービス開始が遅れたり始まらなかったりというのが普通だったので、そっち方面に行っちゃうのはかなり心配。

MacはiOSに牽引されて、大きく変化していく時代が来てるなぁと思う。スリープ時の自動更新や、iCloudの活用によるファイルの同期。旧来の「パソコンの常識」が徐々に変わっていく。UIも徐々に変化していく。数世代後にはもう、ぼくらの知っているMacではなくなっていくのだろう。




さて先日、iPadを新調した。iPad3の64GB wi-fiモデル。昨年秋から使っていたiPad2 16GBが、思っていた以上に使うようになり、容量が全然足りなくなったのだ。retinaディスプレイの高解像度は、すでに老眼の自分にはあまりメリットがないが、カメラがよくなっているのがiPad3の魅力。というわけで、商品がでまわってきた先日、買い換えに踏み切った。

iPadが出た当初、いまひとつ、ピンとこなかった。iPhoneはもう、手放せないモノになっている。仕事のクリエイティブにはMacが欠かせない。MacとiPhoneを普段使っている身からすれば、その中間にあたる第三のデバイスにどれくらい出番があるか疑問だったからだ。

実際、知人のiPadを借りてみた時も、あまりピンと来なかった。いくつかアプリを購入してみたが、結局あまり使わずに返却してしまった。

そんな僕が宗旨替えをして、iPad2を買ったのは、昨年の秋だ。きっかけはスタイラスペン。iPhone用にスタイラスを買ってみたところ、これがとても快適。これなら! とiPad2を購入しちゃったのだ。

iPhoneの場合、たいていの操作は指で行うし、よく練り込まれたiOSのインターフェイスは、指で快適に操れる。ところが指だとうまく行かないもある。手書き文字、お絵かきだ。

指で文字や絵を描くのはとても難しい。ペンに慣れているから、ということではない。指の面を下に向けるのは、手首がねじれる不自然なポーズになるだからだ。

人間の解剖学的正位は、腕を上げている場合、手のひらが上向き。つまりこの方向が楽。指で書く、手のひらが下という向きは腕にかなり負担がかかっているのだという。

キーボードの打鍵程度なら、それでもOKだが、文字や絵を描くような、指先を微妙にコントロールするのは、この手の向きでは難しく、疲れてしまうのだ。

なのでペンがあれば、となるのだが、ご存じのように静電容量方式タッチパネルはペン先が電気を通す必要がある。なので単純な「棒」では反応しない。

iPhone登場以降、様々なメーカーが様々な素材でスタイラスペンを作って来た。昔買ったスタイラスペンはおもいきり押しつけないと反応せず、まったく使い物にならなかった経験があり、ペンはダメだと思っていたのだが、パワーサポートのスマートペンを試してみたところ、とても反応がよく、これならiPadで絵が描ける! ということになった。

その後、Bambooスタイラス、su-penも購入。どちらもとても反応がいいが、ぼくにはちょっと重たすぎる。スマートペンは逆にちょっと軽すぎるので、本当はその中間くらいの重さのペンがいいのだが。

当初は単なるお絵かきボード的に考えていたのだが、いざ、使い始めてみると、自分の予想以上に様々な場面で使える、いや、すっかり依存するようになってきた。

実際、どんなアプリをどんな時に使っているのかを紹介しよう。

●フォトストリーム

iCloudによる、フォトストリーム。iCloudの登場で、iPadの価値ががらっと変わった。iPhoneで取った写真、デジカメ+eye-fiで取った写真が勝手にiPadに収納される。なにもしなくても、すべてのデバイスの写真がiPadに入っている状態ってのは、すごく便利。これってほんと、写真の革命だと思う。

さらに将来、街の写真ブースがiCloudに対応したら、どこでも写真のハードプリントを出力したり、証明写真やプリクラのデータがiPhoneに転送されてたりなんてことにならないかな。iOS搭載のミラーレス一眼レフなんか出たら買っちゃうと思う。

●どんどん伸びていく手書きノート「Notability」
< http://itunes.apple.com/jp/app/notability-take-notes-annotate/id360593530?mt=8 >

手書きノートアプリ。手書きノートはiPadで人気のあるジャンルで、たくさんの種類が出ていて、いろいろ使ってみたが、これが一番、便利で使いやすい。あんまり紹介されることがないのだが、僕的にはiPadキラーアプリナンバーワンだ。

第一の特徴は、ページがめくりではなく、スクロールであること。ページを追加すると縦方向にどんどん、伸びていく。長いノートを取る時、ページをめくってしまうとそれ以前のメモが見えないが、これだと連続性が維持される。Wordなど、パソコンではあたりまえなのだが、案外、iPadのノートアプリには見あたらないのだ。

次に気に入ってるのが消しゴム。描画はすべてベクターで、消しゴムでタッチすれば、ストローク単位で一瞬で消せる。大きなスケッチでも、長文でも、さっと一撫するだけで、サクッと消せるのだ。線の一部を消すことができないのが難点なのだが、メモ書き、アイデアスケッチの時は細かい修正よりも、ザクッと描いたり消したりできる方が思考の中断がない。

もうひとつ便利なのが、ボイスレコーダー内蔵。会議の席などで、ノートを取るのと同時に、録音ができる。この録音はノートにくっついているので、あとから見る&聞くのも手間がない。

このNotability、画像も貼り付けることができる。iPad3になってカメラ性能がよくなったおかげで、会議の席で配られるプリントなどをその場で撮影、ノートに貼り付けることができるようになった。

ノートアプリでは、文字を描く部分だけが拡大できて、全体は拡大縮小できないものが多いのだが、これは文字部分の拡大も、画面全体の拡大も可能。なので、絵を描くのも快適。さらに、自動的にdropboxにPDFを吐きだして置いてくれる機能もある。

実際にどういう場面で使うのか。第一はアイデアスケッチ。イラストやデザインのスケッチだ。ページの下の方になっても、そのまま描き続ければ自動的に下にページが継ぎ足されるので、思考が中断しない。描いたストロークのコピペもできるので、加筆したり、バージョン違いを作ることもできる。

第二は会議や打ち合わせでのノート。先に書いたように、音声と写真をノートに貼っておけるので、あとからあの資料はどこだ、あ、メモとりわすれてる、ということが激減する。

第三は原稿書き。このデジクリコラムのような文章を外で書く時、とにかく思いつくまま文章を一気に書く。こういう時は、手書きでガシガシ走り書きする。あとからタイプしなおすことになるのだが、どうせ、推敲することになるので、手書きでOK。

そもそも、現在のiOSの日本語入力が長文を打つのに邪魔で邪魔でしょうがないのだ。ちょっと前から変換候補が出てくるエリアがでかくなって、ドキュメントの見えてるエリアがますます小さくなってしまった。

文面がごく一部しか見えないので、文章を考えながらタイプする気になれない。キーの間隔をもうちょっと狭くするとか、候補を画面のヘッダー部分に重ねて表示させるとか、いろいろ手はあると思うのだが。手書きなら画面をキーボードで占拠されることもなく、サクサクと思考を定着させることができる。

もちろん、改良してもらいたい点はいくつもある。色がプリセットから変更できないとか、描いたモノを拡大縮小できるようにしてほしいとか。

機能的に見ればもっと高機能なアプリもあるが、思考を中断させないという点において、もう手放せない存在だ。

●SketchBookProとArt Set

絵を描くのが仕事なので、ペイントソフトはたくさん買っているが、これがベスト、というものがないのが現状。iPadだけで絵の仕事を済ませてしまうには至っていないが、下ごしらえ的には重宝している。

SketchBookProは汎用性の高いペイントアプリ。
< http://itunes.apple.com/jp/app/sketchbook-pro/id364253478?mt=8 >

ブラシもいろいろ。大きな特徴としては、拡大して描くとき、他のアプリと比べて、表示が自然で細かい描き込みがストレスなくできる。使いにくいところも多々あるのだが、とりあえずこれでたいていのことはできる、という感じ。

Art Setは見た目がとにかく素敵。
< http://itunes.apple.com/jp/app/art-set/id469918702?mt=8 >

木目の道具箱に、リアルな外観の色鉛筆や絵の具チューブがぎっしり。これだけでドキドキする。パステル、色鉛筆というドライ系の画材のかすれがリアルで、気持ちいい。欠点は画素数が固定、色も固定というところか。

最近のパターンとしては、NotabilityやArt Setなどで描いたラフをSketchBookProに持って来て、彩色したり、キリバリして、ラフを固めていく。その後、Macでこれを下絵にして、本描きするという流れ。

本描きまでiPadで終わらせてしまうことも、スペック的には無理ではなくなってきてるのだけど、でもやっぱり、筆圧検知ひとつとっても、最終描画はMacが必要。

そうそう、iPadを使って初めてわかる、ペンタブレットの筆圧検知のありがたさ。ぼくの絵では、さほど線に強弱をつけたりしないので、筆圧ってあんまり重要じゃない気がしていたのだけれど、iPadだとちょっとブラシのサイズを変更するのにも、いちいち、メニュー操作が必要。

筆圧検知なら、細かいところはそっと軽い筆圧で細く、大きな面積は高い筆圧で太く、と無意識にやっていて、ブラシ直径の変更の回数が実はかなり軽減されていたんだなぁと実感。

iPadでも、せっかくマルチタッチなんだからもっと手軽にブラシ径や透明度をさっと変更できるインターフェイルができそうなものだが、そういうのにはお目にかかったことがない。ショートカットUIの開発はiOSの急務だと思う。

●Bookman
< http://itunes.apple.com/jp/app/bookman-pro-pdf-man-huakomikku/id436673025?mt=8 >

電子書籍ビュアー。電子書籍と書いたが、epubではなく、PDFと、zipファイルに対応した、自炊書籍ビュアー。zipファイルというのは、ファイル圧縮につかうあのzipファイル。ひとつのフォルダに連番でjpegファイルを入れて、フォルダをzip圧縮する。このファイルが書籍ファイルとして使える。画像ファイルをとりあえずまとめたいときなど、PDFファイルを作るより簡単に扱えるのが便利。

また、ページめくり効果や、ページ上への書き込みもできる。見た目もiBooksのような、木製本棚。Dropboxなどのクラウドからのダウンロードも対応してる。重たい資料を持ち歩かなくていい。そういえば、昔SONYから出てた、電子辞書デバイスが同じ名前だったっけ。

電子書籍については、版元が多く、UIや販売チャンネルが乱立し、それなのに欲しい本が全然でないという、あいかわらずの状況。自分でマメに自炊する時間もないが、必要なものだけちょこちょこアーカイブしておくのには丁度いい使い勝手。

●Cubits
< http://itunes.apple.com/jp/app/cubits/id382334969?mt=8 >

Google SketchUpビュアー。GoogleEarthに登録されている様々な3Dオブジェクト(主に建築物)を見るためのツールなのだが、iTunes経由でGoogle SketchUpのオブジェクトを読み込み、表示させることができる。

大学の展覧会レイアウトなんかをSketchUpで作ったり、イラストの資料として3DオブジェクトをGoogle3Dギャラリー(SketchUpオブジェクトのシェアサイト。ビルだろうか、クルマだろうか、たいていのものがある。投稿サイトなので品質はバラバラだけど)で探してきて使うことが多い。

3Dオブジェクトを見るのは、パソコンよりも、iPadが圧倒的に快適。指でくるくるまわして、二本指でズーム。マウス操作よりもずっと直感的だ。特に外出先で見たい時、ノートパソコンのトラックパッドだと指がつりそうになる。マウスは机が必要、ということで、iPadは3Dビュアーとしてとても優秀だ。Cubitsでキャプチャをとって、SketchBookで描くときの背景下絵にすることもある。

●オマケ・FPSゲーム

3D空間を走り回ってシューティングする、FPSゲーム。実はこれが大好き。血の気が多いのはキライなのだけど、昔、MacのMarathonというFPSにはまってから、3D空間を彷徨うこの手のゲームがお気に入りになった。彷徨うのが好きなので、対戦モードはやらない。僕にとって、FPSもSTARWARSも「世界ふれあい街歩き」なのだ。

iPadのFPSはいろいろあるけど、つい最近出たのはN.O.V.A.3。
< http://itunes.apple.com/jp/app/n.o.v.a.-3-near-orbit-vanguard/id474764934?mt=8 >

宇宙を舞台にした、Marathonを彷彿とさせるSF・FPS。ものすごい画像クオリティと凝った構造物&空間構成。充分なボリュームがあって、600円と安い。Marathon以降、FPSはMacでほとんど出なかったので、手を出していなかったのだけど、この値段でiPadでできるとなると、つい手が伸びてしまった。

ほぼ毎日、大学に通勤している現在、このiPadというデバイスは通勤先、学内での移動で欠かせないものになっている。使うかどうかわからなくても、とりあえずカバンにほうりこんでおく。この原稿もiPadのクラウドノートサービス「catch」と、家と大学2台のMacのcatchをわたりあるきながら書いている。移動が多い身には夢のような環境になりつつある。

とまぁ、通勤する勤め人にはもう手放せないiPadだが、SOHOワーカー、ホームユースという点ではまだ、これといったキラーアプリ、使われ方が見えてこない。だからiPhoneとくらべて、アプリの数もまだまだ少ない。

iCloudの登場でようやく、iPadが生きてきたのがこの半年。まだまだ新しい使い方はこれから出てきそうだ。

【まつむら まきお/まんが家、イラストレーター・成安造形大学准教授】
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福井原発再稼働と、心斎橋の無差別殺人のニュースが同時期に流れ、わたしの中で一体化し、総理が「仕事もなく自殺したかった」「だれでもよかった」と言ってるように聞こえてしょうがない。