わが逃走[108]いきがってない40代が思い入れのあるバイクに乗り続けること の巻
── 齋藤 浩 ──

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今回は中学生のときにひと目惚れして以来、いまだに惚れているバイク、GSX-1100Sカタナについて語らせていただく。

私はヒトでもコトでもひと目惚れすることが多く、一度そうなると永きにわたって惚れ状態が続く傾向にある。モノに関しても同様である。

さて、現在もカタナは私の愛車であるわけだが、このバイクにはそれなりに不便な点がある。止まらない、曲がらない、パンクしたら融通きかない、そして転んだら(たぶんもう)起こせない。等等。

惚れてから購入に至るまでの話は、5年前の「わが逃走」を読んでいただくとして、今回は惚れてしまったが故に長く付き合うための工夫について、さらっと書いてみる。

『一目惚れ人生 スズキ・カタナの巻』
< https://bn.dgcr.com/archives/20071025140200.html
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< https://bn.dgcr.com/archives/20071108140300.html
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世間では『エコ買え』とか言って、低燃費の車を買わせて儲けようとする傾向にあるようだが、ひとつのものを大切に使うことこそ日本人の美徳。

その美徳のためにもう一台買えるくらいの金をかけるのも変な話なので、極力低予算で末永くつきあうための、自己満足的な無駄遣いの正当性を主張する。

そもそも、たいして必要でないものを無理して維持することがいちばんの無駄であることは知っているのだ。

さて、とにかくこのバイクは美しいし、乗ってて楽しい。しかし先にも述べたとおり、いろいろと問題もある。

基本設計が70年代のバイクなので、80年代後半以降のそれと比較すると圧倒的にブレーキが効かない。

そして舵取り角が30度と狭く、フロントホイールも19インチと大径なので、圧倒的に曲がらない。

さらにチューブタイヤを履いているので、パンクしたら即ぺしゃんこである。

『曲がらない』は"半ケツ"を駆使して傾け、『止まらない』は自制心をもって臨めば、まあなんとかなるさで今まで来たわけだが、さすがに40代に突入すると、もう少し気楽に乗れないものかと考えるのである。とくに渋滞が慢性化している東京23区内での運転はかなりツラくなってきた。

そして次にスタイリングの問題。私がカタナで唯一納得のいかない部分はホイールの形状である。

< https://bn.dgcr.com/archives/2012/07/05/images/fig1 >
唐突な星形ホイール

これはひと目惚れした30年前から変わっていない。他は未来なのに、ここだけ70年代なのだ。このバイクのデザイン自体が機能を追求した結果の美であるのに対し、ここだけ装飾的ともいえる。

おそらくこの五芒星形こそ、当時のスズキという企業のアイデンティティだったのだろうが、そのアイデンティティが機能と美との調和を崩しているように思えてならないのだ。

かといって、最新のホイールもイマドキすぎてこのバイクには似合わないように思う。では、どんなものが似合うかといえば、ほぼ同時代の、よりシンプルなものが良い。

以上の問題点を解消するには、ほどよいデザインの小径ホイールと強力なブレーキの装着、ということになる。しかしそれらを新品で購入し、カタナ用に加工してフィッティングということになると、それだけでもう一台バイクが買えるような額になってしまう。

さて、どうしたものか。

そんなとき何気なくネットを見ていると、『中古 カタナ用加工済みGSX-R足廻り』の文字が。思わず画面を覗き込む。九州のとあるバイク屋さんのサイトで、タイヤ付18インチホイール、フロントフォーク、スイングアーム、ブレーキなどをセットで販売していた。

しかも、カタナの血統を受け継ぐレーサーレプリカ、86年式GSX-Rの足廻りをカタナ用に加工したもの。しかも安い。カレー7皿分に満たない値段※である。※資生堂パーラー伊勢海老とアワビのカレー

これはチャンス! ということで、即購入。組付けた状態がこちら。

< https://bn.dgcr.com/archives/2012/07/05/images/fig2 >
組み付けはプロにやってもらいました。

部分に目が行かず、まず全体が見える。良いデッサンの見本のようなバランスになったといったら言い過ぎか。

で、乗ってみた。とにかく旋回性が格段にイイ。今までのように曲がりたい側の肩を落としつつ、尻を半分内側へずらしながら外足に荷重をかけたところ、曲がりすぎてしまった。

尻を軽くずらす程度でスムーズに曲がれる。印象としては、曲がるための労力が2/3ほどになった。

そしてブレーキ。じわーっと効いていた今までのものと違い、カツン! と確実に効く。チューブレスタイヤとの相乗効果もあり、これは実に安心である。操る楽しさは少しだけ失われたが、得たものは大きかった。

というわけで、今まではバイクに自分を合わせようと努力していたオレであるが、バイクにもある程度の歩み寄りをしてもらうというのも、年相応に明るく楽しく乗るための工夫と言えましょう。

しかし端からみると気合いの入った改造にも見えるらしく、第三京浜でポルシェが無理な幅寄せしてきたりと、困っちゃう今日この頃である。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。