[3307] 時空倫理学(Space-Time Ethics)のススメ

投稿:  著者:  読了時間:36分(本文:約17,600文字)


《安物買いの銭失いを体感できます》

■まにまにころころ[5]
 夏風邪に注意
 川合和史@コロ。 Kawai Kazuhito

■クリエイター手抜きプロジェクト[325]電子書籍編
 kobo Touch 買ってみた
 古籏一浩

■データ・デザインの地平[20]
 時空倫理学(Space-Time Ethics)のススメ
 薬師寺 聖

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■まにまにころころ[5]
夏風邪に注意

川合和史@コロ。 Kawai Kazuhito
< http://bn.dgcr.com/archives/20120723140300.html >
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こんにちは、ここ2週間ほど風邪でダウンしていたコロです。していた、というか、現在進行形です。もう治りそうなんですけれども、あと一歩ってところで足踏みしてる感じです。

──夏風邪に注意

夏に風邪ひいたから「夏風邪」って書いたんですが、そもそも夏風邪って、冬の風邪と何が違うのかと、ちょっと調べてみました。まあ、話は簡単で、感染するウィルスの種類が違う、とのことのようで。

風邪の8割から9割はウィルス感染が原因らしいのですが、夏の湿潤な環境を好むウィルスと、冬の乾燥した環境を好むウィルスの違いが出るようです。風邪引いた身からすると、だからどうした、って話ですけれど。

──意外と見つからない病院

私の場合、今回の風邪はまず喉の腫れから始まりました。最初の数日は、やばいなーと思いつつも、うがいしたりする程度で、なんとかしのごうと、自分の免疫力を信じて耐えていたのですが、3日目くらいにもう無理だって思うくらいに喉が腫れ、白く膿が乗ってるような状態になったので諦め、数年ぶりに病院に行くことにしました。

日々Webに触れている私としては、とりあえず近くの病院を求めてググるところからはじめたんですが、これが意外と出てこない。もしかしたら、地域にもよるのかもしれませんが、Webサイトがある病院って思いのほか少なくて、なかなか情報が得られない。病院検索サイトや、口コミサイトが検索には引っかかってくるのですが、病院名程度しか載っていなかったり。

正直、ちょっと意外でした。大きな病院はそれなりに出てくるんですけどね。こんなにも存在しないものなのかと。

──口コミも拡がりにくい?

口コミサイトを覗いて思ったのは、みんな病院ってあまり積極的に「オススメ」しないのかなと。日常会話では「どっかいい病院知ってる?」なんて話題は、割りとあるものなのに、口コミサイトに投稿してまで薦めないようで。

よく考えてみれば、さっき書いたように「どっかいい病院知ってる?」って、訊くことはあっても、訊きもしないのに「この病院良かったよー」って話は、日常会話でも少ないなと。そのあたり、料理屋さんの話題とはやはりちょっと話題の質が違うんだなって感じました。

そんな感想はさておき、とりあえず出てきた2、3の病院に絞ってもう少し調べてみたところ、一番近い病院は口コミサイトで酷評、次に近い病院は3つの中で唯一自前サイトを持っていたのに、そこに「本日臨時休診」と......結局、選択の余地なく、3つ目の病院に行きました。

道中、酷評されてた病院の前を通ったら、どうやら廃業した雰囲気でした。

──薬の情報は充実

病院検索で力を発揮できなかったネット検索ですが、薬の情報を調べるのには大いに力を発揮してくれました。今は病院でも薬を出す際に説明ありますが、もう少し知りたいなと調べると、薬名からばっちり情報が出てきます。私はたまたま入れてたiPhoneアプリで調べました。

知ったからどうってこともないのですが、もらった時の薬袋から出た薬を、「あれ、これって食後だっけ、食間だっけ」なんて調べたり。

──まだまだ発展の余地あり

正直、Googleがあれば得られない情報なんてほとんどない、くらいにWebを過信してたところがあったんですが、今回のことで、まだまだそんな状態には程遠いなと実感。分野によって情報量の少ないジャンルもあることがよくよく分かりました。「病院にWebサイト制作の営業かけたらいいんじゃね?」なんて単純な話ではないですけど、まだまだビジネスチャンスも溢れかえってそうな、そんな印象を受けました。

──健康第一

仮に病院の情報が充実しても、当然、病気にならないことが先決。予防法とか、健康法の情報は(真偽はともかく)たくさん出てきますので、うまく利用して、なにはともあれ健康な日々をお過ごしください。夏風邪に注意!

【川合和史@コロ。】koro@cap-ut.co.jp
合同会社かぷっと代表
< http://cap-ut.co.jp/ >

病院なんて何年ぶりにいったことやらってくらいに久しぶりだったんですが、「安っ!」ってのが第一印象。でもよくよく考えたら毎月、何万円と保険料を払ってるわけで、そう思えば、数年分、数十万円の費用だったんですかね......

8/2大阪で高広伯彦さんの講演を開催します!
(裏方のお手伝いしてます)
< http://dcc-net.biz/event/index.html >

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■クリエイター手抜きプロジェクト[325]電子書籍編
kobo Touch 買ってみた

古籏一浩
< http://bn.dgcr.com/archives/20120723140200.html >
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7月19日にkobo Touchが発売されました。このkobo Touchは電子書籍リーダーのひとつです。楽天が力を入れて販売(?)するらしいので購入してみました(koboのkは大文字なのか小文字なのか......。楽天の日本語ページでは小文字で英語ページは大文字......)

kobo
< http://kobo.rakuten.co.jp/ >
< http://www.kobobooks.com/touch >

購入したら、いつものようにkobo Touchの使い方を説明したページ作りです。

Kobo Touch 使い方辞典
< http://www.openspc2.org/reibun/Kobo_Touch/ >

簡単に作れるかなと思ったら、最初からトラブル。kobo Touchの電源を入れると昔懐かしいMacライクなアイコンが表示されます。少し待つと言語を選択する画面に。ここは日本語をタッチして選択。

これで、kobo Touchに入っている青空文庫が読める......かと思ったら「パソコンがないと駄目ですよ。アプリをダウンロードしてパソコンに入れてからにしてね」という事態に。

パソコンがなくても、最初から青空文庫あたりは読めるようにしておいた方がいいんじゃないでしょうか? そもそも、青空文庫のデータが入ってないのかとも思いますけど、まあ手順に従ってセットアップ。

MacProに接続するので、Kobo Desktopアプリ(MAC用)をインストールします。
< http://rakuten.kobosetup.com/ >

kobo TouchをUSBケーブルで接続してKobo Desktopアプリを起動。......起動しません。環境にもよるのかもしれませんが、使っているMacがオーバースペックなのか、とにかく駄目。Twitter経由の情報によると、koboレビューが大炎上とのこと。

< http://blog.livedoor.jp/rbkyn844/archives/5701594.html >

まあ、私だけではないようで。気を取り直してリトライ。まず、kobo Touchを外してからMacを再起動。ようやくKobo Desktopアプリが起動しました。ということで、kobo Touchを接続して設定......しようとしたのですが、kobo Touchを接続するとKobo Desktopアプリがハングアップ。

USBケーブルを使うな、ということなのかもしれません。ではで無線LAN経由でセットアップできないのかと思ったら、これができない様子。

30分〜1時間ほど再起動したりしていると、運良く1回接続に成功しkobo Touchのセットアップができました。その後は、やはりハングアップして駄目。本も購入してみましたが、接続するかどうかが神頼みなので一冊だけ。購入画面に進んで注文寸前にKobo Desktopアプリがハングアップ。

気を取り直してMacを再起動してから再挑戦。再挑戦している間に本の価格が暴落して半額に......。そんなに売れなかったのでしょうか? というか、ブックオフで買った方が遙かに安い。というか、そのくらいなら表紙がカラーな新刊で買った方がいいんじゃない? という金額だったせいかもしれません。

調べたら最初に提示されていたのはアマゾンの価格の半値。しかし、数時間もしないうちに、さらに半値。アマゾンの正規の金額の1/4という状態に。

< http://www.amazon.co.jp/dp/4022739010 >
(アニメは都合によりモーレツ宇宙海賊という名前)

何度かやっているうちに無事に購入。でも、その時点で挫折気味だったので手持ちのPDFを表示する方向に。PDFが表示できれば、それなりに使えるはずです。

PDFは本の購入とかとは比べものにならないほど簡単でした。マイクロSDカードにPDFを入れてkobo Touchに差し込むだけ。あとは、ホーム画面に移動して「ライブラリ」>「本」をタッチして表示したいPDFをリストから選択するだけです。

すべてのPDFが表示されるわけでなく、大きいサイズのは表示できずにホーム画面に戻ってしまうこともあります。PDF書類内のリンクは機能します。

PDFの場合、タッチしてから次のページに移動し表示されるまでに1.5秒ほどかかります。実際にA4サイズのPDFを表示すると、細かい文字の認識が辛い部分があります。iPhoneなどのRetina Displayくらいの解像度があれば見やすいのですが。

PDFはさておき、せっかく購入した本を読むことに。デフォルトでは書体は「モリサワリュウミン」となってました。他はモリサワゴシックMB101が選択できます。漢字にはルビも表示されますし、割といい感じです(ルビは小さいので、やはり高精細な方がいい)。EPUBなので文字の拡大縮小なども自由にできます。ページの切り替えはPDFよりも高速で、1秒ほどで次のページに移動できます。

次はkobo Touchに内蔵されているWebブラウザの起動です。問題はWebブラウザが、一体どこにあるのかさっぱり分からないことです(スケッチブックや数独も同様ですが)。

起動方法は「Kobo Touch 使い方辞典」を見てもらうとして、ブラウザを起動するとGoogleのトップページが表示されます。モノトーンなGoogleは、ちょっと違った感じです。ちなみにYahoo JAPANに移動するとモバイル用のページが表示されます。モバイル用に作成されているせいか、kobo Touchでも素早く表示され読むことができます。

kobo Touchのブラウザは、SafariやGoogle Chromeと同じレンダリングエンジンWebKitを使っています。表示に関しては、やはり電子ペーパーゆえに遅く、何度も画面がちらつきます。でも、Kindleよりは高速に表示されます。Google Mapsも表示されますし、ボタンをタッチして地図を拡大したりすることもできます。

WebブラウザはHTML5関連は全滅です。位置情報(Geolocation)、ローカルストレージやFile APIはもちろん、映像やオーディオは駄目です。

でも、まあ思ったほど売れないんじゃないかという感じです。ひとつは端末そのものの問題。他の人にもいじってもらったりしたんですが、iPhone以降では操作性、速度、便利さという点でずいぶん劣ります。

高いお金を出してiPadを買った方がいいかも。特にユーザーインターフェース部分は、わかりにくく無駄な時間を費やしてしまいます。ハードウェアでキーを用意してもらった方が使いやすいかなとも思えます。とにかく、分りにくい。

もうひとつのダメな理由は、買ってもパソコンがないと使えない点。パソコンがなくても本が購入でき、最初から青空文庫あたりは読めるようにしておいてほしいところ。

どうせならば、最初からSFセット、ミステリーセットとか100冊くらい入れて、すぐに読める状態で販売した方がいいかも。あとは、毎日新聞50年分セットとか、新聞紙を全部入れちゃって検索できるようにして売るとか。

kobo Touchはお得感がまるでなく、最後はブーメランのように投げて遊ぶしか用途がないんじゃないか? といった状態です。

あと、マイクロSDカードを差し込むだけで簡単にPDFなどが表示できるという便利さがあるので、マイクロSDカードに10冊セットとか、漫画なら全巻セット、あだち充セットとか入れて売った方がいいかもしれないなと思ったりもします。でも、コピーされるという部分でもめるでしょうし無理がありそうです。最初から、特定のジャンルの作品を入れて売ってくれてもいいかなとは思います。

デフォルトで入っている手書きメモ(スケッチブック)も、どこにあるかわかりにくく、もったいない気もします。冷蔵庫とかに貼り付けて使うとか、いろいろ便利そうなのですが。ホーム画面からワンタッチで起動できてもいいと思います。

現状だとアマゾンのKindleの方がいいんじゃないかな〜と。でも、それならiPadで十分な気も......。まとめると、以下のような問題があるのかなあ。

・パソコンがないとまったく使えない
・白黒画面。解像度低い。
・遅い。
・紙の本をブックオフで買った方が早くて安い。ファンなら新刊買った方がいい。カラーできれいだし。
・青空文庫が全部同じ表紙(区別付かず)
・ユーザーインターフェースがひどすぎる。何をどうすればいいか不明。
・ファーストインプレッションが悪く感動がない。
・お得感がなく、時間が経つにつれて損した気分になる。
・楽天の売り方が悪い。

一言でまとめると「安物買いの銭失いを体感できる」という具合でしょうか。

【古籏一浩】openspc@alpha.ocn.ne.jp
< http://www.openspc2.org/ >

せっかくなのでWindows Phone(OS ver 7.5/IS12T)も買ってみました。地図サービスが使いものにならず......。仕方ないのでブラウザ(IE)でGoogle Mapsを表示して代用......と思ったらタッチイベントが動かないみたいで、地図は表示されるものの何もできず。

その点、kobo TouchはGoogle Mapsを表示でき、一応低速ながら使えるのでよいかも。スマートフォンやらいろいろ買ったけど、まとめると、こんな序列に(あくまでも個人的なランク。使ってる頻度も含む)。

iPhone > ガラケー > iPad > Android > Androidタブレット > Windows
Phone > kobo Touch

・毎度おなじみASCII.jpの連載「enchant.jsとジャイロセンサーで作るスマホゲーム」
< http://ascii.jp/elem/000/000/709/709291/ >

・PDF構造解説
< http://www.amazon.co.jp/dp/4873115493 >

・10日で覚えるHTML5入門教室
< http://www.amazon.co.jp/dp/4798124184 >

・AndroidのためのHTML5本格アプリ開発
< http://www.amazon.co.jp/dp/4897978971/ >

・改訂5版JavaScriptポケットリファレンス
< http://www.amazon.co.jp/dp/4774148199 >

・ハイビジョン映像素材集
< http://www.openspc2.org/HDTV/ >

・クリエイター手抜きプロジェクト
< http://www.openspc2.org/projectX/ >

・Adobe Illustrator CS3 + JavaScript 自動化サンプル集
< http://www.openspc2.org/book/PDF/Adobe_Illustrator_CS3_JavaScript_Book/ >
吉田印刷所の「印刷の泉」でも購入できるようになりました。

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■データ・デザインの地平[20]
時空倫理学(Space-Time Ethics)のススメ

薬師寺 聖
< http://bn.dgcr.com/archives/20120723140100.html >
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●ITの進化が変える「いまここ」

皆さんは、時間を知りたい時、腕時計や目ざまし時計を使っていますか? 時計の用途は、"時間を知る" こと以上に、ファッションやインテリアになってはいませんか。また、皆さんは、自分の位置を確認したい時、"自分が見ている" 紙の地図を使いますか? "自分が見られている" GPS衛星を使うのではないでしょうか。

SNS とスマートフォンは、ヒトがいる時間と場所の意味を変えつつあります。

まず、時間と空間の情報が標準化されつつあります。時刻も位置も共通のデータをもとに計算されるので、それぞれの持つ時計や地図によって極端に情報が違うということはなくなりました。

また、時間と空間の情報は、受信するだけではなくだけでなく、発信されるようになりました。コメントを投稿したり写真を保存することによって、自分のいる時間や場所の情報が他者に対して発信されます。

さらに、携帯端末を常時身近に置くことによって、ヒトには四六時中、時間と空間の情報が従属するようになっています。

我々ヒトは、異なる時間に同じ空間にいる(元いた場所に戻ってくる)ことはできますが、同じ時間に異なる空間、同じ時間に同じ空間に(重なって)いることはできません。ヒトが占有している時空を表す「いまここ」の情報は、"社会的な意味で"「そのヒトを特定する」情報となります。

そして、我々が携帯端末を常時所持せずとも、自らの存在自体がデバイスと化した暁には、時間と空間の情報は、ヒトの一意性を決定付けるプロパティとなります。

時間と空間の情報は、望まずとも、不特定多数から入手可能になるでしょう。一人のヒトを一ノードとして、全国民、全世界の人々について、時間に沿って位置を追ってグラフ化できるまでに計算機の速度が向上すれば、その情報はビジネスや統治に利用されるようになるかもしれません。

●操作される時間と空間

ヒトにとって重大な意味を持つ時間と空間の情報は、もちろん慎重に扱われなければなりません。

そのためには、それらの情報が意図して操作された結果、望ましくない状況を招くことのないように、倫理上の規定が必要になるでしょう。

ここでいう操作とは、たとえば次のような行為です。

過去の「時刻Aの、位置aに、ヒト1」がいた後、現在「時刻Bの、位置bに、ヒト2」がおり、未来の「時刻Cの、位置cに、ヒト3」がいると予測される場合、現在あるはずの情報は(A,a,1)と(B,b,2)です。未来の(C,c,3)を知るヒトが個人の利得のために(C,c,3)を(D,d,3)になるように操作したり、現在の(B,b,2)が(C,c,3)になることを阻止するために状態を継続させて(C,b,2)にいたるよう操作したり、過去の(A,a,1)を(A,b,1)などに書き換えたりすると、他者の目には、書き換えられた未来や現在や過去が、変わらぬ事実であるように映ります。

この人為的操作が、操作者以外のヒトに不利益をもたらす可能性もあるでしょう。我々人類は、これまで何世紀にも渡り、共同体単位で「いまここ」を生きてきました。科学技術の発展により可能となった時間と空間の操作は、既存の社会システムや常識には馴染みません。それは、倫理上の問題を引き起こしかねないのです。

起こりうる問題を洗い出すには、時間と空間をいくつかに分類して考えると、分かりやすくなります。

ピラミッドの下の段から順番に、物理学的時空(時空とはいうものの、時間に依存しない世界)、生物学的時空、社会的時空、データの時空、個体の時空、を重ねた図をイメージしてみてください。物理学的時空を基盤として生命があり、その生命が構成する社会があり、社会のインフラを担う情報システムの中で動くデータがあり、情報をフィルタリングして認識する脳を持つ個体があるという構造です。

それでは、具体的に、どのような操作が考えられるか、いくつかの例をあげてみます。

(1)生命に従属する時間・空間情報の操作

日常生活でよく見られる例は、ヒトの誕生に関するものです。生まれてくる子供の属性情報を事前に知って、親が行動を変えると、子に従属するはずだった時間と空間の情報が変わります。

また、卵子の凍結は、特定の女性に従属する時間の情報と、その女性の"卵子"という部分に従属する時間の情報を切り離し、卵子の現在の情報を未来まで維持させます。

存在の終焉にも、ヒトに従属する情報は操作されることがあります。高齢者の胃ろう、延命措置、脳死判定が、これに該当します。今後、「生者なのか死者なのか」を判断するための脳活動センシング技術が進化し、高精度の機器の測定機器が開発されるまでは、問題が噴出し続けることでしょう。

生と死の両方が往来するケースでは、より厄介な倫理上の問題が生じます。たとえば脳死者の出産です。母子は共通の時間を歩まず、「戸籍上」過去に存在した母から、未来の子が生まれることになりかねません。出産を推し進めるにせよ、中止するにせよ、いずれにしても判断を下した者は操作者として、苦い思いを抱えることになるでしょう。

(2)社会における時間・空間情報の操作

この社会では、未来の予測情報を持つ者が、情報を持たない者に従属している時間と空間の情報を操作する可能性があります。操作する側と、操作される側の力関係によっては、倫理上の問題が生じます。

未来の予測情報といえば、円や株価、新製品のマーケティング情報を思い浮かべるかもしれません。もっとも、ビジネスでは、操作による倫理的問題は、限定的です。

倫理上の問題が顕著になるのは、内輪の最大幸福と、最大多数の最大幸福と、個人の利害が一致しない場合です。それを如実に表しているのは、先の原発震災でしょう。自ら望んであえて危険な方向に逃げる人などいるでしょうか。"未来" の情報を持つ人々は、持たない人々に従属する時間と空間の情報を、操作してしまったといえるでしょう。

(3)情報システム上の時間・空間情報の操作

社会のインフラを担う情報システムで扱う時間と空間の情報の操作は、ささいなものであっても、我々の生活に大きな影響を与えます。

その操作は、何より、知的財産に影響します。なぜなら「先に」申請を受理されることが非常に重要であり、「時間」が特許取得や受賞や予算を決める重要な要素だからです。未来に申請されるはずの情報をいちはやく入手した者が有利になります。脳内情報をセンシングするシステムが開発された暁には、優秀な研究者の "申請予定の" 思考を取得して利用する輩も現れるでしょう。

この問題は、創作活動においても同様です。作曲とは発見であり、早く見つけて発表したもの勝ちだからです(※1)。

計算機の速度向上が、この問題をいっそう深刻にします。いまや数学の研究でさえ、その一部を計算機が担い、多数の学者の脳のネットワークで解決される時代です。性能のよい計算機を使えば、それだけ早く、未来に見い出されるべき答えにたどりつけるかもしれません。量子コンピューターなんぞ登場した暁には、なおさらでしょう。

また、インフラも問題になります。今後さらに多数の端末が情報にアクセスするようになるため(※2)いかに速く未来の情報を入手し、結果を公開するかは、居住地域や経済事情に左右されることにもなります。

システム上の時間と空間の操作は、多数のヒトが日常的に使っているシステムでも「良い意味で」行われています。それは、トランザクション(※3)です。トランザクションとは、あるヒトにとっては時間を進め、他のヒトにとっては時間を一時的に停止させる操作ともいえるでしょう。

(4)各個体に記録される時間・空間情報の操作

誰しも自らに従属する時間と空間の情報を、完全に記憶しているわけではありません。事実の一部しか認識していなかったり、情報が定着しなかったり、一部が取り出せなかったり、あるいは順序が逆になる、ということが、誰にでも起こります。それどころか、自身がいつどこにいたかという情報を記憶する作業を放棄し、スケジュールアプリに任せきっているヒトも少なからずいるのではないでしょうか。

我々は、程度の差こそあれ、不完全な記憶を持つ者同士が情報を交換して補いながら社会生活を成立させています。記憶が人間関係を形成しているといっても過言ではありません。

記憶を持つ者同士の交流が減るにつれ、情報格差は大きくなる恐れがあります。これを後押しするのが、神経細胞の刺激や服薬などのエンハンスメントという操作です。完全な記憶機能を持ち、記憶を迅速に抽出するよう能力を補強されたヒトが現れる一方で、時間・空間情報を消去してしまうヒトも現れます。記憶が消去されると、その時間その場所にいなかったことになってしまうかもしれません。

存在のデバイス化時代には、それぞれの個体に従属する時間や空間の情報と、個体が認識する時間や空間の情報の違いが、誰の目から見ても、明らかになるでしょう。

●いまもとめられる、時空倫理学(Space-Time Ethics)

本稿は、過去記事と異なり、一言一句が練り上げられているものではありません。しかし、それでも今回このテーマで書いたのは、生煮えの状態でも、できるだけ早く発信しておく必要があると考えたからです。

なにしろ、重要性が唱えられ始めて長い生命倫理や脳神経倫理でさえ、「一生活者からは」ずいぶんゆっくりと進展しているようにしか見えません。専門家の間で研究と議論が重ねられていたとしても、一般市民、とりわけ「当時者となりうる可能性の高い」出産可能年齢の女性や高齢者を介護している女性には伝わってきません。

そのような我が国の状況のなかで、"SFのような" 時空倫理について、すみやかに議論が始まるとは考えられません。それならば、できるだけ早く、それが呼び水の一滴でしかなくても、問いを発しておこうと考えたのです。

たとえば生命倫理については、1980年頃には、現在の生殖医療で起こりうる問題の多くは、容易に予測できました。しかしながら、30年以上経った今でさえ、代理出産問題ですら、社会的な合意ができているとは言い難いものがあります。

脳神経倫理についてはなおさらです。この問題の重大性がじゅうぶんに啓蒙され、多数の一般市民がアウトラインを把握しているという社会的背景があれば、脳科学者と哲学者と心理学者と教育学者と精神医学者が、遺伝と環境の問題、更生とは教育なのかエンハンスメントなのかあるいは両方なのかという問題を(※4)徹底的に議論したうえで、何らかの結論にいたっているはずです。

そして、その結論に社会的合意が得られていれば、さまざまな事件が発生する都度、ネット住民が自ら世を正さなければならないと思いにかられることはないはずです。

生命倫理や脳神経倫理は、時間や空間の情報と相互に影響を及ぼし合います。いまや生命のパーツを作り出せる時代です。自ら思考するパーツも作られるでしょう。完全に同じ分子構造を持つパーツが一度失われて、再生されたとき、それに従属する時間の情報が異なっても、同じ一意性を維持していると見なすのかどうかという問題などは、生命・脳神経・時空の3つに関わります。

ガザニガの著作から引用すれば、脳神経倫理学とは「病気、正常、死、生活習慣、生活哲学といった、人々の健康や幸福にかかわる問題を、土台となる脳メカニズムについての知識に基づいて考察する分野」(※5)ですが、我々が生きて死すこの時間と空間の倫理が揺るげば、その上に立つ脳神経倫理も揺らぎはしないでしょうか。ならばその土台となる時間と空間の倫理も、併行して固めなければなりません。

そのうえ、時空の問題に風穴をあけることになるであろうCERNの、さまざまな大発見のニュースが、科学者ではない一般市民の日常の中にも飛び込んできます。それは、我々の想像力をかきたてます。

機器としてのタイムマシン──デロリアンに乗ってヒトが時空を移動する──の話をしているわけではありません。ただ、特定のヒトに対して、時間を操作したかのようにように認識させる技術(しかも比較的誰でも使えるような)は、未来のある時点で実用化されると考えます。

科学も技術も進歩します。30年先まで、一気に、加速をつけて。

「いまここ」にはない時間と空間の情報が操作されるとき、どのような倫理的問題が生じるかを洗い出し、時間と空間の操作の制約を定め、それでもなお残る問題をいかに解決するのが妥当かを問う、「Space - Time Ethics(時空倫理学)」(※6)が必要です。

科学的発見から派生した技術は、科学者の純粋な探究心の範囲を超えて、社会の中で用いられてきた歴史があります。実際、Fukushimaは現在進行形ではありませんか。地球上の市民がインターネットで結びつくことのできるこの時代、科学技術が我々を真に豊かにしてくれる方向へと向かうよう、時空倫理の問題を考えていかなければなりません。

●学者任せにせず、一般市民も自分の頭で考えよう

時空倫理は、我々全員の日常生活に関わる問題です。時間と空間の情報が操作されると、利益を得るヒトがいる半面、損害を被るヒトもいます。

誰しも、受け入れがたい不条理に対して、自分なりの考えを持ち、主張することができます。一般市民が、電力や防災について考えるのと同じ切実さで、この問題について考えてみることが望ましいのではないでしょうか。決して専門家に任せておけばよいというものではありません。

いや、そんな哲学だの倫理だの面倒くさそうな......と、厄介な問題が降って湧いたように感じられるでしょうか。

なに、大仰に構える必要はありません。哲学とは、ギリシャやドイツの学者の原著を読破して膨大な知識を蓄積することではないはずです。アカデミックな知識はないよりはあった方がよいでしょうが、過去の他者の著作を解読する「哲学研究」や、学校で言葉による考え方を学ぶ「哲学学習」の経験がなくとも、ヒトは誰でも考えることができます。じゅうぶんな語彙を知らない乳幼児でも、絵や概念で考えることができるのですから。

自分で生き、感じ、考え、気付きを得れば、それはそのヒトの哲学ではないでしょうか。

我々一市民は、自分の問題として、自分の頭で考えなければなりません。そしてもちろん、この連載のテーマである「データ・デザイン」に業務で関わるエンジニアは、これまでの記事で述べてきた「一意性」の問題と絡めて、この時空倫理における問題を捉えていく必要があるでしょう。

※1 以前の記事「第7回 脳活動センシングの進化が作曲を変える」
< http://bn.dgcr.com/archives/20110613140100.html >

※2 "Internet of Things" (モノのインターネット) をビルドする
< http://msdn.microsoft.com/ja-jp/magazine/hh852591.aspx >
からリンクされているPDF資料によれば、2020年には50億の人々が500億の "モノ" に接続するようになる(P.18)。また、総務省の発表によると
< http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban03_02000096.html >
平成23年12月末時点での携帯電話及びPHSの人口普及率は101.4%で、一人1台以上の端末を保有していることになる。

※3 トランザクションを理解するための例としては、銀行の引き出しと預け入れや、販売と在庫管理がよく引き合いに出される。

たとえば、いまA社の材料の在庫データが、n個あるとする。業務部員が在庫n個を確認し、在庫データに100個を追加する。ところが、製造部員が、在庫n個を確認して10個を使っており、在庫データを更新する。すると、在庫データは(n-10)となる。その後で、業務部員の手配した100個が上書きされると、在庫は(n+100)個となってしまう。

このような事態を避けるため、業務部員が在庫n個を確認して100個を追加するという一連の手続き(トランザクション)が完了するまで、製造部員の更新作業を排他制御する。これにより、正しい在庫数である(n+90)個が得られる。

※4 「暴走する脳科学 哲学・倫理学からの批判的検討」河野哲也著、光文社新書

※5 「脳のなかの倫理 脳倫理学序説」マイケル・S・ガザニガ著、横山あゆみ訳 紀伊国屋書店

※6 「Space - Time Ethics (時空倫理学)」は、筆者の造語。オルタナティブ・ブログ、イメージ AndAlso ロジック「3年後〜30年後。暮らしに関わる、10の問題」
< http://blogs.itmedia.co.jp/seindesign/2011/09/33010-9a1f.html >

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■Windows 8 10月26日いよいよお目見え!!

≫Blogging Windows "Windows 8 will be available on..."
< http://windowsteamblog.com/windows/b/bloggingwindows/archive/2012/07/18/windows-8-will-be-available-on.aspx >

≫Surface for Windows RT
< >

■"Windows Phone アプリの開発者向け" Windows Phone 無料アプリ

≫「センサー計測セット」(日本語版)6月1日〜公開中
< http://www.windowsphone.com/ja-JP/search?q=SeiSeindesign >

≫「Sensors Set」(English)7月23日公開
< http://www.windowsphone.com/en-US/search?q=SeiSeinDesign >

■Free Online Book

「Windows Phone 7, Beginning Silverlight 4 Programming - Accelerometer
and Sound -」
This book is written about an accelerometer and sounds.

≫Download
< http://sei.seindesign.net/Book2/Default.aspx >

■3曲入りアルバム"Change The Brain"(巡音ルカ)

「人生の卒業」(日)は、高齢者の晩年から自然死にいたるまでの認知機能の描写。「Change The Brain」(英)はニューロエシックスにおけるエンハンスメント、「Don't Cry, Mama」(英)は虐待の連鎖を阻止する脳の制御がテーマ。7月30日、iTunesストア発売「予定」。

≫一部試聴ページ(Windows Phone 対応)
< http://lyric.seindesign.net/info/ChangeTheBrain.htm >


【薬師寺聖/個人事業所セイザインデザイン】
個人事業所 < http://www.seindesign.net/ >
ブログ < http://blogs.itmedia.co.jp/seindesign/ >
PROJECT KySS < http://www.projectkyss.net/ >
< infosei@seindesign.net >

絵・音・詩・文・コードを扱うフリーのクリエーター、思索家。エンジニアリング会社を経てデザイン事務所に勤務後、XML1.0勧告翌月に退職して開業。科学技術や医療・福祉分野のXML案件を手がけながら、書籍や記事を多数執筆(PROJECT KySS名義)。四国在住。
Microsoft MVP for Development Platforms - Client App Dev (Oct 2003-Sep
2012)

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編集後記(07/23)

●「大江戸釣客伝」の中に出て来た、夢枕獏の「忠臣蔵」解釈も興味深い。まず、吉良義央はこの物語の中では好人物である。浅野長矩が義央に包んで来た金が、慣例の1200両より少ない700両であった。吉良側が「以前より少のうござりますな」と言うと、「二度目であるので委細は承知しているから...(これくらいが適当であろう)」と煮え切らない。義央は鼻白む。だから今回は手取り足取り教えたわけではない。訊ねられれば教えはするが、長矩も意地になって訊ねにこない。だが、浅野がしくじったら饗応役指南役たる吉良の責任となる。役目上、義央は浅野の様子をそれとなくうかがっている。これを長矩は、自分がいつ失敗するか、あら捜しをしていると見た。当日、長矩は礼服を間違えた。思わず義央は衆目のあるところで咎めてしまう。そして、長矩の癇癪が爆発した。......という説で、説得力はある。

しかしこの作品では、饗応にかかる金を出すのは饗応役を仰せつかった藩で、その額は1200両である、指南料として多少は吉良の懐に残すが、多くは饗応の費用として消える、と書いていながら、指南料が通常は1200両だがそれは慣例であるとか、長矩が家臣に「吉良に賄賂を贈るべし」といわれ激怒したとか、肝心の金の性格に関して、いくつもの記述があるのはどういうことだ。いずれにせよ、このケースでは喧嘩両成敗の理屈は通らず、浅野が罰せられるのは当然である。

さて、世間はみな赤穂の浪人たちの味方である。赤穂の浪人が吉良邸に討ち入りする、そういう期待が世間では高まっている。赤穂の浪人たちも世論に背を押され、やらねばならぬ、やらねば面目が立たぬと考えるようになってしまったのではないか。何かが起こらねば納得しない世間がある。吉良も哀れ、赤穂の浪人たちも哀れ。彼らはいずれも所詮はそういう世間によって、時代の前に引き出されてしまった贄なのではないか。......という説も、説得力はある。そういえば、何かが起こらねば納得しない世間がありましたな。2009年の8月。アレ以来、日本はとんでもない方向に曲がってしまいましたな。無責任な世間なんてそんなものです。(柴田)

●デオドラント・ボディペーパー。先月末のイベントは、湿気と朝からの労働のため汗だくで気持ち悪かった。後片付けをしていたら、ひとりの男性がボディペーパーで顔や首筋を拭いていて、一緒にいた男性と私に「使いますか?」と分けてくれた。使うとヒャッ、シャキ。これはいい! 女性向けのはパウダーが入っているものがあり、使うとサラサラになるが、ここまでのヒヤシャキはないように思う。ハウス・オブ・ローゼのミントリープシリーズが好きな友人。「このシリーズは8月には売り切れたりするから、売り出したらすぐに買わないと!」と言ってお店へ行き、お目当てのボディソープを購入。付き合いのつもりが、試してヒャシャキサラサラだったコンディショナーを買ってしまった。店員さんがサンプルにと新製品のボディクールシートを一枚ずつくれて、試したらヒャシャキサラサラ。これはいいわ〜、と言いつつ思い出したのがイベントでもらったボディペーパーのヒヤシャキ。価格も手頃だし、とギャツビーの氷冷タイプボディペーパーを買ったよ。女性向け商品の氷冷タイプってないのかしら。(hammer.mule)
< http://www.houseofrose.co.jp/topics/detail.php?v_op=1&v_ni=286 >
ミントリープシリーズ
< http://www.gatsby.jp/products/catalogue/bodycare/idbp_ifruity.php >
他は売り切れてて、これしか残っていなかった
< http://www.cosme.net/product/product_id/10007876/top >
AG+のクリアシャワーラージシート(クール)はギャツビーの次にスースーらしい。

< http://hamusoku.com/archives/7261318.html >
ハリウッド映画を独特なタッチで描いた作品
< http://ascii.jp/elem/000/000/709/709258/ >
全118種類を解説!元素が実物で見られる『元素のふしぎ展』
< http://www.searchengineoptimization.jp/blog/article/itmedia_made_seo_mistakes.html >
ITmediaの関連サイトが隠しテキストでペナルティ