[3309] 眠っていた何かのスイッチがオン

投稿:  著者:  読了時間:29分(本文:約14,300文字)


《液タブを出して片づけてを一週間に一度くらい繰り返す》

■ネタを訪ねて三万歩[90]
 眠っていた何かのスイッチがオン
 海津ヨシノリ

■グラフィック薄氷大魔王[311]
 あらためて、液晶タブレットと板タブレット
 吉井 宏

■ローマでMANGA[54]
 アモーレの始まり
 midori




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■ネタを訪ねて三万歩[90]
眠っていた何かのスイッチがオン

海津ヨシノリ
< http://bn.dgcr.com/archives/20120725140300.html >
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普段出向くことのない町に用が発生した場合、可能な限り早めに出掛けて近隣を散策し、スナップ写真を撮りまくるようにしています。新しい刺激の収集という感じですね。

最近は特定の会社へ一定期間出向するような案件が増えてきており、そんな場合は事前に色々な出掛け方や帰宅方法を検討し、目に入るモノを片っ端から撮影しています。ただし、撮影しても実際にBlogやfacebookにアップするのはおおよそ全体の1%程度。面白いけれどもイマイチという場合は、再撮影または思い切って没にしてしまいます。

ちなみに撮影はコンパクトカメラやマイクロフォーサーズのミラーレス一眼、あるいはレンジファインダーカメラに完全依存しています。スナップ写真を一眼レフでやると、威圧感が強すぎて誤解を招きかねないからです。些細な誤解が大きな失態にすり替わってしまうのは怖いです。

さりとて、iPhoneでというのもまだ私には抵抗があります。お気軽すぎる感覚に対する抵抗です。そんなわけで常時持ち歩く荷物が増えてしまったので、大きなバッグに切り替えるようになりました。もちろん、飲み会や各種パーティーなどでもカメラは大活躍。

ただし、顔を撮影する場合は「ネットにアップしても良いか?」の確認を取るのが今のマナーですからね。教員からのパワハラと誤解されるようなことは御法度です。そして、顔出しが駄目な場合は手の集合写真など、臨機応変にその場の雰囲気を撮影するようにしています。

問題は日ごとに増える交友関係から、イベントや飲み会の招待が激増してしまったこと。もちろんすべてに参加する事は不可能です。ちょっと贅沢な悩みだと感じています。でも、スケジュール調整を工夫するのもまた楽しいひとときです。

楽しいひとときと言えば、今年も多摩美術大学造形表現学部デザイン学科の卒業制作基礎審査会が先月行われました。私が関わっているデジタルコミュニケーションコースでは、担当教員が合議の上で数名の学生を担当することになっており、今年は4名の担当となりました。

しかも、そのうちの2名からは事前に逆指名を受けており、残りの2名も勝手知ったる学生だったので、最初の緊張がほとんどない雰囲気でスタートすることが出来ました。

あとはこの4名を集中してサポートするだけです。もっとも、既に5月の段階から一部の学生とはfacebook上で公開対応していますので、気が付いている方も多いでしょう。もちろん、担当外の学生からの相談も色々在ります。

で、慣例として担当学生が決定したら、取り敢えず顔見せを行うのですが、今年は初めから和気藹々でしたので、思い切って校庭でピクニックすることにしました。各自がお菓子を持ち寄って校庭で相談というわけです。

実は、私はこの学生達が入学したときから一部の学生と不定期に校庭ピクニックをしていたので気になりませんでしたが、参加した学生はこんな体験をしたのが初めてであったのでかなり楽しんでくれました。彼女たちにとって、近場にこんなにくつろげる場所があったことへの驚きの方が強かったかも知れません。ちなみに、彼女たちと明記しましたが4名の担当学生のうち、1名はイケメン男子生徒です。

分かってしまえば当たり前なのですが、刺激や発見は遠くに出掛けなくても、近くで沢山得ることが出来るのです。それは誰もが実は近場を意外と分っていないからなのです。思い込みなどがそれに拍車を掛けていますね。

大切なのは、違う視線に立つ好奇心です。同じ視線は感覚を退化させます。同じ町を徘徊するにしても、視線の位置を少しかえるだけで見え方が激変します。見え方が違ってくると、こちらの反応も違ってきます。こうして眠っていた何かのスイッチがオンになります。

あとはそれの繰り返しと、そこから生まれる連鎖反応ですね。今それがとても楽しい状況です。次から次へと入学してくる学生達の、新鮮で斬新な発想と行動はおじさんを激しく刺激してくれます。

もちろん学生とだけ付き合っているわけではありませんし、若いから刺激的というわけでもありませんが、出来上がってしまった大人の多くは防御姿勢なので刺激を得ることは難しいですね。

ところが、中にはそうでもない人もいて、それがとても嬉しいのです。例えば、ほぼ20年来の友人の一人と、ここ数年は毎年あるプロジェクトで一緒になることがあります。そして、会うと不思議と刺激を貰いこちらのスイッチも入りっぱなしになります。何故かウマが合う感じ。こういった交友関係は大切にしたいものです。いつまでも良い関係で、ゆっくりと年を重ねていきたいと感じています。

でも。誤解を持って欲しくないのですが、若い人達からの刺激を受けるだけというわけではありません。刺激を受けることで「忘れていた」あるいは「眠っていた」技やアドバイスのスイッチが入り、結果として若い人達へのアドバイスというプレゼントが産まれるわけです。そのためには、若い人達にしがみついてフットワークを良くしていないとダメかもしれませんね。

ダメと言えば、最近facebookでかなり不快になっています。facebookの細かいルールを読んでいるわけではないので、的外れなのかも知れないことをはじめに断っておきます。

それは、プロやアマに関係なくネットで自身の作品を発表している人の作品を「新しい写真をアップ」で自分の作品のように利用している人がいること。かなり唖然としています。有名人でもそんな人を発見してしまいました。自分が撮影した写真か否かぐらいは明記すべきだと思うのです。ましてや、自身でも作品を作る立場の人がやっているのをみると凄い違和感を覚えてしまいます。

これは、フリー素材を生のままアップしている行為でも同じだと思います。モノを造りだす立場の側が、これをやっちゃ恥ずかしいという意味です。

もちろん、これはリンクやシェアの話ではありません。リンクやシェアは出典を明記しているわけですから、問題ないのは当たり前。ダマテンで自分の作品のように使っている人の話です。有名人だとそれに3桁の「いいね!」が付いたりして仰天してしまいます。

そんな中、私が8年ほど前に著書の中で紹介したアイデアに酷似したネタをアップした方を発見しました。どこの誰だか分かりませんが、気分は最悪ですね。もっとも、こういった場合、誰が観ても100%同じでないと勝負は負けですからね。当然観なかったことにしました。

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■今月のお気に入りミュージックと映画

[Dance Tonight]by Paul McCartney in 2007(U.K.)
「アップル」という会社を作ったポールが、65歳(現在70歳)になり時、違う「アップル」のCMに出演したときの曲。このCMのポールが凄く良いのですが日本では放映されていなかったと記憶しています。

歌いながらマンドリンを弾いて、ただ歩いているだけななのに、足取りも軽くて、映像もすごく良くて、うっとり。「ダンス・トゥナイト」のビデオクリップに使って欲しかったほど良い映像でした。実は今月は私にとってポール月間なのです。前妻リンダが撮影した写真集"Life in Photographs"を買ってしまったからです。

[The Beatles The Beatles Live]by Beatles

いわゆるビートルズのライブ映像集。そして正規に購入していますが、完全な海賊版です。本家は速やかに正式版をリリースしなければいけませんね。ではどうして購入したのかというと、1964ワシントンDC、1965NYCシェイスタジアム、1965パリ、1966武道館という内容だったからです。

特に武道館ライブ映像が入っているので思わず購入してしまいました。武道館ではなんと11曲も歌っていたんですね。私はビデオ映像も含めて武道館ライブ映像を一切見たことがなかったのでニヤニヤ状態。ただし映像はとんでもなく汚く、Youtubeの最低画像より汚い映像に笑うしかありませんでした。

【海津ヨシノリ】グラフィックデザイナー/イラストレーター/写真家/怪しいお菓子研究家

yoshinori@kaizu.com
< http://www.kaizu.com >
< http://kaizu-blog.blogspot.com >

先月末を以てAppleのMobileMeが10年の歴史に幕を閉じた。私もiWebで作成したページを持っていましたが、道連れとして自然消滅させました。どんなに便利な機能であっても次々と新しい技術やデザインが入り込むコンピュータ関連の世界で、10年持ちこたえたというのは奇跡に近いかも知れません。

それでもたかだか10年です。でも10年って長いですよね。だいたい10年も会っていなければ誰だか忘れてしまいます。それも昔のパソコン通信時代のハンドル名しか分らない人はある意味致命的ですね。本当に「この人誰?」以上には進展しませんので。

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■グラフィック薄氷大魔王[311]
あらためて、液晶タブレットと板タブレット

吉井 宏
< http://bn.dgcr.com/archives/20120725140200.html >
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22インチと24インチの新しいCintiqが出ましたね。僕的には回転機構を残した22インチがいいな。肘や手首を中心にペンを動かしたときの描線が絵の中の水平になるように、紙をちょっと回して角度をつけておくと描きやすいのですが、それを自然にできるのが回転機構。

24インチCintiqは新モデルのマルチタッチが便利かもしれないのはおいといて、Adobe RGBをほとんどカバーする液晶は魅力的。他のディスプレイは廃止して24インチCintiqだけで作業環境を作ることもできそう。

< http://cintiq.jp/ >

僕はといえば、昨日、最終的決心のもとにしまったはずの液晶タブレットを再び引っぱり出してきて、30分後にまた片づけた(昨年末、スケッチ専用として買った安い15インチのWACOM DTI-520UB)。

通常のペンタブレット=板タブで描いてて思うように描けないとき「液タブさえあれば!」って思っちゃうんだよなあ。それで、せっかく出した液タブをちょっと使って「う〜ん、やっぱ板タブのほうがぜんぜんいいや!」って片づけちゃう。

今回は「最終的決心」の次の次だったので、自分でもアホらしいとは思いつつ出してきたわけです。確認のため液タブと板タブの両方でしばらく描いてみましたが、やはり同じ結論。僕には液タブはそれほど必要じゃない。板タブのほうが便利。と、片づける。

実は液タブを出して片づけてを一週間に一度くらい繰り返す。っていうのをここ数ヶ月、何度も繰り返してるわけですよ〜。この液タブを購入以来、20回くらいやってるんじゃないかな。

液タブはチャッチャカ描けるから、Painterで仕事してたときにはものすごく重宝した。板タブのような遠隔操作を介さないから、板タブの3〜5倍速くらいの体感スピードで描ける。仕事で2D絵を描くのがメインの人は液タブあったほうがいいです。「ホワイドンチュー液タブ使わないの?」って感じ。絵を描く仕事のスピードに対する投資としては、激しくお得です。

僕は現在3DCGがメインなのでペンタブでの作業の大半は「操作」。「描く」のはラフスケッチとテクスチャペイントくらい。でも大量に描くラフスケッチ作業がクリエイティブの中では最重要と思ってるので、そこが液タブか板タブかの迷いポイント。

で、液タブでは思い通りに描けるのは確かなんだけど、ツルツル画面は描きづらくて不快。ペンから伝わる摩擦の振動など感触も含めて「描く楽しさ」なんです。ビニールなど各種透明素材を30種類くらい試したけど、満足には至ってない。

描きやすさからツルツル不快を差し引かなきゃいけない液タブ。その点、板タブは摩擦の調整し放題。LIONカッティングマットの感触が気に入ってる。細かい部分を描くときは、何も敷かないほうが描きやすいこともあるけど。intuosに何も敷かずにぜんぜん大丈夫の人は、ツルツルは気にならないと思いますので念のため。

ラフスケッチとかしてて、客観的に見れるのは板タブと普通のディスプレイを使ってるとき。形を描くときも目で確認しながら描くわけだし。液タブでは画面と目が近いこともあって客観的に見づらいし、手クセに引きずられてしまうことが多い。

あと、液タブを使うときはしがみつくような姿勢になりがちで疲れる。それとここ肝心なんだけど、近眼に老眼はいってくると、液タブを使う距離って微妙。全体を見渡すにはメガネが必要だし、作業中はメガネは取らないとキツイ。

もうひとつの理由。24インチCintiqなどでかい液タブ一台で全部済ませられるように環境を整えれば問題ないけど、通常の液晶ディスプレイと並行して液タブを使うと、当然机の上がほとんど占領される上に、ケーブルが何本も余計にのたうつのが耐えられん。机の上には最低限のモノしか置きたくない。

などなど、とりあえず僕的に板タブのほうがいいや、という理由の列記でした。ケーブルがのたうたないiPadやタブレットPCのような独立したデバイスなら、スケッチ用補助として使いたい気持ちはあるけど、大きな液タブは今のところいいや、でした。

・余談1。最近、板タブで描きやすいと感じるのは、Photoshop CS6で無段階ズームが非常に快適なのが割と決め手になってる。ズームが苦じゃないから、板タブで腕を大きく動かして描けて快適なのです。

・余談2。ASUS Eee SlateというWACOMセンサー搭載のタブレットPC。リンクの動画を見ると相当魅力的に見える。お絵描き系の人だったらこれ一台で仕事が完結しそう。かつてのタブレットPCが正しく進化してる感じ。Core i5搭載なのでパワーもある。12インチCintiqとほぼ同じ値段でPC内蔵ってことですね。マイクロソフトが発表したsurfaceも良さそうなんで迷うところ。

3D人 -3dnchu- < http://bit.ly/uhTZ8U >
Eee Slate EP121 < http://www.asus.co.jp/Tablet/Slate/Eee_Slate_EP121/ >

【吉井 宏/イラストレーター】
HP < http://www.yoshii.com >
Blog < http://yoshii-blog.blogspot.com/ >

夜、川崎か羽田空港方面にオレンジ色にギラギラ強く光る何かが見えることがある。たぶん空港の灯台みたいなものだろうと思ってたけど、検索して謎が解けた。「東燃化学川崎工場のフレアスタック」だった。フレアスタックってのは石油精製の不純物を燃やす煙突とのことだそう。
↓こんなのが燃えてるんだもん、そりゃ明るく光るわ!
< http://shinshins.blog91.fc2.com/blog-entry-328.html >

●iPhone/iPadアプリ「REAL STEELPAN」ver.2.0がリリースされました。
「長押しロール」のオン・オフ切り替えスイッチを追加しました。
「オフ」ではレスポンスが速くなるので、素早い演奏が可能になりました。
REAL STEELPAN < http://bit.ly/9aC0XV >
●「ヤンス!ガンス!」DVD発売中
amazonのDVD詳細 < http://amzn.to/bsTAcb >

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■ローマでMANGA[54]
アモーレの始まり

midori
< http://bn.dgcr.com/archives/20120725140100.html >
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●イタリアのマンガも日本へ入った

前回、日本のMANGAがイタリアに入った瞬間のことを書いた。
< http://bn.dgcr.com/archives/20120621140100.html >

今回はイタリアのマンガが日本へ入った時のことを書いてみる。この時も、私が率先してイタリアのマンガを日本へ入れようとしたわけではなくて、巻き込まれたのだった。ずっとこうやって巻き込まれてきたので、自分からなにかを立ち上げることなく来てしまった。今、もっと色々できたのに、と思ったりするけれど、これは別の話だ。

まず初めに、私とMANGAとイタリアと講談社を結び付けたい神様が、イタリアの作家・イゴルト < http://www.igort.com/home.html > を自費で講談社に売り込みに行かせた。

アーティスト精神の他にマネージング精神のある作家さんだから、下調べをして講談社に行ったにちがいない。当時、英語で答えてくれる部署を持つ、数少ない日本出版社だったのだと思う。ボローニャの国際児童図書展で話をつけたのかもしれない。

結び付けたい神様のせいで、イゴルトが講談社へ行った時、モーニングの編集長が海外の作品を載せたいと、モーニングに描きおろしをしてくれる海外作家を探してるところだった。

編集長の栗原さんは、私にイゴルトの話をし、編集部との間に立って「モーニング海外支局」として外部編集の仕事をしてくれませんか、と願ってもない話を持ってきてくれた。イゴルトにもローマに「外部編集者」がいるから、コンタクトはそちらへ、と話をつけた。段取りを済ますと、イゴルトに担当編集者をつけた。それが堤さんだった。

堤さんは、小林まことのMANGAの描き方のミニシリーズに登場した猫が面白いと「what's Michael?」< http://p.tl/NH4D- >を誕生させ、原稿を取りに行った先にあった同人誌から「鶴田謙二」< http://p.tl/O9jE- >を発見してプロにし、田中政志の初期作品「FLASH」に登場した恐竜の子に目をつけ、作者と一緒に悩んで「Gon」< http://p.tl/80xE- >を誕生させたりの、私が天才編集者と尊敬する人だ。

堤さんとイゴルトの間に入ってやり取りの翻訳をしたおかげで、作者のアイデアを編集者がどんなふうに作品に持っていくのかをじっくりと観察することになった。

●マフィアがテーマの作品「アモーレ」

イゴルトが講談社に売り込みに行った時、当然、作品企画を持参した。それが「アモーレ」。その昔、ヒデとロザンナが「アモーレ! アモーレ・ミーオ!」と歌っていたが、まさにそのアモーレ、愛がタイトルだ。と言っても恋愛モノではない。社会派、マフィアがテーマの作品だ。

日本の文化圏が東西に分かれるように、イタリアでは南北に分かれる。イゴルトは南に属するサルデーニャの出身で、南イタリアには独特のメンタリティ「宿命」があるという。自分ではどうにもできない運命に流されていく。歴史的に様々な異民族に支配されてきたことと無関係ではないと思う。

イゴルト自身もそんな宿命論に翻弄されているのか、それとも、サルデーニャからボローニャへ出ていってアートを仕事にしているから、運命は切り開けると言いたいのか。

マフィアはそもそも、コロコロ変わる異民族の支配、だから規則も変わり、異民族支配だから被支配者のことは考えない...という状況(宿命?)から生まれた。マフィアの家族に生まれたら、マフィアと関わらないわけにはいかない。

主人公のマリオはマフィアのボスを父に持つが、そんな犯罪組織とは無縁に生きていきたかった。恋愛と料理にうつつを抜かしていた間は良かったが、父親が死ぬと、否応なくファミリーを統率していかねばならなくなる。

作者のイゴルトは、世の中に何か出すときには社会的責任がある。だから、自分はマフィアを扱うときには、決して美化しない、と言っていた。そして、その通りに、このマフィアのボスのファミリーの崩壊を描く。それと、南イタリアの宿命論。

イゴルトは当初、36ページくらいの読み切りのつもりで持ち込んだ。この時の会話は編集長となのか、担当となのか、私には伝わっていないのだけど、こういう会話があったと後にイゴルトに聞いた。

編集部はイゴルとの企画を読んで、これなら100ページは必要ではないか?と言った。イゴルとは、ちょっとびっくりして、200ページにもできる。と答えた。編集部は、それならいっそ400ページの長編にできないか? と。そして、大河ドラマ「アモーレ」の企画が出発した。

●テクノロジーの進化とともに

イゴルトと編集部のやり取りはほぼ全部とってある。なにしろ、私を通さないと意思の疎通がスムーズに行かないわけだから。「ほぼ」なところが捨てられない病な割には、中途半端な私だ。このテキストを書くのを機会に、もうずっとやろうやろうと思っていたことを実行した。やり取りを全部スキャンしてDropBoxに放り込んだのだ。

一番古い日付は1991年8月21日。イゴルトから私に宛てた「手紙」だ。富士通のワードプロセッサーで打って、点々で字が構成されている。30(36?)ページなのか、300ページなのか、の確認とともに、原稿料についての提案が続く。

その後私はFAXを手に入れ、イゴルト宛には、日本から持ってきていたオリベッティのヴァレンタイン< http://www.rakuten.co.jp/twinland/301056/1811715/1811929/ >で打ち、日本へは手書きで送信した。

それからポータブル・ワープロへと進化した。ポータブル・ワープロは今のノートブックよりちょっと大きめのワープロだった。ただ、画面が小さくて一行しか表示されない。打った文章を記憶してくれているけど。だから、とりあえず、全文打ち込み、そしてやおら印字してみて変な文章や誤字を見つけねばならなかった。

印字はカートリッジテープ。これがなかなか馬鹿にならない消費なので、試しの印字用には、使いきったテープを巻き戻して使用し、清書には新しいテープを使用するという工夫をした。その内、FAXの感熱紙を使うというアイデアを得て、テープの消費を節約した。

話が進むうちに妊娠、出産をし、子供を見せに里帰りをした折に中古のMacのPowerBook165Cを購入した。
< http://www.dentalx.jp/01product/develop/mac_otaku.html#pic9 >

AirMacなんていうのがある今から見れば、やたら重いnotebookだったけど、持ち運び出来るコンピューターで、しかもカラー画面!! 内蔵HDは脅威の16MB!! GBなんてなかった時代の話。

ちゃんとフォントを選んでいたり、なぜかうまく行かなくて昔の富士通のワープロみたいな点々の印字なったりしながら、FAX通信は続く。どうも、出荷時にすでに問題のあった機械らしく、何度も修理に出してすごく高く着いてしまった。そのせいで捨ててしまったのだけど、あの歴史的マシン、オブジェとしてとっておけばよかったな、と、後悔している。

FAX通信の最終の日付は1996年9月10日になっている。その後は、Performa5200< http://ja.wikipedia.org/wiki/Performa >を手に入れ、電話回線ながらインターネットでメールのやりとりに変わった。後のパソコンのHDが死んだりして、残ってないメールもある。

ちなみにこのマシンはまだ生きてる、というか、休眠中。電源につなげれば動く。メールも残っているかもしれない。そのうち、サルベージに行こう。

イゴルトと編集者から受け取ったFAXは感熱紙だ。この頃、息子が生まれて腕に抱えながら仕事をしていた。その息子が19歳だから、19年経った感熱紙なのに、そこそこ読めるのがすごいなと思う。
< https://picasaweb.google.com/102936978768158289322/xEckIB#5767293895581120370 >

●日本の雑誌に掲載するということ

イゴルトはこの当時で、すでに20年のキャリアを持つプロだ。だから漫画家としての仕事の進め方は知っている。でも、日本の雑誌掲載は初めて。編集の方もヨーロッパの作家と仕事をするのは初めてだ。

ここで、イゴルトも編集者も大いに戸惑いつつ作業をすすめることになる。どちらも自分のやり方がスタンダードだと思ってしまうのは仕方がない。両者ともそのやり方でずっとプロとしてやってきたのだから。

イゴルトのコマ割りは原稿をほぼ同じ高さに三段に分ける。コマの大きさが読者の読む時間をコントロールする手段の一つであるMANGAの構成から見ると、ちょっと異質ではあるけれど、編集者は意に介さない。このコマ割りでイゴルト独特のちょっと実際の出来事よりゆっくりしたリズム、回想シーンを見ているようなレトロな感じが、絵柄とよくマッチしている。

やり取りを読み返してみて、編集者が何度も何度も書いているのはページ数についてだ。何度も32ページに納めてくれ、と書いている。イゴルトがハーフトーンを使いたいと希望したので、オフセット印刷のページを割り当てることにしていた。当時230円の週刊モーニングで、オフセットページは64ページあった。これがコスト的にギリギリだそうだ。

週刊誌はご存知のように紙を重ねて半分に折って、真ん中を金具で止める。だから、オフセットページが64ページあっても、続けて配置されるわけではない。雑誌を中央で開いた状態で右に32ページ、左に32ページ、その上に別の活版印刷ページが載って、オフセットページを分けている。

この当時、オフセットページを確保していたのは、中国人作家・鄭問(ちぇんうぇん)の「東周英雄伝」
< http://kc.kodansha.co.jp/content/top.php/1000001613 >
と田中政志の「Gon」
< http://kc.kodansha.co.jp/content/top.php/1000000361 >
だけだった。

それでも、どうしても32ページを超える回が出てしまうのであれば、モーニングは負担と危険を追うことになるが受け入れます、とまで言っている。それだけ、編集部でイゴルトを買っていたことが伺える。実力を認めていたのだ。

何度も書いている、ということはイゴルトが何度も32ページ以上でネームを書いてくるからだ。しかも、37ページという奇数で。ヨーロッパの場合、片起こしという決まりがないので奇数ページで構成するのは変でもなんでもない。見開きで始まって、片ページで話が終わったりする。

イゴルトの方でも、構成と日本人読者の理解に関して悩んだ。自分の好きな構成がミーティングで編集長にわかってもらえなかった。日本の読者にはわかりにくい構成がいくつかあると指摘されたが、どういうやり方なら理解されるのかわからない、とFAXに書いている。

わかりにくいと指摘された構成の一つは、「主人公とお目付け役の会話→その時間帯に行われた殺人→殺人を告げるTVニュース→そのTVが主人公の部屋にあり、ニュースをBGMにベッドで恋人といちゃいちゃ」という構成で時間軸にそっている。編集長は殺人場面を主人公の回想場面と解釈した。

つまり、MANGAでは主人公の感情にそって構成していくので、読者が見る場面(作家が用意する場面)は主人公になにかしら関係があるものと考えながら理解しようとする。ヨーロッパマンガは「何が起こったのか」を語るのが大事だから、時間軸のみに添って話をすすめるのは不思議でもなんでもない。

この構成のしかたの疑問を呈したFAXは1993年2月4日の日付がついている。イゴルトの最初の手紙を受け取ってから、すでに1年半だ。問題の場面は第二話に出てくる。つまり、第二話のネームを基に話をしている。

講談社に持ち込んだ30ページの第一話はやり直しにやり直しを重ねて、イゴルトも編集も納得の行くまで詰めに詰めた。編集のダメをこれだけ受け入れたヨーロッパ人作家は他にいないのでは、と思う。

日本人読者にわかりにくい構成をした場面は、その後、「主人公とお目付け役の会話」と「その時間帯に行われた殺人」の間に、見開きでパレルモの大聖堂を入れ、マフィアの一人が殺人の舞台になるアパートの階段を上がっていくシーンを挿入し、それに合わせて他を構成しなおして32ページにまとめ、殺人が主人公の回想シーンではなく、別に起こった出来事なのだと日本人読者にもわかるようにした。

そして、アモーレの制作はまだ続く。

【みどり】midorigo@mac.com

毎年恒例で、6月の半ばに息子の学校が夏休みに入るとバカンスに行ってしまう。今年は6月の4週目と7月の最初の週の二週間。初めて訪れる土地、クロアチアへ行ってきた。昨年から寡夫となった海好きの舅と一緒に行く。舅がTVの旅番組を見て「クロアチアって海がきれいなんだよ、行ってみたいね」と言い、高齢でいつまで動けるかわからない父親を喜ばせようと、旦那が企画した。

ただし、使えるお金が充分ではないので、アンコーナから出るバカ高いフェリーでの近道ではなく、延々北上し、国境の町トリエステからスロベニアを経て入るルートをとった。874キロ。ローマ・東京直行便が12時間のフライト。我らが1000ccに満たないちびカーで、天井に荷物入れをくっつけての走行は14時間だった。

リアス式の岩ばかりの海。透明度が高く綺麗な海。海上からしかたどり着けない貸家はネットにも繋げられず、帰宅してからは溜まった仕事を片付けるので日本の状況を見聞きする暇が殆どなくて、実に精神状態良くすごしている昨今です。

主に料理の写真を載せたブログを書いてます。クロアチアの写真はまだ載せてない。
< http://midoroma.blog87.fc2.com/ >

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編集後記(07/25)

●黒野伸一「限界集落株式会社」を読む(小学館、2011)。タイトルからの想像では限界集落テーマのリアルな小説かと思ったが、帯には「逆転満塁ホームランの地域活性エンタテインメント!」とあり、カバーのイラストを見れば深刻な話ではないことがわかる。まさしく、サクセス&ラブストーリーの楽しい内容であった。1/5くらい読むと先が予想できて、ほぼその通りにいくのだから安心である。そんなうまくいくものかねえ、という気もしないではないが。

自分自身のリセットのつもりで、祖父の田舎・止村にやってきた元エリート銀行員の主人公・多岐川は、いきがかり上、限界集落になっている止村を復興するために営農組織の連名代表になる。もう一人の代表は野菜作りが大好きな農家の娘・美穂。新自由主義を信奉するアメリカ型経営者VS現場至上主義者の思想上の戦いが始まるが、あとはお約束通りの展開だ。はからずも農業という典型的な不採算事業に乗り出した多岐川は、さまざまな戦略で思わぬ利益を村にもたらす。就農研修に来た三人の男女は、農作業では使い物にならないが、多岐川は彼らをPR・営業部門に選抜し能力を開花させる。

二年後、営農組織を法人化してさらなる事業拡大めざすが、思わぬトラブルで資金繰りのピンチ。それもテンポよく解決してハッピーエンド。380ページの長編だが抵抗なくスルスル読めて気持ちいい。それぞれのキャラが立っているので(わかりやす過ぎるけど)、漫画やドラマにしたらもっとおもしろくなりそうだ。巻末にあげられた19冊の参考資料も興味深い。消夏の一冊としておすすめである。(柴田)

< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4093863156/dgcrcom-22/ >
→アマゾンで見る(レビュー6件)

●MacBook Proを買った。Retinaではない。迷いに迷って全部入りにした。13インチのi7のもの。メモリ16GB、480GBのSSD。これで虹色くるくる(あれ、ビーチボールだったのね)から開放されることを祈る。今回は自分で増設・換装せず、ショップでやってもらった。いつも自分でやっては、取り出した方を売ることもなく持て余しているからだ。たぶん今日には新しいOSが発売されるだろうから、それまでに欲しかった。手元にはLIONの入ったものがないので、一応経由しておこうかなと。Retinaにしなかった理由は、普段は外付けディスプレイを使っていることと、13インチが欲しかったこと、まだFirewireを使った外部装置が多いことなど。店頭で見比べて、そのきれいさに心が動かなかったわけではない。もし13インチがこの時期に発売されていたら買っていただろう。

立ち上げてユーザ登録。反応が若干早いような気はするが、これは裏で動いているアプリがないからかもしれない。メモリとSSDを確認。まずはソフトウェアアップデート。なぜかiTunesのアップデートでエラー。二度試したけれどダウンロードしたデータが壊れてるとか何とか。次にDropboxのインストール。同期に時間がかかるからだ。インストールして同期を始めたら「30日」と出た。5時間経って、今は5日〜15時間をうろちょろ。今日は持って出る予定があるので、軽い新製品をと思っていたけれど、整備に時間がかかりそうだ。今回は、移行アシスタントを使うのをやめた。必要なものを必要なだけ、随時入れていくつもり。そう考えていたって、試しに入れたアプリやら、気まぐれでダウンロードした画像なんかが溜まっていくんだし。(hammer.mule)
< http://www.kitcut.co.jp/onlinestore/floor/mac/Apple_MacBook_Pro >
見積もりをとる行程が不要なのでここにした。メモリ16GB載せられるし。