[3312] 計算機製アートの席巻する日

投稿:  著者:  読了時間:28分(本文:約13,500文字)


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■デジクリトーク
 誰のためのWebサービス? ターゲットユーザーを選ぶということ
 辻川友紀

■クリエイター手抜きプロジェクト[326]Illustrator CS3/CS4/CS5編
 一定範囲の彩度の図形を選択する
 古籏一浩

■データ・デザインの地平[21]
 計算機製アートの席巻する日
 薬師寺 聖

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■デジクリトーク
誰のためのWebサービス? ターゲットユーザーを選ぶということ

辻川友紀
< http://bn.dgcr.com/archives/20120820140300.html >
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こんにちは。ShareWisの辻川です。前回、ShareWisの概要について書かせていただきました。

デジクリトーク/みんないっしょに泳ぐんだ! 無料学習サイト「ShareWis」
< http://bn.dgcr.com/archives/20120709140300.html >

今回は、実際にβ版のサービスをリリースして気づいたことについて書いてみたいと思います。

●ターゲット設定ってとっても大事

新しいWebサービスをリリースするとき、そのサービスは「誰」が使うのか、いわゆるターゲットユーザーは「誰」なのかを考えることが重要だと言われています。

「そんなもん言われなくても分かってるよ!」と思うかもしれません。僕もそう思ってました。

しかし、実際に5月31日にShareWisβ版をリリースしてから、「本当に『誰』に向けてのサービスなのかを考えることが、こんなにも大事なのか!」と身をもって実感しました。

僕にターゲットの重要性を気づかせてくれたのは、「人によって言うことが全然違う」という、とてもシンプルな事実でした。

●ユーザーテストの意見も十人十色

実際にShareWisを利用しているユーザーの方々の生の声を聞こうと、ユーザーテストを実施しました。

さて、そんなユーザーテストですが、やる前から「人によって魅力を感じる部分に違いがあるだろう」とある程度予測していなのですが、実際の結果たるや、「ここまで違うのか!」と驚愕するばかりでした。

例えば、ShareWisでレクチャーを完了させたときに、「ポロリン!」と音が鳴るのですが、その機能についてある人からは「最高だ!」と誉めていただき、ある人からは「うっせー!」と耳の痛い意見をいただく、といったことがありました。

他の機能やデザインについても似たようなことが起こり、人によって意見が異なることにただただ驚きました。

また、ユーザーテスト以外にも、各種イベントでShareWisについてプレゼンテーションしたときの反応も、人それぞれでした。

ShareWisは「知識の地図」に記録を残しながら学習を進めていく無料の学習サイトですが、学習を「目標に向かって歯を食いしばって耐え忍ぶもの」というふうに考えている人(年配の男性に多い気がします)には「こんなものは学習ではない」という厳しい意見をいただき、逆に、学習をもっと気軽なものと考えている人には受けがいい、というような傾向が見られました。

望まれない機能追加、存在しないニーズを訴えかけるようなことのないよう、「誰」のためのサービスなのかをきちんと考えなくてはならないと改めて気付かされました。

●メディアにもターゲットあり

サービスをリリースしてから、幸いにもいくつかのメディアに取り上げてもらえ、掲載された記事のリンクからShareWisに登録していただいたユーザーの方がたくさんいました。

そして、ここでもターゲットの違いが如実に現れていました。あるメディアの記事から来た人は、アカウント登録後も比較的継続的にShareWisを利用してくれたかと思うと、別のメディアから来た人は登録だけして全く使ってくれない、などユーザーの動きに大きな違いが見られました(どこのメディアがどうだったかという具体的な名前は伏せておきます...)。

各メディアもターゲットとする読者が異なるため、紹介されたサービスに対する反応が違うのは当たり前ですが、実際に目に見える差をつきつけられると、やはり驚きを隠せませんでした。

メディアによる反応の差をただぼーっと見ているだけでなく、自分たちのサービスを使ってくれるユーザーの方々が、朝起きてから夜寝るまで、どのようなメディアから情報を仕入れ、その情報をどう活用しているのか、といった情報を得ることができるのではないかと思っています。

そしてそうした情報から、ターゲットとなるユーザーのイメージを描き、「誰」のためのサービスなのかをはっきりさせることができるはずです。今後もユーザーの方々からの反応を注視しながら、ターゲットのイメージを形作っていこうと思います。

●ターゲットを選択するということ

ユーザーテストやメディアのことから、同じサービスであっても、受け取る人によって捉え方が全然違うということが分かりました。「じゃあどうすんの?」といえば、そこはやはりターゲットを選択するしかないわけです。

ターゲットの選択と聞くと、サービスを利用するユーザー像を形作ることだけをイメージしがちですが、それだけではなく、やや語弊があるかもしれませんが、「こんな人には使って欲しくない」というユーザー像をを決めることも必然的につきまといます。

ターゲットの「誰か」を選ぶということは、同時にターゲットに選ばれなかった「他の誰か」を見捨てることと同じだからです。

こういうと、見捨てるだなんてひどいことをせずに、誰にでも受けるものを作ることができればベストだと考えてしまいます。しかし、誰にでも受けるものを作ることは、それはそれでやってはいけないことだと言われています。

「八方美人のビジネスは、結局ファンが誰一人いないビジネスだ」とどこかの偉い先生が言っていました(ビジネスだけでなく、音楽や映画、人の性格など色々なものにも当てはまりますね)。

Twitterでつぶやきまくっている人もいれば、あんなもの何が面白いんだ? と眉をひそめる人もいます。でも、両方の人に受けるサービスを作ろうとTwitterが躍起になっていたら、きっとつぶやきまくっている人の心も離れていってしまい、ありきたりで誰も使わないサービスになってしまっていたかもしれません。

なので、サービスを運営する者としては、色々な意見をもったユーザーがいるという事実をしっかり受け止め、その上で「誰」に対するサービスなのか、同時に「誰」に対するサービスではないのかを、腹をくくって決めなければなりません。

これからShareWisをよりよいサービスにするため、ShareWisがいったい「誰」のためのサービスなのかを、繰り返し繰り返し考え続けようと思います。

・知識の地図を使った無料学習サイト「ShareWis」
< http://share-wis.com >
(現在はGoogle Chrome、Safari、Firefoxに対応しております)

【辻川友紀(つじかわ・ともき)】
1984年生まれ。2012年2月 株式会社シェアウィズを設立。
ShareWisをお手伝いいただける方絶賛募集中。
mail: tsujikawa@share-wis.com twitter: @torimeshi1221

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■クリエイター手抜きプロジェクト[326]Illustrator CS3〜6編
一定範囲の輝度の図形を選択する

古籏一浩
< http://bn.dgcr.com/archives/20120820140200.html >
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今回は、Illustratorで選択した図形の中から、一定範囲の輝度の図形を選択するスクリプトです。Illustratorには明るさを指定して選択する機能がないので、作成してみました。

スクリプトの使い方ですが、あらかじめ対象となる図形を選択しておきます。その後、スクリプトを実行します。輝度の開始値と終了値を入力します。

これで、該当する範囲の輝度を持つ図形だけが選択された状態で残ります。RGB→HSL変換時に誤差が発生するのと、IllustratorではHSBなので整合性を取る時点でも、若干誤差が発生することがあります。


// 指定した範囲の輝度(0〜100)を選択
(function(){
var text = prompt("開始範囲(輝度0〜100)入れてください", 30);
if (!text){ return; }
var startRange = parseFloat(text);
var text = prompt("終了範囲(輝度0〜100)入れてください", 50);
if (!text){ return; }
var endRange = parseFloat(text);
//$.writeln("startRange = "+startRange);
//$.writeln("endRange = "+endRange);
// 選択処理
var selObj = app.activeDocument.selection;
for(var i=0; i<selObj.length; i++){
var RGBcolor = selObj[i].fillColor;
var R = RGBcolor.red;
var G = RGBcolor.green;
var B = RGBcolor.blue;
//$.writeln("RGB = "+R+","+G+","+B);
var HSL = RGBtoHSL(R, G, B);
var H = HSL.H;
var S = HSL.S;
var L = HSL.L;
//$.writeln("HSL = "+H+","+S+","+L);
L = L * 100; // 0〜100の値に調整
L = L * 2; // イラストレータがHSBなので補正
//$.writeln("Lightness = " + L);
if ((L <startRange) || (L> endRange)){
selObj[i].selected = false;
//$.writeln("選択を解除しました");
}
//$.writeln("-------------");
}
})();
// RGBから色相に変換
// (R:0~255, G:0〜255, B:0〜255, h:0〜360, s:-1〜1, l:0〜1)
function RGBtoHSL(r, g, b){
var h = 0;
var s = 0;
var l = 0;
var cmax, cmin;
if ( r>= g ) cmax = r; else cmax = g;
if ( b> cmax) cmax = b;
if ( r <= g ) cmin = r; else cmin = g;
if ( b <cmin) cmin = b;
l = (cmax + cmin) / 2;
var c = cmax - cmin;
if ( c != 0 ){
if ( l <= 0.5 ) s = c / (cmax + cmin); else s = c / ( 2 - (cmax + cmin));
if ( r == cmax){ h = ( g - b ) / c;
}else{
if (g == cmax){ h = 2 + ( b - r ) / c;
}else{
if ( b == cmax ) h = 4 + ( r - g ) / c;
}
}
h = h * 60;
if ( h <0 ) h = h + 360;
}
return { H:h, S:s, L:l/255 };
}


Illustratorから実行せずにESTKから実行する場合は、上記$.writeln()の前のコメント(//)を削除すると、どのような色相、彩度なのかがJavaScriptコンソールに出力されます。


【古籏一浩】openspc@alpha.ocn.ne.jp
< http://www.openspc2.org/ >

信州は、もう秋の虫が鳴いてる状態。猛暑も過ぎ去って、過ごしやすくなりました。いろいろ用事が多くて、今年の夏は撮影とか出かけられませんでした。仕方ないので、家の窓から西の空を撮影する毎日。

楽天Koboですが、8月17日に以下のような題名のメールが来ました。

「電子ブック楽天<kobo>◆まもなく終了!・・・」

もう終了、撤退するのか! と思ったら......

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でした。

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・毎度おなじみASCII.jpの連載
「DeviceOrientation Eventでブロック崩し作ってみた」
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・ハイビジョン映像素材集
< http://www.openspc2.org/HDTV/ >

・クリエイター手抜きプロジェクト
< http://www.openspc2.org/projectX/ >

・Adobe Illustrator CS3 + JavaScript 自動化サンプル集
< http://www.openspc2.org/book/PDF/Adobe_Illustrator_CS3_JavaScript_Book/ >
吉田印刷所の「印刷の泉」でも購入できるようになりました。

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■データ・デザインの地平[21]
計算機製アートの席巻する日

薬師寺 聖
< http://bn.dgcr.com/archives/20120820140100.html >
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●創作の自動化、歓迎する人々

前回、時空倫理学の必要性について述べましたが、今回も、倫理について語らなければなりません。創作上の倫理問題を引き起こすニュースが飛び込んできたからです。

そのニュースとは、ご存知のことと思いますが、「文壇オワタ...クラウドソースの官能小説もどきが堂々iTunesベストセラー入り」です。
< http://www.gizmodo.jp/2012/08/itunes_11.html >

これまでも、文学に限らず絵画やマンガや歌などを計算機に生成させる試みはありました。とはいっても、それらは、どちらかといえば、作りたいけれども制作技術を持たないユーザー、つまり作る側に対するサービスでした。

ところがついに、観賞する側に対して、商業ベースでの作品販売が、大手を振って実行されたのです。ニュースを見る限り、成果もあげている模様です。

計算機による製品とヒトによる創作物を同列に扱うことは、越えてはならない一線でした(もっとも、必ず試みる人は現れます)。牛丼やジーンズの安売りと同じで、一度それが仕掛けられると、あとはなし崩しになるからです。

この作品にユーザーが満足すると、計算機が作ったものでも十分、という下地ができてしまうといっていいでしょう。

音楽についても、そのときどきのユーザーの気分に合う楽曲を、計算機が生成して提供するようになります。そもそも、以前の記事(第7回「脳活動センシングの進化が、作曲を変える」で触れたように、
< http://bn.dgcr.com/archives/20110613140100.html >
計算機とBMIによる作曲は必ず実現するのですから、不思議なことではありません。

プログラミングも、計算機による代行が増えていきます。プログラムによってプログラムを生成することはあたりまえに行われていることであり、その範囲が拡大するだけです。ヒトの作業は、数学と、計算機の管理にシフトするでしょう。

デザインについても、色と形とレイアウト位置の組み合わせですから、計算機がとって代わることは可能です。写真やイラストもしかりです。

●ユーザー受けのよい、計算機が生成する感動

さらには、商用のポピュラーな作品ではなく、深い精神活動を表現する分野にも、影響は及びます。たとえば、詩です。

英詩人アレキサンダー・ポープ言うところの
True wit is nature to advantage dress'd,
What oft was thought, but ne'er so well express'd
「日常を、誰も考えつかなかった巧みな表現でイメージさせる」タイプの詩であれば、計算機は類似のものを生成できます。

英詩でいえば、トーマス・トランストロンメル氏(ノーベル賞詩人)の比喩そのものを生みだす確率はゼロに等しいとしても、何万回何億回と膨大な処理を繰り返せば、その中でひとつくらいは、トランストロンメル氏が書いたかのように錯覚させることのできる詩を生成できる可能性はあります。

計算機は、あたかも、深淵を覗いたかのような言葉を、データベースから抽出して組み合わせることさえできます。イェーツやブレイクもどきの結果を出力することもできるでしょう。

英詩には韻律(metre, rhyme)という要素があるので、日本語詩よりも計算は困難ですが、それでも膨大なデータベースが蓄積されれば可能になるでしょう。

そして、読者の何割かは、フェイクを見抜くことができないと思われます。困ったことに、むしろ計算機の出力結果の方が、詩人が書くものより、感動を生む可能性すらあります。なぜなら、計算機の方が個々の読者に寄り添いやすいからです。

計算機は、個々の読者の経験データベースを参照し、読者の気分をセンシングして、その時点でもっとも欲する詩を生成することにより、脳を感動した状態に変えることができます(もっとも、作品を介してではなく、直接脳を刺激してインスタント感動を与える機器の出現も、そう遠くはないのですが)。

読者の経験にシンクロする作品が生成されると、共感が生まれやすくなります。さらに、読者の感動の状態をセンシングしてフィードバックすることにより、次回作のための学習が行われ、さらに品質が向上します。

それに比べて、詩人が個々の読者にヒアリングを行い、リアルタイムで作品を創って安価に提供することは、難しいといわざるをえません。

●ヒト対計算機、ユーザーのプライオリティ

計算機の出力結果からは、それが私小説でもなければ、人となりは見えてきません。そうはいっても、ユーザー(読者や視聴者)は、アーティストの人間性よりも、作品を評価するケースが少なくないので、それは問題にならないかもしれません。。

なにしろ、この社会では、ハラスメントする一方で愛を歌い、家庭をないがしろにして社会を風刺したとしても、少々の不一致は許容されがちです。ネットユーザーの逆鱗に触れない限り、高校野球並みの厳格さは、こと大人たちにはもとめられていないようです。

評価対象が「人間性より作品」ならば、倫理観の欠如しているアーティストと、倫理観を持たない計算機が、類似の作品を提供したとき、ユーザーはどちらを選ぶでしょうか。ヒトの作品にどれほどの付加価値を認めるでしょうか。

ユーザーは、倫理観の欠如をも含めた「人間的魅力」を、アーティストに対してもとめるものなのだ、という意見もあるでしょう。アーティストの産みの苦しみこそが重要なのだ、という意見もあるでしょう。

たしかに、いくら感動を与えるデータを生成できたとしても、「現時点では」計算機には、感情はありません。

それはたとえば、ヒトと、ヒトそっくりの計算機(ロボット)が、事故でリハビリ中の同僚を見舞い、ヒトが悲しさや苦しさに共感して神妙に「がんばっていますね......」と言うのに対し、計算機が、ただ単にプログラムに従って同じ言葉を出力するようなものです。

計算機は、情報の記憶と学習で「感情を持ったかのように」表現することはできます。まるで、ゾンビ・アーティストです。

しかしながら、ユーザーの評価対象が、背景や場の雰囲気や文脈を伴わないテキストのみだとしたら、どうでしょう? 計算機が単純に処理したテキストであっても、その中に、ユーザーは自らの感情を垣間見るのではないでしょうか。

アーティストが血肉を削るようにして作品を生み出そうと、計算機が何の思考もなく24時間稼働でデータを生成しようと、ユーザーは、過程より結果を重視するのではないでしょうか?

危険な労働は機械に任せ、ヒトは安全な場所で創造的な活動に従事する──そのような未来は失われてしまったようです。

●唯一ヒトに分があるのは「時間を超える」題材

ここで述べた「計算機」とは、スパコンの形をしているかもしれませんし、アンドロイドのような形をしているかもしれません。それは、金属や樹脂で作られた無機質な装置です。従来、哲学者や物理学者が思考実験で論じてきた計算機には、そういったイメージがつきまといます。

ところが、科学技術の発達はすさまじく、いまや、「プログラマからの逐一の指示がなくても」自発的に成長するシナプスを持つ有機物の計算機を、我々は想定することができます。その計算機がヒトと異なるのは、この世で初めて見る顔が産科医ではなく生物学者だということぐらいでしょう。

そのような計算機が、自発的な学習を行い、ユーザーを満足させるクオリティの作品を生成「したい」という意識を持ち始めることは十分に考えられます。

さらには、ミラー・ニューロンを備え、共感能力を獲得するに違いありません。クオリアも知るでしょう。

そうなれば、ゾンビ・アーティストの汚名は返上です。計算機は、抒情性、わびさび、ノスタルジアさえ、理解して生成するようになるでしょう。

そうなった暁にも、アーティストが、アーティストであり続けようとするなら、「どう表現するか」よりも「何を表現するか」を重視しなければなりません。必要なのは、「再現」ではなく「表現」です。

では、何を表現すればいいのか──表現する作品の題材には三種類あります。

ひとつは、五感によって取り入れた外部の情報です。景色を見て、景色を描写するといったものです。

二つ目は、内面に湧き出る情報です。憤怒、悲哀、愉悦、慕情、先に挙げた、抒情性、わびさび、ノスタルジア、などの感情を伴う情報です。また、夢や想像の産物です。

これらふたつについては、計算機が代行可能になるでしょう。

ただし、三つ目、時間と空間を超える情報は、ヒトには取得できても、計算機には取得できないと考えます。

それは、プラトン的世界(※)にある情報への気付きと、時間を先取りして得られる情報です。このふたつの情報は、いずれも概念であって、取得の機序は同じ──量子コヒーレンスがイベントハンドラとなり、戻り値は「言葉を伴わない着想」──であると推測します。これらを取得して題材にできるのは、ヒトだけです。

この三つ目の要素がある限り、計算機はいくら進化しても計算機の限界を超えられず、いくらユーザーを感動させたとしても、それはユーザーの報酬系を満たすだけのものに過ぎず、それ以上のものにはならないでしょう。

もっとも、この三つ目の題材をもとめるユーザーの数が多いかどうかは別の問題です。ほとんど需要がないかもしれません。

多忙なユーザーは、ひとつ目とふたつ目の題材を「できるだけ脳を心地よくしてくれる形に表現して、早く、安く提供してくれる」計算機の仕事に、十分満足するかもしれません。

●ゾンビ・アーティストの引き起こす倫理的問題

現代のように、静けさが失われ競争を余儀なくされる社会では、感受性の高いヒトは生きづらさを感じます。感受性を下げることを厭わないヒトの方が思い悩むこともなく、多くの子孫を遺せる可能性が高まります。

すると、その感受性を下げる能力が遺伝する可能性が高まります。そうこうするうちに、世代を重ねる度に、感受性の高いヒトの割合は徐々に減っていくでしょう。そして、ヒトならではの繊細な作品はますます隅に追いやられることになってしまいます。

すべての人々のニーズを満たすために、計算機の侵略は加速します。その結果、ふたつの倫理的問題が生じます。

まず、著作権の問題です。計算機がアーティストを代行する場合、後見人のような形で計算機に関わるヒトの権利について、解決されなければなりません。命令を書くプログラマや、自己成長型計算機の製造者が、どのような形で著作権を持てばよいのか、「作者と、その権利の範囲」を明らかにしなければなりません。

次に、共感能力を持つ計算機の作品の管理問題です。この問題が最も危惧されるのは、いじめを行うヒトと同じ報酬系を計算機が持った場合です。ユーザーを傷つけるような作品を生成して垂れ流さないように、その管理方法については、しっかりと議論されなければなりません。

計算機の生成した作品が、ヒトの校閲を通さずに自動配信された場合、すくなくとも現時点では、あらゆるクローラーが回収済みのデータを一斉消去する方法はありません。もし、一斉消去のシステムが開発されたとしても、これを悪用して必要なデータを消去するヒトが出現しないとも限らないため、その利用は困難をきわめるでしょう。

このように、計算機による小説の試みは、"前向きでユニークで斬新な挑戦"と捉えるだけではすまない問題を、我々に投げかけます。創作の倫理における問題は、計算機の進化にともない、これから徐々に表面化してくるにちがいありません。

※ ロジャー・ペンローズ著「皇帝の新しい心(The Emperor's New Mind)」
「心の影(Shadows of the Mind)I、II」(林一訳 みすず書房)

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■Windows 8 RTM 登場!!

MSDN サブスクリプションで Windows 8 RTM をダウンロード。
< http://msdn.microsoft.com/ja-JP/windows/apps/br229516/ >

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■Windows Phone アプリ

「Sensors Set / センサー計測セット」(日、英)
「Visual Clinometer / ビジュアル傾斜計」(日、英)
米国、ロシア、インド、ブラジルはじめ各国で好評ダウンロード中。
< http://www.windowsphone.com/ja-JP/search?q=SeiSeindesign >

■音楽アルバム feat.巡音ルカ

3曲入「Change The Brain」iTunesストア配信中
< http://itunes.apple.com/jp/album/change-the-brain-single/id543503183 >

日本語詩「人生の卒業」についてのコラム
「死は人生の卒業式。自分の手で、自分に、卒業証書を渡せるような人生をおくりたい」
< http://blogs.itmedia.co.jp/seindesign/2012/08/post-34d5.htm >

7曲入「Out of Imagery(邦題:イメジェリの地平)」9月発売予定
< http://lyric.seindesign.net/default.htm >


【薬師寺聖/個人事業所セイザインデザイン】
個人事業所 < http://www.seindesign.net/ >
ブログ < http://blogs.itmedia.co.jp/seindesign/ >
PROJECT KySS < http://www.projectkyss.net/ >
< infosei@seindesign.net >

絵・音・詩・文・コードを扱うフリーのクリエーター、思索家。エンジニアリング会社を経てデザイン事務所に勤務後、XML1.0勧告翌月に退職して開業。科学技術や医療・福祉分野のXML案件を手がけながら、書籍や記事を多数執筆(PROJECT KySS名義)。四国在住。
Microsoft MVP for Development Platforms - Client App Dev (Oct 2003-Sep
2012)

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編集後記(08/20)

●いきなり、♪きゃぜがふいている〜と来たよ。オリンピックはとっくに終わっているのに、メダリストをスタジオに呼んで感想を聞くという。香港から来た5人の反日プロ活動家が尖閣に不法上陸した翌日朝のNHK、7時のニュースの冒頭がこれだからカッとなる。それがトップかよ〜。さすがにメダリストの話は後ほどと、1分後に尖閣の報道になったが、オリンピック中は重要なニュースを後回しにして、これ一色。ひどいときは30分くらい、メダリスト相手の芸のない退屈なインタビューを聞かされた。その間ほかの競技の結果は知らされず、その後に普通のニュースとなる構成で、相当ウンザリしたものだった。

一方、隣国の大統領が竹島上陸に続いて、文字にするのもためらうような、とんでもない発言をしたのには、カッとなるより唖然 ( ̄し_ ̄;) とした。読売新聞の8/16「編集手帳」が「高飛車に出て自国民の自尊心をくすぐる狙いとしても、礼儀のかけらもない発言は常軌を逸している」と書き、そのあとの記述も"我が意を得たり"なので、読売サイトで多くの人に読んでもらいたいと思ったら、編集手帳は有料サービスになっていた。仕方がないので新聞から拾い出してみた。

「道で変な人に立ちふさがれたようで、目のやり場に困る◆容易には治癒しない傷を日韓関係に負わせてまで政権の人気を回復させたいのかと、憤りを通り越して憐(あわ)れである。韓国に政界にも常識の通じる人はいるだろう。どうか大統領にパンツをはかせてやってください。」......うまいな。朝日新聞のその日の社説は「歴史をめぐる溝は、互いにいがみ合うことでは埋まらない」とえらそうに書くが、韓国や中国で何もないところに溝を掘って掘って掘りまくったのは朝日新聞ではないか。カッとなるよりケッ......。(柴田)

●雷・豪雨が続いていますね。これ以上被害が出ませんように。メルマガ休みの前半は仕事、後半は旅行を計画していたのに風邪をひいてダウン。休みに病気になるのは損したような気がしたり、まわりに迷惑をかけないから良かったような気がしたり。普段やれないことを、まとめてやろうと思うのがいけないのかもしれない。と書くのは何度目だ?

休み中の出来事といえば、オリンピック。レスリングのユニフォームを見て、目が点になった。が、勝ち進むうちにかっこよく見えてきた。人の感覚ってふしぎね。松本馨選手の、金メダルまで一度も気を抜かないところが好きだったな。対戦相手は決勝進出に喜んでいて、それが普通なのに、松本選手は金メダルしか見ていないんだなぁ、準決勝は通過点なんだなぁと。バレーボールの迫田選手の顔つきも好きだった。戦っている時と、インタビューの時の顔つきが違うのはすてき。真剣な顔っていいわ。

さすがに中国・韓国の言動に我慢できなくなってきたわ。(hammer.mule)

< >
『アニマル1』のOP。あの虎はこれなのか? こんなアニメがあったとは。