[3315] 納涼祭:爺さんに怒鳴られるという久々の体験

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《あたりまえに存在することの素晴らしさ》

■わが逃走[110]
 美しい駅の巻
 齋藤 浩

■電網悠語:HTML5時代直前Web再考編[195]
 納涼祭:爺さんに怒鳴られるという久々の体験
 三井英樹




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■わが逃走[110]
美しい駅の巻

齋藤 浩
< https://bn.dgcr.com/archives/20120823140200.html
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富山地方鉄道は、営業路線の総延長が約100キロにも及ぶ北陸最大の私鉄だ。車窓からの景色は日本の原風景そのもので、初めて乗った人も、故郷へ帰ってきたかのような不思議な感覚を覚えるという。かくいう私もそのひとりである。

その富山地鉄に、寺田という駅がある。電鉄富山駅から宇奈月温泉へと向かう本線と立山方面へ延びる立山線との分岐駅だ。昭和6年営業開始、駅自体も昭和6年築。

さてこの駅、意図的なのか、たまたまなのかは不明だが、分岐点であることをデザインに取り入れているところが興味深い。

つまり、ここを境に富山からきた列車が宇奈月方面と立山方面に向かって二手に分かれて広がってゆく訳なのだが、ホームもそれぞれの線路に沿って広がる形状をしている。即ち、各方面へのびる線路と線路との間にあるホームが扇型なのだ。

< https://bn.dgcr.com/archives/2012/08/23/images/01 >

宇奈月方面行きホーム下から中央の扇形ホームを見る。その奥が立山方面行きホーム。番線表示は左から2、1、3、4と変則的。画面左の階段にかかる屋根は現存せず。修復が望まれる。2009年撮影

寺田駅の"タダモノでない感じ"に気づいたのは、たしか10年くらい前だったと思う。富山から宇奈月へ移動する際、車窓から見た扇形ホームと待合室の佇まいに衝撃を受けた。

そのときは通過しただけだったのだが、その後何度か乗り換えの際ホームに降り立ったのだ。降りてみて確信した。ここはスゴイ。

外壁をスクラッチタイルとしたモダンなデザインの待合室。思い切り昭和的渋みに満ちた駅舎本屋。そしてホームの構造美。それぞれの個性が響き合い調和するといった建築的な面白さはもちろん、立山連峰を借景とした、景色そのものとしての美しさも兼ね備えている。

< https://bn.dgcr.com/archives/2012/08/23/images/02 >

扇形ホーム中央にかまえる大屋根の待合室。こんな構造、なかなかない。
2012年撮影

< https://bn.dgcr.com/archives/2012/08/23/images/03 >

待合室内部。傾斜したガラスのショーケースに風情を感じる。
2009年撮影

< https://bn.dgcr.com/archives/2012/08/23/images/04 >

待合室柱のディテール。タイル一枚一枚に歴史が染みているかのようだ。
2012年撮影

< https://bn.dgcr.com/archives/2012/08/23/images/05 >

掲出期限の切れた行灯広告が反転されていた。こういったものこそ由美かおる
のホーロー看板以上の価値があると思うのだが。
2009年撮影

< https://bn.dgcr.com/archives/2012/08/23/images/06 >

大和の旧ロゴ手描き広告付きベンチ。富山の歴史そのもの。
2012年撮影

< https://bn.dgcr.com/archives/2012/08/23/images/07 >

4番線から扇形ホーム、その奥に2番ホームを臨む。
2012年撮影

< https://bn.dgcr.com/archives/2012/08/23/images/08 >

立山連峰を背にして扇形ホーム1番線に入線する電鉄富山行き普通列車。
2012年撮影

< https://bn.dgcr.com/archives/2012/08/23/images/09 >

失われた2番ホーム階段まわりの屋根と壁面。同じ工法、同じ素材での修復を切に願う。ケロリンの看板が効いていた。2009年撮影

< https://bn.dgcr.com/archives/2012/08/23/images/10 >

駅舎本屋全景。感動的に昭和。画面右手にあった木造瓦屋根のタクシー乗り場が更地になってしまったのは残念。駅名表記は右から『驛田寺』。2012年撮影

< https://bn.dgcr.com/archives/2012/08/23/images/11 >

駅舎本屋内部。地元の人達が便利になるICカードの導入は歓迎すべき。ただ壁面の手書き運賃表が失われたのは寂しいかぎり。2012年撮影

< https://bn.dgcr.com/archives/2012/08/23/images/12 >

立山方面行き4番ホームから、富山方面行き1番ホームへ入線する列車を見る。
2012年撮影


駅は交通の要所というだけでなく、生活を見守るシンボルであり、そこに住む人にとっては、ふるさとの風景そのものでもある。

建設・土木の新陳代謝の激しい日本において、現在ほぼオリジナルの状態を保ちつつ使われ続けている駅は、ますます貴重になってきている。

おじいちゃんと孫が同じ風景を共有できることのすばらしさを、大勢の方に意識していただきたいと思う。

あたりまえに存在することの素晴らしさ。なくなってから気づいたのではもう手遅れなのだ。寺田駅は地元の人にこそ気づいてほしい、貴重な文化財なのである。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/
>

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。

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■電網悠語:HTML5時代直前Web再考編[195]
納涼祭:爺さんに怒鳴られるという久々の体験

三井英樹
< https://bn.dgcr.com/archives/20120823140100.html
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不思議に秋が巡ってくる。ずーっと異常気象の暑すぎる夏が続くのかと思っていたけれど、やはり8月の終わりには風が涼む。そして夏の終わりということで、我家の隣の公園で恒例の納涼祭(盆踊り大会)が開催された。今年は妻が自治会の役職に就いたので、その準備を手伝う。

  「ばかやろー、そうじゃねぇー、こうだよ!、貸してみろッ、おらッ!」
  近所の爺さん@2012夏

150坪ほどの公園に(多分)50代を中心に約30人。盆踊り用のヤグラを組み、提灯をぶら下げる。そこで上述の怒号が響く。声の主は80代の爺さん(敬意を込めてこう呼びます)。叱られているのは、主に50代の「お父さん」達。

昭和30年代から連綿と続く地域行事。とは言っても、本番の参加者は200名程だったか。その準備に、なれない手つきの「お父さん」ボランティアが30名も手を挙げた(当然ほぼ同数の奥さん方も参加)。

爺さん達曰く、「例年になく盛り上がった」。でも準備への参加者の思うところは、宗教的なものでもなければ、地域文化の浸透でもない、実は「震災」だ。



3.11以降、「ゆれくる」あるいは「防災速報」が通知してくる度に、何かしらの無言のプレッシャーが地域を襲っている。幸いにも3.11では、我が町の被害は、多少の物が落ちた程度だったと思う。けが人もなく、計画停電すら実施されない場所だった(何かの施設があるとかが理由らしい)。
  ゆれくる:< http://goo.gl/YpMuK
>
  防災速報:< http://goo.gl/pY1pT
>

しかし何かあった時に、自分達だけでは生き延びられないことは、皆が自覚した。だから、地域の人たちと繋がっておこうという雰囲気は強くなっている。個人情報保護法ウンチャラのおかげで、ご近所さんの連絡網すら作り難くなっているのだけれど、助けて欲しいし、助けたいという気持ちも消えていない。

だからこの納涼祭も、形としては「盆踊り」が中心に据えられているけれど、一緒にヤグラを組んだり片付けたりする、共に汗する「接点」自体が実際のメインテーマになっていると言って良い。つまり、盆踊り本番よりも、一緒に準備すること自体に意味がある。

ヤグラを一緒に組んだところで、突然親友になれる訳ではない。実際、私は数人の名前しか憶えられなかった。それでも、翌日から、道ですれ違う瞬間に流れる何かは変わった。あ、あれを組立てた人だ。お、柱を支えていた人だ。へー、この辺りに住んでいるのか...。この積み重ねが、緊急時に効いてくると、体の奥底で皆も感じている。

更に一体感を生んでいた意識があるようにも感じた。それは、今回のような行事を仕切っている爺さん達が非常時にどうなるか、という意識。誰も表立っては口にはしない、でも非常時の生存率は高齢になるほど厳しくなるのは無視できない事実だ。

自分たちの家族を守るだけでも大変なのに、他人のことまで考えられるのか。そんな疑問も当然抱えている。でも、それはその場で考えれば良い。「あの爺さん、大丈夫か」と気付くための仕掛けを準備しておくことは、悪いことではない。

もちろん、助ける側に立つとも限らない訳で、超人的な勘のはたらく爺さんに助けられる可能性だってある。爺さんを憶えておく仕掛けは、自分を憶えておいてもらう仕掛けでもある。



しかし、しかし、形なしである。こんなにダメ出しを喰らうのも、怒鳴られるのも何10年ぶりだろう。ヤグラをはじめ、基本的に一年に一回しか組立てないモノばかり、爺さん達の指示は不可欠。怒鳴られながら、金槌を振り上げる爺さんを見つめて、苦笑する。いや、爺さんにではなく、怒鳴られてる自分が何だか可笑しい。50の丁稚小僧だ。

基本的に反論はしない。かといって、爺さんたちの設計が全て正しい訳ではない。もっと巧く作っておけよとか諸々想う。でも、反論しない。返事はすべて「はい」。その一つの理由は、私よりも上の世代(60代)が最敬礼して指示に従っているから。

封建主義というか、体育会系というか、そういった匂いが漂ってくる。でも、上の世代は、80代の爺さんの代に直接小さな時から見守られて来たのである。頭が上がるはずもない。父親の友人たち。様々なことが伝えられて来た道を垣間みたような気さえする。ここは見習っておこう、と決める。



横浜市は、数年前に撤回したが「ゆとり教育」にかぶれていた。我が子をそこに入れられて感じたのは、子供に媚びるは百害あって一理無し、だった。何がゆとりだ、大人が考える子供のゆとりって何だよ、と本気で腹が立った。子供なんだから、必死で学べよ、人生は短いんだぞ、と。

そうした「ゆとり」とは真逆の教育方針がこの伝統的な爺さん怒号方式にはある。古くさいやり方なんだろう。でも味がある。「なってねーな、貸せ!」と金槌を取り上げても、基礎体力では爺さんは爺さんである。数本釘打ちをすれば息は切れる、「あとはやっとけ」と負け惜しみのような台詞が、暫くすれば、ほぼ確実に返ってくる。

爺さん達だって、来年も仕切れる保証がないのを自覚している。一人二人と確実に上の世代は減っている。早く引き継いでおきたいという気持ちも強いのだ。それでも、未だ若いもんには負けられん的な意地がある。意地と世代交代の波、色んな窮屈な踏ん張りの中で多くの事柄が伝えられて行く。

そういえば、長年盆踊りは見ていたけれど、今年ほど浴衣姿の婆さんたちの踊る姿、手つきがきれいだなぁと思ったのは初めてだった。曲は「アンパンマン音頭」、「演歌・血液ガッタガタ」と「炭坑節」の三曲しかないんだけど(それはそれでどーなの?)、踊る仕草が何だかサマになってて美しい。日本文化も良いなぁと。

ただただ同じ「型」で円を描く。回りで見ているだけの人もいれば、踊りを練習してから輪に入る人も、ずーっと踊り続ける人も。そうしながら、皆それぞれが暑い夏を想い、実りの秋を想う。少子化の波は実は如実に現れていて、元気に走り回る子供達の影もまばらだ。それが一層秋風を感じさせる。



もうすぐ防災の日。今年は訓練をすることになっている。被災後を想定して、無事であれば玄関先にリボンを掲げる。リボンが出ていなければ、大丈夫かと声をかける。これを町中で行う。独り住まいの爺さんも婆さんも、アパート暮らしの若夫婦もシングルも。ただリボンを出すだけでも、かなり大変だ。

欧米のプライバシー重視の生活に慣れてしまった我々が、伝統と安全とをどう継承して行くかを探る。でも、何もしないでいきなり本番は迎えたくない。できることをやろう。また元気な怒号が響くことをちょっと期待しつつ。

【みつい・ひでき】@mit | mit_dgcr(a)yahoo.co.jp
 < http://www.mitmix.net
>
・正確には49ですが...。

・雪豹から山獅子(Mountain Lion)へ。結果、我が愛機MacBook Proは集中し難いマシンになったいうのが正直な感想。通知とかは別デバイスでやるから、メインマシンは作業に集中できれば良いんじゃないのか、とも思う。多分、家マシンだから、そう思うのだろうけれど。

あと、Chromeが重くなった、JSゴリゴリのサイトだと顕著にそう感じる。全体的に、Swapが最適化されていないという印象。まだ様子見ですが。でも諸々試せる幅が増えたので、価格満足度高し。その上に載るMac Appの方がOSより高いってのはどーよ、とか想う日々w。

・一か月、Youtubeラジヲ体操達成! ほぼ7時前に実施。続いたのは生まれて初めて。6:30でないと駄目、ってのは無理だった。

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編集後記(08/23)

●暑い夏の夜はおバカな映画DVDの鑑賞に限る。まずは「バイオモンスター蜥蜴男」である。政府の秘密プロジェクト(?)で働くジーノ博士(というよりただのラテンのおじさん)は、極秘に爬虫類と人間の遺伝子を組み合わせ、トカゲの頭と尻尾をもったモンスターを産み出し息子として育てている。知性を持つようになった蜥蜴男は徐々に闘争本能を発揮し、人間を襲うようになる。

といったような凡庸なストーリーで、ちょっと怪奇なマスクと尻尾をつけた男(なんというチープな造形!)が、そこそこ暴れ回る。いちおう、醜いバケモノと自覚する蜥蜴男の悩みなども表される。30年くらい前の映画を見ている感覚だが、2011年のアメリカ制作だ。こんなもの本気で作ったのかと疑う、学園祭レベルのヘボい出来で、いったい誰が見るんだ、ってわたしのようなBC級マニアしかいないでしょう。

もう一本は痛快エンターテインメントホラー「ゾンビランド」だ。人食いゾンビに席巻された世界で、ひきこもり大学生コロンバスは「ゾンビの世界で生き残るための32のルール」を作り、それを慎重に実践することで生き延びてきた。そんな彼が、マッチョでタフなガンマン、クセモノの美人姉妹らと合流し、ゾンビがいないと噂のロス郊外の遊園地パシフィック・プレイランドへ向かう、というロードムービー。

だが、遊園地は既にゾンビで埋め尽くされていて、4人は襲い来る連中を撃って撃って撃ちまくる。ゾンビが退治されるのを見るのはとっても快感。これは2009年アメリカ映画、ゾンビ映画史上最大のヒット作であると後に知った。キャストも豪華、らしい。ゾンビ世界を生き抜くための数々の術も実用的(!?)である。それにしても、ゾンビ世界で電気などのインフラが生きているというのがご都合主義。この映画はこども以外の誰にでもおすすめだ。グロいシーンもあるけど。

TSUTAYAのシニア向けサービスで、旧作一日一本無料の時期があり、その最後の二日に借りたのがよりによってこの二本。カウンターに持って行き、シニアですと申告する。にこやかに受け取る女性スタッフの、「素敵なご趣味ですね」という反応は、なかった。(柴田)

装飾山イバラ道[62]「ゾンビランド」を見る/武田瑛夢
< https://bn.dgcr.com/archives/20100907140200.html
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●教えてもらったのは『Smart Doctor』というお店。仕事に使うのでとうとう有料会員になったよ、の『チャットワーク』の方から、うちの代表に以前紹介があって、でその代表から私に、であった。検索すると心斎橋店が一番近かったので、そこに向かう。途中、Apple Store心斎橋を通り過ぎる。ダメになったらiPhone 3GSを復活させて、時期が来たらiPhone 5にするんだい。

6帖ぐらい(もっと狭かったかも)のスペースに、人が7人、店員2人という超過密状態。同じく前面ガラス割れの人たちが修理に来ていた。というより、皆それじゃないかな。壁一面にさまざまな種類のiPhoneケースがぶら下がっている。スワロフスキーを使ったもののみガラス張りの陳列ケースに入っていた。二階にはカフェスペースがあったようなのだが、行っていない。

5分ぐらい待って、とても可愛い店員さんに接客してもらった。問診票のようなチェックリスト兼申込書に、症状を聞きながら記入してくれる。手慣れたもの。検査のためにロック画面のパスワードを記入するか、解除してくれと言われて解除する。修理前の状態を一緒に確認。音は出ます、反応します、などなど。注意書きのチェックリストを読みながらチェックし、個人情報を記入した。その間、10分程度だと思う。修理自体は、順番待ちもあって45分ほどかかると言われたので、行ってみたかった近くの店に行く。(hammer.mule)

< http://www.iphone-doctor.net/
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ドメインがiPhone Doctorなので、iPhone Doctorの姉妹店だと思っていたよ
< http://www.chatwork.com/ja/
>
チャットワークスで覚えていた。チャットワークだった。大好き