ところのほんとのところ[83]ふたつの屋上から見る夏の雲
── 所幸則 Tokoro Yukinori ──

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[ところ]はこの数か月間、渋谷と香川の高松を行ったり来たりして落ち着かない。引越しを二か所に分散したから仕方がないが、ようするに前回書いたときから状況はあまり変わっていない。渋谷の代官山寄りにあったアトリエから渋谷の原宿寄りへと引っ越し、そして高松にも拠点を作るべく引越し。

高松への引っ越しは、両親が随分歳をとってきたのでそばに住もう、というのが大きな理由である。一人息子なのに高校卒業して以来、近くで住んだことがまったくなかった。他にもいろんな理由が複雑に絡み合っているのだが、ここでは書いても仕方ない。

高松に通うようになって、すごく実感したことがある。子供の頃よりずいぶん気温が上がったように思う。こんなに暑い街だったか? 子供の頃はエアコンがなくても過ごせるような気候だったと記憶している。もちろん学校にエアコンなんかついてなかった。下敷きであおいで涼むぐらいだった。

冬もそれほど寒くなくて、コートなんかもほとんど着た記憶がない。瀬戸内海式と呼ばれる、とても過ごしやすい気候だった。今は冬の寒さもきびしくなっている。そんな気がする。[ところ]の歳のせいか。

東京・高松間をあまりに行ったり来たりなので、[ところ]は新幹線ではなく夜の高速バスを主に使っている。夜間の移動中は眠っていて、朝目が覚めたら東京というのは効率がよく、慣れると意外といいものだ。




最近の3列スーパーシートプレミアムだと、飛行機のビジネスクラス並みに寝やすいし、新幹線の6割の値段ですむという利点もある。[ところ]の使うシートは時々予約が取れないのが難点ではあるが。もちろん安さを追求したら新幹線の3割〜4割のバスもあるけれど、普通のバスだからまず眠れない。

渋谷の新しいアトリエは10階建ての最上階にあって、ドアを開けて外に出た瞬間とても空が近くて、たまたま立地的にそこからは視界を遮るビルがなく、新宿のビル群がとてもよく見える。高松では3階建ての3階にいるけれど、とても広い屋上には何もないのがいい。代表的な大きな庭園に面している側は街の光もなく、晴れた日は窓からの月光の明るさに驚かされる。

今まで[ところ]は渋谷という名前から想像できるように、谷のような所に住んでいたせいか、夜間の自然の明かりに無関心だったのかもしれない。ああ、そういえば外に出ない日は昼の光にも無頓着だった。二つの新しい環境に住むことは、いろんなことを考えるいい機会なのかもしれない。ただし、今の状況をステップにしてより高みを目指すことができるかどうかはまだわからないけれども。

そんな風に思いながら、夏の雲が終わろうとしているのを、高松の実家の屋上からも、渋谷のアトリエの屋上からも見ていた。

先日、久しぶりに[ところ]はクレーの太田さんとずいぶん話をした。そのあと、ずいぶん昔からの知り合いのヨウくんと会った。彼と[ところ]はどういう接点があったのだかよくわからないけれど、ときどき会って話をしている。そして夜は塾生の金杉くんと、深夜の渋谷の中心あたりの一階のオープンカフェで延々と写真の話。話はいつになっても終わらない。

夜が更けていくと、渋谷といえども随分街の明るさは弱まっていくが、そこにいる人々はどんどんパワフルになっていくように感じる。終電の時間に近づくと、駅に急ぐ女性たちのきれいな脚が目立つようになってくる。夏の夜の街は艶かしいものだ。酔いつぶれて倒れている20代前半に見える男の子もいたり、その横で抱きあう男女もいたり、人間観察してるだけでもおもしろい。ただ危ない奴も寄ってくるので、そこがちょっと怖いけど、いかにも渋谷らしい。

その二日後は広島に来ている。さらにその二日後の今は高松にいる。体もかなり疲れている。そろそろゆっくり休みたい。あと少しで引越しにともなう雑事からは解放されると思うが、落ち着くのは秋の終わりごろになるのだろう。

【ところ・ゆきのり】写真家
CHIAROSCUARO所幸則 < http://tokoroyukinori.seesaa.net/
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所幸則公式サイト  < http://tokoroyukinori.com/
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