ネタを訪ねて三万歩[92]本当にやりたいことを求めて
── 海津ヨシノリ ──

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私は、少し運動しても息切れすることもなく、甘い物も気にせずに好きなだけ食べられるし、お酒の制限もありません。もちろん、毎日飲んでいるわけではありませんが、とにかく今のところ飲食に気を遣う生活とは皆無なことだけは確かです。

ただし、仕事中はほとんど体を動かさない生活なので、可能な限りストレッチなどを心掛けていました。ところが、今年の夏以降は色々予定外の案件が幾つも発生してしまい、数年ぶりに睡眠不足かつ運動不足の日々が続いていました。

そのためか、とうとう冷房病にかかってしまいました。要するに、冷気が当たると激痛が走る神経通のような症状です。4週間ほど薬漬けとなってしまいましたが、その甲斐あってだいぶ良くなってきました。

ちなみにその4週間、毎食後に葛根湯を飲み続けることになろうとは夢にも思いませんでした。体が温まるからなのだそうです。そのため、8月中盤以降とはいえ、炎天下の中、パーカーを羽織って腕の露出を控えるなど、私はいつにも増してかなり怪しい出で立ちでした。

とにかく、ビルの中や列車内の異常なまでの冷房には本当に閉口してしまいます。何かが狂っているのでしょう。電力消費を考えなくてはならないはずの時にこれですからね。いつもと違うことが発生すると、見慣れた世界の問題点がかなり浮き出てくるのが本当に不思議です。

いつもと違うと言えば、今期は多摩美術大学造形表現学部デザイン学科の「デザイン概論」という講義を一日だけ担当しました。本来は専任の先生が数人でオムニバス形式で担当する授業なのですが、急遽退任された先生の代わりに一部の非常勤講師が関わることになったためです。

ある意味「一期一会」の授業です。ただし、私にとっては大学で本当にやりたかった授業を展開できたので、ついアクセルを踏み込みました。その私の行った授業内容とは「パッケージデザインのルーツ(折り紙〜ペーパークラフト)」です。




日本人とパッケージデザインという観点から自然素材としての「木」「竹」「笹」、そして稲作の副産物である「藁」、最後に完全な加工品としての「和紙」についての簡単なレクチャーのあと、オリジナル折紙のワークショップという流れでした。

もちろん江戸文化大好きの私ですから、ドラマとは異なる本当の江戸文化とその優れた世界についての熱い暴走解説が行われたのは言うまでもありません。そして90分は「あっ」という間に終わってしまいました。当然ながら、私としては時間不足のかなり不満足な授業でした。

ところが、終了後に多くの学生が次回の内容は何かと質問してくれたのです。そのことは嬉しかったのですが、あくまでも代用講義で一度だけと説明することが少し辛かったですね。

それでは今やっている授業は、本当にやりたかったことではないわけです。しかし、世の中の人のほとんどは、本当にやりたいことをしているわけではないはずです。本当にやりたいことを自由気ままに続けていられる人はほんの一握りでしょう。

それは時に「理想と現実」という呪文で片付けられてしまうのかもしれません。でも、考えてみて下さい。本当にやりたいこととは「理想」であり、理想は永遠に「現実」に繋がらないのかもしれないと感じています。

それでは夢がないというのではなく、「理想」に近づくための現実こそが実はもっとも楽しい「現実」ではないかと感じています。つまり、「理想に近づくためのプロセス」です。

あきらめてしまった人には、この楽しさは永遠に理解出来ないでしょう。「理想に近づくためのプロセス」は本当に気持ちがいいのです。

例えば買い物をする前に、どのメーカーのどの製品にするかあれこれ考え悩んでいるときのことを思い出して下さい。実際に買ってしまった後よりも、考え悩んでいる時が一番楽しかったはずです。

それでは禅問答になってしまうと切り返されそうですが、「理想」が永遠に不変なモノであれば、確かに禅問答が成り立ってしまいます。しかし、「理想」は少しずつ変化しているはずです。

例えば私が「テザイン概論」で行った講義が正式に開講されたとしたら、私は次の「理想」を無意識のうちに生み出しているはずです。そしてそれは誰もが普通に行っていることではないでしょうか。

また、その要因は自分自身の問題ではなく、意識は周りの人からの影響を受けているはずです。その周りの人の数が多ければ多いほど、様々な「理想に近づくためのプロセス」が発動するはずです。

それはまるで階段のステップのようなものかもしれません。ステップに足を乗せた瞬間に、次のステップが現れるといった感じを想像してみて下さい。そして、このステップは誰もが永遠に登り切ることが出来ない無限の高さかもしれません。

「理想」は夢であり、次の「理想」へのステップなのです。もちろん何処かのステップで登ることを止めてしまってもいいわけです。つまり、最初の「理想」だけで満足してしまうことです。でも、それじゃ人生はまったく面白くないですよね。

ちなみに、誤解をされては困るので自己弁護しますが、今やっている授業は確かに本当にやりたかったことではありませんが、とても楽しみながら行っています。もしかすると、知らず知らずに本当にやりたかったことになってしまっているのかもしれません。ということは、そろそろ次のステップに足を乗せる時なのかもしれませんね。

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■今月のお気に入りミュージックと映画

[Luna]by Fanfarlo in 2010(UK)

ファンファーロ、二枚目のアルバム『レザヴォア/Reservoir』に納められた曲。ファンファーロとは、イギリスを拠点とする男女混声5人のグループで、ギターやピアノ、チェロ、マンドリン、クラリネット、ヴァイオリン、ウクレレにメロディカなど、多彩な楽器を用いポップなサウンドに織りなしている異色のバンドかもしれない。とってもイイ感じです。

[You Only Live Twice]by Lewis Gilbert in 1967(UK)

邦題「007は二度死ぬ」は、ナンシー・シナトラが歌う同名曲がとてもミステリアスな007シリーズのテーマ曲で、私のお気に入りベスト3に入っています。作品は日本人が観ると笑ってしまうのは必至ですが、日本人ボンドガールの若林映子さん(撮影時26歳)と浜美枝さん(撮影時22歳)は現代にそのまま現れても今風の美人で通りますね。

ところで、二人の役は当初の設定では逆だったようですが、今となってはこの設定で良かったような気がします。ちなみに同時期のウルトラQ「蜘蛛男爵」にも若林映子さんは出ていますね。

とにかく1965年当時(映画公開は撮影の2年後)の日本の町並みがとても新鮮。また伝説となったトヨタ2000GTの美しさと新兵器(?)のリトル・ネリー(小型ヘリコプター)が話題になっていました。

ところで私は、ジェームズ・ボンドの上司Mの秘書マネーペニー役(初代で、「ドクター・ノオ」から「美しき獲物たち」までの作品に出演)のロイス・マクスウェル(2007年没)と、Q(ブロースロイド陸軍少佐)役(「ロシアより愛をこめて」から「ワールド・イズ・ノット・イナフ」までの作品に出演)のデスモンド・リュウェリン(1999年没)の大ファンでした。ご冥福をお祈りします。

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■10月のアップルストア銀座でのセッション
まだ確定していません。Blogなどで確認をしてください。

【海津ヨシノリ】グラフィックデザイナー/イラストレーター/写真家/怪しいお菓子研究家

yoshinori@kaizu.com
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大学の講義用に必要なMacBookProとその関連機材(電源や各種ケーブル類)を持ち運ぶのに、キャリーバッグを使用するようになって4年目に入りました。以前は大きなバッグに入れて持ち歩いていたのですが、万が一のアクシデントに見舞われたときの故障が怖くなったのが変更の理由です。

ところが、このキャリーバッグを使うことで駅などで困ったことが多発しています。まずエスカレーターの問題。私は基本的に階段を利用するようにしているのですが、さすがにキャリーは色々入っていて重たいのでエスカレーターを利用します。

ところが、最近は誰がどんな馬鹿げた理由で始めたのかわかりませんが、東京では右端にエスカレーターを走り上がる人がなだれ込み、左端は動かずにエスカレーター任せの従来通りの使い方の人というルールが確立されてしまい、危なっかしくってイライラします。本来は荷物を持っている人や、高齢者あるいは妊婦の方などが利用することが目的であったはずなのにね。