[3339] 老人vs.若者という爽やかなまでに単純な二項対立

投稿:  著者:  読了時間:28分(本文:約13,900文字)


《プッ......武装してやがる......》

■私症説[41]
 老人vs.若者という爽やかなまでに単純な二項対立
 永吉克之

■ショート・ストーリーのKUNI[125]
 夏の願い
 ヤマシタクニコ

■歌う田舎者[37]
 わたし、脱ぐ前がすごいんです
 もみのこゆきと




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■私症説[41]
老人vs.若者という爽やかなまでに単純な二項対立

永吉克之
< http://bn.dgcr.com/archives/20120927140300.html >
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あと20数年といったところでしょうか。致命的な病気を患うか、人身事故に遭うか、殺人事件の犠牲者になるか、未曾有の天災に見舞われるか、自殺をするか、即身仏になるか、領土をめぐる軍事衝突で戦死でもしない限り(ってけっこう選択肢があるものですね)私は生き続けなければなりません。

もし天の気まぐれで長生きさせられてしまった場合、まあ30年は生き続けるでしょう。するとどうでしょうか、若人の皆さん。時給わずか850円、昼食はカップ麺でしのぎ、風雨の中を遠方から自転車で通勤して出費をおさえ、パラハラセクハラに苛まれながらも生活のために耐えている皆さんから国が略取した税金で私を養わなければならないのです。

しかも、まあ聞いてください。その養われる本人、不肖永吉は日本の国益に資するようなことを何もしてこなかったどころか寄生してきたのです。私は国民年金保険料の支払いが全額免除の対象になるほど年収が少なく、住民税が免除になることも過去に何度もありました。

ただ、昨年はたまたまボロ儲けしたために、今年は住民税を4,000円もふんだくられました。だから胸を張って公共のものを4,000円分使うことができるんですよ。4,000円を365日で割ると、1日あたり約11円。だから私は毎日11円分、公園のベンチに腰かけたり、横断歩道を歩いたり、公衆トイレを使ったり、投票したり、市民スポーツ大会に参加したりすることができるんです。外出しない日は、それをプールしていおいて翌日22円分使うこともできるんです。

しかし、そうやって胸を張っていられるのも今年だけでしょう。今の私の経済状態から推測すると、来年はまた住民税が免除になりそうなんです。道端に2億円落ちていたとか、頭のおかしな金持ちが突然4,300万円くれたとか、コンビニで釣り銭を間違えた店員から960万円渡されたとか、うっかり空き巣に入って気がついたら75万円相当の貴金属を盗んでいたとか、キセルに成功して60円得したとかいったことでもない限り(ってけっこう選択肢があるものですね)、来年も祖国を経済危機から救うことはできそうにありません。

                 ■

『マンガ若者奴隷時代』(晋遊舎・山野車輪著)< http://amzn.to/OODuYh >という漫画を読みました。簡単に言うと、老人というのは社会的弱者ではなく、若者を搾取するだけの権勢を持った強者だということを主張している作品なのですが、読まなくても、その表紙の物騒なイラストから高齢者に対する著者の憤りが十全に伝わります。

若者たちを拘束している鉄の首輪に取り付けられた鎖の端を握った老人が、「だ・か・ら若者は高齢者に一生貢いでいればいいんだよ!」と吠え、若者は「ジジババを殺らなきゃオレたちはこのままなのか!?」と訴えています。

私はこの作品を読んで恐慌をきたしました。まったく知らなかったのです。老人がこんなに悪辣な生き物だったとは。医療技術の発達で、かつてなら死ぬしかなかった病気が克服されたことが福音となるのは老人だけで、若者たちにとっては悪夢以外の何ものでもないのだと知りました。老人が長生きすればするほど若者はどんどん不幸になるらしいのです。

不治の病を患って死にたくても、尊厳死が認められない現状では自ら死ぬことができない老人、貧しくて身寄りもなく、老人ホームに入るどころか医者にもかかれない独居老人も実は強者だったのです。ああ知らなかった。

すると何ですか。私の亡き父母も若者を搾取して享楽を貪る吸血鬼だったと言うのですか? 涙もろくて子供が犠牲になった事故や事件のニュースを見るたびにテレビの前で泣いていた母も、どんなことがあっても約束は絶対に守る正義感の強かった父も吸血鬼だったというのでしょうか。

いやです。私はそんなことは信じたくありません。信じたくありませんが、ベストセラーになった『マンガ嫌韓流』の作者が言うことなのだから間違いはないのでしょう。きっとそうなんです。私の両親は鬼畜だったのです......うう。

                 ■

私はまだ56歳ですから老人というほどではありませんが、遠からず老人になります。だから今のうちに言わせてください。若者のみなさん、私は貧乏なんです! ちなみに英語の辞書をひくと bimbo とは「頭のからっぽな美人」という意味になるらしいのです。頭が貧乏な美人という解釈なのでしょう。いやぁ、うまいこと言うもんですね。

それはともかく、日本年金機構から送られてくる「ねんきん定期便」の「老齢年金の見込額」の項目を見ると、59万円(年額)になっています。つまり月に約5万円支給される《予定》になっているわけです。『マンガ若者奴隷時代』で描かれているような悠々自適な生活を送る老人になれるはずがないではありませんか。

月5万円でどなして喰っていけゆうんですか。要するにお前は死ぬ直前まで働けっちゅうこってすわ、正味の話が。そらけっこうです。働きますがな。点滴のスタンド転がして病院から通勤しますがな。いや、入院するゼニなんかあるはずがおまへん。それに棺桶に片足つっこんだ年寄り(とっしょり)を雇う聖人がどこにおりまんねん? 

ですから、若者のみなさん。私を憎むのはやめてください。憎むべき裕福な年寄りなら他にいくらでもいます。若者の生活水準が低下するに従って、老人への憎しみが募り、件のマンガに触発されて高齢者を襲撃する若者が現れるかもしれません。そしたら、愛国を口実にして工場に放火し、商店を略奪する暴徒も湧いてくるでしょうが、私だけは襲撃の対象から外してください。

私は若者のみなさんの味方です。私の家の入り口には「日本は若者の領土です」と書いた幕を下げておくことにします。みなさんが裕福な年寄りを狙っておられるのなら、そいつらの住んでる家をなんぼでもお教えしまんがな、へへ。

                 ■

多くの動物は、餌が穫れなくなったら死にます。仲間に養われることはありません。また生殖が終わると死ぬ種もあります。サケが産卵とともに生涯を終えるというのはよく知られたことです。餌も穫らない、子孫も残さない、動物界では穀潰しでしかない生き物が尊厳まで保障されて生きていられるのは人間界くらいのものでしょう。

齢を重ねるに従って、視野が広がり、知識も豊かになり、人格も完成に近づき、人生の先達と呼ばれるにふさわしい人間に《成長》し続けるのであれば、そして、さすがは90代だ、われわれ70代くらいの経験や知識ではとても歯が立たない、と言われるようになれるのなら長寿もいいかもしれませんね。

【ながよしのかつゆき/永吉流家元】thereisaship@yahoo.co.jp
ここでのテキストは、ブログにも、ほぼ同時掲載しています。
無名芸人< http://blog.goo.ne.jp/nagayoshi_katz >


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■ショート・ストーリーのKUNI[125]
夏の願い

ヤマシタクニコ
< http://bn.dgcr.com/archives/20120927140200.html >
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おれはひょっとして嫌われているんじゃないだろうか。
いつからともなく夏はそう考えるようになった。たとえば夏がそろそろ退場して秋にバトンを渡すころ。

「ああ、夏も終わりか」
「終わってみるとさびしいもんだな」

人間たちが口々に言うのをはじめは聞き流していたが、よく考えるとそこにはしみじみとしたよろこび、あるいは安堵の思いが含まれているような気がする。おれはただがまんされる存在なのか。

夏のマイナス思考が始まる。
「おれはそんなに嫌われていたのか」「それならそうと言ってくれればいいのに」「いや、『夏が好きだ』というやつはけっこういるぞ」「でも、それって『ビールがうまいから』とか『泳げるから』とか、なんだか便宜的に考えられてるっぽい」云々。

その思いは2012年の金環日食でピークに達した。日本中、いや世界中の人々がその日、そのときを待ちわびて興奮していた。テレビでも新聞でもネットでもその話題で持ちきり。なんという愛されようだ、金環日食!

そうだ。おれも、たった一日しかなかったら、みんなに待ちわびられ、愛されるのかもしれない。おれは......愛されたい!

願いは強く願えばかなうもの、と言ったのはだれだったか。
そして、夏の願いがかなった。

「ニュースをお伝えします。明日はいよいよ夏です」
テレビのアナウンサーが言う。
「おお、そうか。明日は夏か」
「おとうちゃん、夏って何」

「なんや、ケンイチ。去年の夏のこと忘れたんかいな。まあええわ。明日は一年ぶりの夏やからな。去年は家にいたけど、今年は出かけよか」
「どこに?」
「決まってるがな。夏の本場、大阪のど真ん中や」

「それが夏の本場なん?」
「ああ。夏にもいろいろあるけど、日本の夏は蒸し暑いのが特徴や。蒸し暑さとか暑苦しさでは大阪が一番や。なにしろ2008年のオリンピック誘致が失敗したのも大阪が暑すぎるのが本当の理由と言われたくらいや。とにかく夏といえば大阪やねん」
「ふうん」

朝になった。
「あー、死ぬかと思た。なにしろ昨日まで春やったからごつい布団かけて窓も閉めて寝てたからな。あっつ〜〜」

窓を開けると朝から入道雲が出ている。セミがシャワシャワ、ミンミン、ジージーと鳴いている。めちゃくちゃやかましい。セミも夜中に大急ぎでぞろぞろと地中から出てきて羽化したのだ。向かいの家ではアサガオが必死で花を広げて、すでにしぼみかけている。ヒマワリもにょきにょき伸びている。

「セミ、取りたい」
「セミはどうでもええ。早よ出かけよ。早よ行かんとええ場所がなくなる」

息子を急かしてすでに真夏日の気温の中を駅に向かうと、駅は大勢の人であふれている。暑苦しい。車内はまさに蒸し風呂状態だ。夏が一日だけになってから必要ないので、冷房車もほとんどないのだ。

「おとうちゃん、暑い......」
「がまんせい、これが夏や。今日しかないんやから。この暑さをしっかり味おうとけ」

電車を乗り換え乗り換え、やっと難波到着。駅はものすごい人出。あちこちから「夏の本場・暑苦しさ日本一の大阪めぐりツァー」の客が集まるからだ。わいわいがやがや、ますます暑苦しい。ツァー客といっしょにぞろぞろと戎橋筋を北上する。通りには金魚すくいやかき氷の店がぎっしり並ぶ。

「おとうちゃん、暑い」
「夏は暑いもんや。あ、そこで冷やしあめ売ってるから買うたろ。おとうちゃんはビールや......ハーッ! うま〜〜〜〜!」
「冷やしあめ、おいしいなあ」
「そやろ。夏はええもんやろ、ケンイチ」
「うん」

「むかしはな。夏になったら毎日夏やったんや」
「意味わかれへん」
「わからんでもええねん。えーと、昼は何食べよ。やっぱりざるそばかなあ。いや......なになに。『暑いときは熱いものを!特製なべやきうどん』。これいこ!」

真夏日にアツアツのなべやきうどん。ほとんど死にかけて店を出る。
「おとうちゃん、暑い」
「がまんせい言うてるやろ!」
「しやけど暑い」
「おとうちゃんかて暑いわ!」

戎橋の上にはぎらぎら光る太陽のもと、大勢の人間が鈴なりで、何をするでもなく集まっている。
「おとうちゃん、みんな何してるん」
「見てわからんか。夏を楽しんでるんや」
「みんな顔しかめてふらふらであんまり楽しそうに見えへんけど」
「気のせいや!」

そのとき、ごくごくかすかな風が吹いた。ふわ〜〜っと群衆の間を抜けていく。
暑さの中ではそんなそよ風がすばらしく感じられる。

「おおおおおおっ!」「す、涼しい!」「これがいわゆる伝説の『極楽の余り風』かー!」
「おとうちゃん、涼しいな」
「そやろ。夏ってええもんやろ」
「うん」

しかし、午後になり、日差しはますますきびしくなる。川面を見つめて「い、いっそのこと、ここに飛び込みたい」という者を「やめとけ、ヘドロだらけや! カーネル・サンダースの人形かて見つかったときはぼろぼろになってたやろ!」といさめる者。日傘を差そうとすると「何やっとんねん!」「暑うてなんぼやろ、夏は!」「この太陽の恵みを受けんでどないすんねん!」と怒り出す者。

橋の上は険悪な雰囲気。それでも耐えられず「あ、あかん」「命にはかえられん......」ばたばたと脱落者が出てくる。エアコンの効いた店に避難する。さすがに夏を楽しむと言っても身の危険を無視するわけにはいかない。だいたい夏に対する耐性が弱くなってるのだ。ケンイチ父子も避難する。

「あー、涼しい。おとうちゃん、やっぱりぼく、このほうがええわ」
「あほか!夏の暑さがあるからこの涼しさが味わえるわけやないか!」
「そらそやな」

店のテレビでは各地の夏の様子を伝えている。

「えー、全国一斉に夏ですが、午後になり、これから夏の終わりに入りますのでご注意ください。すでに、うつぼ公園や大阪城公園ではセミがどんどん死に始め、道路はブンブンもがくセミだらけで足の踏み場もなく、観光客がパニックとなっております。また、夕方には蚊も出てきますが、刺されたときはこのように、爪で十文字を」と言ったところでぶちっとテレビが切れた。

それだけではなく、照明も消えた。エアコンも止まった。急にあちこちで冷房を使い出したので電力供給が間に合わず、街中が停電したのだ。
「あつ!」「死ぬ!」「助けてくれ!」
逃げ出す人々。そのとき、道頓堀川を遡上する何か。

「あー、クラゲだ!」「クラゲの大群が大阪湾から!」「は、橋の上まであふれそうだ!異常発生だ」「ぎゃー!」

たちまち一帯は大パニック。グリコやカニの看板からドンキのコースター、松竹座までクラゲまみれ、おそろしい光景が目の前に繰り広げられる。ケンイチ父子も大あわてで帰る。帰るといっても電車が止まっている。タクシーやバスを乗り継ぎ、へとへとになって夜遅くにやっと帰宅。

「あー、えらいことやったな。疲れた疲れた。もう今日は早よ寝るか」
「あ、忘れてた!」
「何を」
「夏休みの友、せなあかんかった」
「なつやすみのともぉ?! まじか! たった一日やのに、どんな学校や! ......早よ出せ! おとうちゃんが手伝うたるさかい」

「おとうちゃん」
「もー、なんやねん!」
「毎日夏やったらええと思う?」
「思うか!」

おれってやっぱり嫌われてるんだ。年に一日だけになっても金環日食みたいに喜んでもらえなかった夏が、さびしそうにつぶやいたそうだ。

【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
< http://midtan.net/ >
< http://yamashitakuniko.posterous.com/ >

朝、駅に向かって歩いていたら何やら左足に違和感。見たら、靴の底が先端だけ残してばっくりはがれ、内部構造むきだし。げー。びっくり。いつも安物を買ってる安物ベテランの私にしても初めての経験。

かかとがはがれた靴って歩けないんです(あたりまえか)。ずるずる引きずるしかない。幸いすぐそばにスーパーがあり、すでに開店していたので靴をひきずりながら入って瞬間接着剤を買い、くっつけた(ほっ)。でも、その日一日中、いつまたばっくりいくかと思ってそろそろとしか歩けなかった。以来、バッグに瞬間接着剤を常備しています(それよりもっとましな靴を買おうよ)。

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■歌う田舎者[37]
わたし、脱ぐ前がすごいんです

もみのこゆきと
< http://bn.dgcr.com/archives/20120927140100.html >
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腰が痛い。輿石が嫌い。いや、単に韻を踏んでみたかっただけだ。輿石なんてどーでもいい。とにかく腰が痛いのだ。こうしてパソコンに向かって座っているのも、30分が限界である。

「ばーさん」というには、わたしはまだ激烈に若い。『激烈に』というところは、H1タグに加えてSTRONGタグとかBタグあたりで思い切り強調されていると思っていただきたい。W3C的に間違っていようが、そんなことは知ったこっちゃねぇ。心意気だけ汲んでくれ。

激烈に若いので、これまで腰痛とは無縁坂だったのである。
♪母がまだ〜若い頃〜 僕の手をひいて〜。

しかし、さすがに「おねーさん」と自称するほど厚顔無恥でもない。その真ん中に位置するカーストについては、特に触れるつもりはない。何か文句でも?

腰が痛くなるような、淫乱な運動をした覚えもない。
♪フニフニフニフニ フニフ〜ニ〜
♪フニフニ〜 男と〜女の〜愛のもつれだ〜よ〜

愛がもつれるほど腰をフニフニ振って、「昨夜は寝かせてもらえなかったのよ、うふん」と、桃色の一夜があったことにしておいてもいいのだが、うそつきはドロボーの始まりという家訓にもとる行為をしては、ご先祖様に申し訳が立たない。

戯言はさておき、腰痛になったのは、わたし史上もっともヒールの高いミュールのせいである。そもそも高いヒールなど履く習慣はないのだが、セレクトショップ販売員の甘言に乗せられて、魔がさした。

「あっらー、宝塚の男役スターみたいー。かっこいいわぁ。お客さま、とっても素敵ですよぉ。鏡ごらんになってくださいな」

ヒール高は9cm。わたしの身長が163cmであるので、合計172cmである。172cmと言えば、天海祐希の身長であるからして、皆の者、今日からわたしのことは天海祐希と呼んでくれ給え。ふおっふおっふおっふおっふおっ!!

そういえばバブルの頃は、セレクトショップやブティックの販売員をハウスマヌカンと呼んでいたような気がするが、いまやすっかり死語となってしまった。刈り上げ頭から生えてくる毛を歌った「夜霧のハウスマヌカン」という曲が密かに流行ったものだ。"空前絶後プログレッシブ演歌"というキャッチコピーがついた名曲であった。

もとい、その天海祐希ミュールを履いてジュエリー撮影のバイトに行った日は、中腰で大量の写真撮影があったことに加え、度重なる階段の上り下りで、大変多忙な一日であったのだが、その翌日......。

朝はちょっと腰に違和感を覚えた程度で、なんてことはなかった。昼が近付くにつれて「あれ? なんか腰がヘンなんですけど」になり、午後は「ななな、なんですかこれは。座ってるだけでも痛ぇよ。息すんのまで苦しいぞ。ぐぬぬ」になってきたのである。

撮影したジュエリー写真をフォトショで加工して、『二人の物語が始まるエンゲージリング。どうか夢見させてください。いつか、きっとあなたから』なんつー柄にもないコピーを粗製乱造しつつ、近所の整形外科をググったりしていたのだが、バイト先の偉いヒトに早退を言いだすきっかけがつかめず、18時の終業を待って近くの整骨院に駆け込んだ。正確には、よろめき込んだという感じである。

「こんにち......だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃありませんっ、死にそうです! ぜーはーぜーはー」
「どこが痛いんですか」
「腰です。かくかくしかじかで、息もできませんっ」

椅子やら机やらを掴みながら施術台に辿りつき、20分ほどマッサージを受けた。
よくよく見ると整骨師は若いお兄ちゃんである。

「はい、終了です。少しは楽になりましたか? 大変でしたねぇ」
「いや、もう高いヒールくらいでこんな目に遭うとは思いませなんだわ」
腰をさすりつつ、施術台からのっそり体を起こした。

「じゃあ、念のため、痛み止めの湿布も貼っときましょうか」
「え、いいんですか? よっ、よろしくお願いしますっ」
「じゃ、すいませんけど、もう一度腹這いになってくださいね」
「はいっ」

痛みをこらえて再び腹這いになってから気付いた......し、しまった! ちょ、ちょっと待て、今日はやめときます......と言おうとしたのだが、時すでに遅し。整骨師の兄ちゃんはわたしの着ていたチュニックをぺらりとめくった後だった。

「.........」
その場に漂う一瞬の沈黙。きっと兄ちゃんはこう思ったであろう。
プッ......武装してやがる......。

先月のデジクリにも書いたが、微増に微増を重ねた我が体重は、史上最高値を更新中である。ユニクロで現体型に合わせたパンツなど買ったものの、ジャストサイズすぎてパツパツで、妙に肉々しいシルエットを呈している。

そのため、たまたま立ち寄った高級舶来ランジェリーショップで、ハリウッドセレブも愛用するという体型補正ガードルを、うっかり買ってしまったのである。いや、確かに効果はあった。パツパツで肉々しいパンツのウエストに少し余裕ができた上、なにやら体も身軽なのである。

しかしながらこのガードル、ぶよぶよとたるんできた肉をカンペキに整えるために、ブラのすぐ下から膝上までの長さになっており、チュニックをめくったくらいでは、この武装した体をどこから剥いたらいいのか、整骨師の兄ちゃんにはわからなかったのであろう。

「あ、いや、その、自分で脱ぎますから、えぇ、いいです、ダイジョブ、まかせてください......うぐぉぉおおっ!」
そう言ったものの、痛すぎて脱げない。

「あー、もみのこさん、ちょっと待ってください。えーと......ユミちゃーん、すいません、お手伝いお願いしまーす」

兄ちゃんは女性整骨師を呼び、腰が痛くて施術台上であっぷあっぷしているわたしのハリウッドセレブガードルを、半ケツになるまで引きずり下ろした。

なんと言っても整骨院であるからして、主要顧客層はわたしより激烈に上の「じーさん」「ばーさん」である。本来ならば、このような環境の中で、わたしのようなみずみずしい桃尻娘の半ケツを拝めるとは、そなたたち、果報者よのぅ......くらいはブチかましてやりたかったのだが、武装ガードルがバレた恥ずかしさのあまり、口もきけなくなってしまった。

若いお兄ちゃんに半ケツ見られるより、武装ガードルで体型詐欺を働いていたのがバレたことの方が、よほど由々しき事態である。

そうそう、奥様、ついでだから教えてあげるわ。この武装ガードル、局部に穴があいてるのよ、局部に。あらいやだ。局部っていったら股間に決まってるじゃない。

高級舶来ランジェリーショップの美しい販売員の方は説明してくださった。「ここにですね、実は穴があいてるんですよ。これは破れているわけではなくて、もともとあいてるんです。ときどき聞かれるので、最初にお話したほうがよろしいかと思いまして......用途はですね」

「あーーーーーっ! 結構ですっ。あなたのような美しい方にそのような羞恥プレイはさせられません。わかりますとも、皆まで言わずとも! まっこと毛唐の皆さまが考えることと言ったら品のないこと。そんな穴を使って出したり入れたり出したり入れたり、いったい何を考えているんでしょう! 教育委員会に訴え出なければなりませんわ!」

「......は? 何をおっしゃっているのかよくわかりませんが......えぇ、出すためのものなんですの。やはりソフトなガードルと言っても締め付けはありますから、トイレで脱ぐのが結構大変だという声がありましてね。ですから脱がずに用を足したいときに使っていただくということで、この穴があるんです。でも日本人の方には、あまりおすすめしませんけど」

......さよか。穴を使って出したり出したりなんですね。品がないのはわたしではないか。

そんなわけで、傷心のあまり、よろよろしながら整骨院をあとにするわたしを、整骨師の若い兄ちゃんとユミちゃんが、深々と頭を下げて見送ってくれた。
「ありがとうございました。どうぞお大事に」
しかし、「お前の本当の実力はあいわかった!」的な微笑みが、二人の唇の端に浮かんでいたような気がするのは気のせいではない、きっと。

とまれ、腰痛がこれほど辛いものであるとは知らなんだ。なんといっても数日前まで、健常者のようには歩けなかったのだ。傘を杖代わりにして、よたよたよたよたしながら苦悶の表情を浮かべつつバスに乗り、そのバスがカーブに差し掛かるたびに、より一層の苦悶を味わう仕組みになっているのである。

とくにトイレは困る。痛めた場所はウエストより少し下の脊椎のあたりがなのだが、ここを曲げずにトイレに座るためには、尾てい骨のあたりを突き出して脊椎は曲げずに座る、要するに出っ尻ポーズが最も痛みが少ない。

しかし、このスタイルだと、いざトイレットペーパーで拭こうとするとき、尻がいつもより遠いのだ。ぐぐぐとペーパーを持った右手をのばしても、いつもの場所に尻がない。これでは拭けぬではないか! 尻を近づけようとすると、腰が曲がってぐぬぬなので、いっそう出っ尻にすると、ますます右手から遠くなる。追いかければ逃げ、逃げては追うの攻防である。

♪追いかけてヨコ〜ハマ〜あの人〜が〜逃げる〜。

そうか、逆から拭けばいいのだな。しかし逆から拭くと言うのは、なにやら非常に気色悪い感触である。どうも拭けた気がしない。ウソだと思うなら、尻の方から拭いてみてほしい。少しはわたしの気持ちもわかっていただけるのではないか。

このような昨今の事象に鑑み、超高齢化社会を生きる日本人がより快適な老後を送るためには、身体機能の低下を織り込んで、うしろからも前からも尻を拭けるスキルを身につけることが最重要課題であると考えられる。

デジクリ読者の皆様も、まずは立派なシリフキストとなることを目指して、トレーニングを積んでほしいと切に願うわたしである。

※「私、脱いでもすごいんです」TBC×北浦共笑
< >
※「無縁坂」グレープ
< >
※「林檎殺人事件」郷ひろみ&樹木希林
< >
※「夜霧のハウスマヌカン」やや
< >
※「追いかけてヨコハマ」桜田淳子
< >
※武装ガードル
< http://www.wacoal.jp/spanx/InPowerLine/index.html >

【もみのこ ゆきと】qkjgq410(a)yahoo.co.jp

かつてはシステムエンジニア。その後、名ばかり経営指導員。ただいま通販用ジュエリー撮影のバイト中。

永吉克之師匠の「怒りのブドウ球菌」を再読した。「誤解されたっていいじゃないか」という章があるのだが、わたしも誤解され放題である。

先日、ジャズダンスのレッスンが終わった後、駐車場代を入れるお菓子の缶に千円札を入れ、おつりの600円を取った。ところが、それを見ていたどこかのクソガキに「あ〜、い〜けないんだ〜いけないんだ〜。お金取っちゃいけないんだよぉ」と指を差されたのだ。

うむ、この事なかれ主義の世の中で、巨悪を暴く行動に出た君の勇気を称えたい。素晴らしいことだ。その正義感を失わずに大きくなれよ......と、温かく見守るわたしであった。

......違〜〜〜〜うっ!! おりゃあ盗人じゃねぇ! このクソガキ、わたしが缶から600円を取るところだけを見ていて、千円札を入れるところは見ていなかったのである。「あのね、おねーさんはね、まず千円札を入れたの。何も悪いことはしてないんだよ。わかった?」「......ち、ちがうもん!」何がちがうもん! だ。憤懣やる方ない思いで帰宅したのだが、あのクソガキの「ちがうもん!」が、もしや「おねーさんはね」に係っていたのではないかと思い至り、臍をかむ思いである。

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編集後記(09/27)

●ちょうど3週間前に、飼い犬ハニー号がここ数か月で驚くべき早さの老化が進んだ、と書いた。その後、薬を与えたら症状がだいぶ緩和してきたと書いた。そして今、あれはなんだったんだと思うくらい「元気になっちゃった」のだ。驚くべき回復である。あのひどい咳(部屋の外でも聞こえるくらい大きな音で、あの家のオジイサンが危ないのではないかと思われたかもしれない)が、ほとんど出なくなった。食欲は旺盛。散歩に至っては、前にも増して積極的に歩くようになった。いや、正直、この夏を越せるかどうかとさえ危ぶんだのだが、この奇蹟的な復活には驚くしかない。もちろん薬が効いているからではあるが、猛暑が去ったからというのもひとつの要因だろう。元気になったくせに、病んでいる間は日中でも家の中に入れてもらえたという既得権益を手放す気はないので、いまも午後になるとわたしの机の下にもぐり込んで来る。元気になったのはいいが、ああ、うっとうしい。

次の総理大臣に直結する自民党総裁に、「帰って来た安倍晋三」が選ばれたのはよかったと思う。長老にとって使い勝手のよい「軽いだけのパー」など問題外だったが、闇法案や自虐史観に熱心な「ねっちり爬虫類」だったら最悪だった。昨日の午後、総裁選中継を見ながらドキドキした。朝日新聞はさっそく新総裁を腐す(悪意をもって悪く評する。欠点をことさらに取りあげて悪く言う。けなす。)社説を掲げているが、いまのところはまだ穏やかな方だ。安倍内閣の時代に「社是として」徹底的に安倍を叩きまくった朝日がこれからどう出るか、非常に興味深い。朝日の主張とは反対のことがすべて正しい、という法則にのっとれば、日本の正しい進路が見えて来る。         (柴田)

●自民党総裁に安倍さん。何を言われるかわかった上での立候補。よほどの覚悟があるからだろうと期待している。前回やりかけで潰された、いくつかの課題も片付けていって欲しい。/谷垣さんの演説が心に沁みる。貧乏くじをひいた「いい人」という印象を持った。中韓との領土問題がなければ、谷垣さんにという話になったんじゃなかろうか。/政権交代前のどさくさに、交代後に通らなさそうな法案を、無理に通すことがあるらしい。私たちがテレビや雑誌で知るのは、政治家がどんな高級料理を食べたとか、奥さんがどうこうという話。どんな法案が、いま課題になっているかなんて話が、なかなか聞けないのは不思議だよね。

マイナス思考。今週はじめからマイナス思考の波が押し寄せてきて、身動きとれなくなった。ふと自分が鬱なんではないかと疑い、鬱診断サイトに行く。チェックを入れていきつつ、あ、食欲あるわ、死は考えてないわ、寝つきが悪いというよりはいつでも眠いわ、喜怒哀楽ありまくりだわ、と鬱でないことを確認した。「神経性抑うつ症」の可能性はあるらしいが、調べていくと「抑うつ状態」というもので、いわゆる「わたし落ち込んでます」なのだそうだ。/ちょっと涼しくなると、急にかき氷類がおいしくなくなるのは何故だ! つい先日まで、帰宅後、夕食後のガリガリ君(またはチョコモナカジャンボ半分)で幸せ気分だったのに。そうか、一日中涼しくて幸せすぎて幸せを感じられない、季節の変わり目が加担した「抑うつ状態」か!

靴のん、経験ありますぜ。新しいのを買ったこともあるし、靴の修理屋さんに飛び込んだこともある。そして同じことを考えた。(それよりもっとましな靴を買おうよ)と。/よっ、天海祐希! 天海祐希になるには11cmヒールか......。カーストや体重の件といい、もみのこさんとは他人のような気がしません......「まだ」ガードルには手を出していないけどっ! 元宝塚トップ娘役の白羽ゆりさんがテレビで、娘役時代はウエストを細くする下着をつけ続けていたと言ってた。普段からつけていたら、本当に細くなるらしい。彼女はダイエットらしきものはせず、どころか舞台がハードだったからと朝からステーキを食べていたそうな。(hammer.mule)

< >
谷垣さんの演説。後ろの安倍さんの表情もいいよ。
< http://www.yokohama-shinri.com/check/utsu.htm >  鬱病度診断テスト
< http://oshiete.goo.ne.jp/qa/217455.html >
「鬱病の人の症状」には近いけど、不眠以外なら仕事で疲れた時にもあるよね?
< http://www.morinaga.co.jp/ice/syouhin/jumbo/ >
パリパリさと、ほろにがチョコが好き
< >
ロングバージョンがあった
< http://www.horipro.co.jp/talent/PF119/ >  白羽ゆり
< https://yorimo.yomiuri.co.jp/servlet/Satellite?c=Yrm0402_C&cid=1221736163418&dName=Yrm0402Def&pagename=YrmWrapper >
一番下の画像。そういやここの写真の人、みんな芸能界入りだ。
< http://pr.nikkei.com/special/diary.html >  陽月華は日経新聞CM