わが逃走[112]ドイツよいとこの巻 その1/齋藤 浩

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円高ユーロ安、さらに仕事が減って時間もできたので、憧れの地・ドイツへ行ってきた。

前回書いたとおり、流線型蒸気機関車に会いに行くってのが第一の目的ではあったのだが、ライカやポルシェなど質実剛健なプロダクトを生み出す国柄とか日本人と並び称される几帳面で真面目でむっつりスケベな人柄とか、前の大戦における敗戦国としてのメンタリティとか、そういったことにも興味があったのだ。

ドイツの人たちは旅行者に対してとても親切だ。おフランスとは違い、言葉がうまく伝わらなくても、こちらの意思を理解しようという"歩み寄りの気持ち"がある。

ホテルでもレストランでも中学英語でほぼなんとかなったし、田舎町のカフェや博物館では、さらにジェスチャーと筆談でなんとかなった。

初めての地は誰だって不安な気持ちになるものだが、ドイツの人たちの、そんなちょっとした心遣いが旅行者をリラックスさせてくれる。私はますますドイツが好きになった。

ドイツの人たちはもの静かで真面目で几帳面できれい好きだ。噂どおり列車は時刻表通りにやってくる。長距離列車は多少遅れたが、情報がわかりやすく電光掲示板に表示されるので、初めての鉄道旅でも不安は少ない。

車内も静かで清潔。ゴミは誰もが持ち帰って、ホームにあるゴミ箱にきちんと分別して捨てていた。公共のものはみんなで守ろうという意思が強いのだ。
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ローカル線に乗るひとたち。とてもマナーが良い。




車窓からの風景を眺めていて気づいたのだが、どの家も庭がきちんと手入れされていて美しい。ドイツでは庭は公共のものに近いという意識が強く、落ち葉や雑草も掃除してあり、道具は整理整頓され、ゴミを外に置くようなことはもちろんしない。素晴らしい。

アメリカでゴミをまき散らしたガキに注意したら「なんで? 掃除するひとの仕事がなくなっちゃうよ?」と純粋な瞳で言い返されたという話は有名だが、こんな国に日本もドイツも負けたんだと思うと腹立たしいぜ。おっと話がそれた。

ドイツの駅も美しい。中央駅とされる駅はどこも活気があって気持ちがいい。そして落ち着いている。

日本のターミナル駅のような慌ただしさがないのだ。もちろん治安もいい。掲出される情報も整理されているので、案内表示に従って移動すれば迷うことも少ない。

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ハイデルベルク中央駅の案内板。

これって当たり前のことなんだけど、日本の駅みたいにトイレの脇に「あっちにトイレはありません」「こっちにもトイレはありません」「トイレはここです」のような駅員が良かれと思って手書きした張り紙のような"余計なお世話"が皆無なのだ。トイレの位置を示すピクトグラムがあるだけ。

我が国では親切は足すことだとする傾向があるが、それがかえってスムーズな情報伝達の邪魔をしていることがわかる事例といえよう。

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ミュンヘン中央駅の案内板。

また、ドイツではコンビニなんてものはなかなか見当たらないが、駅に行けばテイクアウト可能なさまざまな旨いものが手に入る。ちょっとしたスーパーマーケット的な店や薬局、本屋なんかもある。

ドイツでは『困ったときは駅に行け』という言葉があるそうで、今回の旅でも駅のおかげでずいぶん助かった。

余談ではあるが、ハイデルベルク中央駅の本屋には『YAOI』コーナーなるものが存在し、日本のボーイズラブ作品だけでなくYAOI-MANGAの描き方やポーズ集などもドイツ語に翻訳されて販売されていた。おそるべき充実ぶりである。

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ハイデルベルク中央駅の本屋

さて駅の構造についてだが、施設が完全なバリアフリーかといえば、そうでもない。しかし、ドイツの人たちの意識がバリアフリーだった。車いすの人が列車から降りようとしていたら、ごく自然に周りの人たちが介助する。それがドイツでは当たり前なのだ。

観光地でも美術館でも、車いすの人たちを多くみかけた。障害を持つ人もごく自然に街に出て、公共機関を利用するし散歩もする。

ものすごく当たり前の姿なんだけど、ものすごく感動したオレがここにいるわけです。なんというか、ドイツでは民意が国へ上がってゆく印象だが、日本では国から下りてくるのを待ってる印象なんだな。

我が国の公共交通機関におけるバリアフリー化は確かに見た目上進んでいるけど、「国がバリアフリーにしろって言うからしました」でなく、職員も利用客も一市民として相手が誰かを見て考えなきゃね。

ちょっと前、よく利用する駅の階段の手すりに『◯◯方面はこちら』という内容の点字プレートが取り付けられたのだが、よほど大切な点字プレートだったとみえて、傷つかないよう上から厚手のビニールのシールで保護されていたのだ。冗談みたいな事実である。

悲しいけれど、日本はまだ発展途上国だ。

ドイツはもちろん道路もきれいだ。ごみひとつ落ちてない。そしてとくに自転車の交通マナーが良かった。

法律もしっかりしているし自転車ゾーンの整備が進んでいるというのもあるが、日本みたいに赤信号を突っ込んでくるヤツもいなければ、歩道を歩いていてどつかれることもない。街行く自転車のほとんどが手信号で方向指示を出すので、自動車の運転手も安心だ。

いつだったか出先でオートバイの電装系が全てダメになったことがあり、手信号で帰ってきたことがあったのだが、後続の運転手はその意味を理解できなかったらしくとても恐ろしい思いをしたことがあった。

ドイツでは教育が行き届いているので、そういった場合も安心かもしれない。

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ニュルンベルク市内。路上にはごみひとつなし。

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ハイデルベルク市内。観光の中心であるにもかかわらず雑踏感がなく清々しい。

ドイツはトイレもきれいだ。博物館も美術館も駅もショッピングセンターもビアホールも、トイレはとてもきれいだ。ここでもみんなのものだから大切に守ろうという意思を感じる。

中でも感動したのがピナコテーク・デア・モデルネ(ミュンヘンの現代美術館)。あまりの美しさに、インスタレーションのひとつかと思ったほどだ。

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ピナコテーク・デア・モデルネのアサガオ群。感動のあまり手ブレしている。

例によって"アサガオ"の位置は高い。身長170センチでぎりぎり背伸びしなくていい高さだ。これもまあ、外国に来たぜ感を象徴するいい思い出となるのだが、馴れてくると用を足す度に自分の足の短さにがっかりするとも言えましょう。

そして、とても印象深かったのは男性トイレにおけるエログッズ販売機の存在である! ニュルンベルクのそれなりに有名なビアホールで発見。

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いちばん左はコンドーム。まあそれならわからなくもない。

おねいちゃんと仲良く飲んで、今日はイケるぜ! となったときにごく自然に買えるわけだしな。しかし、右へ行くに従ってタイヘンなことになってくる。別にいかがわしい飲み屋とかじゃなくて、ごく普通のガイドブックにも掲載されているビアホールなのに。

店内は歴史と伝統を感じさせる美しい内装、店員はみな親切。で、こんなもの売ってるのか!

これは今回の旅において、けっこう衝撃的な出来事だったのだが、同様の自販機をミュンヘンの有名ビアホールでも目にしたので、これはドイツにおいてデフォルトってことなのであろう。

落ち着いて考えてみたら、これは有効な販売法かもしれない。4ユーロだったし、土産に買っとけば良かったかも。

帰国後友人に話したところ、フランクフルト空港にはアダルトグッズの専門店が入っているそうで、なるほどドイツ人のむっつりすけべを表す良い例だとも思い、ますますドイツが好きになった齋藤浩である。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。