まにまにころころ[11]枯れた技術の水平思考
── 川合和史@コロ。 Kawai Kazuhito ──

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こんにちは。先週は祝日でお休みでしたが、あっという間に次の締め切り到来。日が経つのって早いですねぇ。前回は神戸ITフェス直前だったのに、なんか、もう神戸ITフェスが遙か昔のことのように感じます。来月は「KOF2012」だ!

・KOF2012 -- 懇親会の受付も始まりました。
< http://2012.k-of.jp/
>

◎──本の話

神戸ITフェスでは、「本」にフォーカスを当てたセッションがいくつかあり、その中で、関係者を中心に、自分のお薦めする本を紹介するコーナーが。私は当日の朝までお薦めを選べず、展示に間に合わなかったんですけれど。(笑)

本のお薦め、って難しいんですよね〜。自分でも、その瞬間、瞬間で変わるし、人に薦めるとなると、相手によっても変わってくるし。

◎──任天堂のDNAを創造した男

本棚とにらめっこして、悩みに悩んで、とりあえず選んだお薦めの一冊が、「ゲームの父・横井軍平伝 任天堂のDNAを創造した男」(角川書店)でした。

クリエイティブに関わっている人はもちろん、そうでない方も含めて、これは読み手を選ばない一冊かなというのが理由。

まあ「読んでみて」以上のことは何も言えないんですが、横井軍平さんは今の任天堂の礎を作られた開発者で、分かりやすいところで言えば「(ファミコンなどの)十字キー」を作った方、「ゲーム&ウオッチ」、そして「ゲームボーイ」を生み出した方と言えば、その凄さの一端は垣間見ていただけるのではないでしょうか。

任天堂を退社し新会社設立の翌年、残念ながら横井さんは、97年に交通事故で他界され、この本は生前のインタビューを元に、本当に伝説となってしまった横井さんの生涯をまとめたもの。伝記と言うよりは、インタビューした著者の回顧録というか、追悼文というか、想いのこもった一冊になっています。




◎──枯れた技術の水平思考

横井さんを知る人にとっては、「枯れた技術の水平思考」という言葉が、最も有名じゃないかなと。「枯れた技術」というのは、廃れたという意味でなく、月日を重ねて練られてきた技術、不具合も除かれ、コスト面も落ち着いた技術、という意味。

「水平思考」は、通常の論理的思考を垂直思考とし、それに対し、発想の幅を広げて、思考をジャンプさせることで、早く答えにたどり着いたり、新しい答えにたどり着きましょう、過程はさておいて本質を押さえましょう、というような問題解決の考え方です。

水平思考や垂直思考については、また、次回かそのうちにネタにするとして、今回は横井さんの話に戻ります。

本の中のエピソードから拾うと、例えば、横井さんが初期に作ったおもちゃに「ラブテスター」というものがあります。これは、要するに、電子工作で使う検流計そのもので、二つの端子をそれぞれ男女(別に同性でもいいですが)が握って、空いてる手を互いに繋いで、愛情度を計りましょうというもの。

もちろん電流の流れ具合を計るだけなので、愛情には何も関係ないんですが、検流計という既存のものに対して、「これで愛情計れるってゆーたら面白いんとちゃう? しかもゲームやゆーことで自然に意中の子と手も繋げるで」とアイデアをくっつけたもの。

元は検流計という枯れきったものなので、新規開発のコストは特にかからず、原価も安くつく。愛情度なんて計れなくても「公然と女の子の手を握る」という目的は達せられるので問題なし。ただ、ラブテスターを持って出かけた上司が、会社に戻って来るなり、「キスして計っても針の振れが変わらないじゃないか!」と怒鳴ったそうですが。(笑)

また「ゲーム&ウオッチ」は、液晶電卓で遊んでいたサラリーマンを見て、それをヒントに持ち運べるゲーム機を開発、そこに「液晶デジタル時計」を少しの実用性として盛り込んだ。

当時、卓上デジタル時計がまだそんなにも普及していなかった時代、大した追加コストをかけずに、ゲームを購入する言い訳を付け足したわけです。時計にゲームが付いてるんだ、ゲームに飽きても時計になるなら無駄じゃない、と。

もうひとつ例をあげると、初代ゲームボーイ。ゲームボーイ開発時点で、既に世にはカラー液晶は存在していたのに、横井さんはあえてモノクロ液晶を採用。

当時のカラー液晶では、バックライトの仕組み上、明るいところで見にくい、消費電力が大きいなど弊害が多い。もちろん、製造コストも高い。加えて、画面がモノクロでもゲームの面白さの本質は損なわれないと横井さんは考え、モノクロ液晶になった。

モノクロで雪だるまを描いても雪だるまは白く見え、モノクロでリンゴを描いてもリンゴは赤く見えると、人のイメージする力に委ねた、というか、イメージする余地を残したんですね。

モノクロ液晶は、横井さんの、任天堂での最後の仕事であるゲームボーイポケット、そして、退職後に立ち上げた会社が開発したワンダースワンにも採用されました。

ゲームボーイの例の延長線上には、横井さんがその後の、高機能追求競争のあまりにジリ貧となっていく家庭用ゲーム機の姿を予見していたという話に繋がっていきます。

ただ結果的には、ゲームボーイでは時代の流れを止めることはできず、任天堂も含めて、高機能化の波に乗らざるを得なくなりましたが、それでも任天堂は「ニンテンドーDS」そして「Wii」で、横井さんの亡くなられた後のことながら、「ヨコイズム」に立ち戻った感じがします。3DSがちょっと心配でしたけど、そこそこ出てるようで何より。

◎──これ!

「ニンテンドーDS」そして「Wii」が出た時、私は「これ! これがゲーム! ゲームの本質に帰ってきた!」と、喜んで言ってました。横井さんのことはその頃は知らず、さっき挙げたエピソードももちろん全く知らなかったのに。

横井軍平伝の中で著者の方も似たこと書いてますが、私も、ゲームの進化について行けなかったクチで。複雑なコマンド入力は、諦めてスルーしつつ、単純なコマンドだけで遊んだりしていましたが、どんどん増えるボタンと、キー操作を駆使しなければ、基本的な遊び方もおぼつかないゲームが次々と登場して、完全に蚊帳の外状態に。

セガサターンの6ボタン+LR+スタート+十字キー程度、ドリームキャストの4つボタン+LR+スタート+アナログスティック+十字キー程度が限界でした。正確にはドリキャスも持てあまし。PSのLR2個ずつとか、アナログスティック2本とか、無理無理。

グラフィックも綺麗すぎて逆に没入できないし、美麗なムービーとか正直、あまり興味ないし。まあ、その辺はソフトによって上手く使ってるか次第、ではありますけれども。

今、多くの人が家庭用ゲーム機でなくスマホアプリで遊んでるのは、その単純さに惹かれてる面も多分にあると思います。



今日、書き始めた時点では、本の名前だけ紹介して、内容はそこそこに、「面白いと思うから読んでみて」くらいで終わるはずだったのに、思わず、こんなに長々と書いてしまいました。それくらい面白い本だということで。

直近で読んだ本は自己啓発系の本だったんで、そっちの話にしようかと、ちょっと迷ったんですが、構成考えてたらちょっとドロっとした生々しい感じになりそうだったんで今回は見送り。疲れた心に刺さりすぎたりして。

その話はその話で面白そうなので、そのうち書こうかなとも思ってますが、危険なネタになりそうだし微妙かなー、とも思ったり。ま、気が向けば。

ということで今回はここまでー。特にオチもなくて申し訳ありませんが、いつものことじゃんって、そろそろ慣れていただければ嬉しいです。(笑)

【川合和史@コロ。】koro@cap-ut.co.jp
合同会社かぷっと代表
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