装飾山イバラ道[107]高速早送りで見る世界/武田瑛夢

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私はここで何度も言ってきたように「虫」が嫌いである。しかし、さすがに歳を重ねると、そんなに露骨に嫌がることも少なくなった。生きているモノは皆幸せでいて欲しいという仏教的な考えに賛同したいし、できるだけ「出会わない」ようにすれば、お互いそれが一番いい。

なのに、先日だんなさんと映画を見た帰り道、家の側を歩いている時に「いやぁ! 虫! 虫!」と大人げもなく露骨に嫌がってしまった。歩いている時にふと私の左腕の袖の手首あたりに大きめな茶色っぽい虫がとまり、長袖に嫌な重さを感じたのだ!

私は声を上げるとほとんど同時に、腕をブンブン振ってバッグを放り投げたので、自分でもその虫が「何の虫」なのかを目で確認ができなかった。謎の虫は袖のベージュの布地をしっかりと掴んでいるようで、なかなか落とせない。確認できないからこそ怖いのに、振れば振るだけ見えない。

だんなさんが何とか手で払い落としてくれ、「......カナブンじゃん」。最悪のアイツじゃなくて本当に良かった。やっと安心して我にかえる。

私は右手の「クリスピー・クリーム・ドーナツ」の箱はしっかり持ったままだったのが可笑しくて笑った。左手のバッグは地面に放り投げたのにね。もし左右が逆だったら、ドーナツが犠牲になっていたのかもと思うとその慌てぶりを反省した。

カナブンは今まで何度も助けてきた。家の前でひっくり返って足をバタバタやっていたヤツを、長傘の先につかまらせて植木の方へと逃がしてやったりした。だからって突然私を止まり木に選ばんでくれと言いたい。お前のことが好きなわけじゃない。

私は急に虫と遭遇しても、なるべくパニックにならないように訓練する必要があるのかもしれないと思った。虫なんてどんな急な時に止まって来るかわからないのだ。




●「プラネットアース」で虫嫌いを克服できるか

虫に慣れるために、テレビ番組の虫のシーンを我慢して見るというのはどうだろう。以前、NHKでやっていた「プラネットアース」も今は「アニマルプラネット」のチャンネルで見られる。

オリジナルの言語+字幕の方がしっとりしていて良いけれど、楽に見るにはやっぱり日本語の解説が解りやすい。ハイビジョンで素晴らしい映像なので、見た方が得な気がする番組だ。

だいたいどのシーンも綺麗だけれど、特に植物の成長を固定カメラで撮影したものを早送りで見せるところなどは、スーっと伸びてなめらかにうねりながら光を目指す動きが「生命力」そのものを見るようで感動する。カメラの進歩のせいか、昔のカクカクしていた早送り映像とは別物の美しさだ。

・プラネットアース | アニマルプラネット
< http://www.animal-planet.jp/series/index.php?sid=155 >

・プラネットアース
< http://www.nhk-ep.com/shop/main/actionNameTxt/ctgry/cmdtyFlagTxt/sr/ctc/doc04 >

綺麗な植物映像にうっとりしていると、不意打ちのようにイモムシのアップの映像も来る。一瞬ひるむけれど、複雑なデザインの姿かたちやリアルな透明感は、虫といえども「美しい」と感じられる。以前は虫なんて直視するのが耐えられなかったので、少しは進歩したのかもしれない。

「蟻」は昆虫の中でも種類や生息数において群を抜いており、地面だけを見ればジャングルを支配しているほどだという。多様なキノコが伸びる様子を早送りで見せられた後に、一匹の蟻が木の枝に登り動きを止める。静かな静かな「死」を迎えたのだ。蟻はキノコの一種である菌類に感染していた。

その後早送り動画で、頭(脳)に寄生したキノコが天に向かって一直線に伸びていく様子が映る。これが有名な「冬虫夏草」だという。あらゆる種類の虫に適応した菌類がいて、その色かたちはすべて違う。爽やかさ、美しさに紛れていつの間にか見せつけられる自然の残酷さ。そういえばプラネットアースってそういう番組かもしれない。

菌類に体を乗っ取られた虫たちはミイラのように固まっているし、新しい命を得た菌類はスーッと長く伸びたり、点々と虫の体の表面を埋め尽くしたりしている。冷静に見るととてもグロいけれど、菌類の生命力の底力に驚く。指先ほどの大きさの世界を大画面で見ると、別世界のようだ。

しばらく見ていて思う。極端な拡大画面や極端な早送り動画は「現実」の縮尺率とは違うモノなのだ。私は残念ながら親指姫じゃない。結局はリアルなサイズで忍び寄る虫に慣れなければ、虫を克服する訓練にはならないと気がついた。

●再生速度で時間を飛び越えられるか

プラネットアースに時折出て来る残酷なシーンは、命の入れ替わりのようにも思える。食べられたり、寄生されたり、支配されたりするのには大きさの大小は関係ない。形を変えながら延々と続いていくいろいろな命を見せてくれる。

映画の「フィフス・エレメント」や「プロメテウス」に出て来る「映像の高速再生で地球の歴史を学ばせるシーン」を思い出す。SF映画だとロボットやクローンに過去体験をインプットする手法としてよく出て来る。文明の広がりや繰り返される戦争が次々と再生されるのを短時間で見て学べるのは、脳のスペックが高められているから可能だとされることが多い。

プラネットアースのなめらかで美しい早送り映像を見ていると、実際に圧縮された時間を感じたような気持ちになる。確かにドラマの録画なら2倍速ぐらいでも声質が変わらなくなっていて、時間節約のためにそれで見ている人もいるし、現在でもちょっとだけ未来っぽいことが現実化していると言える。

人間の一生を早送りで再生するのは写真やアートでありそうだけれど、固定カメラの植物やキノコのようにはいかないだろうな。想像したら......ちょっと怖かった。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
< http://www.eimu.com/ >

気まぐれ猫動画の三つめは、オウムに完全にナメられてる猫の動画です。昔から有名な動画だけれど、いつ見ても飽きません。「Parrot sits on cats head」の動画では同じオウムが猫に乗っかります。猫がもう少し大きくなれば猫の勝ちでしょうが、同じぐらいのサイズの時のこの瞬間の記録としてとても素敵だと思います。

・Parrot massages cat's head
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