[3358] Lang-8って知ってる?

投稿:  著者:  読了時間:31分(本文:約15,000文字)


《失業者は旅なんぞしている場合ではないのだが》

■デジクリトーク
 Lang-8って知ってる?
 出渕亮一朗

■ショート・ストーリーのKUNI[127]
 スフラ
 ヤマシタクニコ

■歌う田舎者[38]
 『売上がないね』と君が言ったから9月29日は解雇記念日
 もみのこゆきと



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■デジクリトーク
Lang-8って知ってる?

出渕亮一朗
< http://bn.dgcr.com/archives/20121025140300.html >
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ここのところ、中国、韓国に関するニュースを目にするたびに、何かと心が塞ぐ。そんなとき私はLang-8というサイトを見ることにしている。

Lang-8とは、語学を学習する人たちが相互に添削をするシステムだ。例えば、英語圏のAさんと日本語を母国語とするBさんがいれば、Aさんは日本語の記事を書き、Bさんやその他大勢の日本人のユーザーに添削をしてもらう。Bさんは英語で記事を書き、英語圏のユーザーに添削をしてもらうといった感じだ。

言語学習だけでなく、当然話のネタからいろいろ話題が膨らむ。もともと相手の国に興味があるから語学を始めたはずなので、例えばちょっとした日本の日常の話題でも日本語学習者は大喜びしてくれる。こちらも海外の方の国の日常や考え方がよくわかっておもしろい。

そんな感じで、ニュースが荒れていても、ここにくると、中国や韓国の方の「あー勉強がはかどらない」とか、「ワンピースを全巻そろえたいけど、どこに行けばいいですか?」とかの記事に溢れていて、なんかなごむのです。

といっても、まったく時事にふれていない訳でもない。最近、中国語圏の方の「中国映画を日本での上映を中止するなんておかしい。政治と文化は切り離すべきだ。文化にかかわる人はそのくらいの覚悟はないと。」といったもっともな記事もあった。

政治的な発言は一人一人の顔を見えなくし、その国の人が全員そう考えているとやもすれば思いがちである。しかし、実際にその国の人の知り合いを一人でも持っていれば考え方は変わるはずである。ネットを通してでもこういった交流が大切だと思う。

Lang-8はまたいろんなネタも提供してくれる。ロシアの方の「これ何と読むのですか?」と画像がアップされた謎の文字から、「瓜生島」(うりゅうじま)という1596年の地震で一夜で海に沈んだと言われる伝説の島が大分県の別府湾にあったことを知った。

「金縛り」は英語でsleep paralysisというのだが、日本語でも専門用語で「睡眠麻痺」といい、胸に何かがのっている感覚や幻聴や幻覚があるのは世界中のデフォであることも知った。

ネット上の英語で「troll」という単語を良く見かけるのだが、これは、「荒らし」「釣り」「あおり」と言ったネット用語の意味だとわかった。これら辞書にはのってない生きた英語だ。

Lang-8を見る限り、日本語学習に熱心なのは中国語圏の20前後の女性が多いようにみうけられる。続いては英語圏の方だ。以前のデジクリに書いたように、今のJ-POPサブカルチャーはヨーロッパや米国の10代女性間で盛り上がってるので、その流れだと思う。

Lang-8 < http://lang-8.com/ >

【出渕亮一朗】ryoichiro.debuchi@gmail.com
< http://www.debuchi.com >

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■ショート・ストーリーのKUNI[127]
スフラ

ヤマシタクニコ
< http://bn.dgcr.com/archives/20121025140200.html >
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おれとW先輩は途方に暮れていた。山の頂上から降りかかったところ、急に夜になってどこがどうだかわからない。早い話、道に迷ったのだ。

「さっきまで明るかったのに」
「よくないですね、これは」
「よくないも何も」
「遭難ですよね」

おれとW先輩はまったく困った。腹も減ってきた。ますます困った。もちろん携帯も通じない。

「ああ、ひもじい」
「腹減った」
「ひもじい」
「腹減った」

言えば言うだけ腹が減るので言わないことにしたが、それでも減ってくる。
一生懸命がまんしたががまんの限界だった。
「腹減った!」おれたちは同時に声を出していた。

次にW先輩とおれが同時にしたことは、ザックの中をあさることだった。何か食べられるものが出てくるんじゃないかと、一縷の希望を託して。

ティッシュ タオル くしゃくしゃになったふもとの神社のパンフ 紅葉したもみじの葉 バンドエイド メルティーキッス
「何もないなあ」
「ないですね」

次の一瞬、ふたりとも我に返った。メルティーキッス!?
おれたちはたったひとつのメルティーキッスめがけて同時に手を伸ばし、おでこをぶつけあった。そしてわずかな差でメルティーキッスは先輩のものになった。個包装を破り、口の中に放り込み、しみじみと味わうW先輩。

「うまかった」
「でしょうねえ」
「でも、後がむなしいなあ」
ますます腹が減った。しかも寒くなってきた。
「まるで遭難ですね」
「だからそういってるだろ」

おれたちはため息をついた。気をまぎらわそうとして思いついたことをどんどんしゃべった。友だちの悪口とかうわさ話とか、よく考えたら当のW先輩のことじゃないかと途中で気づいた話もあったが適当にごまかした。

遭難したときは寝たら死ぬというではないか...別に冬山というわけでもなかったが。しかし、何をしゃべっても腹が減っていることを忘れることができない。

「おい」W先輩が言った。
「はい」
「もみじの葉っぱなんかどうするつもりだったんだ。本の栞にでもするのか」
「もみじの葉っぱ? なんですかそれ」
「さっきおまえのザックから出てきたじゃないか」
「あ。確かに」

もみじの葉っぱ。もみじの葉っぱ......。
来る途中にもみじの木なんてあったかな? というか今は4月だけど?
おれはしばらく考えた。そして
「思い出しました。このザック、おれのじゃないんです」
「はあ? じゃあだれのだ」

「ゆうべ用意をしようとして押し入れの中を探したんですが、ザックが見つからなかったんです。なんせ山登りなんか何年もしたことなかったし。学生時代に使ってたのはひょっとしたら捨ててしまったかも。それで困ってたらおふくろがどこかからこれを出してきたんです」

「そういえばえらく古めかしいのを持ってるなと思ってたよ」
「ええ。だから、もみじの葉っぱもだれがいつ入れたのか...だいぶ黒ずんでいたし」
「え、じゃ、さっきのメルティーキッスはいったい何年前の」
「いや、メルティーキッスは先輩のザックから出てきたんですよ」
「なんだ。だったらおれが食べても当然じゃないか」
「だれも文句言ってませんよ」
「そうか」

そこでおれははっとしてもう一度ザックの中を改めた。ひょっとしてもっと何か出てくるかもしれないと思ったからだ。暗くなっていてよく見えないが、手さぐりでごそごそしていると、ザックの底が二重になっていることがわかった。

ファスナーのつまみが手に触れたので引いてみる。中に何かある。布のようだ。食べ物ではないようだが、とりあえず引っ張り出してみる。

「何なんだそれ」
「さあ...」
目を近づけてみると、なんだか古めかしい風呂敷のようなものだ。
「食べられそうにないな。そんなもん、出すなよ」
「ええ...でも」
「でも、何だよ」

「ひょっとしてスフラじゃないかと思って」
「スフラ? なんだそれ」
「千一夜物語に出てくるんです。テーブルクロスみたいな布で、そこから食べ物がどんどん出てくる...そういうやつだったと思います」

「つまり魔法のテーブルクロス? そんなわけないだろ」
先輩はげらげらと笑い
「ああ、笑ったらますます腹が減った」とため息をついた。しかしおれはすでに見つけていた。布のすみに文字が書かれているのを。だが、端のほうは文字がかすれていて月明かりでは読み切れない。

この布を広げ、食べたいもののイメージと、そのための調理法を思い浮かべてください。それから......

「先輩、やっぱり、それっぽいですよ」
「ええっ?」
「試してみましょう。先輩、食べたいもののイメージを言ってみてください」
「え...そうだな。急に言われても...そうだな。ビーフストロガノフ」
「それは...調理方法がわかりません。先輩、知ってるんですか」
「知ってるわけないだろ。そうか。調理方法がわからないとだめなのか」

「この布に指示してやらないとだめなようです」
「じゃあ...肉じゃが。いや、待てよ。肉じゃがってどうやってつくるんだっけ」
「まず材料を刻んで」
「うん。それから」
「...わかりません」
「なんか水を入れて炊くんだよな。先に炒めるんだっけ?」

「どうなんでしょう。自分で作ったことないんで」
「おれもだ。調味料も何を使うのか...さっぱりわからん」
「じゃあ、おでんはどうでしょう」
「同じことだよ。材料を適当に切るところまではわかるけど」
「そうですよね。こんなことなら料理を勉強しておくんだった」
「簡単な料理でいいよ。たとえば卵焼きとか」

「卵焼きなんか腹がふくれませんよ。どうせならごはんものとか」
「飯の炊き方がわからないじゃないか」
「...なんとかなるんじゃないですか」
「じゃあ。なんとかしろよ」
「なんとかしろよって、そんなふうに言われても」
「ええ? 何なんだ」

なんだか腹が立ってきた。二人とも空腹で、いらいらしていたのかもしれない。そもそも道に迷ったのはW先輩のせいじゃないか。そうだ。あの分かれ道のとき、あっちに行っていれば迷わなかったんだ。いまごろとっくに家に帰り着いて風呂に入ってテレビでも見ていたんだ。それがなんで。

「おい、何をぶつぶつ言ってるんだ」
W先輩が言った。
「簡単な調理法で食べられるものを出してくれよ。そうだ、もうなんでもいいよ、単に材料を切り刻むだけで食べられるようなものでも」
「わかりました」

おれはうんざりした。何もかもめんどくさくなった。それで布を広げて適当に「肉」「刻む」とだけ念じた。何も起こらなかった。
「やっぱり、ただの風呂敷だよ、それは」
先輩がさっきとは打って変わって急に力の抜けたような声で言った。
「そうですね」

「魔法のテーブルクロスなんかあるはずないさ」
おれもそう思った。空腹のあまり頭がおかしくなっていたのかもしれない。スフラ。千一夜物語。ばかなことを考えるもんだ。この現実と何の関係もないじゃないか...とは思いながら、どこかで別の可能性があるような気もした。

アラビアンナイトのスフラではなくても、別の何かかもしれない...いや、だとすると何だというんだ...ふと気づくと少しずつ明るくなっていた。夜が明けようとしている。

「先輩と話しているうちに夜が明けたようですね」
「ほんとだ。これでひと安心だ。ふもとに降りたら食堂でもなんでもあるだろう。ああ、親子丼でも食べたいもんだ」
「ぼくはきつねうどんかなあ」
想像しただけで元気が出てくるようだった。

下の方から早くも登山客の声が聞こえてきた。都心に近い山なので日課のように登るマニアもいるのだ。声はどんどん近づいてくる。
「おーい」60代くらいの男が自分たちのほうにやってくる。
「迷ってそこで夜を明かしたのか。たいへんだったな。だいじょうぶか」
「おかげさまでだいじょうぶです」

おれと先輩は答えた。そのとき、風が吹いてあの布を巻き上げた。布はふわりと頭上に舞い上がり、それからゆっくり落下して、男の上にすっぽりとかぶさった。あ、と思う間もなくたちまち肉を切り刻む音が聞こえた。

【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
< http://midtan.net/ >
< http://yamashitakuniko.posterous.com/ >

数日前、あるところで「すみませーん...バス停、どこにあるか知ってる?」と小学生らしき男の子のグループに声をかけた。すぐ近くにあることはわかってるのだが、はっきりしないし、階段を上がったり下りたりして探す(現場は複雑な陸橋の上)より地元の子に聞いたほうが早いと思ったのだ。

だが......ガン無視。私のほうを振り返ったから聞こえなかったわけではない。「知らないひとに話しかけられても答えないこと」としつけられているのだろうか。それとも私ってよっぽど人相悪い?(ふつうのおばさんだがなあ)。それとももっと丁重に話しかけないといけなかったのか? 等々悩んでしまった。

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■歌う田舎者[38]
『売上がないね』と君が言ったから9月29日は解雇記念日

もみのこゆきと
< http://bn.dgcr.com/archives/20121025140100.html >
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8月15日は何の日かご存じか。もう10月も末だと言うのに、タイトルは9月だわ、冒頭1行目は8月だわ、もみのこもヤキが回ったものよのぅ。年は取りたくないものじゃ......とか思ったそこのお前、名誉だけは守ってやる。腹を切れ。

再度問う。8月15日は何の日か。誰だ!? パナマ運河開通の日だとか、フランシスコ・ザビエルが薩摩藩に上陸した日だとか、愛のコリーダで大島渚が起訴された日だとか、Wikipediaをカンニングしたようなことを言っているのは! このたわけが!

なにっ? 終戦記念日だと? えぇい、貴様、そこに直れ! 成敗してくれる! そのような大本営発表的日本語を使っておるから、いつまで経っても我が国はマスコミに踊らされてばかりの二流国なのじゃ。

太平洋戦争を思い出してみよ。玉と砕けるなどという美しき文字を使っているが、玉砕とはひとり残らず全滅、全員戦死ということである。「わが軍はガダルカナル島において敵戦力を撃摧し他に転進せしめたり」とは、戦闘能力を失ったための退却を意味していたのである。それを転進などと言葉を置き換え、国民を騙していたのだ。

どこかの芸人がこの時代にいたら、「転進だぜぇ〜。マイルドだろ〜?」と言っていたかもしれん。

8月15日は終戦ではない。敗戦である。今どきのあんぽんたんな若者には、我が国が戦争に勝ったか負けたかわからぬ馬鹿者がいるというではないか。戦争は勝手にフェイドアウトして終わるものではないぞ。こんなところまでマイルドにしてどうする!

まことに嘆かわしい。虚飾を弄した日本語で真実を隠蔽するとは、ホンモノの帝国軍人として恥じ入るばかりである。なにごとも正しい意味の日本語で伝えなければ、その後の道を誤ることになりはしまいか。今必要なのは、真実を伝える勇気ではないのか。

このような歴史的事実に鑑み、ホンモノの帝国軍人らしく、わたしの近況を皆さまにお知らせしたいと思う。

「バイトは9月で終了しました」
もちろんこんな卑怯な大本営発表はしない。
「バイトは9月でクビになりました」
これぞ帝国軍人らしい、潔い真実である。どうだ、男らしいだろ?

そんなわけでクビになったのである。9月29日のことである。わたしにデジクリのカメラマン系コラムニストの方々のような超絶テクニックがあれば、20万円のダイヤのペンダントを1,000万円に見せる写真も撮れたのであろうがのぅ。これがまぁ、ほんと売れんかったんですわ。ブツ撮りカメラマンの仕事は、二か月あまりの儚い命であった。

しかしながら、やはり普通にクビになってもつまらないので、勤務最終日には、ひとつ芸でも披露して爽やかに去っていこうと考えたのであるが、シャチョーがあまりにも苦虫をかみつぶし過ぎて歯が砕けそうな顔をしていたので、芸も披露できず大変残念であった。

ちなみに3月に退職した職場では、最後の挨拶のときに、♪う〜ら〜み〜っこな〜しで〜 わかれましょう〜ね〜 さらり〜とみず〜に〜 すべてながして〜♪ をワンコーラス歌って、最後の挨拶にかえさせていただいたのである。

ところが、平均年齢かなり高めの職場で、全員が知っている歌を選曲したつもりだったのに、29歳女子に「え、あれって、もみのこさんのオリジナル曲じゃないんですか?」と言われ、肩を落としたわたしであった。

梓みちよの「二人でお酒を」は、第16回輝く日本レコード大賞の大衆賞を受賞した大ヒット曲であるぞ、まったく。控えおろ! しかし、その後、わたしの歌唱力について誰もが話題から避けるようになったのが意味不明だ。

若かりし頃は、出身高校での教育実習最終日に、日立マスタックスのCM「桃子、うさぎの耳になりたいな」のモノマネをして、これまた最後の挨拶にかえさせていただいたのだが、あとで回収した教育実習の感想を読むと、「先生、もう菊池桃子のモノマネはやめた方がいいと思います」と書いてあった。ひょっとすると、わたしは芸人には向かないのであろうか。

いや、それはさておき、わたしは何か悪霊にでも取り憑かれたに違いない。ふたたび収入ゼロで今後どうすればいいというのか。将来が不安になると、ついつい占いに走るわたしであるが、Facebookの画面右側に表示される無料占いサイトにうっかり登録したところ、このようなメールが来た。

「今日、あなたに金運をもたらすお知らせが届きます」
チッ、だから今日クビの宣告を受けたんだっつーの、このヴォケが。

このような悶々とした日々を過ごしていたところ、友人から旅への誘いがあった。「一緒に出雲大社に行きませんか? 出雲大社にお参りすると、いいことがあるんですよ。仕事が見つかったりとか。わたし、年に一、二回はお参りに行くんです」

なに? 仕事が見つかるとな? ふむふむ、島根と言えば日本海沿岸だな。地中海も見た。タスマン海も黒海も南シナ海も見た。しかしながら、日本海は生まれてこの方、一度も見たことがないのだ。帝国軍人としては、まっこと不都合な真実である。

白いシーツを振り回して、♪Wind is blowing from the Aegean〜♪ とか歌っている場合ではない。やはり、哀しみ本線日本海ではないのか。

そうだ、京都じゃなくて、日本海に行こう! それに出雲大社のある島根と言えば、鳥取の隣ではないか。わたしは砂漠が大好きなのだ。サウジアラビアまで行ってラクダに乗る金はないが、鳥取砂丘なら行けるぞ。

おぉ、よくよく地図を見てみたら、大阪も隣みたいなものではないか。ついでのついでだから大阪まで行ってしまえ。大阪まで行けば、関空から薩摩藩まではPeach Aviationで5,000円台だ。日によっては4,000円台もある。新幹線よりずっと安い。

失業者の分際で旅なんかしてる場合か? と非難なされる向きもあろうが、大國主大神に願い事を聞いていただくためには、いたしかたなきこと。決して極楽トンボのように、これ幸いと旅に出たわけではない。ないったらない。

ということで、悪霊祓いのために出雲に向かったわたしである。誘ってくれた友人とは広島待ち合わせだったので、まずは九州新幹線を使って薩摩藩より広島まで。

広島に来たからには広島風お好み焼きを食さねば、帝国軍人としては許されまい。もちろん広島であるから日本酒も呑まねばならぬ。午前11時過ぎであるにもかかわらず、長蛇の列ができていた「お好み焼 長田屋」なる店で、肉玉そば+日本酒をいただき、原爆ドームと広島平和記念資料館を見たあと友人と合流。高速バスで松江へと向かう。

高速バスが停車するJR松江駅の前には、銀色に輝く大きな看板が立っている。

「竹島 かえれ島と海 島根県」

竹島北方領土返還要求運動島根県民会議の看板である。帝国軍人としては島根県民会議に寄付のひとつもすべきではないかと思ったが、失業者が金払ってる場合ではないので、「ここはひとつ出世払いで」とつぶやきつつ止めておいた。わたしは抑制の効いた常識人なのだ。

まだ旧暦10月でないとは言え、既に神在月モード漂う島根の宿はどこもかしこも満室で、なんとか空いていたのがドーミーインEXPRESS松江である。宿泊料が痛い。痛すぎる。9,000円なのである。ブエノス・アイレスで泊っていた日本人宿の10倍である。

ドーミーインよ、帝国軍人をナメとんのか、ゴルァ! 軍票で支払うぞ。しかし、風呂にはテレビが付いとるわ、夜はタダで夜鳴きそばのサービスがあるわ、部屋には簡易プラネタリウムがあるわ、なかなかにゴージャスなホテルなのであった(当社比)。

翌日朝、西出雲行きのローカル線で出雲大社へ。駅には島根県観光キャラクターの"しまねっこ"が、「来てごさいてだんだん」と笑顔で佇んでいる。この日は出雲で全日本大学駅伝が開催されており、まちは大賑わいなのであった。

「平成の大遷宮」の大きな木看板が立つ出雲大社に着くと、早速社務所の受付に並び、祈祷の申込書に氏名・住所・年令・願い事を記入する。神主さんは、祝詞の中でそれを読み上げ祈祷するのである。

祝詞に耳をそばだてていると、意外なことに数多くの40代女子が良縁を祈願している。まだまだ諦めておらんのだな。しかし出雲大社よ、数え年で名前読み上げるのはやめんか。11月生まれのわたしなど、実年齢プラス2歳で読み上げられるのであるぞ。一気に目じりの皺が増えたような気がするではないか。

あ、いやいや、そのような不敬なことを考えるなど、滅相もございません。願い事を聞いていただくためには、29歳と読み上げられてもお怨み申し上げませんとも......え? 今何か言い間違いました?

ともあれ、とにかくわたしに取り憑いた悪霊を禊ぎ祓い給えと一心に祈りつつ、ご祈祷タイムは終了である。出口近くのお神酒をいただくところでは、すんでのところで「これこれ、そこなおなご、おかわりを持て」と言いそうになるのをぐっと堪え、抑制の効いた常識人ぶりを発揮した。広島で合流した友人とはここでお別れである。

昼食に出雲そばを食したあと、一畑電車で宍道湖沿いに松江まで戻り、Facebookでつつき合う仲の島根男子に、松江城と小泉八雲記念館などを夕刻まで案内していただく。ありがてぇありがてぇ。日本情緒あふれる街並や小舟が巡る堀川は、まことにもってエキゾチック・ジャパンである。

その後、鳥取まで移動なのであるが、松江・鳥取間を1時間30分程度で結ぶ"スーパーまつかぜ"なんぞ使うと4,500円もする。とんでもねぇこった。ローカル線鈍行を乗り継げば、2時間以上かかると言えど2,210円なので、こちらで鳥取に向かう。

さて、ローカル線鈍行の旅ならば、やはり島根の日本酒とつまみを買って、ゆったり旅情に浸るべきではないか。広島で日本酒を呑んだというのに、島根の日本酒を呑まないというのでは、帝国軍人として、島根県民から依怙贔屓との誹りは免れまい。

そういうことで、駅の売店で島根のカップ酒とアゴ野焼を購入。夜の帳が下りるローカル線のガラス窓を見ていると、「もみのこゆきとと行く山陰の旅」の旅人を演じているような気分になってきた。ふほほほほほ......ほっ、ほげ? ちょ、ちょっと待て。ト、ト、トイレに行きたいんだがっ!

うぅぅ、しまった。別れ間際に、島根男子と駅近くのカフェでコーヒーを飲んだのだが、これがポットサービスだったのだ。おぉ、島根よ、太っ腹だな、おめぇ......と、たっぷり二杯飲んだのがいけなかった。こ、これではカップ酒でローカル線旅情どころではないぞ。ぐぬぬぬっ!

大國主大神さまよ、今こそお前の力を見せる時だ! 鳥取のホテルに着くまで、おもらししないようになんとかしてくれ! 頼む! こんなところで散華するわけにはいかぬのだ。

到着まであと30分を切ってからは、列車内でずっともじもじしながら時を過ごし、鳥取駅に着いた途端に、もじもじ体勢でホテルまで駆けだし、なんとか事なきを得た。さすが大國主大神さまである。いい仕事してますね〜。

しかしながら、あとで調べたところ、乗車したとっとりライナーには、トイレが設置されていたようであった。♪わたしバカよね〜。

翌日、鳥取を案内してくれた女子は、ブエノス・アイレスの宿で一緒だった旅人である。実はブエノスの宿ではあまり話をする機会がなかったのだが、デジクリ2012/05/31配信分「ご旅行は計画的に〜エルドラドの秘宝〜」を書くにあたって、イケメン男子ストリップの実態を詳細にやりとりしてからの仲なのである。
< http://bn.dgcr.com/archives/20120531140100.html >

鳥取砂丘と、山陰の松島と呼ばれる浦富海岸を案内していただいた。ありがてぇありがてぇ。通りかかった漁村では、イカ釣り漁船が何艘も係留された小さな港のそばで、爺さまや婆さまが、黙々とイカを干す作業をしており、これまたエキゾチック・ジャパンなのであった。

その後、鳥取の繁華街を二人で歩いていると、元防衛庁長官・石破茂事務所を発見。これは帝国軍人としては見逃せない観光スポットであるので、ポスターとともに記念撮影を行う。

昼食は「たくみ割烹店」なる店で、鳥取牛の味噌煮込カレーである。デザートはもちろん二十世紀梨だ。鳥取市はカレールー消費量日本一であり、まちを挙げてカレーの新商品作りに邁進中であるらしい。

たった半日の鳥取観光を終えて、今度は駅前のバスセンターから大阪難波のOCATへ移動だ。いや、ここからはな、気を付けなあかんで。生き馬の目を抜く大阪やからな。しかももう夜やし。田舎者はようけ気をつけとかなな。

そう思っていたのだが、大阪に着くなり、いきなり路上で梨を売りつけられた。ナイフを突き付けられたよりはずっとマシだが、どういうことやねん!

「あ、すいませんー、ちょっといいですか」
「え、わたし旅行者なんで道わかりませんけど」
「いやいや、この箱の梨なんですけど、すごくいい梨なんですよ」
「はぁ......」
「デパートでは1個500円くらいで売ってるんですけど、今日はちょっと売れ残っちゃって」

「いや、でも、わたし旅行者なんで生鮮食料品とか買ってもですね」
「一箱買わなくても大丈夫ですわ。バラでもオッケー。一個でも大丈夫。300円でどうです?」
「はぁ......」
「ほんまにおいしい梨なんですよ。生産者さんからの直接仕入れなんです。そこの高島屋さんに行って比べてもろたらわかりますわ」

あんまし悪いヤツに見えんしなぁ......しょうがないなぁ。
「はぁ......じゃあ、一個だけ......」
しかしなぁ、あんなに人通りの多い大阪のど真ん中で、梨売りの兄ちゃん、一直線にわたしのとこに来よったんやで。もしやわたしのまわりから、気が弱くて断れない田舎者オーラが出まくっとったんやろか。あぁ、ほんまに都会いうところは油断ならんわ。

大阪の夜は、デジクリ仲間のヤマシタクニコ女史と永吉克之師匠に無理やり付き合っていただくことになっていたので、まずは堺駅で梨を振り回しつつヤマシタクニコ女史を待つ。初対面である。

堺駅近くの南蛮人の橋や、堺市民の誇り(なのか?)「旧堺燈台」を案内いただき、その後、堺市役所21階展望ロビーで永吉師匠と合流。夜景の中にぽっかり空いた暗い穴にしか見えない仁徳天皇陵を無理やり鑑賞後、居酒屋でノーブルに飲み食いしたのであった。ありがてぇありがてぇ。

宿泊したのは難波のファーストキャビン。じゃらんネットのポイントを使って1泊3,000円だが、豪華なカプセルホテルといった風情の宿泊施設なので、設備自体は新しく清潔だが、部屋に風呂やトイレはもちろん鍵もない。扉はアコーディオンドアである。海外でドミに泊れる人になら勧められる。

最終日は、日本一長い商店街と言われる天神橋筋商店街をうろつき、たこ焼きとワインの店「ワナカ・デ・ワイン」で軽食。たこ焼き6個と、10種類以上のワインから好きなものを選んで500円である。それにしても、天神橋筋商店街は想像以上に長かった。関空までたどり着いたときには、へとへとである。

関空は、国際線北ウイング、国際線南ウイング、国内線の大きな看板が出ているが、騙されてはいけない。Peach Aviationのチェックインカウンターはこのどれでもない。真逆のホテル日航関西空港側にある。

こちら側にはショッピングスペースやフードコートが少ないので、チェックインを済ませて国内線スペースに戻ると、ワイン売り場の売り子さんに捕まったので、うっかりそこでもグラスを一杯。

「なぜあなたは毎度昼間っから酒を呑んでいるのか」とのお尋ねあらば、「そこに酒があったから」と答えるしかない。わたしが呑みたいわけではないのだ。呑みたいわけではないのだが、目の前に酒が現れるんだからしかたがない。

これにて出雲大社悪霊祓いツアーはつつがなく終了したのであった。なにやら出雲大社でない成分もいろいろと入っていたような気もするが、些細なことだ。大國主大神さまは、そのようなことで願い事を聞いてくださらぬような狭量な神様ではない。たぶんないと思う。ないんじゃないかな。ま、ちょっと覚悟はしておけ♪

さぁ、これで9月分のバイト代もきれいさっぱりなくなった。正確には振り込まれる前に使い尽くした。しかし帝国軍人に必要なのは、この豪胆さなのである。あとは大國主大神さまにまかせたぞ! とりあえず男はいいから仕事と縁を結んでくれ。金と縁を結ぶでもよいぞ!

やるべきことを遂行し、まことに清々しい気分である。これで果報は寝て待つばかりじゃ。はっはっはっはっはっ!

※「サラダ記念日」俵万智
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4309402496/dgcrcom-22/ >
※「二人でお酒を」梓みちよ
< >
※「桃子、うさぎの耳になりたいな」日立マスタックスCM
< >
※「魅せられて」ジュディ・オング
< >
※「哀しみ本線日本海」森昌子
< >
※「心のこり」細川たかし
< >
※「関白宣言」さだまさし
< >

【もみのこ ゆきと】qkjgq410(a)yahoo.co.jp

かつてはシステムエンジニア。その後、名ばかり経営指導員。通販用ジュエリー撮影のバイトはクビ。←イマココ。

Peach Aviationに乗りまくっている友人によると、その日の運行最終便で機内食が余ると、保存が効かない食品は半額で提供されるのだそうである。知らんかったわ。

失業者は旅なんぞしている場合ではないのだが、こういうときに限って、JALから12月に消えるマイルのお知らせがやってきた。マズい。このままでは無料航空券が消えてしまう......。どうしても年内にJALを使ってどこかに行かなければならないのではないか。いや、これはいたしかたなきこと。決して極楽トンボのように、これ幸いと旅に出ようと思っているわけではない。ないったらない。

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編集後記(10/25)

●政府はいま「皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理」に関するパブリックコメントを募集中だ。女性宮家創設のための、見え透いた意見誘導の仕掛けである。ところが締め切りは12月10日、民主党政権は続いているのかヨ。その「論点整理」と称する作文の内容は、12人の有識者ヒアリングを「全然踏まえていない」という、とんでもないシロモノで、整理というより捏造そのものなのだ。女性宮家創設をしゃにむに進める民主党政権の目的は、まさしく皇統断絶のための種まきである。日本人の政党とは思えない。

ヒアリングでは、「女性宮家創設案」に賛成8名、反対4名。「尊称案」に賛成6名、反対1名。「旧皇族の養子・復帰案」に賛成6名、反対2名。という結果が出ている。ところが、論点整理では、「女性宮家創設案」は引き続き推進、「尊称案」は困難と断じて否定、国家公務員とする案を検討する、「旧皇族の養子・復帰案」は検討対象としない、と結論づけた。これを「有識者ヒアリングを踏まえた」と言い切るところが恐ろしい。「尊称案」を排し、代わりに出て来たのが、有識者ヒアリングで誰も提案していない「国家公務員案」である。皇族を国家公務員に、という失礼な発想はまともな日本人のものではない。

この論点整理は、国民を女性宮家創設に導くための意図的な作文である。12人の有識者はヒアリングを行ったというアリバイに使われた。だからパブリックコメントだって、どんなものに改変されるかわかったもんじゃない。それでも、反対意見をガンガン送ることは必要だ。やらないよりはましだ。

あの朝日新聞はなんと言っているか。女性宮家創設案を肯定、旧皇族の養子・復帰案に反対、「将来、皇位継承の問題を真剣に検討しなければならない時がくる可能性はある。そうなった時は、その時点で考えられる選択肢のなかから、その時の国民が答えを出せばいい」(10/10社説)。皇位継承の問題を真剣に検討すべきはもう遅過ぎるくらいだ。それを先送りせよというのは、やはり皇統断絶を狙っているからだ。【朝日の主張の反対が正しい】この公式はやっぱり正しい。最近は橋本市長とデキレース演じてたな〜。(柴田)

< http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=060121009 >
「皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理」に関する意見の
募集について

< http://www.asiagraph.jp/program/index.html >
本日より「ASIAGRAPH」展示 27日(土)まで 日本未来科学館

●英語でも「釣り」だなんて。面白いなぁ。中国語圏の方に、「日本映画を中国で上映すべき」と言ってもらいたかったなぁ。書いたとしても削除されるんだろうなぁ。/今回のラストに驚愕。油断してたよ......。人相悪くないっ。/「Peach Aviation」を調べてしまった。LCCなのか。果物売りはいつでも場所を変えて売ってるのだ。後から味が悪いとかでも文句を言うところがないのだ。と書きつつ、こういう判断ができてしまうのって、そういう事例が多いからなんだよなぁ、心が荒んでるよなぁと思ったのであった。

『魔法少女まどか☆マギカ』や『Fate/Zero』で有名な虚淵玄氏が宝塚初観劇、という情報を友人からもらう。「ヤベェ......宝塚ちょおヤベェ!! こんな世界があったとは!」というツイートが嬉しい。「次はオペラグラス用意する!」と書かれてあったので、また行かれるみたい。

前回書かなかったけど、オフレッサーを見た瞬間、すごいと思った。オフレッサーに見えた。他のキャラクターらも、特にロイエンタールのルックスは、自分の持つイメージそのままで嬉しかった(黒髪長髪を希望していたところもあった。軍人さんの黒髪長髪はあり得ないんだけどね......)。観劇後に友人には、オフレッサーがいた! と興奮気味に話していた。で、そのオフレッサーがラインダンスの中央に笑顔でいたと後で知って(目立ってたので顔を覚えてる)、くらくらした。

テンションが上がったのは幕開けのイケメン祭り、ラインハルトの脚、ヤンとユリアン、オフレッサー。好きな言葉やシーンはたくさんあって書ききれない。原作のいくつか好きなシーンで不満なところもあったんだけど、東京では改善されている箇所があると聞いたよ。いいなぁ東京で見られる人たち。(hammer.mule)

< https://twitter.com/Butch_Gen >  虚淵玄氏のTwitter
< http://morningmanga.com/blog/zuccazuca/1350468714 >
龍さん、明日海さんの役替わりは見たい。これで2回は行くことに......とほほ
< http://kosodatech.blog133.fc2.com/blog-entry-4117.html >
うちの家を、まったくの他人が支配してたことがあった