[3375] ハードウェアの進化で変わる開発スタイル

投稿:  著者:


《kobo gloユーザーは激怒した。必ずかの意味不明なUIを......》

■まにまにころころ[16]
 マンガとアニメの話、のつもりが、マンガ雑誌の話
 川合和史@コロ。 Kawai Kazuhito

■クリエイター手抜きプロジェクト[335]電子書籍編
 kobo gloで本を購入してみた
 古籏一浩

■データ・デザインの地平[24]
 ハードウェアの進化で変わる開発スタイル
 薬師寺 聖

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■まにまにころころ[16]
マンガとアニメの話、のつもりが、マンガ雑誌の話

川合和史@コロ。 Kawai Kazuhito
< https://bn.dgcr.com/archives/20121119140300.html
>
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こんにちは、前々回くらいだったか、森和恵さんとマンガ談義でもってなこと書いたら、実現することになりました。来月に予定していますのでお楽しみに。誰より楽しみにしてるのは私ですが。(笑)

森和恵さんとはかれこれ10年近いお付き合いで、お仕事関係よりも、マンガの貸し借りしたり、アニソン縛りのカラオケに行ったりと、マンガ・アニメ関係での交流の方が盛んです......って、あまりそのあたりを勝手にあれこれ書くと「イメージが!」と怒られそうなので、来月まで取っておきます。(笑)

◎──マンガとアニメの話

日本でマンガの話をする上で、避けて通れないのはアニメの話。ま、そもそも避ける気なんてさらさらありませんけれど。昔は「テレビマンガ」なんて呼ばれたり、アニメはしばしばマンガと同一視されてきました。鉄腕アトムにまでさかのぼらなくても、今も昔も、アニメはマンガが原作のものが圧倒的多数。

試しに、知ってるアニメのタイトルを、思いつくままに挙げてみてください。おそらくその半数くらいはマンガが原作なんじゃないでしょうか。ワンピースやナルトは、アニメよりマンガのイメージの方が強そうですが、サザエさんもドラえもんもクレヨンしんちゃんも、名探偵コナンもけいおん!もマンガ原作。

ポケモンやイナズマイレブンはゲーム原作、プリキュア、エヴァンゲリオン、ガンダム、マクロスはアニメオリジナル。アンパンマンは絵本が原作。あと、ライトノベルなどの小説原作もありますが、やはりマンガ原作が圧倒的ですね。

◎──マンガ原作のアニメが多いわけ

見出し付けて書くまでもなく、その親和性の高さにつきそうですが。ストーリーと絵が既にあるわけですから、あとは音入れて動かすだけ、と。でもそれだけではなくて、マンガはアニメ化される前に、幾重もの厳しいふるいにかけられているので、人気も読みやすいんですよね。

わざわざアニメ化しようってことなので、少しでもコケる可能性は減らしておきたい。そこでマンガはとってもアニメ原作に向いているんです。特に雑誌連載されているマンガは。

◎──マンガ雑誌の果たす役割

「週刊少年ジャンプ」の名前を知らない人は千人に1人もいないと思いますが、私たちはジャンプやマガジン、サンデーといった「マンガ雑誌」の存在を、何の疑問もなく受け入れています。マンガは週刊や月刊の雑誌で連載され、それが単行本にまとめられて、と。

雑誌の読者アンケートで評判が悪いと、容赦なく打ち切られるジャンプのシステムは有名ですが、どんな雑誌でも、雑誌掲載の時点で作品の人気はチェックされます。それを元に、続いたり打ち切られたり、ストーリーの方向修正が行われたり、人気キャラクターの扱いがよくなったり。

いくつもの作品をまとめて市場調査にかけているようなものですね、しかも、お金をもらって。このマンガ雑誌のシステムは、おそらく日本特有のもので、日本のマンガ文化の根幹です。

マンガ雑誌の果たす役割はマーケティングの機能だけではなく、漫画家の育成にも大きな役割を果たしています。アシスタントの制度や編集の存在も大きいですが、それよりなにより、「作品発表の場」としての役割が大きい。

例えば、週刊少年ジャンプでいえば、ピーク時で650万部、雑誌が売れなくなった今でもなお280万部が毎週発行されています。これがどういうことかというと、たとえどんなに無名の新人も、週刊少年ジャンプに掲載されれば、超人気作のナルトやワンピースと同数の280万人がとりあえず掲載誌を手に取ってくれる、ということ。

読まれるかどうかは別問題ですが、10人に1人でも読んでくれれば28万人、100人に1人でも3万人近くが目にするわけです。聞いたこともない作家の作品を。しかもその一部はアンケートで評価までしてくれる。

人気作の例として名前を挙げてきた『NARUTO -ナルト-』や『ONE PIECE』は、残念ながら(?)初連載からメガヒットという例外作品ですが、同じジャンプ作品である『テニスの王子様』(全42巻)には『COOL-RENTAL BODY GUARD-』(全3巻)、『Bleach』(既刊56巻)には『ZOMBIEPOWDER.』(全4巻)という、代表作以前の地味な連載作品が存在しました。

また、多くの場合、連載の前には、単発の読み切り作品という形で掲載されたりします。先に「マーケティングの機能だけではなく」と書いたもののこれらもマーケティング活動ですが、このおかげで、新人作家の作品も広く世に問うことができ、それはマーケティングだけでなく、未来の人気作家の育成、発掘にも一役買っているんです。

◎──転換期

そんなマンガ雑誌ですが、今、大きな転換期を迎えています。ひと言で言えば、売れなくなってきたんですね。まあ、売れなくなってきたのは結構前からなのですが、さらに冷え込む兆しというか。

原因のひとつは娯楽の多様化で、ピンポイントでしか時間もお金も使う余裕がなくなってきていること。雑誌で色々読むんじゃなく、興味あるものだけ単行本で買えばいいやって感じになってる。

さらに、追い打ちをかけるのが電子書籍などの存在。これまで以上に、さらにピンポイントで入手可能になってくる感じ。これらは先行して音楽業界が直面している問題でもあるんですが、その音楽業界も打開策は見いだせていない。

売上げだけの話で言えば、CDが売れない分iTunesなどで補っていこうって流れですが、それってキャッチーな曲しか聴いてもらえなくなるんですよね。これまでアルバムに入ってたような、冒険というか捨て曲みたいなのが、じわじわ人気になって、いつの間にか代表作の仲間入りしてたっていうようなことが、生まれなくなってしまう。全曲シングルA面みたいになる。

でも音楽の場合は、アルバム曲もシングル曲も、お財布は一緒なので、とりあえずは売れればまあ目先の問題はないわけですが、マンガの場合は、既に売れてる作家以外が淘汰されかねない事態に。悩ましい話です。

◎──試行錯誤

転換期というのは、端から見ている分にはある意味面白い時代で、様々な形で試行錯誤がなされています。

これまでマンガ雑誌が担っていた役割の一部を、Web雑誌という形に置き換えられないかとの試みも見られます。また、赤松健や佐藤秀峰のように、出版社とは別での動きを独自に行う作家も現れています。

まだまだ当分は試行も錯誤も続きそうですが、描き手にとっても読み手にとっても幸せな形が早く生まれることを願います。そろそろ生まれてくれないと、試行錯誤する体力もなくなってしまうと思うので。

・となりのヤングジャンプ
< http://tonarinoyj.jp/
>

・週刊ヤングジャンプWeb連載
< http://youngjump.jp/web_comic/
>

・裏サンデー
< http://urasunday.com/
>

・「裏サンデー」が大ピンチ、赤字で閉鎖の可能性 「......マジです」
< http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1211/16/news072.html
>

・Jコミ
< http://www.j-comi.jp/
>

・「ラブひな」赤松健さん、無料漫画サイト経営にかける「夢」
< http://ascii.jp/elem/000/000/573/573268/
>

・漫画onWeb
< http://mangaonweb.com/welcome.do
>

・「ブラックジャックによろしく」が2次利用フリーに
< http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1208/20/news098.html
>

◎──あれ?

アニメの話をするつもりが、マンガ雑誌の話に終始してしまいました。いつも最後はこんなこと書いてる気がしますが、毎度毎度行き当たりばったりで書いてちゃダメですね......いや、最初はそれなり考えてたんです。

アニメを支えるマンガ原作、そのマンガを支える仕組み、そんな感じであれこれ書いていこうと。マンガ雑誌の話、同人誌マーケットの話、PixivなどWeb媒体の話なんかを書いていこうかなって。

マンガを支える仕組みがしっかりしているから、安定的にアニメに原作を共有できる。アニメ化されることで原作も大幅に売上げが伸びて、出版社も原作者も潤う。ハッピーな循環がそこにある、なんてとこで、いい感じにまとめようかと思って書きはじめたものの、マンガ雑誌の話を書いてる時点で、いやいやマンガ雑誌は今ピンチを迎えてるじゃんと、どんどん話が横道に逸れていき、ころころ転がってしまって。

回を重ねる毎に私の適当な性格が露呈していきますけど、私の性格が改善されるのを待たないで、どうか諦めてこのいい加減さに慣れてください。あ、諦めて見捨てるのはナシで!

【川合和史@コロ。】koro@cap-ut.co.jp
合同会社かぷっと代表
< https://www.facebook.com/korowan
>
< https://www.facebook.com/caputllc
>

・アニメの話(番外編)
これ、すごいなー。メルセデスのアニメ広告。
< http://promotion.yahoo.co.jp/a_class/
>

・イベント紹介(その1)【東京・大阪】
12月1日に東京で第31回WebSig会議開催!
「創り手が意識すべきタブレット,ユーザが使い始めるタブレット」
< http://websig247.jp/meeting/31/000254.html
>

それを大阪で中継します!
< http://kokucheese.com/event/index/62667/
>

・イベント紹介(その2)【東京・大阪】

12月3日に東京、12月6日に大阪で、アプリクリエイターのためのWindows8パーティ、「8nights」が開催されます!
< http://www.microsoft.com/ja-jp/events/8nights/default.aspx
>

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■クリエイター手抜きプロジェクト[335]電子書籍編
kobo gloで本を購入してみた

古籏一浩
< https://bn.dgcr.com/archives/20121119140200.html
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三か月前に何かと話題に上ったkoboですが、先日新しいkobo gloモデルが発売されました。当時は散々な評判だったkobo touchですが、新しいモデルであるkobo gloはどうなのか、ちょっと書いてみます。

現在ではiPad mini、Nexus 7、Kindle(Fire)など多くのデバイスで電子書籍を読むことができます。その中で、kobo gloは生き残れるのでしょうか。というか、生き残れないと分かっているのか、買う人がまわりには誰もいません。

誰も買わないからと言って、kobo gloの価値がないわけではありません。実は、こういうマイナーで売れそうもないデバイスは、20年後とか30年後になるとプレミア価格がつくことがあります。コレクターの方は今のうちに購入しておくのがよいかと思います。

将来の価値が嘱望される(?)kobo gloですが、前回のkobo touchの批判を受け止めており、丁寧な日本語マニュアルが入っています。あと、注文してないような気もしますが、32GBのSDカードもついてきました。

kobo gloを箱から取り出し、電源を入れます。設定の手順としてはkobo touchと同じですが、kobo gloはパソコンなしで設定できるようになりました(パソコンなしでいいのは設定だけ)。これは無線LANに接続してIDやパスワードを入力するだけで済みます。

電源を入れてから無線LAN設定は問題なく終了しました。設定が終わると早速アップデート(&本のデータのダウンロードなども)が行われました。このアップデートは長いので、他の本を読んで時間を潰すとよいでしょう。

無事に終わると説明が表示されます。説明は全部で8ページあります。なお、kobo gloは一見するとパソコンなしでもいけそうですが、楽天の会員登録などパソコンで行っておかないといけないことがあります。パソコンを持っていない人にkobo gloをすすめるのは、あまりよいとは言えないでしょう。

さて、早速新たな漫画本を購入してみます。とりあえず「ジョジョの奇妙な冒険」の第1部の1巻を購入します。というのも、この漫画本はKindleでも購入していて比較対象になるかと思ったからです。

kobo gloはパソコンなしでも本を買うことができます。ホーム画面下の「本を探す」ボタンをタッチし、「ストアを検索」をタッチします。あとは、キーワードを入力すると本の候補が表示されます。

「ジョジョ」と入れるだけでよいかと思ったら、予想外の罠がありました。どうも検索結果は一行15文字程度しか本のタイトルが表示されません。改行して本のタイトルを表示すれば何の問題もないのですが、「ジョジョの奇妙な冒険」のようにタイトルが長いと、購入する本が何巻なのか把握しにくい状態になってしまいます。早速、購入する気力が失せました。

「ジョジョ」とだけ入れたのが失敗だと思われるので、今度は「ジョジョの奇妙な冒険 第1部」と入力しました。ところが、検索結果は0です。どうしてなのか......昔からパソコンをいじっている人ならすぐに推測できると思われますが、1が半角だと駄目なようです。全角にして検索すると、ようやく出てきました。

しかし、これでは18年近く前の1994年頃のYahooの検索エンジンよりよろしくないのではないかという気もしますが、気がするだけにして次に進みます。

「ジョジョの奇妙な冒険 第1部」は3巻ありますが、タイトルが一行しか表示されないため、ぱっと見では本のサムネールが頼りです。もちろんタイトルをタッチすれば期待通り本の紹介ページには表示されます。

余計な手間がかかるところがkoboらしいと言えます。間違って購入しないように、という三木谷社長の配慮に違いありません。

「購入する」ボタンをタッチすると、何かがダウンロードされ画面が切り替わります。購入したのかと思いきや、違いました。Kindleとは違うようです。念のための確認画面が出ます。「購入する」ボタンをタッチします。

これで、ようやく......と思ったらクレジットカードの期限が切れていて駄目。仕方ないので入力し直して購入。ところが、Runtime Errorと表示され画面にはXMLが......。

え〜、仕方ないのでホーム画面に戻ってやり直しです。ところが、やり直しても本を購入できません。クレジットカードの期限が切れています、とのメッセージ。先にこっちが切れそうです。

仕方ないのでパソコンを使ってカード情報を変更。また、最初からkobo gloで検索し直しです。kobo touchよりも反応速度が速いので、ひどいストレスになるわけではありませんが、直前の検索履歴は保持して欲しいところです。

検索して出てきた項目に「購入する」ボタンがあるのでタッチします。......不思議なことに、検索結果での「購入する」ボタンは飾りのようで、押しても何の反応もありません。

楽天のダミートラップに見事にひっかかってしまいました。ここでも間違って購入しないようにという、三木谷社長の配慮が感じられます。

項目をタッチして再度購入を試みます。ところが、クレジットカードの情報をパソコンで変更しても、kobo gloには反映されないようで本を購入することができません。同期させても駄目。

30分ほど試行錯誤して判明。ようやく本を購入できました。まずパソコンでクレジットカードの変更をします。次にしばらく待ってからkobo gloで同期させた後に、クレジットカードの情報をkobo gloにも入力。運が良ければ購入できます。

XMLっぽいエラーメッセージが出たら、購入画面で同期させて「楽天会員の情報を反映させる」というリンクをタッチします。駄目でも、koboの電源を落としたりして何度かクレジットカードの情報を入力すると、そのうちうまくいきます。

ようやく本を購入できたので、Nexus 7で購入した同じ本と比較。苦労した甲斐があって、意外と読みやすい端末です。目に優しいというのもありますし、映り込みがほとんどありません。漫画本だと単行本と同じ感じで読めます。バックが紙の色と似ているせいかもしれません。Nexus 7ではさすがに目が疲れます。iPhone/iPadもですが。

青空文庫の「走れメロス」も表示させてみました。もうちょっと解像度が欲しいところですが、0.1秒ほどで切り替わるためストレスがありません。kobo gloはEPUBベースだと高速です。kobo touchと比べると相当に改良されている感じがします。ちなみに「走れメロス」をkobo glo用にアレンジするとこんな感じです。

"kobo gloユーザーは激怒した。必ずかの意味不明なUIを取り除かねばならぬと決意した。読者には使い方がわからぬ。読者は一般人である。"

kobo gloは悪くはないのですが、解像度2倍(Retina)でカラー表示、表示速度が4倍(漫画の表示が遅い)、漫画本5000冊分の容量(今は20〜50冊)、ワンクリックで楽々購入できるようになれば、もっと売れるでしょう。


【古籏一浩】openspc@alpha.ocn.ne.jp
< http://www.openspc2.org/
>

kobo gloを買う? とかけて総理大臣ととく......その心は「のだ(Noだ)」ということで、kobo gloの使い方のページも用意しておきました。役に立たないでしょうけど。

・kobo glo 使い方辞典
< http://www.openspc2.org/reibun/kobo/glo/
>

iPad miniの使い方のページも作るだけは作ってみました。

・iPad mini (アイパッドミニ) 使い方辞典
< http://www.openspc2.org/reibun/iPad/mini/2012/
>

・Nexus 7 (アンドロイドタブレット) 使い方辞典
< http://www.openspc2.org/reibun/Android/Nexus7/
>

・すべての人に知っておいてほしい jQuery & jQuery Mobileの基本原則
< http://www.amazon.co.jp/dp/4844362984
>

・HTML5ガイドブック 増補改訂版
< http://www.amazon.co.jp/dp/4844332937
>

・JavaScript逆引きハンドブック
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・10日で覚えるHTML5入門教室
< http://www.amazon.co.jp/dp/4798124184
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・改訂5版JavaScriptポケットリファレンス
< http://www.amazon.co.jp/dp/4774148199
>

・ハイビジョン映像素材集
< http://www.openspc2.org/HDTV/
>

・クリエイター手抜きプロジェクト
< http://www.openspc2.org/projectX/
>

・Adobe Illustrator CS3 + JavaScript 自動化サンプル集
< http://www.openspc2.org/book/PDF/Adobe_Illustrator_CS3_JavaScript_Book/
>
吉田印刷所の「印刷の泉」でも購入できるようになりました。

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■データ・デザインの地平[24]
ハードウェアの進化で変わる開発スタイル

薬師寺 聖
< https://bn.dgcr.com/archives/20121119140100.html
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本連載を開始して、2年になりました。ご愛読ありがとうございます。

●アイデアの生まれた場所が開発室になる

「パソコン」という言葉が一般ユーザーに広まり始めて30年、ハードウェアは格段に進化しました。その昔、筆者が教科書以外で買った最初のプログラミング入門書「マイコン ソフトウェア入門 初めての人のためのBASIC(古賀義亮著)ブルーバックス」(昭和57年刊第9刷。初版は昭和54年)の「附録」には、当時発売中だったパーソナル・マイクロ・コンピューターのリストが掲載されています。

RAMは16KB〜256KB、ROMが4〜32KB、ディスプレイは40文字〜80文字×16〜25行、記憶装置としてカセット・テープが標準装備、APPLE IIやSORDのようにミニ・フロッピーディスクが使える機種もあります。「カラーディスプレイ」が、当時はPRポイントでした。NEC PC-8000シリーズは、RAMが16KB実装、32KB拡張可となっています。

それが今ではどうでしょう。サイズ、速度、容量、通信、そしてセンサー。どれをとっても、桁違いです。同書の「あとがきにかえて」の「パーソナル・マイコンはどこまでのびるか」には、次のように書かれています。

──現在のところ,パーソナル・マイコンの計算速度は、まさに桁違いに大型
  コンピューターより遅い。これも半導体の製造技術が日進月歩である今日、
  パーソナル・マイコンの計算速度も速くなって、大型コンピューターに近
  づくことは間違いない。

現在のPCは、古賀氏の綴った状況に向かって日々進化しています。Windows 8の驚愕すべき起動速度、さらにはMicrosoft Surfaceの優れた携帯性(※1)。アイデアを思いついたら、その場でアプリを開発できる状況です。

スマートフォンとPCは近づきあい、やがてウェアラブルPCと、どこでもスクリーンは、完全に開発場所を選ばない状況をもたらすでしょう(※2)。

このような進化は、提供されるアプリを使うだけの、プログラミングには縁のなかった一般エンド・ユーザーをプログラマ化します。

会議室でブレーンストーミングしながら、ネットワークを介して打ち合わせしながら、ソーシャルメディアでコミュニケーションしながら、居酒屋で仲間と飲みながら、家族と食卓に向かいながら、会話の中のヒントやプランをその場で即座に形にする、気軽な開発スタイルが見られるようになるでしょう。それがカフェなら、片手にコーヒーカップを持ち、利き手で画面にタッチしながら。

そして、一般ユーザーが直感でサクッと作った初めてのアプリが、プロのソフトウェア・エンジニアが丹精込めて仕上げたアプリより、多くダウンロードされることも考えられます。

女子高生が化粧ポーチの奥から、マリメッコかシビラかというような色彩にデコられた板(PC)を取り出し、鮮やかなショート・ネイルの指で数分弾いたたかと思うと、すぐに一本のアプリが完成し、公開するや世界中の女子高生がダウンロード、といったニュースがネット上を賑わすことも、想像に難くありません。

●中の人と外の人の役割分担が変わる

ハードウェアの進化は、開発者層だけでなく、開発手法も変えつつあります。

斬新な処理でない限り、1からロジックを考えなくとも、既存の処理を組み合わせてアレンジするだけで、アプリが完成する──それもまたプログラミングです。

たとえば料理において、スパイスを集めて挽くところから始めるのではなく、市販のカレールーを使ったとしても、我々はそれを料理と呼ぶように、市販品の特性や、食材との組み合わせ方、アレンジの方法を知って、食べた人が唸るものに仕上げることも、ひとつの評価すべきスキルです。(※3)

メーカー側は、上等のツール(鍋)と、コントロール(ルー)と、テンプレート(基本のレシピ)と、サンプルコード(応用レシピ)を提供してくれます。そして、メーカーあるいはその周辺の研究開発者たちが、業務用の製品を作ってくれます。メーカーの中の人が行っている作業まで担う必要はなくなります。

メーカーの外の人には、主に、処理の情報を収集し、組み合わせ、応用方法を考える作業がもとめられるようになります。提供されるものをアレンジしてふるまったり、自分なりのコツ(Tips)をブログで公開したり、業務用製品を使いつつ、それにふさわしい場を提供する(たとえばレストラン経営者のような)役割を担うようになります。

開発者が増えると、類似のアイデアのアプリがいくつも公開されるようになります。ダウンロードしてもらうには先行して公開したほうがよいでしょうから、開発の速度も重視しなければなりません。

料理において、圧力鍋で調理時間を短縮したり、途中まで作った状態で冷凍したものを随時解凍して利用したり、一工程を保温鍋に任せて次の作業の段取りをするように、開発時間を短縮し、いちはやく公開しなければなりません。

さらには、ありあわせの食材で素早く作る臨機応変な姿勢も持たなければなりません。それは、手持ちの素材で賄ってアプリを作り上げる姿勢です。

つまり、言語仕様を理解し、設計を行ったうえでロジックを積み上げる技術を獲得するよりも先に、利用できるテンプレートやサンプルの情報を多数持ち、「この方法で、この動作が実現できているのであれば、目的の動作を実現するには、同じ方法が使えるはず」と目星をつけて試し、迅速に形にして、矢継ぎ早に公開していく機動力が重要になります。それには、次の五つのスキルが必要になります。

(1)新しいデバイスや情報に興味を持つ、好奇心。
(2)ソーシャルメディアなどで技術情報を共有したり、開発物を告知できる
   友人を作る積極性。
(3)多数の情報の中から、自分が作りたいアプリに直接役立つ、即効性のあ
   る情報をかぎ分ける嗅覚。
(4)頭の中で完成形を作ったうえでマシンに向かうよりも、思いついたら即
   コーディングする、気軽さ。
(5)演繹的にロジックを積み上げるよりも、頻出するフレーズを組み合わせ
   て試してみる、帰納的な手法。

●アイデアひとつで、誰でも今すぐプログラマ

従来、プログラマという職業は、エンジニアの土台の上に位置するソフトウェア・エンジニアの一種だったはずです。

しかし、誰でも開発する時代になると、「プログラマならばソフトウェア・エンジニアである」は真であるとは限りません。

筆者がここ数年の間に読んだ本の中で良書だと思った一冊に、「プログラマ現役続行(柴田芳樹著、技評SE新書)」があります。筆者は、この本を「エンジニア現役続行」として読みました。まさしく、IT以外の、重厚長大系のエンジニアにも当てはまる内容だからです。

生命にかかわる医療系のアプリや、インフラの生命線たるアプリの開発にあたるプログラマは、この本に書かれているように、「自分が作成したソースコードを理解して説明できる(P.68)」必要があると思います。エンジニアリングを理解し、エンジニア精神を持っていなければなりません。同書は、そのプロフェッショナル魂を持ち続けるための一冊です。

が、そういった、同書のターゲットであろう「プログラマ」とは異なる、同じプログラマという言葉で表されるけれどもソフトウェア・エンジニアではない、新しいタイプのプログラマが増えています。

彼らには、新しい役割があります。その役割とは、生活基盤を支えるというよりも、生活を彩り、より快適にすることです。生活や業務の中でのちょっとした問題を解決するアプリや、エンターテインメント性のある小品をすばやく開発し、飽きやすく倦みやすいヒトというものに、新鮮な驚きと楽しみと利便性を提供し続けることです。

料理を作るにあたって、食とは何かを知り、栄養学の知識を身に着けてからでなければ、包丁を握ってはならないなどという決まりなどないように、エンジニアリングの現場に身を置いた経験がなければ、あるいは、ソフトウェア工学を修めていなければ、アプリを開発してはならないなどという決まりはありません。

アプリを一本でも公開し、一本でもダウンロードされたなら、その発行者は「プログラマ」と呼ばれるでしょう(当人が自分をプログラマだと思うかどうかは別として)。

文系出身者でも、子供でも、高齢者でも、アイデアひとつで誰でも今すぐプログラマになれる可能性がある、そういう時代になったのです。

●ソフトウェア・エンジニアにもとめられる、守備範囲の拡大

これまで筆者は、技術書や記事を書くにあたって、「敷居は低く、壁は高く」を旨として、表現を使い分けてきました。技術に関心を持つ人々を増やすために、親しみやすい書き方を工夫し、一方で、プロを目指す人々には仕様書ライクな書き方を心がけてきました。

しかし、既に壁は低くなりました。低くなった壁は簡単に越えられるので、それで口を糊しようとする人口が増えます。それは内製化や知り合いへの安価な依頼につながることもあります。

メーカーの中の人や学術機関の研究者でない限り、ソフトウェア・エンジニアであるプログラマの中には、この影響を受ける人が何割かはいるでしょう。それらの人々は、技術力の高低には関係なく、作業の守備範囲を拡大する必要があるかもしれません。たとえば次のようにです。

(1)前述の五つのスキルを磨き、エンド・ユーザー側のコミュニティのリー
   ダー的な役割を担う。
(2)企画デザインや素材制作まで手掛け、アイデアとビジュアルとサウンド
   での差別化を狙う。
(3)開発実務を行う傍ら、人口の多い団塊世代にプログラミングを指導する
   講座や、幼児や小学生の原石を見抜いて育てる、教育者の役割も担う。
(4)メーカーとエンド・ユーザーの間にあって、メーカーが提供していない
   サンプルやテンプレートを開発して、エンド・ユーザーの開発を支援
   する。
(5)ソフトウェア工学やハードウェアの知識がなければ実装不可能なテーマ
   にポイントを絞って、しぶいアプリを開発する。

これから先、メーカーの提供する商品はますます充実し、便利になり、進化した計算機は、開発者の創造的な作業の一部まで代行するようになります。本連載第第21回「計算機製アートの席巻する日」で紹介した事例のように、計算機は作家を代行するまでになっています(※4)。

音楽においては、「ぼかりす」のように、計算機とヒトのスキルを融合する試みも既に始まっています(※5)

これから一〜二年、ヒトと計算機の担う役割が変わるなか、仕事も人生の喜怒哀楽も、大きく変わります。旧来のソフトウェア・エンジニアにとっては、リスクをチャンスに変えなければならない厳しい時代になるでしょう。

その一方で、一般PCユーザーにとっては、自分では気づいていなかった開発者としての潜在能力を花開かせる、素晴らしい時代となるに違いありません。

※1 Microsoft Surface with Windows 8 Pro のスペックは、CPU: Intel Core i5、ストレージ: 64GB, 128GB で、ご存知の通り、薄くて軽量です。
< http://www.microsoft.com/Surface/en-US/surface-with-windows-8-pro/specifications
>

※2 本連載第18回「コントローラー化する、携帯デバイス」
< https://bn.dgcr.com/archives/20120521140100.html
> 参照。
なお、本連載中で述べていることは、マイクロソフト社の公式見解ではありません。筆者は Microsoft MVP ですが、記事の内容は、筆者個人の考えを述べているにすぎません。

※3 この現象は、なにもアプリケーション開発に限ったことではなく、デザインの世界では、一足早く同じ状況になっています。

顧客の要望を聞きながら1から企画して1から素材を作り時間をかけて形にする人も、市販素材をうまく選択してレイアウトして数時間で作る人も、どちらもデザイナーであり、受注条件に応じて、二つの方法が使い分けられることもあります。

※4 作家自体を計算機に代行させる瀬名秀明氏のこころみについての報道も参照してください。
「コンピュータは星新一を超えられるか」 人工知能でショートショート自動生成、プロジェクトが始動(ITmedia ニュース)
< http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1209/06/news112.html
>

音楽では、ピアプロ作品を解析して楽曲を検索できる「Songle」< http://songle.jp/
> を見れば、計算機の能力を体験できるでしょう。精度が高まれば高まるほど、必然の出会いを演出することが課題になるかもしれません。
筆者ブログの「必然の出会いをいかに演出するか。ひとりのユーザーとして、ネットショップに望むこと。」も参照。
< http://blogs.itmedia.co.jp/seindesign/2010/12/post-6924.html
>

※5 「ぼかりす」は、ヤマハ ソフトウェアによる、歌い方をまねて人間らしく自然な歌声合成を可能にするソフト「VOCALOID3 Job Plugin VocaListener(ボーカリスナー)」。ボカロ楽曲における歌唱の精度向上が期待される。
< http://jp.yamaha.com/news_release/2012/12091801.html
>

■Windows デベロッパー センター
< http://msdn.microsoft.com/ja-jp/windows/
>

■Windows Phone 8
< http://www.windowsphone.com/ja-jp
>

■Microsoft Surface
< http://www.microsoft.com/surface/en-US
>

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◆7曲入りアルバム「イメジェリの地平 feat.巡音ルカ」

1980年代前半に書いた全7曲。Amazon MP3、iTunes で発売中。
< http://itunes.apple.com/jp/album/out-imagery-feat.-megurine/id555002559
>

・試聴 PV
<
>

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【薬師寺聖/個人事業所 セイザインデザイン】
個人事業所 < http://www.seindesign.net/
>
< infosei@seindesign.net >

絵・音・詩・文・コードを扱うフリーのクリエーター、思索家。エンジニアリング会社を経てデザイン事務所に勤務後、XML1.0勧告翌月に退職して開業。科学技術や医療・福祉分野のXML案件を手がけながら、書籍や記事を多数執筆(PROJECT KySS名義)。現在は、受託業務から独自開発にシフト中。
Microsoft MVP for Development Platforms - Client App Dev (Oct 2003-Sep 2013)

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編集後記(11/19)

●ユニバーサル映画100周年記念超大作「バトルシップ」のDVDを見た。2012年の年間ワースト映画の一つという批評家もいるようだが、わたしにとっては、始めの30分と終りの10分以外はかなり楽しめたB級SF大作であった。宇宙から正体不明の物体が地球に降下して来る。これは太陽系外の地球型惑星との交信を試みる国際ビーコンプロジェクトがもたらした、エイリアンの来襲である。地球からの通信がエイリアンを呼び寄せてしまったのだ。

「例えば地球外生命体がコロンブスで、俺たちが先住民だったら?」と問う学者のシーンがある。答えはジェノサイド、地球人抹消である。この映画はそういう危機的設定のはずだが、全体にお気楽な感じなのはどういうわけだ。

飛行物体のひとつは香港ほかに落下して大災害をもたらし、4体がハワイ沖で行われている環太平洋合同演習RIMPACのエリアに降下する。そこでアメリカと日本の護衛艦3隻が調査のため派遣される。海上に姿を見せる巨大構造物(母船?)はバリアを張り、3隻をその内にとりこんでしまう。かくして、エイリアン側の3体の戦艦(?)と地球側の護衛艦3隻がバトルを開始。

あたるものすべてを破壊する球形回転歯車、着弾するとその地点にもぐりこんで内部破壊する爆弾、エイリアンの兵器はユニークで超強力だ。地球防衛軍あやうし。だが、なぜかエイリアンは航空兵力をもたず、攻撃する基準が「攻撃性を感知した相手」だという。だから、そこをズルい地球人に突かれて攻撃されてしまう(わたしはどっちの味方だ?)。

結局、双方の戦艦はすべて撃沈されるが、地球人はとんでもない代物をひっぱりだして、エイリアンの母船とタイマンを張る。ここで出て来たのがインチキな孫氏の兵法。バリアを無効化したところで勝負あった。空軍の戦闘機が空中の球形回転歯車を撃墜、母船はミサイル一発で轟沈。いやー、なかなか楽しかった。浅野忠信もいい役だし(この人、どうしてもグリコ実写版・磯野カツオのイメージに直結)。やっぱりアメリカ映画は馬鹿でおもしろい。(柴田)

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●海外のサイトでよくやってるアプリの見える福袋。ちょっと前に、Evernoteの一年間プレミアムアカウント定価4,000円が、他のアプリ14個とセットで29ドルというのがあって、Evernoteはあまり使っていないからと迷っているうちに終わってしまった。普段先送りしているものも、セールだと迷っちゃうってのが何だかな〜(汗)

試用版を一度立ち上げてみただけで、忙しさにかまけていたら試用期間が終わってしまい、これまた買うのをためらっていた『TextExpander』含む9つのアプリがセットで29.99ドル。日本円で2,500円程度。今月末まで。TextExpanderは、入力補助アプリ。主にテキストで使う。省略語(スニペット・呼び出し用のキー)を入れると展開されて表示される。

App Storeでは3,000円で売っているのだからと買うことにした。『TaskPaper』は既に持ってるし、『PathFinder』は気になるけど『TotalFinder』を使ってるし、他のアプリも類似品を持っていたり、たぶん一生使わないわと思えるものだったりで迷ったんだけど。続く。(hammer.mule)

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Text ExpanderやPath Finder、TaskPaperなどがセットで2,500円。「BUY NOW」ボタンから
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わかばマークのMacの備忘録:Text Expander
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[動画あり]快適な文字入力には絶対に欠かせないアプリ、TextExpanderで使用中のスニペットをまとめてみた