気になるデザイン[87]圧倒的に破壊力のある本/津田淳子

投稿:  著者:  読了時間:5分(本文:約2,100文字)


もう今週末は12月なんですね......。おそろしや。今年の総括というわけではないのですが、年末になるとバタバタバターッとなってしまうので(つくっている『デザインのひきだし』の締め切りが年末年始なので、毎年慌ただしいのです)、ちょっと早いけど、今年のことを振り返ってみようかと。

気になるブックデザインの本はいろいろありましたが、ブックデザイン関連で2012年で気になったことと言えば、ブックデザインに関する展覧会が多数開かれたなぁということ。それも非常に見応えあるものが多くて、とても刺激を受けました。

中でもあまりの凄さに、見ている途中で知恵熱というかぐったりしてしまい、休憩してから再度見たほどの展示が、武蔵野美術大学で開かれた「近現代のブックデザイン考I」だった。

これは明治以降につくられた、近現代の書物の礎とも言えるすばらしいブックデザインの本の展覧会で、それらの本が「造本の美」「装丁の美」「本文の美」の3カテゴリに分けて展示されていた。




いろいろな版式を用いて刷られた、今のオフセット印刷では出ないような色の印刷や、今でも新鮮に映るビジュアル。また造本も非常に分厚い本を中綴じしていたり、本文組も一見トリッキーにも見えるような実験的な組がなされていたりと、一冊を丹念に眺めて見てはため息をつき、ということの繰り返しで、さほど広くない会場だったが、見終わるのに(途中の休憩時間は抜いて)3時間くらいかかってしまった。

どれも工夫や技術や手技が駆使された美しい本ばかりで、もう欲しくなってしまうものばかり(苦笑)。実際、展覧会を見終わったあと、古書店で何冊か買える値段のものは買い漁りました。

実物を手にしてみると、重さや質感、ページを開いた感じなどでも、また違った印象を感じるものもあって、「他の本もどうにか手に入らないものか」と、財布を覗きつつため息をついているのでした。

こうした展覧会に出されている本は、この時代につくられた本の中でも選ばれしもので、全部が全部こうしたすばらしいブックデザインの本ではなかったということは重々承知だし、本の置かれている状況や流通の状態、本にかけられる手間ひまやお金など、今とは状況が違う部分も多いこともよく分かっている。

それでも「昔の本は勢いがあって、のびのびしていて、美しい」と感じてしまう。それは単に「流通の制限緩かったから」とか「バーコードがないから」とか、そういうことではないような気がする。

明治から昭和まで、本は最先端メディアのひとつだったのだと思う。インターネットがこんなに情報の先端を走るようになる前までは。そうした先端メディアをつくるという意識も、本づくりに影響を与えていただろうし、加えて、印刷や抄紙、製本の技術も大きく進歩してきた時代の中で、そういったものの可能性を使いこなし、より面白いものをつくろうという気概が大きかったのではないだろうか。

そうした空気が、自由でのびのびした感じや圧倒的な勢いを感じさせる本づくりを加速させ、時代を超えた今でも、見る者に新鮮さすら思わせる本をつくってこられた要因ではないかな、などと考えた。

もちろん、現在でもすばらしいブックデザインの本は多数出されている。でも、この展覧会で見たような、圧倒的に破壊力のある本というのは、非常に少ない気がする。自戒も込めて、今の閉塞感ある本ではなく、もっとのびのびした本づくりをしたいなと、この展覧会を見て強く感じたのだった。

他にも本当にブックデザイン関連の展示が多い一年だったが、残念ながらそのほとんどがもう既に終了してしまっている。しかし、たった今行われているすばらしい展示が、ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)の「横尾忠則 初のブックデザイン展」だ(ああ、本日まででした)。

言わずと知れた奇才・横尾忠則氏が手がけた本を、これでもか! という冊数を展示した展覧会だ。会場に一歩入ったその瞬間から、濃密な空気に包まれる。展示されている本の力強さ、そして指定紙やラフ、色校正などの貴重な資料も見ることができ、こちらも大変見応えのある展覧会だ。今日、時間があれば、ぜひ駆け込みで見ていただきたい。

近現代のブックデザイン考 I 書物にとっての美 A Thought on Modern and
Contemporary Book Design I - Aesthetics for Books
< http://mauml.musabi.ac.jp/museum/archives/1488 >

横尾忠則 初のブックデザイン展
< http://www.dnp.co.jp/CGI/gallery/schedule/detail.cgi?l=1&t=1&seq=00000588 >

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp  twitter: @tsudajunko

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