映画と夜と音楽と...[569]戦争の狂気を体現したデュバル/十河 進

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〈組織(アウトフィット)/アラバマ物語/ブリット/バッジ373/雨の中の女/ゴッドファーザー/ゴッドファーザーPART II/カンバセーション...盗聴/地獄の黙示録〉

●悪党パーカーを演じた俳優は国籍も人種もバラバラだった

40年前に見損なったままだった「組織(アウトフィット)」(1973年)がツタヤの「埋もれたオモシロ映画100」に選ばれ、DVDが出ていたのでさっそく予約した。いつくるかと待ちかねていたが、先日届いたのでワクワクしながらプレイヤーにかけた。プロローグでいきなり、タクシー運転手と神父に化けた殺し屋が田舎の家を襲いひとりの男を射殺する。

ハードな始まりだなあと思っていたら、続いて刑務所のシーンになり、主人公が出所する。刑務所の前に女が車で迎えにきている。車の中でいわくありそうな会話が続く。冒頭で殺された男は主人公の兄らしい。組織の殺し屋に射殺されたのだ。その夜、ふたりはモーテルに泊まる。だが、モーテルが襲われ、ドアを蹴破ってきた男がベッドに向かって弾丸を打ち込む。

主人公は襲撃を予想していた(女の裏切りを見抜いていた)のか、シーツの下はまくらであり、隠れていたドアの横から襲撃者に反撃する。「原作は、いきなりこのシーンから始まったな」と、僕は遠い昔に読んだ「悪党パーカー」シリーズを思い出した。三作目の「犯罪組織(アウトフィット)」が原作だが、その小説はこんな風に始まっている。




──女の悲鳴に目を覚ましたパーカーは、ベッドから転がって降りた。転がりながら、消音器つきのピストルが、自分の背後で鈍く湿った発射音をたてるのを聞いた。たった今、自分が頭を乗せていた枕に、叩きつけられるように射ちこまれた弾が、穴をあける。(片岡義男・訳)

この翻訳をしていた頃、片岡義男はまだ小説家にはなっていなかった。行動だけを描写する非情な文体で青春小説やサーフィン小説を書き、角川書店のバックアップで片岡義男ブームが起きるのは数年後のことである。片岡義男がそのハードボイルドな文体を創り上げるのに影響があったのが、「悪党パーカー」シリーズの翻訳だったという。

「悪党パーカー」シリーズを書くとき、作者のリチャード・スタークは主人公の行動しか描写しない。まるでパーカーには感情など存在しないかのようだ。もちろん、パーカーが考えたことや思ったことも書き込まれるのだが、いわゆる喜怒哀楽を表すことはない。強盗が仕事であるパーカーは、必要だから人を殺す。そんなクールさが「悪党パーカー」シリーズの魅力でもあるのだ。

「悪党パーカー」シリーズは、日本未公開作品も含めていろいろ映画化されている。黒人のジム・ブラウンがパーカーを演じた「汚れた七人」(1968年)もあるし、フランスでも映画化された。ジャン・リュック・ゴダールは「メイド・イン・USA」(1967年)として、「悪党パーカー」シリーズ六作目「死者の遺産」を映画化した(というか、素材としてその小説を使った)。

有名なのはリー・マーヴィン主演「殺しの分け前/ポイント・ブランク」(1967年)だが、そのときの主人公の名前は「ウォーカー」だった。同じ原作をメル・ギブソン主演でリメイクしたのが「ペイバック」(1999年)だ。「ペイバック」での主人公の名前は、「ポーター」となっていた。こちらの方が、原作の忠実な映画化だった記憶がある。

「パーカー」という名前は記号みたいなものだから、何も映画化に際して忠実な名前にする必要はない。でも、変える必要もないんじゃないか、と思っているのだけど「組織」でも別の名前が付けられていた。「組織」は脚本もリチャード・スターク(ドナルド・E・ウェストレイクの別名)が担当しているのに、原作の設定をかなり変更していたしパーカーの名前は使っていない。

主人公と組む昔の仲間の役がジョー・ドン・ベーカー。同じ年、ドン・シーゲル監督の「突破口」に出演し、「アイム・モリー」としか言わない怖い殺し屋役が記憶に残る体の大きな俳優である。最近も007シリーズの悪役などをやっていたが、やはり70年代前半の出演作が輝いている。

●若い頃から禿げていたロバート・デュバルは年齢不詳だった

「組織」で主人公を演じたのは、ロバート・デュバルである。若い頃から禿げ上がっていて年齢不詳の俳優だ。しかし、あるときから「アメリカのローレンス・オリビエ」と呼ばれるほどの名優になった。いろんな作品に出ているけれど、人に説明するときには「『ゴッドファーザー』のファミリーの弁護士トム・ヘイゲンですよ」と言うと通じることが多い。

僕は「アラバマ物語」(1962年)が大好きで何度も見ているし、グレゴリー・ペックが演じたアティカス・フィンチ弁護士に理想の人間像を見ている。ロバート・デュバルという俳優を知った後、何度めかに見返したときに「アラバマ物語」の最後に姿を現すブーを演じていたのが彼だと気付いた。これがロバート・デュバルの映画デビューだった。

「アラバマ物語」の頃、ロバート・デュバルは30そこそこである。しかし、すでに彼の頭髪は両脇を残してなくなっており、見ようによっては落ち武者のような髪だった。昔の日本にいたら、月代を剃らなくてもいい髪型だ。しかし、何年経っても両脇の髪はなくならず、歳を重ねて渋さを増しどんどんかっこよくなった。

「アラバマ物語」に続いて記憶に残るロバート・デュバルは、スティーブ・マックィーンの刑事が犯人と壮絶なカーチェイスを見せて話題になった「ブリット」(1968年)だ。殺された証人を乗せたタクシーの運転手役で、ブリットを乗せて同じコースを走る。しかし、ほとんどセリフはなかった。

ジョン・ウェインにアカデミー主演男優賞をもたらせた「勇気ある追跡」(1969年)では、ネッド・ペッパーというアウトローたちのボスを演じた。手綱を口にくわえ右手にライフル、左手に拳銃を持ち、四人のアウトローを正面から迎え撃つジョン・ウェインの名場面。ネッド・ペッパーは、倒れた愛馬に脚を挟まれて身動きできないウェインを最後の力を振り絞って撃とうとする。

あの場面はアカデミー賞などでも名場面のひとつとして、繰り返し紹介されることが多いから、必然的にロバート・デュバルも記憶に残ることになった。ハリウッドが誇りにする「アラバマ物語」や「勇気ある追跡」など、映画史に残る作品に出ているのもロバート・デュバルのフィルモグラフィの特徴だ。よい映画には、よい脇役が必要なのである。

演技力のある若ハゲ俳優ロバート・デュバルの主演作が、二本も制作されたのが1973年のことだった。一本は「組織」。そして、もう一本が「バッジ373」だった。1974年4月と5月、驚いたことにロバート・デュバル主演作が続けて日本で公開された。僕は「組織」の上映が終わった後、友人に「あれは悪党パーカーのアウトフィットだったぞ」と教えてもらったのだった。

以来、40年近く、僕は「組織」を見たい見たいと思いながら、見ることができなかった。「組織」を見た今、僕はフランスでミッシェル・コンスタンタン主演で映画化されたという「闇をつきぬけろ・真夜中の大略奪」(1967年)が見たい。見たくてたまらない。日本未公開だが、テレビ放映されたことがあるらしい。タイトルから推測すると、「悪党パーカー」シリーズ五作目「襲撃」が原作のようだ。

●「ゴッドファーザー」のトム・ヘイゲン役で有名になった

ロバート・デュバルという俳優は、フランシス・フォード・コッポラ監督のお気に入りである。初期作品「雨の中の女」(1969年)は、ヒロインを演じたシャーリー・ナイト、放浪する元フットボール選手役のジェームス・カーン、それに嫌味な警官役のロバート・デュバルの三人だけの作品だった印象がある。

ジェームス・カーンとロバート・デュバルは、そのまま「ゴッドファーザー」(1972年)のキャスティングと重なる。ロバート・デュバルが演じたトム・ヘイゲンは血のつながりはないが、コルレオーネ家の人間として育てられ弁護士になる。組織の参謀格として、ゴッドファーザーを補佐する役だ。

おそらく、ロバート・デュバルという名前をこの映画で記憶した人は多いのではないだろうか。アル・パチーノが演じたマイケル・コルレオーネの側近として、ロバート・デュバルは様々なシーンに登場する。弁護士でありながら、ファミリーの顧問格として法律の裏をアドバイスする屈折したキャラクターである。

ロバート・デュバル演じるトム・ヘイゲンは「ゴッドファーザーPART II」(1974年)でさらに重要な人物になるが、「ゴッドファーザーPART III」(1990年)でトム・ヘイゲン役のオファーを受けたとき、「PART IIIを作る意味を感じない」といった理由で断ったという。

その結果、「ゴッドファーザーPART III」では、ファミリーの弁護士役はジョージ・ハミルトンになった。トム・ヘイゲンは登場せず、彼の息子(ジョン・サヴェージ)が若き司教としてヴァチカンで修行している設定になった。劇中、「トム・ヘイゲンの息子だ」というセリフはあるが、トム・ヘイゲンが何をしているかはわからない。

ロバート・デュバルが出たコッポラ監督作品では、他に「カンバセーション...盗聴」(1973年)がある。カンヌ映画祭グランプリ受賞作品だが、不条理な世界を観念的に描いた映画という印象だった。プロの盗聴屋が次第に自分も盗聴されているのではないかという疑惑にとらわれ、現実か妄想かわからなくなっていく感じがよく出てはいたけれど......。

●戦争が狂気の賜物ならヤンキー的で陽気な狂気も存在する?

戦争自体が狂気だとすれば、そこでは何が起こっても不思議ではない。現実的かと言われれば頭をひねるが、圧倒的な迫力で描かれると不思議な説得力を持つものだ、と「地獄の黙示録」(1979年)を見たときに思った。「ゴッドファーザー」シリーズで大成功したコッポラが、とんでもない大作を作っているという記事は映画雑誌にもよく出ていたけれど、その現場自体が狂気じみていたという。

莫大な制作費を注ぎ込み、何度も制作中止寸前までいったとか、マーロン・ブランドとコッポラ監督が対立しているとか、「地獄の黙示録」は映画の完成前からスキャンダラスな話題が飛び交った。その制作の舞台裏は後年、ドキュメンタリー「ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録」(1991年)として公開された。コッポラ監督がこめかみに銃口を押し当てている場面がドキッとさせた。

結局、日本では「地獄の黙示録」は1980年に公開されたが、その圧倒的な映像の力は「さすがにコッポラだ」と思わせた。僕も、未だに思い出すシーンがいろいろある。内容的には確かに不可解な部分もあるのだが、映画の力を感じる力作である。金をかけただけでは傑作は生まれないが、才能ある監督と資金力が出合えばこんな凄い作品が生まれるのだ。

そう、「地獄の黙示録」は凄い作品という他ない。冒頭、ウィラード大尉(マーチン・シーン)のシーンに重なって現れる、軍用ヘリの迫力のあるカットから僕は映画に引き込まれたものだ。あのシーンを撮影するだけでも、相当な資金が必要だろう。どのシーン、どのカットをとっても、金がかかっているなと思う。

コッポラは、戦争そのものを再現したかったのかもしれない。コンピュータ・グラフィックスではない本物の爆発シーンが、見る者の心を騒がせる。怖れがじわじわと心の底から湧き上がる。戦争の狂気が漂い始める。それは、兵士の慰問にやってきたプレイメイトたちのシーンでも噴出する。

巨大なスタジアムのような舞台である。周囲を埋め尽くす兵士たちの熱気がスクリーンから噴き出してくる。ベトナムで死と直面しながら生きている男たちの刹那的な欲望が、熱気となって吹き付けてくる。挑発的なプレイメイトたちのコスチューム、欲望をそそる仕草、やがて兵士たちの性欲が巨大な波のように押し寄せ、プレイメイトたちはヘリで脱出するしかない。

そして、ウィラード大尉は、あの狂気のキルゴア中佐と出会う。サーフィンをするために浜辺を爆撃し焼き尽くしてしまう。彼は軍用ヘリの部隊に命じて、徹底的に爆撃し、破壊し、ジャングルを焼き尽くす。そのとき、かかっている音楽はワーグナー「ワルキューレの騎行」だ。あまりに有名なシーンになったが、同時にテンガロンハットのロバート・デュバルも有名になった。

狂気じみた言動ではなく狂気を演じられれば、そこにあるのは本物の狂気に思える。長く軍隊にいて単純な「力の論理」でしか考えられないキルゴア中佐は、サーフィンをするために敵を全滅させ浜辺を掃射し、ジャングルを焼き尽くすことに何のためらいもない。それが普通のことだと思っている。そういう思考を正当化する戦争の狂気が身に迫ってくるのが「地獄の黙示録」だった。

戦場のリアリズム描写という意味では、スティーブン・スピルバーグ監督の「プライベート・ライアン」(1998年)が上まわっていると思うけれど、あの映画が結局はアメリカに対する賛歌になってしまったのとは違い(第二次大戦とベトナム戦争の違いかもしれない)、「地獄の黙示録」で描かれるのは不条理な戦争そのものの恐怖であり、狂気だった。それを、ロバート・デュバルが象徴的に体現した。

【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com < http://twitter.com/sogo1951 >

とうとう師走になりました。解決できないいくつかの課題を抱えたまま、また年を越すのかと考えて少し憂鬱になるのは、最近、精神的な下降期に入っているからでしょうか。「ふさぎの虫」という奴。いい原稿が書ければ復活するのですが......

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