何日か前、起きてしばらくして夢を思い出し、ぎゃっと叫び出しそうになった。猫を食べている夢だったから。
それ以前にも今年になってからみた夢はあったと思うが、全然覚えていない。なので、この夢を今年の初夢ということにしようと思う。
猫は首から上は生きていて、でも無表情だった。
と、一週間前のブログに書いた。「初夢」というタイトルだ。
ところがその夢を、私は今も見続けている。
ブログにはくわしくは書かなかったが、それは何人かで鍋料理らしきものを食しているシーンだ。メインの素材である動物の肉の、皮なのか筋なのか、そういう余分な部分、とろとろのべろんべろんになっているやつを箸ではがしながら、ああこれは猫の肉かもしれないと思う。
それ以前にも今年になってからみた夢はあったと思うが、全然覚えていない。なので、この夢を今年の初夢ということにしようと思う。
猫は首から上は生きていて、でも無表情だった。
と、一週間前のブログに書いた。「初夢」というタイトルだ。
ところがその夢を、私は今も見続けている。
ブログにはくわしくは書かなかったが、それは何人かで鍋料理らしきものを食しているシーンだ。メインの素材である動物の肉の、皮なのか筋なのか、そういう余分な部分、とろとろのべろんべろんになっているやつを箸ではがしながら、ああこれは猫の肉かもしれないと思う。
で、そばを見ると猫の頭部が重箱のような容器の一画におさまっていて納得したというわけだ。黒っぽいとら猫で、目がまん丸く、大きい。
以前、「もしどうしても猫を飼わないといけなくなって、どんな猫にするか聞かれたら黒っぽいトラ猫と答えよう」と決めていたことがあるが、まさにそれだ。全体にまあるい感じがするのもまあまあ好みだ。とはいっても猫を飼うつもりはないので、黒っぽいトラ猫を見つけても私に連絡してくれなくていい。しいていえば、なのだから。
さて、いつのまにか私はその猫と頭を並べて寝ている。待てよ。猫といっても頭部だけなのだが、と考えてふと気づけば私も頭だけなのだ。うろたえると猫が言う。
「何をおどろいてるんだよ」
いい声だ。少し響く低い声で、人前で話す仕事に向いていそうだ。
「私も頭だけになってるみたいだけど」
「それで? 何か困るのか?」
「困らないかしら?」
「困らないさ。頭だけだと腰痛に悩むこともない」
「ああ、それはそうね」
「靴のサイズを忘れてもかまわないし、むだ毛の処理も必要ない。へそのごまもたまらない」
「そうね」
「こうしておしゃべりするにはなんの不自由もない」
「たしかに」
私は笑い、ほほを猫のほほにくっつける。猫のほほはもちろん毛がいっぱい生えていてやわらかい。私は容姿に自信がないから、だれかと向かい合っておしゃべりするのは気が重い。好きな人とこんなふうに並んで仰向いておしゃべりするのは理想だと、前から思っていたような気がする。
そう、こんなふうにして、ずっとしゃべっていたい。回覧板が来ようが灯油販売車が来ようがしゃべっていたい。楽だしな。
そうだ。頭部だけなら逆上がりもしなくていいのだ! と思ったが、別に頭部だけでなくても、もうしなくてよかった、そんなもん。
で、この猫となんの話をしようか。
「ヤマシタさん、ヤマシタさん」
呼ばれておどろくとそこは会社の机だ。
「寝てたんですか」
最近入ってきたクロサワくんというソフトモヒカン男子が笑っている。若い。お肌つやつや。
「ま、まさか」
そう言っても私の前のモニタのエディタ画面には「しないのふいせんおmりぃだおhfた」と意味不明の文字列が見えているではないか。
「ヤマシタさんっていつも眠そうですよね」
ばれてる。新人らしからぬ観察眼。いや、そうでもないのか。だれにでもばればれなのか。私の居眠りは初心者でも気がつくレベルなのか。
「眠いときは早口言葉にでも挑戦してみてはどうでしょう。『きゃりーぱみゅぱみゅ』を3回言うとか」
「なるほど」
モニタの前にいたはずの私は、重箱の一画でまた猫と頭を並べている。というか頭だけになっている。斜め右のほうの一画にはつやつやした黒豆が入っていて、それを一粒ずつ食べている。
「黒豆? 何を言ってるんだい。夢をみているんじゃないかい」
猫が、ぶぃぃんとビブラートを効かせた声で言う。ほほをくっつけているので振動が私のほほに伝わる。
「え?」
「頭だけなのにどうやって離れたところの黒豆をとることができるんだ」
言われてみれば確かにそうだ。私は夢の中で夢をみていたようだ。口の中の黒豆がいつのまにか消えている。
「あんたはいつも眠そうだ」
「そうかも」
「ところで頭部だけの生活もいいものだが、できないことがある。それはセックスだ。おれとあんたはこの状態でセックスはできない」
猫はさらりと言う。
「セックスしたいの?」
「別に。こうやってだらだらしてるほうがいい。楽だし」
「だよね」
だいたい猫と人間だし。
「そもそもセックスなんてものは子どもがするもんだ」
「そうなんだ」
「おとなはあんなことはしない」
「ふうん」
そうかもしれない、と思う。
あ、思い出した。
「『きゃりーぱみゅぱみゅ』を3回言ってみて」
猫は滑舌もあざやかに「きゃりーぱみゅぱみゅきゃりーぱみゅぱみゅきゃりーぱみゅぱみゅ」と言う。天才かこの猫は。
それから私と猫はさまざまな話をする。こどものころの話から好きな歌、影響を受けたアーティストはだれですか、大切にしている言葉はありますか、日本の今後あるべき姿についてどうお考えですかまで。うそ。そんなことは話さないが、とにかくいろいろだらだら話す。
「あんたは無表情ね。猫ってみんなそう?」
「無表情はおとなのしるしさ。おとなはいちいち感情を荒げたりそれを表に出したりしないものだ」
「ふーん」
「あんたももっとおとなにならないといけない」
「かも......ね」
話しているうちに私のまぶたはゆっくりと降りてきて、これはひょっとして夢の中でまた夢をみてしまうと思っていると、クロサワくんが現れた。クロサワくんは、なんと女だった。顔はそのままで頭はソフトモヒカンだが、ミニスカートにブーツの、ファッショナブルな女の子になっている。すらりと伸びた脚がまぶしい。
私は「へー」と思って眺めていたが、そのとき信じられないことが起きた。猫が立ち上がったのだ。猫は頭だけだったはずなのに、首から下を巧妙に折りたたんでいたようだ。ワンタッチ式の折りたたみ傘みたいに瞬時にそれをのばすと、まったくふつうの猫になってすたすたとクロサワくんのそばに行った。
そして、ふたりスツールに並んで座り、親しげに話し始めた。私は重箱の隅でそれを見ているだけだった。猫は片手をクロサワくんの肩にまわし、いかにもおやじ風になでまわす。
私はなんだかくやしかった。いますぐ立ち上がって猫とクロサワくんの間に割って入りたかったが、私の足も手も、鍋でぐつぐつと煮られていて、手遅れなのだ。
【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
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子どものころ読んだ本で、ロバが一人称で語る物語があった。家にあったのではなく、だれかの家で読んだか、借りたかしたものだったので、その後、時たま思い出すことはあっても作者名はおろか、なんという本だったのかもわからないままだった。
思い出すことといえば「私の脚ははがねのようになり......」という文があったというような断片的な記憶だけ。ン十年たった最近、ふと思い立って「ロバ」とか「子ども向け 読み物」「ロバ 私」とか思いつくまま言葉を入れて検索したら、それはどうも「学問のあるロバの話」(セギュール夫人)らしい!
やった! 今度図書館で、いや本屋で探してみよう。再会が楽しみだ。ちなみに今は、それを探している過程で出会った別のロバ本「プラテーロと私」を読んでいる。これはこれですてきな本だ。